The Spirit in the Bottle

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医療を取り戻せ! エリジウム

 前回観た「ウルヴァリン:SAMURAI」で一応去年の段階で今年公開予定だった大作はほぼ観たことになるのだが、夏休みの大作シーズンは終わってももちろんそれなりに話題作は続く。前回の「アダマンチウムの男」に続いて観たい、と思ったのは「ビザンチウム」「クロニクル」「エリジウム」などなんとなく韻を踏んだ作品群。この中では一番観たいのは「ビザンチウム」だったのだが、スケジュールの都合で先に「エリジウム」の方を観賞。2010年に「第9地区」で度肝を抜いたニール・ブロムカンプ監督の待望の新作。

物語

 未来。環境汚染や人口増加によって荒廃した地球では超富裕層は衛星軌道上のスペース・コロニー「エリジウム」に移住し整えられた環境と高度な科学技術で老いと病から解放されている。一方地上では地球全域がスラムと化し大勢は貧困のうちに暮らしている。エリジウムへの不法移民も絶えないが、エリジウムの防衛長官デラコートは殺害も厭わない強い態度で排除しているがパテル総裁からは煙たがれている。デラコートはクーデターを画策しエリジウムを建設したアーマダイン社のカーライルにデータのリブートを命じる。
 一方地上のLAでは前科のある工場労働者マックスが仕事中の事故で放射線に晒されて余命5日となる。エリジウムに行って医療ポッドに入れば治癒すると思ったマックスはかつてのギャング仲間であるスパイダーを頼る。スパイダーはエリジウムの住人の脳にあるデータを手に入れればエリジウムへの不法移民船への切符を用意するという。ターゲットの候補はいくつかあるがマックスが選んだのはかつての雇い主であり、死に瀕した自分をあっけなく切り捨てた工場の社長、アーマダイン社のカーライルその人だった・・・

 正直事前にはそんなに期待していなかった作品。もちろんあの「第9地区」の監督の新作ということでそれなりに楽しみではあったのだが、予告編を見る限り普通に面白そうだったが「第9地区」の予告編や本編を観た時の「これまで観たこともないものを観られる!」「自身の価値観を揺るがされる」というような衝撃度は低かったからだ。だから普通に楽しむこととした。
 で、観た作品はとても面白かったがやはり「第9地区」とは少し違って話自体は過去にも多く見られたような作品であったが、特に丁寧に作られていたという印象。ただ「第9地区」が最初から一気に作品に没入できたのに対し、ちょっと没入するまでに時間がかかったかな。

 過去のいろいろな作品を連想させる、ということでは以前に観たトム・クルーズ主演の「オブリビオン」に似ている。あちらもSFを中心に過去の様々な作品の影響を感じられて観ていて楽しかったが、「エリジウム」も観ながらいろいろな作品を連想した。あとこの両作は未来が舞台だが、ロケを多用することで画面に広がりが出ているところも共通か。話全体は富裕層と貧困層が居住区から隔絶している社会の話で最近だとリメイク版の「トータル・リコール」などを思わせたが僕が一番似てるなあ、となんとなく思ったのは「デモリションマン」。あちらがところどころコメディっぽい部分もあったがこちらはそれをとことんリアルに描いたという感じ。あとシャールト・コプリー演じるクルーガーが何となく「デモリションマン」のウェズリー・スナイプスを彷彿とさせる悪役っぷりだった。それにしてもいい加減貝殻の使い方を教えてくれませんかね。

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貧富の格差よりも医療の格差

 実は、この作品では富裕層と貧困層のこの両極端に分かれた社会そのものに文句を言っているキャラクターはそんなにいない。地球の人々は貧乏ながらも楽しい我が家、という感じだし、富裕層も別段あくどい感じもない。ただ医療の格差だけは深刻で、地球では一応病院もあるが幼い子どもが病気にかかればまず助からないのに対しエリジウムではほんのちょっとの症状でも医療ポッドに入ればすぐに完治する。生活そのものよりもこの医療による格差が大きな壁となる。冒頭で不法移民の親子がエリジウムに着陸してすぐに駆けこむのは医療ポッドのある豪邸である。彼女たちはすぐに捕まるがそれでもこのシーン(撃ち落とされたりして死者もいっぱい出てる)無事医療ポッドに入れて足の骨折?を治療できて良かったね、という印象のほうが強い。ジョディ・フォスター演じるデラコートこそ移民廃絶強硬派だがエリジウムの首長であるパテル総裁やその閣僚はなるべく穏便に穏便に、という体質。親子も地球に送り返されるのだろうがそれでも無事治療ができた。
 「デモリションマン」の他にこの医療の格差、という部分で僕が連想したのは「TIME/タイム」。あの作品はSFというよりお伽話に近いがやはり貧富の格差が不老不死(若さと寿命)という形で表現されている物語だった。SF的なリアルさでは「エリジウム」の方がいいかもしれないが寓話としてより象徴的に描いていたのは「TIME/タイム」の方だったと思う。ちょっと話はずれるが、作品を評価するときSFっぽい童話、童話っぽいSFなどがある。このへんの本質を見逃すと見当違いの評価をしかねないと思う。「TIME/タイム」は多分かなり評判の悪い映画だったと思うが、その多くはリアルなSFだと思ったのに!という出発点からくるものではないかと思うのだ。
 スペースコロニーエリジウムは「機動戦士ガンダム」で見られるような筒状のものではなく円心状のタイプ。またガラスや隔壁で完全密閉されているわけではなく原理は不明だが地球同様大気圏を作ってそれで住居部分と宇宙を隔てている(だから不法移民船が直接エリジウムの敷地に着陸することが可能なのだな)。ただ、タイトルにまでなっている割にこのエリジウム自体はたんなる舞台という位置付けを離れておらずあまりエリジウム自体の設定が生かせていなかったのは残念。重要なのはエリジウムそのものよりそこにある医療ポッドだからね。
 
 主人公のマックスにはマット・デイモン。鍛えた身体と全身の刺青、丸坊主でもちろん「ボーン」シリーズなどでアクションも見せているがこれまでとは随分イメージの違う役作り。第3世代のエグソクエルトンスーツを装着している時は「スパイダーマン2」のドクターオクトパスのように延髄に機会を装着するのだが、坊主姿とその機械の位置関係で女真族の辮髪みたいに見えた。
 デラコートにはジョディ・フォスター。劇場では久々に観たかな。今回は自らの手を汚さないけど酷いことをする悪役、という位置付けだけどその意味ではちょっとラストの死に様が弱かった。もう少し悪役として頑張って欲しかった。元々は男性の役だったそうだけど脚本とかは一切変えずに女性に変更したそうです。
 地上の舞台となるのは荒廃したLAで実際のロケ地はメキシコらしいのだけど、現在も多くなっているヒスパニック系住人がさらに多くなっていて言語も英語とスペイン語が入り交じる。一方エリジウムは時々フランス語も使われる?そのせいかヒスパニック系の役者も多く参戦。特にマックスの相棒となるフリオ役のディエゴ・ルナが超美形。後はギャング(というかエリジウムへの不法移民の斡旋)の親玉のスパイダーもいいキャラだったがいまいち思想がわかりづらかった。革命家なのか、単純に大儲けしたかっただけなのが途中でマックスにほだされたのか。スパイダーの不自由な脚という設定も物語の中では活かされなかったなあ。
 ヒロインにあたるのは「プレデターズ」で小さい体に大きなスナイパーライフルを抱えて頑張ったアリシー・ブラガ。今回は銃の代わりに病気の娘を抱えて奮闘。彼女たちが未来へ希望をつなぐ。
 後はウィリアム・フィクトナーが出てきます。この人は僕は「ダークナイト」で初めて知ってその後ドラマ「プリズン・ブレイク」にも出ていたことを知ったのだが、なんとなくクリストファー・ウォーケンを彷彿とさせるルックス。冷酷なドイツ人とかそういう役が似合いそうなイメージ。今回は潔癖症気味の冷徹な社長といういい意味でイメージを裏切らない役。本当吸血鬼とかが似合いそうである。

ゴステロ・クルーガー、エルム街の悪夢

 先ほど、「デモリションマン」のウェズリー・スナイプスと書いたが、シャールト・コプリー演じるクルーガーを見てもう一人僕が思い出したのはアニメ「蒼き流星SPTレイズナー」の敵ゴステロ。美系悪役と言うより「マッドマックス」や「北斗の拳」に出てきそうな悪役で「第9地区」でコプリーが演じたヴィカスとは全然違ってむしろヴィカスを追い詰めるクーバス大佐に近いイメージである。あのクーバス大佐に「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」でコプリーが演じたマードック(クレイジー・モンキー)の狂騒さが加わった感じ。二人のやはり凶悪な部下とともに物語をかき回す。
 クルーガーという苗字を見ると当然「エルム街の悪夢」でロバート・イングランドが演じた怪人フレディ・クルーガーを思い出すわけだが、意外とコプリーなんかもフレディ役が似合いそうな気がする。リメイク版ではジャッキー・アール・ヘイリーが演じていたがあれはまりよくなかった*1。今回の凶悪だけどどことなく愉快という感じは確かに”クルーガー”とい名にふさわしい。
 彼はまた日本刀(っぽいもの)や手裏剣(というか仮面ライダーZXの衝撃集中爆弾みたいな感じ)を使うのだが、最後のバトルではなぜか背後に桜の木があるのが少し笑えた。あと彼は途中で顔が吹っ飛んで治療を受けて再生させるのだが、その時にこれまでの傷ついた顔からすべすべな顔になるのは良かったですな。
 なぜジョディ・フォスターのデラコートがこんなヤクネタであるクルーガーを重宝するのか。僕は個人的に実はクルーガーはデラコートの息子なのではないか、などと思ったのだがよく分からない。エリジウムの住人は基本不老なのである程度の年齢で外見を維持できる。だからデラコートも実際のジョディ・フォスターと同年齢ぐらいとは限らないわけだが、もしかしたらもっと年齢は上でクルーガーは何らかの理由で公表できない不肖の息子だったりするのではないかな、などと連想。そうすると多少は納得がいくのだが。最も先述の通りジョディ・フォスターのキャラはフォスターのキャスティングを持って設定を女性に変えたそうなのでそうなると少し意味合いが変わってくるが。

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 監督の前作。

 物語的には少し疑問点も残るけれどヴィジュアルは申し分なし。色々な作品の面影を見ることができるのも楽しい。ただ医療の格差なのか革命なのかちょっとテーマがぼやけてしまって、単に不老不死をめぐる寓話としてみた場合「TIME/タイム」の方が分かりやすいかな、という気もする*2

SF俺たちに明日はない TIME/タイム

 僕はこの「TIME/タイム」の記事で変種の吸血鬼映画と書いているが次はその吸血鬼そのものの映画。
 そしてビザンチウムへ。

*1:まあヘイリーが悪いというよりはメイクと演出の問題だった気がするけれど

*2:なんだか世間的に評判の悪い「TIME/タイム」をべた褒めする人みたいになってきてるなあ