The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

友は、3バカ きっと、うまくいく

 現在放送中のNHK朝の連続テレビドラマは宮藤官九郎のオリジナル脚本による「あまちゃん」で、これが大変好評のようだが、僕はこのドラマを見て2つの作品を連想した。この「あまちゃん」は主人公であるヒロインの2008年から始まる現代をメインに1984年から始まる主人公の母の青春時代が時折挿入される形を取る。物語と言うよりこの構造で似ているな、と思ったのが2008年の「仮面ライダーキバ」。このドラマはやはり2008年をメインとした主人公の物語と1986年を舞台とした主人公の父親の物語が交互に語られる、というものだった。また、昨年ある意味では僕の一番大好きな映画*1となった韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」も現代(2010年)を舞台にしつつ主人公の高校時代の1986年がもう一つの舞台として構成されるものだった。この3つの作品は現代と1980年代半ばを交互に描写するということでとても似ている。
 で、今回観たインド映画「きっと、うまくいく」を観た時にも「サニー」を思い出したのだな。こちらはインドの男性版「サニー」とでも言うべき感じでやはり驚きの感動を与えてくれた。
 関係ないが「あまちゃん」世界の芸能界には松田聖子田原俊彦、吉川晃司はいるが小泉今日子はいない。原田知世はいるが薬師丸ひろ子はいない、という微妙な芸能設定なのだな。今後小泉今日子小泉今日子として出てきて「ママそっくり!」という展開とかなったらびっくりだが。*2えー、本題に入ります。

物語

 今まさに飛行機で外国に行こうとしていたファルハーンの元に電話がかかってくる。驚いたファルハーンは友人のラージューに連絡。ラージューも驚きのあまりズボンも履かずに飛び出る。向かった先は彼らが学んだ工科大学ICE。卒業以来行方知れずになっていたルームメイト・ランチョーが10年ぶりに戻ってくるという。しかし現れたのは同級生であったサイレンサー。学生時代には決し仲良くはなかった男だ。彼は自分の成功した姿をランチョーに見せつけてやるのだという。しかしランチョーは現れず、ファルハーンとラージューはサイレンサーを連れて彼の情報とクルマでランチョーを探すことにする。
 10年前、本当は動物を写真に撮ることが大好きでエンジニアに成ることにはあまり興味が無いファルハーン、家が貧乏で家族の生活を背負っているためお守り代わりの指輪や信仰に必死なラージューはランチョーとともにルームメイトとなる。ランチョーは優秀な天才肌の人間でありながら、既存の教育や体制に疑問を持ち常に人間らしさを追求してやまない人間だった。二人はランチョーに時には事件に巻き込まれ、時には助けられながら学長に睨まれつつ学生生活を送るが・・・

 「サニー」と同じように現在と10年前の過去が交互に展開される。メインになるのは過去の方で、回想の合間に現在のランチョーを探す旅が挿入される感じ。ただ、「サニー」や「キバ」「あまちゃん」が過去を1984〜86年あたりに設定していることで約25年の開きがあり、ファッションや音楽といった風俗、携帯電話といった技術の差がアクセントとなっているのに対し「きっと、うまくいく」では10年前(本国公開時の2009年を現代だとすると1999年)であるので、既に携帯電話やインターネットも存在し、それほど現在との差は感じられない(ファションなどももちろんインドのそれなど僕には詳しく分からないが、サリーなどの伝統衣装登場したりそれほど変わらないように思える)。また現在と過去の同一人物は同じ役者が演じている。主役のランチョー役のアミール・カーンは撮影当時44歳!でありながら全くそうとは感じさせない若々しさで大学生を演じている。
 原題というか英語タイトルは「3 Idiots」で「3バカ」とでもいう感じか。「三ばか大将」あたりを思い出すところだが、これは学長から見たランチョー、ファルハーン、ラジューの3人のこと。もちろんこのタイトルは皮肉であって3人はICEに入学した時点で、厳しい競争を勝ち進んだ優秀な人材である。それでもランチョーに影響されていく。
 邦題は劇中でもランチョーが度々口に出し、歌としても歌われる「Aal Izz Well」を訳したもの。前向きで人間性を追求するランチョーのキーワードとなる言葉でこの邦題もとても良いと思う。
 作品は170分という長時間の中にインド映画らしい、ギャグや音楽をこれでもかと詰め込んでいる。基本は感動ドラマと言ってもいいと思うがいろんなジャンルがてんこ盛り。ギャグに関してはウィットに富んだ、と言うよりはファレリー兄妹や「ハングオーバー!」系の過剰なギャグだったりするので人によっては苦手、という人も出てくるとは思う。

 先述した通りランチョー役のアミール・カーンは当時44歳だが全くそうは見えず、若々しい。10年前はともかく10年後(現在)でも30代ぐらいにしか見えない。僕は初めて見たがインドでは才人という感じらしくて例えば香港におけるチャウ・シンチー周星馳)的な位置づけの人なのかな、と思う。この人はパッと見はエミネムに似ている印象。他に誰かに似ているなーと名前も思い浮かばず、思いながら見ていたが、あとで気づいた。「ダークナイト」のラスト近くフェリーのシーンで一般市民側で爆弾のボタンを押そうと主張するハゲのおっさんだ。名前も知らないので思い出せるはずもない。後はもう一人連想したのは、これはルックスというより(少し似ている)役柄で思ったのだがTVシリーズ「新スタートレック」(及びその映画化作品)に出てくるアンドロイド、データ。実は前半のまだランチョーの素性が明らかになる前、僕はランチョーの人間性を追求する姿に感心する一方で、彼のその妙に空気が読めない姿にある種のサイコパス(社会のルールや規律に自由という意味で)っぽいなあと思っていた。彼は決してコミュニケーションが取れないわけではない。他人にも生き方を強制しているようなところがある。この人間らしさを追求しながら自身が人間になりきれない部分がデータを思い出させた。
 これは後半ランチョーの素性が明らかになって、ある程度理解できるようになる。ランチョーは実は金持の家の使用人の息子であったが、勝手に学校に潜り込んでは勉強していた天才であり、学歴のない主人から見込まれ息子(真ランチョー)の代わりにランチョーを名乗りICEに入学したということだったのだ。ここでランチョー自身が人間となりきれない人間性追求主義者であったことが分かる。
 3バカの1人動物の写真を撮ることが好きなファルハーンはR・マーダヴァンという人でハリー・ポッターことダニエル・ラドクリフが太った感じ。ちょっと気が弱くて中流家庭出身。彼のナレーションで進むこともあって一番共感しやすい人物か。彼もそうだし、学長のところもそうなのだが、元々カースト制度の影響が今も強いインドというお国柄か、生まれた時に「男ならエンジニア!」というように親に職業を決められてそれに従うということが多いのだろうか。ファルハーンもそういう1人だったが、ランチョーに感化されて写真家を目指すことになる。
 もうひとりのラジューはシャルマン・ジョーシーというハンサム。病気の父親と行かず後家の姉(実はファルハーンと結婚したとか言うオチかなと思ったが全然触れられなかったが無事結婚できたのだろうか)そして口うるさい母親を抱えて一番プレッシャーに弱く、その代わり信仰に逃げている部分がある。彼はランチョーの行動に関しては生活がかかっている事もあって懐疑的でもある。それでも調子に乗って色々やらかすがとある選択肢の間で悩むことになる。
 3バカの宿敵となるのが学長でこの人は徹底的に競争と枠に押しこむことが教育だと思っている。決して悪い人ではないのだが、劇中少なくとも2人を死に追いやり、1人が半死の目に遭う。学長は「人は圧迫されて競争にさらされることで進歩できる」と信じている。学長にとっては学生の自殺者は敗残者でしかない。劇中では学生の自殺者はインドが一番多いと語られる。それが本当かどうかはともかく、日本でも就活失敗者や失業者、最近は聞かないが一昔前なら受験を苦にしての自殺、その他もろもろの自殺者が多い。僕がこの映画の中で一番感心したのは明確に「自殺は間接的な他殺である」と言い切ったところだ。もちろんすべての自殺が当てはまるわけではないだろうが、大概は当てはまるだろう。過労死も同様。
 学長はその意味では劇中では反省が足りない気もするがヒロインの父親という立場も背負っているためしょうがないのだろう。
 その学長の娘でランチョーの恋の相手となるのがピア。美人ではあるがあんまりインド美人という感じはしない。でも理知的で芯が強くそして情熱を備えている。
 ランチョーと対立する形になるのがサイレンサー。彼はウガンダ出身でヒンディー語が不自由なのだが、薬を飲んでいてそのせいですかしっぺが異様に臭いため「サイレンサー(消音器付き銃)と呼ばれている。彼は学長の理想とするような自由な発想より教科書を丸暗記するタイプの秀才であるがそれゆえに3バカとは相容れない。彼が学長を称える演説をヒンディー語で発表する際、ランチョーは彼がヒンディー語に不自由なのを良い事に単語を変えてとんでもない内容にするのだが、この辺はちょっと悪乗りが過ぎて変えた単語が「強姦」だったりするのでちょっとサイレンサーがかわいそうだった。この辺もランチョーが少しサイコパスっぽかったり、あるいは過剰なギャグが度を越している印象で好き嫌いが別れる部分かもしれない。
 
 物語的には現在が同時に進行するので例えば、ラジューの自殺は助かることが分かっているし、サイレンサーの口に出す契約相手の正体といったオチもおおよそ見当がつくのだが、それでも感動は変わらない。

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*1:べスト5中他の4本は見る前からある程度好きになることは予想できたのに対し「サニー」は全く想定外の観賞だった

*2:現在は東京に出てきてアイドル編という形でAKBをモデルにしたと思われるアイドルグループで奮闘しているのだが、この世界には既にAKBもいたはずである