ガンマンの身の処し方 荒野の七人
お陰様で今年も無事歳を重ねることが出来ました。今年は映画三昧の誕生日に。朝から出かけてインド映画「きっと、うまくいく」、ヴァネッサ・ハジェンスの水着目当てで観た「スプリング・ブレイカーズ」。そして「荒野の七人」です。
新作2つに関しては後日改めて感想を書きますが、「きっと、うまくいく」はインドの男版「サニー」という感じでとても面白く感動できる作品でした。ただインド映画特有の一つの映画に全ジャンルを詰め込む過剰さ、特にギャグ部分において「ハングオーバー!」シリーズを彷彿とさせる部分もあって結構好き嫌いは分かれそうです。
「スプリング・ブレイカーズ」」は青春映画というには全編から死臭が漂うような作品でした。つまらなくはないですけど不快度のほうが先に来る作品でした。これは僕がポスターのビジュアルだけで判断して事前にどんな内容の映画か把握していなかったのも原因だと思いますが。
それでは今日の本題、「荒野の七人」の感想を短めに。といっても散発的にこのブログ内でも何度も述べていますのでそれとかぶる部分も多いかと思います。
この「荒野の七人」はご存知のように我が国の1954年の黒澤明監督作品「七人の侍」の西部劇リメイク。僕は大好きな作品で家でも何度も見ている作品の一つなのだけれど、今回チネチッタで上映されているのを知って思わずチケットを買ってしまいました。
この映画の制作は1960年ですが、最初はユル・ブリンナーは監督と製作を務め主演する予定ではありませんでした。最初の予定ではアンソニー・クインが南北戦争の敗残兵という、よりオリジナルの志村喬演じる勘兵衛に近い設定でした。ところが結局はユル・ブリンナー自身が勘兵衛に当たるクリスを演じることになりキャラクターも勘兵衛とはちょっと違ったものになります。この黒尽くめのリーダータイプのガンマン、クリス役はユル・ブリンナーの当たり役となり、「荒野の七人」の続編では1人だけ続投し、更に「ウェストワールド」でもセルフパロディ的にブリンナーが黒いガンスリンガーを演じています。監督は「大脱走」のジョン・スタージェス。ここで主役が7人いるという群像劇を撮ったことが「大脱走」の大きな助けになったことは間違いありません。
「七人の侍」における農民上がりの菊千代と戦闘経験のない若い侍勝四郎をチコというホルスト・ブーツホルツ演じるキャラクターに合体させたため、比較的忠実な五郎兵衛=ヴィン、久蔵=ブリット、平八=オライリーの他にオリジナルに近い役がらのキャラが用意されました。おそらく勘兵衛の部下という七郎次の役が余り西部劇では似つかわしくないためでしょう。ハリーとリーはクリスの旧知という意味では七郎次的要素もありますがもっとビジネスライクな仲間です。ふたりとも腕は確かながら俗っぽいハリーと、自分の倒した敵の影に怯えるリーという対照的なキャラクターです。このハリーとリーは「荒野の七人」オリジナルでもあるため「七人の侍」に比べると個性が弱いというふうに言われがちですが、僕個人が「荒野の七人」の方を何回も見ているためか彼らも十分個性的だし魅力的です。
七人を演じるのはユル・ブリンナーの他に、その後「大脱走」にそのままスライド出演することになるスティーブ・マックィーン、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソンの3人。そして「大脱走」には「0011ナポレオン・ソロ」の相方のイリヤ・クリヤキン(デヴィッド・マッカラム)のほうが出演したロバート・ヴォーン(現在「荒野の七人」の7人中では彼だけ存命となります。2013年現在)。ハリーはプロデューサーとしても活躍したブラッド・デクスター。メキシコの農民出身のチコにはドイツ出身の若手ホルスト・ブーツホルツ。余談ですが、クリスがチコのテストをするため「手を叩いてみろ」という場面が有りますが劇中と違って実際はブリンナーよりブーツホルツのほうが素早く出来たため、あのシーンはチコがクリスに合わせている、のだそうです。
「七人の侍」と「荒野の七人」の大きな違いは単に舞台や時代、刀と銃、という以外にやはり西部劇は基本個人が活動する契約社会の物語、という事に尽きるでしょう。「七人の侍」は急ごしらえながらも勘兵衛を頂点とした擬似的な主君と家臣に近い形を取ります。一方クリスはリーダーではありますが他のガンマンとの立場は基本的に平等です(もちろんクリスが当初より若く設定されたがゆえ、という部分もあるでしょう)。
野盗に狙われるイストラカンの村も年頃の女子をガンマンたちから隠していたり、ソテロのように野盗に情報を漏らしてしまったりオリジナルと比較的忠実です。それでもその前に作られたハリウッド西部劇「ヴェラクルス」*1におけるメキシコ人の描写がメキシコ政府から批判を受けたため、ほぼ全員が白い清潔な服装をしています。そんな中でも魅力的なのはチコと恋人になるペトラ(演じたロゼンダ・モンテロスは通訳やメキシコロケの監修も担当しています)と長老でしょう。この長老少なくとも83歳は超えているのに元気で、しかも本人の言によれば83までは女性相手の方も元気で、しかも畑仕事については何も知らない、とのこと。若いころは何をやっていてどういうわけで長老となっているのでしょう?意外と若いころはクリスたちみたいなアウトローだったのかもしれません。その上でラストのセリフが出てくるのかも。
そして、やはり「荒野の七人」といえば野盗のボス、カルヴェラです。何度も書いてますがこの野盗のボスというキャラクターに関しては「荒野の七人」の方に軍配が上がると思います。演じるは後に「続・夕陽のガンマン」で”醜い奴”トゥーコを演じるイーライ・ウォラック。彼は銃さばきは全然ダメで腰を見ないとガンベルトに銃を戻せなかったそうですが、そういった俗っぽい人間的な部分も含めて悪の魅力というやつに溢れたキャラクターです。とにかく含蓄溢れたセリフが魅力的。ちなみに彼の部下役の役者やエキストラたちは撮影中は実際にウォラックをボスとして扱ったそうで、銃を受け取るにしても部下が一度受け取ってウォラックに渡す、みたいな扱いだったそうです。
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「荒野の七人」のテーマのひとつはガンマンの身の処し方。全盛期のガンマンの無敵ぶりよりも時代に追い詰められたガンマンたちの悲哀が語られます。オリジナル同様ガンマンでも野盗でもなく農民こそ真の勝利者で、クリスの「また負けたな」というセリフにそれが集約されます。この辺ほぼオリジナル通りでありながら結構受ける印象は違うのですな。
「荒野の七人」はそのアクションなども含めて、やはり日本の黒澤明監督の時代劇「用心棒」を無断リメイクしてマカロニウェスタンと言うジャンルを切り開いた「荒野の用心棒」との架け橋になるような作品だと思っています。そういう意味でもやはりこちらのリメイク作「荒野の七人」も西部劇だけでなく映画史に残る作品なのです。もちろんただ「楽しい」作品です。未見の方は是非見てほしいです。
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