The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

それでも諦めない インポッシブル

 今年二度目の「わしらのいとしいしと」ユアン・マクレガー主演作。実は全く自分のアンテナに引っかかっていなくてユアンの映画としてこういうのが控えている、ということすら知らなくてTwitterのTLでどうやらユアン・マクレガーナオミ・ワッツの主演作が公開されている、と知って急遽観て来たのだった。だからいつものごとくどんな作品かは殆ど知らず観に行って(Twitterでは感動作だ、いやホラーだといろいろ言われていた)、その衝撃にうちひしがれた口である。「インポッシブル」を観賞。

物語

 2004年12月、ヘンリーとマリアのベネット夫妻は3人の息子を連れて勤務地の日本からタイのプーケット高級リゾート地でクリスマスを過ごすことに。ホテルで落ち着いた後、クリスマスを祝いプレゼントを交換したりと楽しく過ごす一家。12月26日、ホテルのプールで過ごす一家を未曾有の大津波が襲う。凄まじい濁流の中マリアは大怪我をしながらも長男のルーカスと共に生き延びる。病院に担ぎ込まれたマリアはルーカスに誰かの助けになってやれと言う
。ルーカスはバラバラになっている他人の家族を病院内で探して引き合わせる。
 一方ヘンリーと次男のトーマス、三男のサイモンも無事生き残っていた。混乱の中マリアとルーカスを探すヘンリーは幼い息子二人をさきに安全な山の上にやり自分は家族を探す。親切な男性から電話を借り父に連絡するヘンリー。一度は挫けそうになるものの周りの励ましの元父親に決意を伝える。「諦めない。必ず二人を見つける」と・・・

 津波とそれに伴う家族の苦難を描いた実話ベースの作品。2004年に起きたスマトラ沖地震でとあるスペイン人一家の体験した物語を描いている。一家の名はユアンが演じた父親のキケだけおそらく英語圏でも分かりやすいヘンリーと変えられているがそれ以外は名前もそのままである。最もユアンは劇中もっぱら「Dad(パパ)」と呼ばれるのでキケのままでも問題なかったのでは?とも思う。(劇中では特に触れられないが)スペイン人一家の物語ということで、この作品、出演者はイギリス出身者が中心であるが実はスペイン映画。監督は「パシフィック・リム」が控えるギレルモ・デル・トロ監督の盟友でもあるJ・A・バヨナ。この作品でも一家(ストーリーとしてマリア・ベロンがクレジットされている)とともにデル・トロにも賛辞が掲げられている。
 タイトルの「インポッシブル」というのは「不可能」とかいう意味。つい「ミッション・インポッシブル」があるため、タイトルだけ聞くとスパイアクション映画あたりを想像してしまうが、このタイトルの意味も劇中で語られる。山の上に避難したトーマスとサイモンに同じく避難してきた老婆が会話するシーン。空を見上げ「今見ている星の光は遠の昔に爆発して今はないかもしれない。その残した光が私達に届いているのだ」。
 それを聞いてトマスが尋ねる。「今はない星とまだある星の区別がつくの?」と。老婆はこう答える。
「それは不可能(インポッシブル)よ」
 この「不可能」とはそのまま生死もわからないマリアとルーカスを探すヘンリーの心境である。死んだ星と生きている星の光が区別がつかないように死んでいるか生きているか分からない家族を探す。生きていると分かっていれば問題なし、もしも既に亡くなっていることがわかればそれはそれで諦めも付いて前に進めるだろう。しかし生死不明の状態で探すのが一番精神を消耗するだろう。しかし神ならざる身には生死を判断する術はなくヘンリーは探し続ける。

 一部でホラーとも言われているように、演出はホラーっぽい部分も覗かせる。もちろん全体としては特種な状況下での家族の物語でありヒューマンドラマであるが(逆にパニック映画としての演出はほとんどされていないと思う)、最初の飛行機の中でヘンリーとマリアが防犯装置のセットをしたかしないかで冗談めかして揉めたり(それどころではない事態に出会うのを観客は知っている)、乱気流によって飛行機が揺れるシーン。そしてここで最初マリア、サイモン、ヘンリーとルーカス、トマスで分かれていた座席がルーカスがトマスをからかうことでシートベルトを留める所でマリアとトマスが入れ替わる。この組み合わせがそのまま、津波後の行動を共にすることになる。
 また、マリアとルーカスは押し寄せた水と泥によって泥沼と化した道なき道を抜けだそうとするがその時、マリアの太ももはベロリと皮膚がめくれている。思わず目を背けるルーカス。そして徐々に弱っていくマリアの表情がまるでゾンビ映画でゾンビに襲われた人物が徐々にゾンビに変わっていくさまを見せられているかのようだ。
 またラストのマリアの手術の成否が津波の濁流に飲まれて水中で苦しむマリアの様子で表現するとか少しやり過ぎなくらいでもある。それでも単なるスペクタクルではなく肌表現での津波の恐ろしさを表現していたと思う。
 序盤はプーケットでの風光明媚な所での水着を着ていてユアンナオミ・ワッツも美しい肉体を魅せてくれるが津波が起きてからは着るものも適当に露出も多いけれど、それ以上に痛々しい場面が多いため全く扇情的ではない。ナオミ・ワッツは片方の乳房を晒す場面があるがまったくそそる見せ方ではなくただただその状況に呆然とするだけ。その他にも突然吐血して紐状のものを口から出すマリアの描写などはナオミ・ワッツ自身が主演した「ザ・リング」の描写そのもの。あれは劇中では特に説明されなかったが濁流に飲まれている間に口に入ってしまったものということだろうか。
 一応、大人のキャストではユアンナオミ・ワッツがメインではあるが実質上の主役はルーカス役のトム・ホランドであろう。彼は最初のいかにも現代っ子らしい小生意気な様子から母親を求めて泣き叫ぶ様子、そしてただ母親を頼るだけでなく母親に言われて他の人の手助けもするなどこの困難の中でぐんぐん成長していく。特に次の波に怯えどこからか聞こえてくる子供の鳴き声を無視しようとするが母親に諭されてその子供ダニエルを救う。このダニエルをもし無視していれば彼は助かっても罪悪感にさいなまれる事となるだろう。彼に付けられた名札代わりのシールをラストに剥がす場面は彼がもうある意味で大人となったことを示す。

 映画はマリアの手術も無事成功し、一家は保険のお陰でシンガポールの病院に家族ごと移動するその飛行機の中で終わる。結果として一家は全員無事であったがその裏では家族を失った人も大勢いただろう。また観光客は保険が効いたかもしれないが、現地の人はそうは行かなかったはずである。劇中ルーカスがダニエルが無事父親と会えたということをマリアに報告する一方で、ヘンリーは世話になった男性の行方不明の家族の名を記したメモを目に止める。メモの裏には「ビーチにいるわ」と書かれている。また横たわるマリアが飛行機の窓から津波によってボロボロとなったプーケットの風景を見かける。その風景は飛行機の窓から流れて行く時にガラスの縁の歪みによって崩れ去るように変化しているようにみえる。このように単純にハッピーエンドとは思えない余韻を残す。
 日本人がこの映画を観るとき、(この地震で亡くなった日本人もいるけれど)当然東日本大震災津波を思い出すことだろう。僕は幸いにして親戚・友人に犠牲者は出なかったがそれでもなまなかな思いで見ることは出来ない。ヘンリーが電話をかける場面、ルーカスがとある親子を引き合わせる場面、ルーカスとトマス、サイモンが再会する場面、要所要所で涙が出てきた。

 ちなみにこの作品を見る直前、話題になっていたスタジオジブリ作品宮崎駿監督作の「風立ちぬ」の4分間予告編というのが流れた。これは主にTOHOシネマズを中心としたシネコンで本編の作品と無関係に流されてたものである。当初は作品が終わった後に流れたということで「余韻泥棒」と話題になり、抗議が多かったのか本編前に流されたのだが、それでも他の予告編の前とかではなく本編直前に流れたので十分にこちらの気分を削ぐものであった。例えば関連作である「アイアンマン3」の後に「マイティ・ソー2」の予告編が流れるとかなら十分納得できるし楽しめるが、無差別に流されたのではたまったものではない。ましてやこの作品関東大震災を扱ったものらしいのだな。もしこれが「インポッシブル」の後に流れていれば余韻泥棒どころの騒ぎではなく僕はブチ切れていただろう。TOHOはいわゆる「メッセージムービー」にしても映画ファンの気持ちを逆なでするようなものを流すことが多くて辟易する。僕は比較的多く見に来る客だと思うがたまにしか見に来ない客でもあれは嫌だと思うのではないか?後はできるだけ洋画を見に来た時は洋画の予告編だけ流してほしいなあ。

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津波を題材にした韓国映画。震災前なので今振り返ると感想も脳天気である。まあ作品自体がどちらかと言うと特撮パニック映画という感じでどこかノーテンキなものではあったが。震災を経た今ではちょっと無邪気に災害映画をボディカウントしながら楽しめる、という感じにはなかなかならないだろうなあ。

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やっぱりこれを思いだしちゃうよね。