最北のハーフボイルド 探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点
ちょっと、ここしばらく色々あって劇場で映画を観るということができないでいて、家で映画を観て気分を紛らわしていたのだけれど、やっと久方ぶりに劇場で映画鑑賞。観た映画は色々迷ったのですが邦画「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」。前作は観ていないけれど、元々「相棒シリーズX-DAY」(というかTVのエピソード「ボーダーライン」の演出)の監督ということで気にはなっていたのと、ちょうどTVで前作が放送されたのでそれを観た上での観賞となったのだった。「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点を観賞。
物語
北海道は札幌市、北の一大歓楽街ススキノを拠点とする探偵。彼はいつもとあるBARを拠点としてそこで依頼を受ける。馴染みのニューハーフパブのマサコちゃんが素人参加のマジック大会で全国優勝し、その祝賀会のあと何者かに殺された。3ヶ月後、事件は一向に解決の兆しを見せず、探偵は自ら犯人探しを決意するが関係者は急に口をつぐんでしまう。なんとか得た情報は地元の革新2世議員橡脇孝一郎がその昔マサコちゃんと付き合っており、その過去を消したい何者かに殺されたのではないかということ。やがてマサコちゃんがファンだったというバイオリニスト河島弓子からも事件解決の依頼を受ける。やがて複雑な思惑の元、探偵とその相棒高田は様々な勢力から襲われることに・・・
大泉洋という人を最初に知ったのは、PUFFYがMCを務めるバラエティ番組「パパパパパフィー」において「北海道のスター」という肩書きで準レギュラー出演していた時である。当然僕はさっぱり分からない、ローカルのタレントであったが、その調子のいい喋りは印象に残っていた。やがて全国的にも俳優として活躍し始めて、「水曜どうでしょう」などを見る機会もあり、改めて北海道では本当にスターだったんだなあ、と思いを新たにしたものである。
俳優としてはNHK大河ドラマ「龍馬伝」の近藤長次郎ぐらいしかしっかり見ているドラマはなかったりするのであるが、なんとなくユースケ・サンタマリアあたりと似た、しかしユースケよりもっと少年ぽい雰囲気の俳優かな、と思う。
ちなみに前回観た邦画である「HK 変態仮面」で真正変態を演じて場をさらった安田顕は大泉洋とはTEAM NACSという演劇ユニットを組んでいて、僕なんかは「変態仮面」でその変態性に注目した口だが、北海道では前々から変態として知られていたそうである。もう安田顕は何を演じていても変態にしか見えない(褒めてる)。彼らは全国的に売れた後もあくまで拠点は北海道に置いているというのは非常に好感が持てる。
「探偵はBARにいる」はその北海道を舞台にしたハードボイルドな探偵小説が原作ということで、まさに大泉洋にふさわしい題材であるのだろう。僕は北海道そのものにはあまり詳しくないが単に東京の歌舞伎町を舞台にした物何かとは又違った雰囲気があると思う。
映画は東映の製作で監督の橋本一はじめ(ダジャレじゃないです)「相棒」とスタッフの共通点が多い。とはいえ、「相棒」が社会的なテーマを扱い、主人公が警察ということもあってどちらかと言えば品行方正なのに対して、こちらは暴力もセックスもふんだんに登場する。もちろんTVと映画というメディア上の規制の問題も多いのだろうが、その辺は題材と映画というメディアの勝利だろう。ただ、雰囲気は結構「相棒」と似ていてとにかく丁寧に作ってあり、特に超大物ベテラン俳優が登場していないが重厚な雰囲気も併せ持っている。主人公たちの軽い雰囲気と製作の生真面目さとでもいうべき重い雰囲気がうまく噛み合っていると思う。
僕が観賞前日にTV放送で見た前作はかなりカットされていたそうであるが、まあ放送難しいシーンも多いんだろうなあ、とは思う。ちょっと話題はずれるが映画ソフトが比較的安価で入手でき、レンタル店も充実、さらにCSなどでは専門チャンネルも存在する現在、地上波の映画放送にどれほどの価値を置くかということだが、やはり映画鑑賞の間口を広げる意味でも決して無くなってほしくはない。視聴者が減る→テコ入れで変な演出する→ますます見なくなる→スポンサー対策でCMばかり増えるという悪循環に陥っている気がするが頑張って欲しい。それと日テレとフジはソフトの吹替をそのまま流すんじゃなくて独自の吹替を制作する努力をするように!閑話休題。
主人公の探偵は実は名前を一切呼ばれないのだね。ハードボイルドを目指し気取っているが、ハードボイルドになりきれないお調子者。形から入るタイプだが正義観は強い。この飄々とした探偵を大泉洋が見事に演じている。というかうまく役柄とキャストがピタリと一致した印象か。そんなにトーク番組などで見かける大泉洋と違いが見られずそのまま、という感じ。時折見せる裸は鍛えられており、特殊メイクによる傷跡がよく映える。ハードボイルドを目指してなりきれないものをハーフボイルドと揶揄するのは「仮面ライダーW」が最初かわからないがこの「ススキノ探偵」もまさにハーフボイルドといったところである。それでも左翔太郎(Wの主人公)よりはハードボイルドのゴールに近いけれど。
むしろハードボイルドという面ではこっちのほうが近いんじゃないの?というのが探偵の相棒である松田龍平演じる高田という人物。北大農学部の助手で空手の達人であり、しかし基本的には自分を飾り立てず眠ることが大好き。オンボロの自動車をいつまでも愛し続ける男。感情表現は苦手で何を考えているか分からないがいざというときは頼りになる男。探偵がルパン三世なら高田は次元大介と五エ門を足して割ったような役割か。とにかく喧嘩が強くてバットで頭殴られても平然としてるのはびっくりでアクションシーンにおけるちょっとした切り札と言ったところ。
ヒロインにあたるバイオリニスト河島弓子は尾野真千子。NHK朝ドラ「カーネーション」がお馴染み*1だが、ここでも大阪弁を使う勝気な役。
ただ、ヒロインというか女性で言うと、前作から引き続き登場する探偵にあからさまなアプローチをする無駄にセクシーなウェイトレスの安藤玉恵、ニューハーフパブのホステスヒロミ役の佐藤かよ、そして探偵の一時の恋人として登場する麻美ゆまの方が印象深かったりする。特に麻美ゆまさんは濡れ場があってヌードにもなるし魅力的。ただ彼女の役目は3ヶ月という劇中の事件経過を示すキャラでもあるし、ぶっちゃけ、登場シーン全編カットされても物語には特に支障がないので地上波放送の際のカットシーンを予め用意して置いたのかな、などとも思う。
強い印象を残すのは北海道のヤクザである松重豊とその親分である片桐竜次。片桐竜次は「相棒」シリーズの内村刑事部長が有名だがその強面はむしろヤクザ役にピッタリだろう。
被害者であるマサコちゃんを演じるのはガレッジセールのゴリ。ゴリ自身はニューハーフというよりむしろ男性ホルモン過多な印象があるがここでは細やかな女性の仕草で見事に演じている。バラエティ番組で女性役なんかを演じていたから違和感がないのかもしれない。そのマサコちゃんとヒロミが務めるニューハーフパブのママが篠井英介。この人も日本舞踏を嗜んでいたりして時代劇なら公家や貴族などしなやかな役柄多いせいか違和感なし。というかこのパブ、ママとマサコちゃん以外は普通に綺麗な人が多いニューハーフパブなので普通に遊びに行きたいです。
主人公たちを妨害するのは前作から引き続きの暴力団と言うか右翼か?の波岡一喜。この人は主人公たちが室蘭から帰る途中で突然襲いかかってくるのだが多分前作からの因縁で襲ってくるわけだよね。ちょっとこの辺前作見てないと唐突でわかりにくいかも知れない。
また、北海道の「普通の人々」(from絶対可憐チルドレン)が主人公たちに襲い来るのだが、これが金で雇われたならず者とかヤクザとかではなく、橡脇孝一郎の反原発という理念に賛同した人々がその橡脇のスキャンダルを狙う探偵たちを自主的に襲ったという設定なのだな。これは時事的なものでおそらく原作にない要素だがちょっとどうかな、と思う。僕自身震災以降の今は基本反原発だが、いわゆる放射脳と揶揄されるような極端な反原発が高じて東北地方に偏見や差別を振りまくような輩には当然反対である。この劇中の人々のように理念が正しければ何をやってもいいとは思わないし、まず本当にこんな非合法なことを一般人が率先して演ったりするかなあ、と思う、これはおそらく原作にはない映画独自の描写だと思うがちょっとやり過ぎのうような気がしないでもない、普通に金で雇われたならず者とかで良かったのではないかな。その橡脇孝一郎は渡辺篤郎が好演。
物語の大筋と関係なく犯人が出てくるのは「相棒」なんかでもよくある展開だったりするのだが、一応この犯人が事前にろくでもないやつという説明はされていたのだなあ。ホモフォビアと自身の待遇との差を羨んでの犯行というのはある意味一番リアルだがとても嫌な流れだ。きちんとした大人であれば恋の相手が異性だろうと同性だろうとそんなの個人の好き好きだろう、って思う。
映画はアクションも多めでセクシーなシーンも多いし、物語も充実していてとても面白かった。おすすめ。
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