The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

製作50周年! 「大脱走」 を吹替で見よう!

 今さら言うまでもないかもしれないが、僕は洋画の吹替版というのが大好きだ。最近は大作やファミリー向け映画は日本語吹替版も(時には吹替版のみ)用意されていることが多いので、そういう時は積極的に吹替版を選択することも多い。日本における吹替版の歴史は古く、需要は高い。にも関わらず、吹替版というのは映画ファンの間では不当に低く扱われてきたような気もする。映画は字幕で観てこそ!という映画ファンも多いだろう。TVならともかく劇場で吹替は見たくない、という人もいるのではないか。しかし作品理解という本質で言えば字幕は吹替に情報量で負け、視線を奪われるため映画本来の画面を観られない時もある。また「オリジナルの俳優の声を聴きたい」という人も多いだろうが、実は洋画でももともと吹き替えられている状態、というものも少なくない。国際的なキャストが一度に介する場合、演技はそれぞれの国の言葉で行い、後で公開する各国語版に吹き替える、という具合。例えば「夕陽のガンマン」はイタリア語と英語で撮影は行われ、アメリカ公開版では英語で、イタリア公開版ではイタリア語で統一吹替されている。また「マッドマックス」のように英語で演技をしていても訛りがひどすぎるため改めて吹替が行われる場合もある。これらの場合、俳優本人ではなくいわゆる声優が声を当てることも当たり前。通常我々が本人の声と思っているものももしかしたら違う人の声かもしれないのだ。
 以上はちょっと偏って書いたが、もちろん、字幕には字幕の、吹替には吹替のいいところがある、ただそれだけである。勘違いしないで欲しいのは吹替を愛好するからこそ、吹き替えキャストには字幕派の人以上に気を使うし、下手なタレント吹き替えには反対だということ。

容疑者は男性、190cm、髮は茶、筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ

 ところで、現在その日本語吹き替えが復権の時を迎えている(大げさな表現)。例えば「コマンドー」。今年遂に「ラスト・スタンド」で俳優として復活したアーノルド・シュワルツェネッガーの1985年のアクション映画。はっきり言って作品そのものは普通のアクション映画。だけどこの作品はその吹き替え版の出来によって圧倒的な人気を得ている。

  • 来いよ、ベネット!
  • おまえは最後に殺すと約束したな。あれは嘘だ

など声優の演技が名ゼリフとともに光る。この日本語吹き替えがなければこの作品は埋もれていただろう。そしてそんなこの作品が「吹替の帝王」と銘打って日本語版を完全収録(シュワの声を玄田哲章版と屋良有作版両方収録!)したコレクターズBOXとして発売された。

日本語吹替版専門映画サイト「吹替の帝王」 Powered by 20th Century FOX Home Entertainment
 声優さんのインタビューや吹替製作の裏側、とり・みきによる考察など充実してます。

 

洋画のTV放送も文化

 今では大抵の作品は遅くてもソフト化の際に日本語吹き替えが収録されるが、昔はTV放映の際に作られるのが一般的。同時にTV放送だと放送枠という物があって必ずしも全編放送できるわけもなく、大なり小なりカットを余儀なくされる*1。吹き替えもこのカットされた状態を前提に作られているのか全編収録されているわけではない。日本語脚本もカットされた状態でまとまるようにできているのかな、と思うがちょっとその辺は不明。
 それで、古い映画がソフト化される際、どうしても日本語部分が存在しない場合がある。もともと収録されてない場合。収録されていてTV放映もされたが、権利の関係で収録されなかった場合等様々。「荒野の七人」では当時収録されていなかった部分を新たに録り下ろしてソフト化された。一方吹替が収録されていない部分は字幕で対応するソフトも。

大脱走

 で、やっと本題。スティーブ・マックィーンジェームズ・ガーナーチャールズ・ブロンソンジェームズ・コバーンなど錚々たる大スターが勢揃した1963年製作の傑作「大脱走」もDVDは一部字幕の日本語吹替版だったのですな。それが、やっとBlu-ray化され日本語吹替完全収録のコレクターズBOXが発売になるのです!そしてそれに伴い日本語吹替版の試写が行われ当選したので喜び勇んで観に行ったのだった。今年は製作50周年!

 もちろん「大脱走」そのものはすでにDVDを持っていて、暇さえあればしょっちゅう見てる作品のひとつ。一時期引きこもり気味だった時に「大脱走」と「荒野の七人」と「続・夕陽のガンマン」を交互に見る、という日々を過ごしたこともあった。とまれ試写とは言え大スクリーンで見るのは初めて。この大好きな作品を大きいスクリーンで観ることが出来たのは幸せであった。
 で、僕は勘違いしていたのだが「大脱走」の場合、もともと全編収録されていたらしい。そしてTV放映もされたがなにがしかの権利の関係でDVDには収録できなかったらしい。先ほど錚々たる大スターが勢揃い、と書いたがもちろん日本語版も声優界の大スターばかりである。マックイーンは宮部昭夫*2、ガーナーに家弓家正、そしてコバーンとブロンソン小林清志大塚周夫という安心のフィックス。そのほか大木民夫井上真樹夫堀勝之祐など洋画吹替のベテランが出ている。

 実際家で見る時は一部字幕とはいえ、吹替で見ることがほとんどで大体、どの部分が今回復活した部分なのかは見当がつく。何より冒頭一発エルマー・バーンスタインのあのテーマ曲をバックに字幕で表記された「これは実話である」から始まる一説が大木民夫のナレーションで読み上げられる!
 個人的にはDVDで見て、ここが吹替収録されてないのはなんでだろう、と思った部分も聞けた。例えばマックイーン演じるヒルツがトンネルを支える支柱のための木材を二段ベッドから調達しているとそこにカベンディッシュが歌いながら勢い良くベッドに飛び乗ったら底板が少なくなっていてそのままベッドを壊して落ちるシーン。ここではそれを見たヒルツがおどけた感じで「never mind 俺 知らね(字幕)」と言うのだが、これが「おら知らね」と吹替されててよりヒルツのキャラが強調されていた。カベンディッシュは測量を見誤ったり、脱出時にこけて音を立てたり、脱走失敗の原因になったりしているのだが、こういう描写があるから憎めない。
 また個人的には「情報屋」マクドナルドの声が演じたゴードン・ジャクソンより日本語の上田敏也の方が圧倒的に格好いいと思う。
 もちろん全てが吹替の方が良い、というばかりではなくヒルツ、ヘンドリー、ゴフのアメリカ人3人が密かに独立記念日に備えて芋で酒を作りそれを試飲するシーンは吹替の「凄い」の繰り返しより、元々の「Wow.」の繰り返しのほうが良かったと思う。
 とにかく全編にわたって見事な吹替が収録されており、ファンなら一度は見てほしい、と思う。

 吹替ばかりでなく、本編の内容についても軽く感想を書こう。この作品ジャンル紹介では「戦争映画」とされることが多いが、これには少し違和感も残る。確かに第二次世界大戦のドイツの捕虜収容所の話*3であるのだが、戦闘シーンはないし、脱走劇といっても終始牧歌的な雰囲気である。映画はユーモラスの中にときおりシリアスな雰囲気を紛れこませている。またこの映画でのナチスドイツ軍(ドイツ空軍)は敵ではあっても悪ではない。ゲシュタポや親衛隊はあくどいが収容所の空軍はいわゆる残虐な集団として描かれているわけではない。所長自身が言うように捕虜にはある程度の自由が許されており劣悪な環境というわけでもない。それでも脱走するのには捕虜たちのリーダー「The SBO」ラムゼイ大佐の言に尽きるだろう。

だが、脱走を試みることはすべての将兵に課せられた義務じゃないかな。
もし脱走が不可能な場合はできるだけ多くの敵将兵を自分たちの監視の任務に就かせ、敵軍の戦闘能力の低下を図ることが、至上任務となる。
(中略)
連合軍兵士が任務を忘れると思うかね

 そしてこの大佐の言動は所長も認めている。同じ頃日本では「生きて虜囚の辱めを受けぬ」が捕虜になった場合の身の処し方だったわけで、命と人間性というものに対する考え方の圧倒的な差を感じてしまう。そりゃ負けるよ。
 物語は決してハッピーエンドでとはいえない。脱走した76名のうち50人はゲシュタポによって違法に殺される。生き残った26名のうち脱走に成功したのは3名のみ。もちろん映画用に脚色された部分も多い(独立記念日のエピソードは他の収容所の出来事だとか)。それでもこの数字は実際のものだ。だが後方撹乱という任務は成功したと言えるし、最後はヒルツの壁キャッチボールの音が希望と不屈の精神を観客に味わせて満足させて終わる。
 演出部分も例えばマクドナルドが部下のドイツ語の指導をしていて、最後に英語で「ドイツ語がうまいな」と言ったら部下が英語で答えてしまうのを注意するが、マクドナルド自身がそのミスを犯してしまうところなどはうまい。
 とにかく永遠のマスターピースであり、何度見ても飽きない作品。上映時間172分はあっという間でありアンハッピーエンドにもかかわらず陽性の作品だ。もしもまだ未見という人がいたら羨ましい。初めての感覚でこの傑作を味わえるのだから。

おまけ

 ラムゼイ大佐を演じたジェームズ・ドナルドはリーアム・ニーソンによく似ている。もしも「大脱走」がリメイクされるとしたらラムゼイ役は彼しかいないだろう!・・・と思って少し妄想してみたのだが、

  • まずリーアムなら部下に任せず、自分から穴掘りそう。
  • っていうか、トンネルで脱走なんてせず、堂々と正面から突破しそう。
  • っていうか、脱走とかせず、普通に収容所壊滅させそう。

というわけでリーアム父さんは強すぎました。妄想終了。

追伸

 来週(4月25日)のテレビ東京午後のロードショーは「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」だよ!こっちも見ものだよ!見てね!(多分また似たような記事書きます)

*1:このカットにもセンスが問われて、なんでそこをカットする!?というのもあればうまいカットでオリジナルより楽しめるものもあるが、それは又別の話

*2:ちなみに「荒野の七人」では内海賢二が担当しているがこちらはこちらでうまい

*3:冒頭に簡単な紹介がされるように実際にあった脱走事件が元になっている