The Spirit in the Bottle

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魔女?死者?あの子と話そう パラノーマン ブライス・ホローの謎

 というわけで、本当は3月末までの時点で公開初日に観た「シュガー・ラッシュ」がぶっちぎりで今年ナンバーワンになり、しばらくはその座は不動だと思われたのだが、わずか一週間後に観てそれを追い落とすか、という感じなのがストップモーションアニメーション作品「パラノーマン」。ティム・バートンの「コープス・ブライド」、ヘンリー・セレックの「コララインとボタンの魔女」のスタッフが贈る作品でジャンル的にはホラー映画ということになるのだろうが、それを越えパロディとして笑うところもありながら最後は人間性とは何か、というところに踏み込みながら感動をもたらす作品。「パラノーマン ブライス・ホローの謎」を鑑賞。すでに二回鑑賞済み。

物語

 魔女狩りの伝説の残るマサチューセッツ州ブライス・ホロー。街に住む少年ノーマンはホラー映画が大好きな11歳。しかし彼は死者と会話ができる能力を持っていてそれを信じない学校ではもちろん、家族からも変人扱いされていた。あるときおなじいじめられっ子のニールと下校途中、やはり同じように変人扱いされているプレンダーガストから声をかけられる。彼も死者と話すことが出来るというのだ。プレンダーガストはノーマンの大叔父でもあった。
 プレンダーガストは孤独のうちに亡くなるが、幽霊となってノーマンのもとを訪れる。「300年前の処刑された魔女の墓の前である本を読まないと魔女が悪霊を呼び出す。これまでは自分やノーマンのような使者と会話できるものが災厄を食い止めてきたが、今夜はノーマンおまえがやるのだ」と。
 最初はやる気が無かったノーマンだが、おばあちゃんの幽霊と話して自分の役割を思い出す。丘のプレンダーガストの家に赴き本を手に入れるノーマン。日が沈む前に墓の前で本を読まなければならなかったがいじめっこアルヴィンの邪魔が入ってしまう。遂に死者が蘇る・・・!

 事前には半端に情報を手に入れて楽しみにしていたのだが、この作品実はてっきり「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」「コラライン」のヘンリー・セレック監督作品だと思い込んでいたのだが、そうではなく、ライカ・エンターテインメントが制作してセレックのもとで活躍したスタッフが手がけているがセレックその人は今回は直接関わってはいない。監督はサム・フェルとクリス・バトラーというアニメやストップモーション・アニメーション作品を手がけてきたコンビ。脚本はクリス・バトラーが担当。とはいえ、バートンやセレックの作品に関わってきただけあってこの「パラノーマン」も一見すると彼らの作品のようなホラーやB級映画、そして社会から阻害された異形の者たちへの愛に満ち溢れた作品だった*1
 主人公のノーマンは特にデフォルメされることもない至って普通のルックスの少年。ホラー映画が大好きで諸事情により内向的。やはりバートンの「フランケンウィニー」の主人公ヴィクターや「SUPER 8/スーパーエイト」の主人公ジョーを思わせる。彼は死者、すなわち幽霊と会話することが出来、そのせいで家でも学校でも阻害されている。家では父親が理解できないもの、という目でノーマンを見ている。家にはおばあちゃんの幽霊がいるがそれは彼にしか見えないからだ。姉のコートニーは典型的なチアガールだが弟のことは気持ち悪い厄介者ぐらいに思っている。母親だけはノーマンに優しくしてくれるがそれでも恐る恐る接している感じだ(おそらく彼女の家系がプレンダーガストの系列なのでもしかしたら多少理解があるのかもしれない)。
 一方学校では避けられているか、いじめられているかのどちらか。アルヴィンといういじめっこには毎日ロッカーに「FREAK(化け物)」の落書きをされる。彼に共感を示すのはやはりいじめられっ子の肥満のニールだけだ。映画は冒頭からその死者と会話ができるノーマンの日常といじめられる彼の様子を丁寧に描写する。一番分かりやすいのは、ノーマンが死者とは気軽に会話できる(周りからはひとりごとを言っているようにみえる)のに、ぶつかった生身の人間には気まずく黙ってやり過ごしてしまう場面だろう。ノーマンは死者とはコミュニケーションが取れるのに生身の人間とはうまく取ることが出来ない。
 そんなノーマンの友だちになるのはやはりいじめられっこのニール。彼はちょっと抜けている部分があるが生来の楽天家で人の心の痛みが分かる少年でもある。そして姉のコートニー。彼女は最初はノーマンを煙たがる嫌な姉貴として登場。オタクのノーマンに対していかにもなチアリーダー。しかし、いざとなればきっちり弟を守るところも見せる。彼女の(人形の)造形が最高でデフォルメが効きつつもきちんと出るところは出て引っ込むところは引っ込んでて色っぽくデザインされているのだなあ。声はアナ・ケンドリックが担当している。

 前半はちょっと悪趣味なコメディシーンも多く、ウィットに飛んだ、と言うよりは「ハング・オーバー」風のどぎつい物も多い。いじめっこであるアルヴィンのデザインも結構どぎつい(このいじめっ子を演じているのは実写ではいじめられっ子役が多いクリストファー・ミンツ=プラッセ!彼は「ヒックとドラゴン」では「パラノーマン」のニールに当たるようなフィッシュを演じている)。
 ニールの兄貴であるミッチはジョックス風のマッチョマンだが、弟を気にかけたりコートニーの色気も気にもとめない。この手のキャラクタ−にしては珍しいな、とおもったら意外なオチが待っていて・・・演じているのはベン・アフレックの弟ケイシー・アフレック
 笑えるシーンも多く、多分いちばん笑えるところは住人(冒頭でノーマンとぶつかった人)が自販機で商品が落ちるのを待っている間、ゾンビが迫ってきて、さっさと逃げればいいのに、商品を待っている!というカットバックのところだろう。後はミッチとアルヴィンが
「ゾンビがやってきた!」
「隠れろ!」
「いや違った。大人たちだ」
「隠れろ!」
というやりとりをするシーンあたりもかなり笑える。一方プレンダーガストおじさん(声はジョン・グッドマン。)の死に様はまだいいが、ノーマンが死んでいるプレンダーガストおじさんの身体から本を取ろうとして悪戦苦闘するシーン、特に死体にのしかかられてベローンと舌で顔を舐められてしまうところなんかは、死体を使ったギャグでもあるし、ちょっとサム・ライミの「スペル」なんかを思い出して悪趣味にすぎるかもしれない。ちなみにプレンダーガストというのはおそらく「ポルターガイスト」をもじった名称であると思う。 
 ストップモーションアニメーションといっても単なる職人芸だけではなくもちろん時代の進歩は影響を及ぼしており、例えばたんに少しづつ動かして撮影していくというだけでなく顔の表情などはその都度パーツを入れ替えて表現したりしている。この顔のパーツなどを今回は3Dプリンタを使って作ったりしているのだそう。そのせいか更に動きは滑らか。そして執念とも言える作りこみはノーマンの部屋のホラー映画関連グッズなどに生かされている。

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 後半、役所の上から落ちてノーマンは過去の魔女裁判の様子を追体験する。判事や陪審員は今や呪われてゾンビとなった7人。彼らはノーマンを魔女扱いするのかと思いきや、それは1人の少女を被告としたものだった。彼女の名はアガサ・プレンダーガスト。11歳で彼女も死者と話すことが出来る。現代なら変人扱いされるだけだが、300年前では魔女扱いされる。舞台となったブライス・ホローはマサチューセッツ州に位置し、やはり「セイラム魔女裁判」で有名なセイラムもマサチューセッツ州である。というかおそらくセイラムがブライス・ホローのモデルだろう。恐怖と無知から当時のブライス・ホローの住人は11歳の少女に死を与えた。
 この少女通称アギーは姓から分かるとおり、ノーマンの母方の先祖にあたる家系(もちろんアギーは11歳で死ぬので直系というわけではない)。おそらくプレンダーガストの家には時折死者と話せる能力を持った人物が生まれるのだ。
 ところで、このアギーが魔女としてではなく一人の少女として登場した時、僕はその姿格好、役柄からすかさず映画の「サイレントヒル」を連想した。コナミのゲーム「サイレントヒル」はスティーブン・キングの「霧(映画「ミスト」の原作)」をモデルにアメリカの郊外の町サイレントヒルを舞台にしたオカルトアドベンチャーゲームだが、その独特な世界観が人気を呼び、クリストフ・ガンズ監督によって映画化もされた。個人的にはゲームの映画化作品では今のところ最高傑作だと思う。2006年の映画「サイレントヒル」では大筋でゲームに忠実ながらも主人公を父親から母親に変更し結果として母と娘の物語となっている。続編の「サイレントヒル: リベレーション3D」が現在日本での公開待機中である。この作品ではアレッサという少女がやはり「魔女」として学校でいじめられ、やがて叔母の率いる宗教団体に引き立てられ焼かれてしまう。このアレッサと「パラノーマン」のアギーは見かけも役柄もそっくりであるが、ここで両者を演じているのがジョデル・フェルランドである。明らかに「パラノーマン」のそれは「サイレントヒル」のアレッサをモデルにしており、ジョデル・フェルランドをキャスティングしたのはほぼあて書きか、そうでなくても彼女に決定した時点で役のキャラクターをアレッサに寄せている。ジョデルはいまや18歳で写真などで観る限りには特段オカルトっぽい雰囲気だとかは感じない健康的な美少女だが、フィルモグラフィーはそのほとんどがホラーやファンタジーである(あとで気づいたが「キャビン」のゾンビ少女もジョデル)。その中でも彼女の代表作は「サイレントヒル」といえるだろう。アレッサは復讐を成し遂げ自分を焼いた者たちに凄惨な地獄を味合わせるが、アギーもその魂は自分を殺した7人に呪いをかけゾンビとして「人に追われる」すなわち人を襲うのではなく、人間に嫌われるさだめとなる。そこで途中からこの映画では人間、集団で暴走し暴徒と化した人間がまるでゾンビのように描かれる。役所に入ったコートニーたちを民衆の手が、窓を突き破ってたくさん現れるシーンは「死霊のえじき」だろう。人々は狂騒にかられてゾンビを襲う。ここでは完全に普通の映画におけるゾンビと人間の関係が逆転している。また恐ろしく強力となった魔女アギーは街にいたるところに存在する魔女をかたどった看板などを破壊する。これらは魔女裁判の詳細が住民の中から失われていく中で、11歳の何の罪もない少女が「オズの魔法使」の東の魔女のような緑の肌に鉤鼻、尖った顎、黒い服装にとんがり帽子と言った魔女のテンプレのような醜い姿にされてしまったことへの抗議でもある。
 ただし、アギーは決定的な復讐に走る前に救われる。同じ力を持ちやはり社会から阻害されていたノーマンによって。プレンダーガストおじさんたち今までの前任者が「ベッドタイム・ストーリー」を聞かせることでアギーを強制的に眠りにつかせていたのに対し、ノーマンはその死者と会話できる力を文字通り会話によって分かり合うことに使う。
 だから、単に似ている役を演じている、というだけでなくて本質的に「サイレントヒル」と「パラノーマン」は姉妹作品といってもいいと思う。「パラノーマン」を見たらぜひこちらも観てほしい。

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 今回は「シュガー・ラッシュ」と対照的に日本語吹き替え版は無しの字幕版のみ。うーん、先のジョデル・フェルランドなどキャストに隠し球があって、もちろん字幕も良かったのだけどやはり3Dだし日本語版が欲しかったかな。上映回数などの不遇もあろうが、いまいち日本ではヒットしてないのは字幕版しかないと言うのも大きいと思う。パンフにも全く日本語版キャストが載っていないのでまだ作っていないのだと思うが、ソフトではぜひイイ吹替を期待したい。個人的にノーマンの学校で演劇を指導している先生がどうしても小宮和枝さんが英語で喋っているようにしか聞こえなかったのでぜひ、小宮和枝さんに担当してほしい。


 前回観た「シュガー・ラッシュ」と共通する部分も多い。だが「シュガー・ラッシュ」がどちらかと言うと無菌室のような綺麗な世界なのに対してこちらはかなり生活感のあふれた、人間の後ろ暗い部分が多い。シュガー・ラッシュ」が「アバター」だとすればこちらは「第9地区」と言った感じだろうか。
 「シュガー・ラッシュ」の方は日本でも大ヒットしてるのでおそらく結構長く上映していると思う。なので二回目観るにしても(一回目は2Dだったので3Dで見たい)もう少し時間が経って客足が落ち着いてからにしようと思っているが、こちらはなんだか早く終わってしまいそうなので、早めに観に行ってほしい。僕も出来ればもう一回観に行きたい。そして二回目見た限りでは「パラノーマン」の方が「シュガー・ラッシュ」よりちょっと上位に来る感じ。一回目だけだと絵的な勢いは「シュガー・ラッシュ」の方があって上かなあ、と思っていたのだが物語を最初から把握した上で「パラノーマン」二回目に臨んだら途中から涙が止まらなかった。もちろん現時点ではこの2作がぶっちぎりで1位2位です。

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音楽も最高に良かったです(担当は「マグノリア」「パンチドランク・ラブ」などのジョン・ブライオン)。

*1:ちなみにバートンとセレックはディズニーのアニメーター時代の盟友