The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

トム&クリフ 危ない奴ら アウトロー

 なんだかんだで公開されれば僕はほぼ確実に見に行く数少ない俳優、それがトム・クルーズ。映画史に残るスーパースターだが、今年はSF大作の「オブリビオン」も控えちょっとしたトムイヤーになりそうな予感。そんなトムイヤーの口火を切るのが今回観た作品。トムが人気小説のヒーローを演じる「アウトロー」を観た。

物語

 ピッツバーグ近郊の街で6発の銃声が鳴り響く。犠牲者は5人。いずれも無関係であることから無差別狙撃だと思われた。犯行現場に残された証拠から警察はジェームズ・バーという男を逮捕する。元米陸軍のスナイパーで証拠から彼以外には犯人は考えられない。バーは黙秘を続けていたが突然紙に何かを書き綴った。
「ジャック・リーチャーを呼べ」
 軍人の家系に生まれ自身も軍人になったジャック・リーチャーはイラクなどで若くして英雄となり、MPとして活躍したが、2年前に除隊してからは特定の住所も運転免許も持たない流れ者。ニュースでバーのことを知った彼は不意に警察に現れる。肝心のバーは移送中に他の囚人に暴行を受け昏睡中。リーチャーはバーの弁護士であるヘレンと事件を調べ始める。果たして本当にバーは犯人なのか?

 原作はリー・チャイルドの「ジャック・リーチャー」シリーズの一編、「One Shot(邦題アウトロー)」。現在は17作まで刊行されている人気シリーズだそうだ。日本では今回の映画化の原作含め5作品が翻訳されているそう。ちなみにこの映画はほぼ西部劇の構図を現代に持ってきたといってもいいようないかにもアメリカ的な作品(少なくとも007やハリー・パーマーのような英国風な雰囲気は微塵もない)だが、原作者のリー・チャイルドはイギリス人である。ちなみに彼はリーチャーが喧嘩で拘留された警察で釈放される際にリーチャーの所持品を返却する警官の役割で出ている。これは原作者が「トムよ、お前さんをジャック・リーチャーとして認めた。今後も任せたよ」という意味でもあるのだろう。
 物語は犯人の視点からの狙撃事件、という「ダーティーハリー」を彷彿とさせる展開から始まって、警察によるバー逮捕、そしてバーによってジャック・リーチャーの名前が登場し、謎の男ジャック・リーチャー=トム・クルーズがさっそうと登場!という流れ。原作とは結構構成を変えているらしく先に物語紹介ではバーが真犯人なのか否か?みたいな書き方をしたが、映画では冒頭からバーとは別の人物が狙撃犯を演じているのは分かっており、犯人探しのミステリーという意味ではバーなのか否か?というより、誰がバーをはめたのか?という方が重要となる。で、そこに陰謀と事件を追うジャック・リーチャーを襲う追っ手などが加わってハードボイルド作品として成立するわけだ。

ジャック・リーチャー

 トム・クルーズ演じるジャック・リーチャーは元陸軍のMPで様々な功績を上げながら現在は全く国家に痕跡を残さない人物。携帯電話も自動車も銃も持っていない。このジャック・リーチャーの経歴を知って思い出したのはやはり「ニューヨーク1997」「エスケープ・フロム・L.A.」のスネーク・プリスケン。スネークも若くして英雄となりながらその後は国家に頼らず犯罪者となった存在だった。リーチャーは犯罪者でこそないが現在は国家に背を向けた人物。もし、スネークが犯罪者になっていなければリーチャーのような存在になっていたのかもしれないと思った。
 で、そんなふうに早い段階でスネークとかぶせて見てしまったため、例えば警察のエマーソンがリーチャーを見た際に「思ったより小さいな」などと言い出さないかと思ってしまった。スネーク演じたカート・ラッセルは実はそれほど身長が高くないが劇中では噂が一人歩きしているらしく毎回「噂よりも小さい」といわれるのがお約束だった。
 トム・クルーズがそのルックスに反して実は背が低いというのは有名だが、今回言及こそされないものの、その身長にまつわるトムのあれこれを逆手に取ったような演出があったように思った。他のトム・クルーズ主演作品に比べて直接的に格好いいという描写は少なく、爽やかな格好良さと言うよりは泥臭い格好良さを描写している。また、ありがちな女性とすぐベッドインする描写がない。ヒロインはロザムンド・パイクだが彼女とモーテルで一緒になっても丁寧に帰すし、美人局的に絡まれたギャルに対してもも父親的な感じで今後を案じたりする。
 例えば、リーチャーがチンピラに絡まれて(実は意図的に絡まれた)ストリート・ファイトするシーンがあるが、敵のチンピラが侮るくらいここでのトムは落ちついてはいても特に強そうには見えない。中肉中背、筋肉質ではあるが逆三角形というほどでもなくずんぐりむっくりな体型。ヘレン演じるロザムンド・パイクやチンピラたち(中にはナイトストーカー、リチャード・ラミレス似の者も)と並んでも背の低さを隠そうとしていない。「ロック・オブ・エイジズ」のトムと比べてもぱっと見の格好良さはそれほど重要視していないと思う(もちろんそこはトムなので顔は格好いいんですが)。同じトム主演の「ナイト&デイ」の問答無用で爽やかなアクション映画とは全く異なる作品といえるだろう。
 ジャック・リーチャーは基本全てが現地調達でどうやら服すらその都度調達のまさに「明日のパンツがあればいい」を地で行く状態。このご時世に携帯も持たず、住所も不定な流れ者。移動はバス。一般にアウトローと言うと好んで法の外側に出て行った人物という意味合いでとられる場合が多いが本来は体制側が特定の人物を「こいつは今後国家の庇護から外す!何をされようが国家は面倒見ないよ!」と指定した人物を指す。西部劇の舞台などがアウトローと言ってイメージしやすいと思うが、あの当時に比べると、現代は高度な機械と社会システムという2重のシステムに縛られた社会。そこから抜け出すのは並大抵のことではない。
 「アウトロー」という邦題は必ずしも作品に合っているとはいえないがそれでもやはり「バガボンド」と言ったり「ローンウルフ」と言うするよりはやはり「アウトロー」が最もしっくりくる気がする。またクリント・イーストウッドの1976年の監督主演作品「アウトロー」も念頭に合ったと思われる*1。まあ原題通り「ジャック・リーチャー」でよかった気もするが日本だとフィクションの人名タイトルはあんまり受けないと判断されるのかタイトル変えられる傾向にあるね(と言って思い浮かんだのがやはりトム・クルーズ主演の「ザ・エージェント(原題Jerry Maguire)」だったりする)。冒頭の「ダーティーハリー」を彷彿とさせるシーンからも全体的にイーストウッドの諸作品を意識、影響されてるのは確かだろう。まあ、僕の場合犯罪物の基準になるのが常に「ダーティハリー」なのでちょっと似たシーンがあるとすぐに連想してしまう癖が付いているのだけれどね。

クリフ

 今回、予告編を見た段階で、「トムが駆る自動車、赤でストライプが入ってるってことはクリフじゃん。すると後半ではクリフがトランスフォームして暴れる映画に違いないよ」などと冗談交じりに言っていたのだが、案外製作者は狙っていたのかもしれないと思った。クリフ(クリフジャンパー)とはアニメ「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」の中に出てくるサイバトロン戦士。同じサイバトロンのバンブルとは同型の色違い(バンブル=黄、クリフ=赤)でトイなどでも同じトイの色違いとして販売されることが多い。実写映画「トランスフォーマー」シリーズではバンブル(バンブルビー)は黒いストライプの入った黄色いカマロに変形するが今回のトムが中盤で手に入れ激しいカーチェイスを繰り広げるときに乗っているクルマは赤いカマロに黒いストライプが入っていてまさにクリフという感じである。
 飄々として陽気、人間(スパイクや映画ではサム)のパートナーと言う趣きのあるバンブルに比べるとクリフは熱血漢の戦闘好き。サイバトロンの戦闘員として活躍した。この荒っぽいところはこの映画のカーチェイスにふさわしい。というわけで案外、製作者は狙って赤いカマロを選んだんじゃないだろうか、という気がする。

 ところでこの映画のカーチェイスは非常に興奮にした。比較的狭い町並みを疾走しつつトムの乗ったクリフ、追手である複数のパトカー、そしてトムが追跡する真犯人のクルマと三つ巴でありながら激しいカーチェイスを見せてくれる。この感覚は実は僕が「ドライヴ」を予告編で見て期待したカーチェイスそのものであったといっていい。「ドライヴ」ではその名に反してあまりカーチェイスを見せてくれなかったのが不満だったのだが、僕が見たかったスリリングなカーチェイスをここでやっと見れたという感じ。
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説明不足

 この映画、物語を語る部分はある程度放棄したな、と思うぐらい説明不足が多い。例えば敵の黒幕であるゼックが一体何ものであるのか具体的に語られることはない。過去においてこの人物がシベリアで拘留されていて酷い目に逢い、又現在はとある建設会社と関係があるようなのだが劇中では語られない。ゼックとはロシア語で「囚人」という意味でありリーチャーに本名を聞かれても「囚人・人間」という(どういう単語だったか忘れちゃった)明らかな偽名を名乗るばかり。そして詳細が明らかにされないうちにリーチャーに殺されてしまうので結局のところ陰謀の真意も闇の中。
 また、全体としてトムのライバルであるチャーリーについても、警察でありながらゼックとつるんでいた刑事エマーソンもゼックと深い関係を匂わせながら結局語られることがないまま死んでしまった。物語としての柱である「狙撃事件の真相」という部分ではかなり説明を省いた演出がなされている。ちなみにチャーリーを演じたジェイ・コートニー。狙撃事件の真犯人で観客が混乱しないようにか、犯人に仕立てあげられたバーがさっぱりした顔なのに対してこのチャーリーは顎に青ひげがびっしりの人物。僕はずっとどこかで見たことあるな、と思いながら観ていたのだが、あとで確認して納得。この人新しい「ダイ・ハード ラスト・デイ」でブルース・ウィリスの息子役を演じている。本編前の予告編で見たばっかりだったのだ!そりゃ見覚えあるよ!
 カーチェイスの後、リーチャーはクリフを乗り捨てバスを待つ客の列に紛れ込む。そこへ警察がやってきてクリフが無人であることを確認しリーチャーを捜索するが、ここでなぜかバス停で待つ客たちが帽子をかぶせたりしてリーチャーをかばうのである。ここでもなぜそういう展開になるのか全く説明がない。この街ではよほど警察が嫌われているのか、それともここでリーチャーをかばった客は以前にリーチャーと何かあったのか、全くわからない(バスで隣に乗った客とは少し知り合いぽい雰囲気もした)。
 クライマックスの採掘場のシーンでもなんで射撃場の店主(ロバート・デュバル)がいきなりリーチャーの仲間になってるの?とか思った。デュバルは「いきなり見も知らぬおまえに頼まれて赤の他人を殺せるか」みたいなことを言うイイキャラだがいきなりの助っ人は急すぎる。
 ただし、こういう説明不足は映画の作品としての質には直接影響していない。説明不足ではあるが面白さを損なってはいない。この映画は事件よりもその事件を通してジャック・リーチャーという人物(しかもそのハードボイルドな部分)を描写することに重点を置いているのでこういう描き方になったのだろう。僕は結構早い段階でそういう見方に気づいたためか、説明不足は気になるがそれでつまらないという風にはならなかった。

変な演出

 先の説明不足と重なるのだが、この映画全体的に真面目な雰囲気ながら時々妙な演出がある。例えば、リーチャーが自分を襲ったチンピラの所在を確かめようと彼の家に行き、バスルームで彼の仲間二人組に襲われるシーン。この時の二人組が明らかに知能指数が足りない感じのお馬鹿さんで狭いバスルームで我先に攻撃しようとして身動きが取れなくなったり、1人が振り上げた武器が後ろにいる仲間にあたったりといった激しくもスラップスティックなコメディ調になったりする。ある意味和むのだが、全体的なバランスでは変。
 また黒幕であるゼックが初登場するシーンも変である。ここではそれまでリーチャーを尾行していた男が黒幕であるゼックと出会うのだが、この男は深く関わりたくないのかゼックの顔を見たくない、と恐れおののく。そして暗闇からゼックの顔が浮かび上がるように登場するのだが・・・おまえ誰やねん?普通こういう演出はそれまでにすでに登場していて観客に「ああ、あいつが黒幕だったのか!」と驚かせるか、あるいは劇中では初登場だが誰もが知っているビッグスターだったり、というのが目的だと思うのだが、ここで初登場するこの老人、一体誰や!
 実はこのゼック役、ドイツの映画監督ヴェルナー・ヘルツォークその人だったりするのだが、一般人には分からないよ。
 射撃場でも変な演出があった。リーチャーはデュバルに「3発命中させたら情報を教える」と言われて伏して狙撃をする。で、そのシーンでリーチャーを正面から捉えたカットでリーチャーの後方から人影が現れ緊迫したBGMに変わる。もちろんデュバルは隣にいるのでこの影はデュバルではない。志村、後ろ!後ろ!状態。どうなるリーチャー!しかし、その後何事もなかったように見事3発命中させた的を見ながら情報入手、という場面に切り替わる。あれ?あれは単に狙撃が成功するかどうか、という意味での緊迫シーンだったの?これ又変な演出だ。 
 ただ、これらは「変な演出だなあ」とは思っても「だからつまらない」というふうにはつながらない。そういう意味では先の説明不足と一緒。原作を読めば分かるのかもしれないし、繰り返し見ることで新しい発見があるのかもしれない。
 このへんの全体的にシリアスながら時折変なシーンが入り、説明も不足してるという意味では先に観た「ルーパー/LOOPER」と似ている部分があるが僕はこっちの方が全然好きだなあ。
 
 監督はブライアン・シンガーのもとで「ユージュアル・サスペクツ」「ワルキューレ」などの脚本を手がけたクリストファー・マッカリーフィルモグラフィーを見るに説明不足、変な演出は結構意図した物だと思う。今後は関わる作品(脚本?)「ウルヴァリン:SAMURAI」「ジャックと天空の巨人」そしてやはりトム・クルーズの「All You Need Is Kill」などが控えている。

アウトロー 上 (講談社文庫)

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アウトロー 下 (講談社文庫)

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 色々ツッコミを入れてしまったが、やはりトム・クルーズは凄い、と思った。ある種の緩さも含めて今年観た中で今のところナンバー1作品(特に洋画では)。凄い面白かった。どうなるか分からないがこのまま続編観たいです。今後もトムとは末永く付き合って行きたい!

*1:劇中リーチャーが自分を襲ったチンピラ、ジェブの家に入るシーンで家の中でこの「アウトロー」が流れていた気がする