大晦日のああ無情 レ・ミゼラブル
去年の大晦日はその名もズバリ大晦日というタイトルの「ニューイヤーズ・イブ」を観て劇場鑑賞の年納めとしたわけだけれど、今年はもうかなり前から「これで年納めするぞ!」というのを決めていて、それが「レ・ミゼラブル」だった。
最近はそうでもないのだが、昔は年末年始となると3時間はあるような過去の名作や文芸大作の映画をTV放送していて、それが年末年始を彩っていたような気がする。僕なんかは「荒野の七人」と「大脱走」がお正月の定番だったのだが、最近はそういう大作映画を年末年始に、というのが少なくなってきた。そこでというわけでもないが今年はこの有名な文学が原作でミュージカルの舞台の映画化である「レ・ミゼラブル」で一年を締めようと思って12月14日に公開されてもじっと耐え忍んで大晦日になるのを待っていたのである。もちろん、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライドと言った名だたる俳優が出演していたのも大きい。文芸大作と言えば「ホビット」もそうなのだが、やはりこちらのほうが年末感というものを感じさせてくれる。
物語
1815年、フランス。パン1つを盗んで19年間牢獄暮らしをし、仮出所したジャン・バルジャンはその前科のため、仕事ももらえず、宿にも泊めさせてもらえなかった。そんなあ彼を救ったのはミレアム司教。司教は彼に食事と一晩の宿を提供するが、ジャン・バルジャンは銀食器を盗んで立ち去ってしまう。すぐ警察に捕まったバルジャンを前に司教は「食器は彼に上げたものだ」と言いさらに「銀の燭台も持っていけばよかったのに」と言う。その司教の心優しさに触れたジャン・バルジャンは正しい人間として生まれ変わることを誓うのだった。
1823年、モントルイユ。工場を経営し市民から市長としても敬愛を受けるマドレーヌ。彼こそ名を変えたジャン・バルジャンだった。そこにパリからジャベールがやってくる。ジャベールはマドレーヌこそ仮出所中に逃亡したジャン・バルジャンではないかと疑いを持つ。
一方、マドレーヌの工場では幼い娘を他人に預けて働くファンテーヌが同僚の嫌がらせと工場長によって解雇されていた。彼女は娘に送るお金のために髪を売り、娼婦に身を落とす。あるとき警察に捕まりかけた彼女をバルジャンが見咎め、救い出す。娘のコゼットを連れてくることを約束するが間もなくフォンテーヌは息を引き取る。自分の身代わりとして捕まった男のために正体を明かしたバルジャンはジャベールの追ってから逃れ、コゼットを救い出すのだった・・・
そして1832年、パリ・・・
原作になったのはヴィクトル・ユゴーの1862年に書かれた小説「レ・ミゼラブル」。日本では黒岩涙香による邦題「噫無情(ああ無情)」でも知られている。僕は原作を読んだことはないが途中で延々とフランスの状況解説に費やされたりするらしいです。そういえばメルヴィルの「白鯨」も本編に入る前にクジラについて延々と解説が続いたりするのだったなあ。
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これはユゴーの原作の映画化というよりミュージカル舞台の映画化である。楽曲はほぼそのまま舞台版らしい。僕は一部楽曲を「glee」経由で知っている程度。普通のセリフはほとんど無く、ほぼすべてのやり取りが歌で行われる「エビータ」方式のミュージカルである。オープニングの囚人たちが船を引くシーンから魅力的な歌と映画ならではの構図で魅せてくれる。ヒュー・ジャックマンはこの時点では野性味溢れる感じで怪力という個性を発揮している。
ただ、事前に噂で聞いてはいたのだがこの映画、顔のアップが多い。特にソロで楽曲を歌う時はほぼ、アップが中心なのだ。舞台は見たことがないので分からないが、いわゆるダンスはほとんど無く、引きの絵で歌う部分もあまりないのでそのへんは勿体無く思ってしまう。結果としてテナルディエ夫妻の宿屋のシーンや学生たちが革命のために決起を促すシーンなど集団で歌うシーンの方が映画としては魅力的であると思う。最も舞台だと観客は常に引きの絵でしか見れないわけで、歌ってる人のアップを観たいというのも映画的であるのかもしれないが。
ジャン・バルジャン役のヒュー・ジャックマンは見事で元々「X-MEN」でブレイクする前にすでにオーストラリアでは知られていて、主に舞台で歌うことに関してもキャリアがあるのは知っていたのだが映画では初めてだと思うが本当に魅力的だった。一方ラッセル・クロウはおとなりニュージーランド出身(オーストラリア育ち)。バンドなんかもやっているとは聞いたことがあるが歌を聞いたのはこちらも初めて。歌そのものは上手いかどうか判断に苦しむところなのだが(演出上かもしれない)その声質がとても魅力的で低くも甘い歌声にびっくりした。
ヒロイン二人は母親のファンテーヌにアン・ハサウェイ。主な出番は前半だけだが娼婦に身をやつした状態がほとんどなのだがその演技は鬼気迫るものがあった。娘のコゼットはアマンダ・セイフライド。こちらは「マンマ・ミーア!」などでもおなじみなので問題なし。
作中、あくどいキャラでありながら奇妙に憎めないテナルディエ夫妻を演じたのがサシャ・バロン・コーエンとヘレナ・ボナム・カーターの「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」からのコンビ。メイク的にも似た感じで場をさらっていく。パンフレットもそうなのだが雑誌の「レ・ミゼラブル」紹介記事などでもコーエンについては写真が載っていない気がするのだが、肖像権的な何かでしょうか。コーエンは純粋に役者として出る場合は意外とまっとうな役が多い。個人的にもしQUEENのフレディ・マーキュリーの伝記映画を作るならサシャ・バロン・コーエンが最適だと思うのだがいかがだろうか。
事前に予想したより物語の展開は早く進み、司教のシーンなどそこだけ覚えていたりしたので「え?もうこれで終わり?」という感じだったりするのだが、それでも上映時間は158分という長時間。あんまり長時間には感じなかった。歌がメインであるからというのもあるが上手い映画はやはりどんなに長くてもそうは感じないものだと思う。長い映画はそれだけでダメとかはあんまり思わないなあ。
前半のフランスの貧民街を歌うシーンは現在にも通じそれだけでかなり切なくなってしまう。貧乏人が団結するでなく他の貧乏人を貶めて満足している状況など現在の日本そっくりだ。生活保護費の引き下げとかね。本当笑えない。あのへんは「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」の「Skid Row」を思いだしたりもした。
また後半はコゼットと互いに恋に落ちるマリウスとその同志アンジョルラスを中心に王政府に対して革命を起こそうとする学生たちの運動も描かれる。マリウスは一応コゼットの恋の相手ということなのだが、そのお坊ちゃん気質がにじみ出ており(王党派の金持の孫である)事前に予習として読んだみなもと太郎版のマリウスそっくり(「風雲児たち」の吉田松陰)でそこは思わず笑ってしまった。
はっきり言って、アンジョルラスの方が魅力的でなんでコゼットもエポニーヌもアンジョルラスをスルーしてマリウスに惚れるのかよく分からない。
ジャベールの最後はちょっといきなり過ぎてあれでしたね。原作とか読んでいればもっとその心情が分かるのかもしれないが。
カメラワークにおけるアップが多いとか、色々気になる所もないではないですが、これぞ文芸大作!って感じで全体的にはとても満足です。もう大晦日に観るという行為自体も含めて判断してるので十分満足でしたよ!
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