The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

ラムセス推し 十戒

メリークリスマス!
 今日はクリスマスイブ。僕は真摯にクリスマスを過ごす男。ちゃらちゃらした商業クリスマスなど及びじゃありません。聖書に思いを馳せるべく、川崎のチネチッタにて「十戒」というヘブライ民族の苦難を描いた映画を観てきましたよ!1956年のセシル・B・デミル監督作品。

物語

 古代エジプト。第19王朝ラメセス1世の時代。ヘブライ人はエジプトに於いて奴隷として過酷な労働を強制されていた。ヘブライ人の反乱を恐れたファラオは預言によって彼らの解放者となる可能性のある赤ん坊を全て殺すことを命じる。ヨシャベルはまだ生まれて間もないわが子を名前も付けぬうちに命を救うため籠に入れてナイル川に流す。保護したのは王女のベシアであった。モーゼと名付けられた赤ん坊はベシアの子として育つ。セティ1世の時代、モーゼはファラオの甥としてセティ1世の実子ラメセスと後継者の地位を争うまでになっていた。しかしモーゼは自分がヘブライ人の子供だと知り、自ら奴隷に身を落とす。やがて彼は追放されるがシナイ山で神の啓示を得る・・・

 この作品、僕は昔、TVで見たことがあって大好きだったのだが、それは主にユル・ブリンナー演じるラメセス(ラムセス2世)が格好良かったからなのだな。ちなみに旧ブログのほうだけど、ブログを始めた時に一番最初に記事を書いたのがチャールトン・ヘストンの死去に関連してこの「十戒」についてだった。
 先にあんなこと書いたけど、僕は別にキリスト教徒でもなんでもないのでね、要するに一度あのスペクタクル映画を劇場で観ておきたい、というのが一番の理由。
 で、その時のブログにも書いたけど、僕が興奮したのはユル・ブリンナーヘブライの神に子供を殺されてエジプトの神に「生き返らせ給え」と懇願するシーン(旧ブログの方は「モーゼの神を倒せ」となっているがこれは僕の勘違いだった)。ここで「ヘブライの神VSエジプトの神か!」と子供心に興奮したのだが、これはあくまでユダヤキリスト教の価値観で作られた映画なため、エジプトの神など登場しないのだった。
 
 今回はDVDやBlu-ray上映などではなくあくまでプリント上映だったと思われ、字幕が画面下に横書きで表示されるものではなく、右の方に縦書きで表示されるもの。縦書字幕の映画って久しぶりに見たのだが結構視線を奪われ、画面全体を観ることが難しい。スクリーンの性質上、視線の上下はそれほど負担にならないけれど左右は結構大変だった。まあ、この映画は古い映画なのでそれほどカット割りが多いわけでもないし、カメラワークもほとんど動かないので慣れれば問題なかったが、もしも現在のカット数が多かったり激しいカメラワークが主流の映画だったりしたらこの位置に字幕があるのは辛いだろうなあ。また字幕自体も一昔前の字幕独特の書体で字によっては中国の簡体字みたいな漢字が使われていてちょっと困惑。
 ただ、さすがセシル・B・デミルというべきか。220分の上映時間はほとんど飽きることなかったし、カメラワークは乏しいものの構図は凝りに凝っていて、どのシーンのどのカットを抜き出しても宗教画として通用しそうな画作りであった。
 220分の上映時間といったが、上映前に前の席の客が「途中で休憩あるよね?」というような会話をしていて、まあ休憩は無かったのだけど昔は途中休憩挟んでいたのだろうな、と思う。実際映画の中でも明らかに一旦終了というような部分があって、ヘストン演じるモーゼが砂漠に追放されたところで前半が終わっていると思う。
 というのもその後の羊飼いの娘たちが女子トークしてるシーンが映画冒頭の王家の女性たちが女子トークしてる部分と明らかに対になっているから。でもまあ先程も言った通り全然飽きなかったですけどね。
 そういえばこの映画、主要な女性陣はいかにもハリウッドのクラシカルな美人女優という感じで髪型とかメイクが他の女性とは違っていて(例えばリリアと他のヘブライ人の娘、あるいは7人姉妹のうちのセフォラとその妹達など)ひと目で脇役と主要人物が分かるようになっているのだが、今の目で見るとエキゾチックな脇役の女性のほうが魅力的に見えたりしました。それでもネフェルタリ役のアン・バクスターはとても色っぽく魅力的でしたが。
 元々僕はユル・ブリンナーのファンでこの映画でも断然ラメセス派なのだけど、それ以外をすっかり忘れていて血気盛んなヘブライ人の若者ヨシュア(ジョン・デレク)の方がヘストンより格好いいなあ、などと思ったりした。
 ヘストンも前半はそれなりに悩みがあって格好いいんだけどシナイ山で神の預言を頂いいて以降はなんか人間的に超越してしまってつまんないんだよね。

 この映画は旧約聖書のいわゆる「出エジプト記」を原典とした映画なんだけど実はセシル・B・デミル監督のセルフリメイク作品。1923年にも同じ題材で映画化されている(日本語題は「十誡」)。僕はそっちは見たことがないけれど、そちらでは現代編というのもあってより説教臭くなっているらしい。それに比べると(おそらく)こちらはよりスペクタクルな娯楽重視。前半は特に超常現象は登場しない。
 時代に設定されているのは古代エジプト第19王朝で、あの有名なツタンカーメン王が第18王朝の末期。ラメセス1世は18王朝最期のファラオ、ホルエムヘブの盟友で彼に子供がいなかったため、ファラオの座をを譲られたらしい。実際の「出エジプト」がこの時代だったかどうかは分からないが(エジプト側での資料がない)ファラオの権力が強かったのはこの王朝の時代である。特にユル・ブリンナー演じるラムセス2世(ラムセス1世の孫でセティ1世の子)は古代エジプト最強のファラオであり、一般にラムセス大王と称される。どうでもいいがブリンナーは格好いいなあ。
 ところでシナイ山でモーゼは神の言葉を聞くわけだが、山を降りてきた時に「神の声は男か女か」など聞かれて「己の心の声だ」などと言うのだがこの神の声を演じているのもヘストン自身である。
 後半は神の奇跡が大盤振る舞いされるのだが、やっぱ旧約聖書の神様は怖い。ヘブライ人が4百年間奴隷化されてても無関心だったと思ったら突然ナイル川を血に染めたり、エジプト人の長子全員殺したりやることが極端。確かにヘブライ人が奴隷としてひどい目に合っている描写もきちんとあるんだけど、それでもこの後半はエジプト人がかわいそうに思えてしまう。ゼロか100かじゃなくてもう少しぬるま湯的な生暖かさで見守ってくれてもいいと思いますよ。
 いや、それでも昔の映画だけれど見せ場の海が割れるシーンも迫力があったし、今でも凄い面白い映画ではありました。
 ヴィンセント・プライスも出てるよ!

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