英国太公望、イエメンにて釣り 砂漠でサーモン・フィッシング
イエメンは中国語で「葉門」と書くらしいですわよ!奥様!イップマンと近いですわね!
というわけで、今年3本目の「わしらのいとしいしと」ユアン・マクレガー主演作「砂漠でサーモン・フィッシング」鑑賞。ユアンはちょい役では「エージェント・マロリー」にも出ていたらしいのだがあちらはどうにも興が乗らずスルー。まあ、あれにはマイケル・ファスベンダーも出ていたらしいのでソフト化されたら見てみるつもりではありますが。
物語
イエメンの大富豪がイエメンでも鮭釣りができるプロジェクトを計画。依頼を受けた投資コンサルタントのハリエットは漁業農業省に務める水産学者アルフレッド・ジョーンズに顧問を依頼する。このバカバカしくとんでもない計画をアルフレッドは一笑に付すが、時悪くアフガニスタン情勢が悪化しイギリスとアラブ諸国の関係が悪くなることを懸念したイギリス政府からこの計画を成功させろと命令が下る。最初は全然乗り気ではなかったアルフレッドだが、ハリエットとミーティングを重ね、更に実際の依頼者シャイフ・ムハンマドと出会い、単なる金持ちの道楽ではなくその後ろに隠された願いまでも知り、徐々に計画にのめり込んでいく。一万匹の鮭を国外に持ち出すことにスコットランドの釣りキチが反発、一方イエメンでもシャイフの計画を西欧化だと反発する者も出る、前面の虎、後門の狼状態。そしてアルフレッドとハリエットそれぞれの事情と各国の事情も複雑に絡み合うのだった・・・
観終わっての「ユアン格好いい!」以外の最初の感想は「これぞ、THE英国映画だなあ」というもの。イギリス映画じゃなくて英国映画ね。もちろん僕はそれほど英国映画というものを見ているわけではないし、そもそも何を持って英国映画というのか、という定義も曖昧ではあるのだが、観た人ならなんとなく分かってもらえるんじゃないかなあ。単に製作国がイギリスというだけではなくアメリカ映画とは明らかに違ったジョークの性質や人物造形、優雅なキングスイングリッシュといった部分で英国らしさをめいいっぱい堪能できると思う。キングスイングリッシュと言えばアメリカ映画で言えば「Fuck」にあたるのだと思うが物事を強調するときに「ブラッディ!(Bloodyかな)」という言葉が沢山使用されていてちょっとツボ。日常で使ってみたい英語だ。
とはいえ、この映画、監督のラッセル・ハルストレムはスウェーデン出身だし原作者はアイルランド、その他音楽担当がイタリアだったり特にイギリス一辺倒というわけでもない。何より物語の舞台の半分は中東のイエメンだ(ロケ地はモロッコ)。でもスコットランドやウェールズまで含めた英国の香りが強い。
全然関係ないがこの映画観る前と後で後ろの席のマダム2人が実際に旅行に行ったことがあるらしくイエメン初めとした中東の国幾つかを「素敵なところよー」、と会話していたのが印象的でした。
で、僕はこれ、てっきり実話ベースの物語だと思ってたんですね。何かで「原作とは少しトーンが違う」みたいな情報を得ていて、てっきり実際に行われた計画を元にコメディに仕立てた映画なのだとばかり思っていた。が実際にはこれはオリジナル小説が原作で、その中で原作と映画でトーンを変えているようだ。監督は「ギルバート・グレイプ」などで有名なラッセル・ハルストレム。
ユアンは英国のさかなクン、アルフレッド・ジョーンズ役。今回は真面目な役人学者でありかなり不器用な役。最初は乗り気じゃなかった計画に徐々にのめり込んでいく部分はユアンの人柄の良さが出ていて面白いし、釣りの技術も披露。もし「HUNTERXHUNTER」を実写化するとすればゴン役をユアンに任せてみるというのはいかがでしょう(すいません、嘘です)。
「人生はビギナーズ」ではイラストレーターの役でイラストを描くシーンも見られたが、今回も計画のありえなさを表現するためにホワイトボードに簡単な絵を描くシーンが有る。これが結構うまくて本当にユアンは絵がうまいのだろうと唸らされます。
ヒロインは「アジャストメント」のエミリー・ブラント。仕事のできる女性として魅力的なところを見せてくれる。特にユアンが計画をオシャカにするために無理難題をいうのにそれを見事に達成してしまうところは素敵。軍人の彼氏(ちょいキャプテン・アメリカ似)が居るが、まあ僕なら悩むことなくユアンを選択しますがね。
ただ、主要キャラの中で一番格好いいと思ってしまうのはイェメンの族長で大富豪であるシャイフ・モハンマドだろう。彼は最初は(アルフレッドから見て)謎めいた馬鹿げたことを実行する金持ち、という印象を持って劇中に名前が登場する。しかし実際に登場すると若くハンサムでしかも物事を深く考えている人物であることが判明する。イギリスの文化とイェメンの文化を対等に愛し、鮭釣りというのも単なる道楽ではなくきちんその背後まで考えて計画している。アルフレッドは(ハリエットも)彼の熱意に負けて計画に本格参戦するのだ。演じているのはエジプト出身のアマール・ワケド。役柄としては彼が一番格好いいだろう。
登場人物が魅力的で、アルフレッド、ハリエット、シャイフの3人はもちろん、物語的には悪役に位置するであろう、首相広報担当官のパトリシア・マクスウェルが面白い。クリスティン・スコット・トーマスが演じているが物事に動じない人物であり、唯我独尊の道を行く。「glee」のスー・シルベスターにも似たキャラクター。英国の釣り人口が200万人と聞いて早速票田狙いに行くところとかSNSを通しての首相とのやり取りとかは笑ってしまう。でも憎めない人物で、また劇中描写では家庭でうまく行ってるのは彼女だけというのも意味深。このキャラクターは原作では男性だったそうで、もしこれが男性だったらだいぶん印象違っただろうなあ、と言う気はする。
いかにも英国らしい、スコットランドの自然の描写や、英国人とアラブ人について当然違いがあるであろう宗教観の違いもさらっと乗り越える部分(信心という言葉が度々出てくるが決して押し付けがましくない)などさわやかな描写が多い。主人公二人の恋愛描写に関しては、そう都合よく行くか?と思う部分もあるけれど、コメディ映画(ガハハ系の映画ではないけれど)としては良かったのではないかと思う。
- 作者: ポールトーディ,Paul Torday,小竹由美子
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