The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

空は落ち新しい世界へ 007 スカイフォール

杞憂 古代中国の杞の国の人が天地が崩壊し落ちてくるのを憂えたことにちなむ故事成語

 というわけで観てきました、「007 スカイフォール」。ダニエル・クレイグが英国諜報部MI6のエージェント007ジェームズ・ボンドに扮するこのシリーズ。今年で「ドクター・ノオ」から数えて50周年です。アニバーサリーなのと今年はロンドンオリンピックがあって開会式でダニエル・クレイグ扮するボンドがエリザベス女王と一緒に出演するという演出があったせいか、例年になく日本でも盛り上がっている気がします。「カジノ・ロワイヤル」でダニエル・クレイグが新ボンドになって3作目、ここでシリーズの定番が全部で揃うという形のようです。早いですが気持ちはすでに次の作品が楽しみになっています(いろんな意味で)。

物語

 トルコ、イスタンブール。イギリスの諜報機関MI6のエージェント007ジェームズ・ボンドは極秘機密の入ったハードディスクをパトリスという男から奪う任務についている。現場についた時はすでにハードディスクはパトリスの手にあり、ボンドとパートナーであるイヴは必死の追跡に入る。列車の上でもみ合いになるボンドとパトリス。それを狙撃しようと待ち構えるイヴ。チャンスは中々巡ってこないが無線によるMも指示でイヴはパトリスを狙う。しかし弾はボンドにあたってしまい、彼は遥か下の滝に落ちる・・・
アバンタイトル

 MI6では今回の失敗の責任を取って国防委員会委員長のマロリーがMに引退勧告をしていた。しかしそれを拒むM。Mのパソコンに「自分の罪を思い出せ」というメセージが届き、MI-6の本部が何者かによって爆発される。
 007は死亡扱いされていたが実は生きていて酒と女溺れていたが、ニュースで爆発事件を知り、帰国。Mは本来任務復帰できる身体ではなかったボンドを現場復帰。ボンドは早速Qから新装備の銃などを受け取るとパトリスを追って上海へ向かうのだった。
 事件の黒幕は?そしてMの罪とは?

前作の記事はこちら

小覇王の徒然なるままにぶれぶれ!: 007  慰めの報酬

 イアン・フレミングによる原作は遠の昔に使い果たしているが*1、「カジノ・ロワイヤル」は原作の中でも色々複雑な経緯があってやっとイオン・プロ版が作られたわけだが、一応、ここから再び仕切りなおし、という形らしいですな。僕はてっきり「カジノ・ロワイヤル」はエピソード1であってその後の出来事として過去のシリーズも内包されるのかとばかり思っていたが。
 ちなみにイオン版映画シリーズはクレイグボンドを除くと、もちろん長期シリーズなので時事的な矛盾はあるけれど(ボンドの生誕年は役者と一緒という設定)一応全部つながっている。特にコネリー、レーゼンビー、ムーアの3人の話は結構綿密につながっていたりする。
 僕がシリーズを劇場で初めて見たのはピアース・ブロスナンの1作目「ゴールデンアイ」からだが、それ以前にシリーズは全部見ていて特にショーン・コネリーの最初の三作はTV放映率が高いのでやっぱり馴染み深い。今回は3作目同士ということなのか、事前に「『ゴールドフィンガー』は観ておいたほうがいいよ」という情報が回っていたが、物語的に連続するわけでもなく、オマージュ的な見せ方が多数あるかな、という感じ。
 監督は「アメリカン・ビューティー」「ロード・トゥ・パーディション」などのサム・メンデス。結構ここまで有名な監督が007シリーズを撮るのも珍しい気がする。「ダイ・アナザー・デイ」のリー・タマホリ監督ぐらいか。でもあちらは元々アクション畑出身だからなあ。
 フレミングの原作はすでに使われているが、オリジナル作品もフレミングがいかにも使いそうなネーミングを使用している。今度のスカイフォールもそれぞれの単語は特に特徴はないがつながるといかにも007シリーズぽいので不思議。僕がタイトルを聞いて思い出したのは冒頭の「杞憂」という故事成語。「空が落ちる」というから例えばガンダムの「コロニー落とし」までいかなくても、宇宙ステーションだとか人工衛星が落ちるだとかはあってもおかしくはない。後述するがリアル一辺倒だけではないのが007の面白さである。


 ダニエル・クレイグについては取り立てていうことはないだろう(前回の「ドリームハウス」でも色々書いたし)。すっかりボンドを物にして、「カジノ・ロワイヤル」の前には「MI-6というよりKGBみたい」とか「ボンドより『ロシアより愛をこめて』に出てきたスペクターの殺し屋レッド・グラントにそっくり」とか「ロシアのプーチン大統領に似ている」とか言われていたのが嘘のようだ。ボンドも演じる役者によって当然その個性は変わり、ショーン・コネリーの男臭いタイプとレーゼンビーのしなやかなタイプとに大きく別れるだろう。バランスが取れていたのはピアース・ブロスナンのボンドだと思うが、クレイグのボンドはティモシー・ダルトンショーン・コネリーよりだと思う。
 いわゆる、ボンドガールには最近だと一時的に情事を共にする役と物語を通してパートナーになる役と二人登場するのが定番だが、一時的な方セヴリンはベレニス・マーロウというフランスの女優。そしてパートナー的扱いのボンドガールがイヴ役のナオミ・ハリス。この人は「28日後…」のヒロイン。僕はてっきり予告編の時点ではロザリオ・ドーソンだとばかり思っていて、つまり彼女はアフリカ系である。そしてネタバレすると彼女がシリーズでお馴染みのMの秘書ミス・マネーペニーである。今作では彼女が元は現場の人だったことが判明するのだな。
 シリーズではマネーペニーとボンドはMの部屋の前で軽く粋な会話をするのが恒例で互いに憎からず思っているのに決して一線を越えない間柄。これまででも単なる事務員だけではないとは思わせていたが実際に現場に出ているエージェントであったとは。
 でも本当の意味で今回のヒロインはMだろう。ご存知のようにMはMI-6の責任者でボンドの上司。ピアース・ブロスナンに代替わりした「ゴールデンアイ」から現在のジュディ・デンチに。同時に初めての女性Mでもある。先述したように「カジノ・ロワイヤル」で一旦物語は新しく始まっているのでブロスナンの時のMとクレイグ時代のMは役者は同じでも別人ということらしい。今回はMの過去をめぐる物語であり、Mを母親としたMとボンド、そしてかつてのMI-6エージェント、シルヴァの擬似親子関係が生んだ愛憎劇といえる。
 ジュディ・デンチは「ゴールデンアイ」の後「Queen Victoria 至上の愛」でヴィクトリア女王を、「恋におちたシェイクスピア」でエリザベス1世」を演じている。イギリスは女王の国という印象が強いがこれらの強国イギリスの時代を代表する女王を演じたことで彼女自体にイギリスを代表するイメージが覆いかぶさる。Mはイギリスであり母親であり上司。これらのイメージが全てジュディ・デンチに投影される。

 先にネタバレしてしまったが最期にイヴがマネーペニーであることが判明し、シリーズの定番要素が追加されていく。その一環が新しく登場したQである。QはMI-6の武器開発担当。シリーズでは「ドクター・ノオ」で登場したが、この役者は一作きり。ボンドが銃を渡されるシーンであることは今回と一緒。その次が「ロシアより愛をこめて」のデズモンド・リュウェリン。彼が長く「ワールド・イズ・ノット・イナフ」まで続投。一応「ドクター・ノオ」のQとリュウェリンが演じたQは同じブースロイド少佐で同一人物。で「ワールド・イズ〜」で後継者としてジョン・グリーズ演じるRとして登場し、その後引退したQに代わり「ダイ・アナザー・デイ」から新しいQとなるが残念ながらここで退場。今回新しく登場したQは本名はブースロイドであり、やはりこれまでのQとは別物なのであろう。職人タイプのリュウェリンQとは違ってコンピュータに詳しい若者である。Mが女性になり、フェリックス・ライター*2が黒人(ジェフリー・ライト)になり、マネーペニーも黒人になったご時世、この変更も別にシリーズと矛盾している!とか言う気は全くないが、やはりデズモンド・リュウリンの飄々とした知的欲求を保ち続ける老人特有の魅力を湛えた演技に長年馴染んできたので個人的にはやはりジョン・クリーズか、そうでなくてももう少し年配の役者が良かったなあ。まあ、新たなファンを生んだということでは成功なのだろう。僕も別に演じたベン・ウィンショー自体にも文句があるわけではないので。それでも彼も「壊さず返すように」と言ったり定番のQのセリフを言ったりする。これはシリーズのカラーにも通じるのだが、次回作ではぜひ、バグパイプ銃とか馬鹿馬鹿しい発明も披露してもらいたい。

 007世界における悪役はたいてい誇大妄想狂で自己愛が強く他人への情が薄い。普通のアクション映画以上にコミック的なラージャー・ザン・ライフな悪役が多いが今回出てくるのは元MI-6のエージェント、シルヴァ。シリーズでも裏切り者は多いが「ゴールデンアイ」のアレック・トレヴェルヤンも今回のシルヴァも悪としての動機は個人的なものであるのが特徴的か。スペクターの連中やストロンバーグ(「私を愛したスパイ」登場)みたいなザ・悪役も出てきてほしいなあ。途中一度捕まり、偽装して脱出するシーンなどは物語の構造上「ダークナイト」のジョーカーを思い出すがキャラクター自体はジョーカーのような理解できない悪ではなくもっとウェットな愛憎に基づいたもの。演じているのはハビエル・バルデム。バルデムはティム・カリーのような全体的に体格が大柄で強面なのに妙な色気にあふれた役者で、もしかしたら字幕のセリフのせいかもしれないが(字幕は戸田奈津子)、ボンドと最初に対峙するシーンではまるでボンドに色目を使うような風にも見受けられた。シルヴァは元Mの部下。Mに対しては母親のような感情を抱いていてある事件で彼女に裏切られたと思っており復讐を開始する。バルデム自身の魅力に助けられているが、悪役としての造形は弱いと思う。
 さて、役者はもう一人。情報国防委員長のマロリーが登場する。演じるのはレイフ・ファインズ。このキャスティングは分かる人ならにやりとすると思う。というのもレイフ・ファインズはたしか「ゴールデンアイ」の時新ボンド候補の1人だったはずである。イアン・フレミングが本来想定したジェームズ・ボンドは貴族的な雰囲気の紳士であり、最初に肉体派なショーン・コネリーがボンド役に決まった時は難色を示したという。実際に製作が始まってからはフレミング自身がコネリーに色々とレクチャーして今ではボンドと言えばまずコネリーが思い浮かぶ。で、ここからは僕の勝手な思い込みだが、フレミングが本来想定していたボンドはレイフ・ファインズのような感じだったのではないかと思う。
 さらに彼は「アベンジャーズ」という映画に主演している(今年公開された傑作とは別)。この映画は60年代にイギリスで放映されていた「おしゃれ㊙探偵」というTVドラマの映画化作品。このドラマも007シリーズとは縁があって、ヒロインを務めて人気だったダイアナ・リグが引き抜かれる形で「女王陛下の007」でヒロインを務め、最終的には主役のパトリック・マクニーも007シリーズに出演したりしている。そういう因縁のせいか映画化された「アベンジャーズ」にはなんとショーン・コネリーが敵役(悪の科学者)として登場している。

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 まあ、そんなことや、僕の見ているレイフ・ファインズが最近悪役ばっかり*3だったこともあって、「絶対こいつ裏切り者だろ」とか思ってたんだけどそんなんことはなく結果として彼が新しいMとなるのである。
 ちなみに僕は静かにMI-6のM(一応本名がMから始まるらしい)の初代はシャーロック・ホームズの兄、マイクロフト・ホームズから取られている、という説を唱えています。これがアラン・ムーア先生だとMはモリアーティ教授ということになっているのだなあ。
 音楽はトーマス・ニューマン。前作までのデヴィッド・アーノルドに変わりサム・メンデスとコンビを組んできた人物ということになる。このシリーズ定番のテーマはもちろん全体的にもジョン・バリーの強い影響下にある。アーノルドの力強い旋律はバリー直系という感じだったが、ニューマンのそれはちょっと繊細な感じだったかなあ。後述するように要所々々でテーマは流れるんだけど。
 物語的には展開が「ダークナイト」によく似ている。実際監督は意識していたそうである。とはいえ、作品そのものはそんなに似ているとは思わなかった。「カジノ・ロワイヤル」と「慰めの報酬」は直接連続した話だったが劇中のセリフから今回の話は少し間が空いていて、ボンドも00ナンバーとして経験を積んでいることが分かる。「ダークナイト」とも似ているけれど、「羊たちの沈黙」からも影響受けているんじゃないかと思った。前作までで出てきた悪の組織「クォンタム」は今回は出てこず。とはいえ後々関わってくるかもだけど。個人的にクォンタムにはスペクターの代わりとして頑張ってもらいたい。長崎の軍艦島こと端島がモデルとなった廃墟となった島が登場するが軍艦島そのものではなく、外見こそロケをしたが中はセットだそうだ。
 過去シリーズのオマージュ的描写も多く、特に「ゴールドフィンガー」ででてきたボンドカーの代名詞アストンマーチンDB5がボンド所有の車として登場。しかし、特別な装備があるわけでもなくその辺はちょっと残念。ナンバーが回転して偽装したりといった色々な特殊装置があの車の魅力だからね。このDB5が登場した時唐突にモンティ・ノーマンのお馴染み「ジェームズ・ボンドのテーマ」が流れるのだが、物語的には全然盛り上がるわけでもなくオマージュ的な部分を優先した演出。「ゴールドフィンガー」を見ていない人にはなんだかよくわからない描写で知ってる人には意味なく盛り上がるがちょっとどうなのだろうとも思う。

 個人的には早くも次回作に期待したいが、ここまでのクレイグボンド3作はいずれもリアル路線*4。それはそれでいいのだが、007シリーズはSF的な荒唐無稽な描写も同等のレベルで描いてきた。今回で新しいM、マネーペニー、Qが出揃い、本当の意味でシリーズの体裁が整った。次あたりからはそろそろSF的な描写、ブロフェルドに代表されるような非現実的な悪役、Q謹製のビックリドッキリメカといった類も復活させて欲しい。それらも歴とした007なのだから。
 仕切り直し、という事ならフレミングの原作を新たに現代に合うようにアレンジしてリメイクというのもいいのではないかなあ。
 ダニエル・クレイグはとりあえずあと2本シリーズに出演する契約ではあるようである。その後ぐらいに新しいボンドということになるのだろうか。5年後ぐらいと仮定してマイケル・ファスベンダートム・ハーディ(両方共同い年)あたりがいいですなあ。もちろん今はクレイグさんの次の作品が観たいです。
Skyfall

Skyfall

 まあ、シリーズをずっと見てきた者なので新しい要素にはつい意見を言ってしまいたくなるのだが、もちろん全体としては面白かったです。
James Bond will return.

*1:長編は全部、短編もタイトルだけ借りたり複数の短編を組み合わせたり、原案として使ったりしている

*2:CIAの捜査官でボンドの親友、今回は登場しない

*3:代表はハリポタの「名前を言ってはいけないあの人」ね。なんだかんだ言ってあんなメイクでも印象的だったんだなあ

*4:もちろん現実の諜報機関や例えば「裏切りのサーカス」などと比べてということではなく同じボンドシリーズ内での話