The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

合言葉はアラジーン! ディクテーター 身元不明でニューヨーク

 こちらも「トガニ」に続いてちょっと前に見て書いていなかった映画ですね。確か「バイオハザードV」を観た同じ日に観た一本。「バイオハザードV」がどちらかと言うと負のエネルギー満載で書いたのに比べるとちょっとエネルギー不足に陥ってしまいました。けれど映画自体は面白かったですよ。サーシャ・バロン・コーエンの「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」を鑑賞。

物語

 北アフリカのワディヤ共和国。ここに支配するのは父の跡を継ぎ幼い頃から独裁者として君臨するアラジーン将軍。贅沢をし自分勝手な人生を満喫していた。しかしそんなワディヤ共和国に対して国際世論は冷たく、国連は核ミサイル開発を疑いアラジーン自身が直接ニューヨークのサミットで釈明しないと空爆を開始すると脅しをかける。
 とても気楽に観光気分でニューヨークにやってきたアラジーンだが、謎の男に拉致されトレードマークのヒゲを燃やされてしまう。国連では将軍の影武者が出てきて勝手に民主主義国家宣言を始める始末。実は側近で叔父のタミールが石油会社と結託してワディヤの利権を独り占めしようと企んでいたのだ。
 ニューヨークで取り残され行き場を失ったアラジーンは自然食品スーパーを経営する運動家ゾーイと知り合い彼女のスーパーで初の労働を体験するが権力を取り戻す事も忘れてはいない。ワディヤからの亡命者(当然皆将軍を恨んでいる恩知らずな連中だ)の集まる店でかつて処刑にしたはずの核開発の科学者ナダルと出会ったアラジーンは再びナダルを核開発の責任者にすることを条件に手を組む。民主化を阻止し実権を取り戻す時が来た!

 サーシャ・バロン・コーエンと言えば自身の制作した過激な「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」や「ブルーノ」が有名だが、個人的には普通に役者として出演したティム・バートンの「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」やマーティン・スコセッシの「ヒューゴの不思議な発明 」が印象深い。こちらではやはり特徴的なヒゲで印象に残るものの極めてまっとうな演技をしている。「ボラット」とかの風貌がイメージとして強いが実際はフレディ・マーキュリーに似た癖はあるもののエキゾチックな美形といっていいだろう。自分でコメディ番組で演じたキャラクターでスクリーンを飾るなどベン・スティラーアダム・サンドラーなどと共通点が多いがやることは更に過激。特に「ボラット」と「ブルーノ」はそれほど知名度が高くないことを利用してドキュメンタリー仕立てになっているので衝撃も大きい。実際一部の撮影シーンはそのままニュースになったりしている。今回は「ボラット」「ブルーノ」のスタッフが撮っているが(監督も同じラリー・チャールズ)はじめから劇映画として撮られている(もちろんドキュメンタリー形式も考えられたがもはやサーシャ・バロン・コーエンが有名になりすぎて誰もだまされないだろうということらしい。それとやはり題材が危険過ぎたか)。そのおかげかキャストも豪華でヒロインに「最終絶叫計画」シリーズのアンナ・ファリス、そしてアラジーンから実権を奪おうとするタミールベン・キングズレーが演じている。様々な人種を演じているキングスレーとしては今回は「プリンス・オブ・ペルシャ」や「サンダーバード」に近い役どころか。

 全体としてコメディーではあるのだが色々とモデルは推測される。アラジーン将軍が独力の独裁者ではなく世襲による二代目であるところからシリアのバッシャール・アル=アサドや北朝鮮金正日であると思われる。北アフリカというワディヤ共和国の位置からしてもバッシャール・アル=アサドである可能性のほうが高いか。また自身の周りを女性の兵士に警護させている部分などはリビアカダフィ大佐がモデルだろう。明らかに中東、北アフリカ独裁国家が全体的なモデルだろうけれど、イスラーム色は出しておらずその辺は微妙にぼかしている。
 面白いのは亡命ワディヤ人のナダルは決して独裁そのものには反対しておらず、彼自身は核兵器が作れればそれでいい、というやはりどこか倫理観が欠如した人物で描かれていたり、タミールにしても利権を独占して外国企業に自分の国を食い物にされるとしても民主化を実行すればそれは国民の為ではないのか?と思わせて必ずしも主人公であるアラジーンが我々の価値観に転向するわけではないので物語として見た時には純粋にアラジーンを応援できない部分があることだ。しかしこの最後までアラジーンが民主主義に目覚めないことがラストにある種のカタルシスをもたらすのだな。
 ただ人によっては不快なギャグシーンも多いのではないかと思う。例えば飛行機に乗っアラジーンとナダルが老夫婦の前で単に思い出話をするのに、メインの話はワディヤ語でしゃべっているのにところどころ(それも過激な単語を)英語で話すのでテロリストに間違わられるシーンとかはアラブ系とニューヨーク市民両方が不快になるかもしれない。またタミールと手を組んだ中国人が中國語しか分からない妻を人々の面前で英語で罵倒するところ(罵倒された妻自身はなんのことか分からずニコニコしているのだ)とかは僕自身が不快になった。まあこの中国人の場合もう一つのシーンはそれほどでもないんだけど(後述)。その他民族を揶揄したようなギャグも多く、楽しい半面不快に感じることも多い映画だと思う。
 ゲスト出演も豪華でミーガン・フォックスが世界中の権力者と寝るという自虐的な役柄(本人役)で出ているし、あのエドワード・ノートン先生は先の中国人に「金さえ出せば俳優も思いのまま」と中国人(男)にナニをさせられる本人役で出ています。
 
 ラスト近くの演説はチャップリンの「独裁者」をモチーフにしたものだろう。しかし皮肉は一段と増して、他の国への介入やまずは人の国より自分の国の貧富の差を気にしろ、というのはワディヤ初めとする外国のことを言っているようで実はアメリカそのものの現状を皮肉っているのだ。

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 題材が題材だけに真面目な部分も多いが全体としてはお下品で楽しいコメディ。ただ何度か言ってる通り万人に勧められる作品でもない。見る時は自己責任で。