最高、最幸、最強 最強のふたり
「最強のふたり」という映画を観てきたのであります。世間一般的*1に「最強のふたり」といえば誰もが*2スーパーマンとバットマンの「World's Finest(世界最高のタッグ)」を思い浮かべるのが常識ではあります*3。当然僕もスーパーマンとバットマンが世界を救う話とばかり思っておりました。なんといってもこの作品、フランスでは歴代興行収入第3位という記録を叩きだしたそうですし、「アベンジャーズ」が「タイタニック」に迫らんとし「ダークナイト ライジング」もヒットするこのご時世、スーパーマンとバットマンが共に活躍する映画ならばそれは大ヒットして当然!これは見ねばなるまい!と前情報をほとんど仕入れず公開初日に観に行ったのでありました。
ところが!上映された映画は全身麻痺になった金持ち(隠遁したブルース・ウェインでもクリストファー・リーブでもない)と貧乏な黒人青年(スティールではない)の交流を描いた楽しい映画でありました。ところでタイトルの「最強のふたり」を「最凶のふたり」にするとピエロメイクの狂人が二人になったみたいで怖いですね。だからといって「最狂のふたり」だとただでさえ2つ有る顔が更に増えて4つあるみたいです。埼京線のふたり。西京漬を食らうふたり。ちなみに僕はひとりで観ましたよ。
原題は「Intouchables」英題で「Untouchable」、つまり「アンタッチャブル」。「アンタッチャブル」というと誰もが思い浮かべるのは禁酒法時代のエリオット・ネス捜査官とその仲間たちを描いたドラマや映画で*4こちらは「手出しができない、転じて買収されない・賄賂が通じない人」とかいう意味ですが、本作では「本来なら触れ合うことがない」みたいな意味のようです。「アンタッチャブル」も一応エリオット・ネスの(多分に自己賛美の入った)自伝が原作ですがこの作品も実話が元になっているそうです。
物語
フィリップは首から下が麻痺した車椅子生活をおくるパリの大富豪。いつものように自分の介護人の面接をしていたが、そこにやってきたのは介護経験もない無職の前科持ち黒人青年ドリス。彼は最初から職に就く気など無く、就職活動をしたという実績を示す不採用証明書が目的だった。しかしズバズバとモノを言うドリスを気に入ったフィリップは彼を自分の介護として雇う。
ドリスはフィリップの家に住み込みで彼の面倒を見るが、彼の物おじしない性格にフィリップや屋敷で働く人達も徐々に彼に惹かれていく。親戚の一人が彼の過去を調べ前科があることをフィリップに告げるがフィリップは気にしない。
「彼は私に同情していない。彼の素性や過去など今の私にはどうでもいい」
というわけで、前口上では多分にふざけて書きましたが面白かったです、「最強のふたり」。お金持ちと貧乏な人が出会い、互いに(主に金持ちのほうが)影響される、というような物語はそれこそ「ハイジ」から「スクール・オブ・ロック」から古今東西たくさんあって特段目新しいものではないですが、この作品の場合特に無理やり感動させよう、という姿勢が見えないのがいいですね。まずは笑える楽しい映画、それに付きます。やっぱりただ真面目なだけの映画では大ヒットにはなかなかなりませんよ。
それぞれのキャラクターがいいですね。ドリスの会話の3分の1ぐらいは下ネタですし、彼の行動は不謹慎なものも多いです*5麻痺していて痛覚もないフィリップの足に熱湯をかけて実験したりフィリップの秘書のマガリーのお尻に見とれてフォークを口では無く目に持って行ったり。ただ、彼は誰に対しても対等だし、物怖じせず話します。上流階級の嗜みである、クラシック音楽やオペラに素直な感想を述べたり、よくわからない現代美術に対しても「そんな価値あんの?」と口に出してしまったり。つまり金持ちの身体障害者、というフィリップに対して障害を考慮はするけど別段特別扱いしないよ、という扱いなわけですね。演じているのはオマール・シーというコメディアンだそうで人懐っこい笑顔が素敵です。
一方、フィリップもこの映画にありがちな気難しい人、頑固親父的な描かれかたは特にされていません。もちろん、重度の障害を負ってしまって介護人が一週間持たない、という説明などがありますが、彼は金持ちといってもかなり善人のようです(元になった実話では富豪と言っても元々貴族であり代々の金持ちのよようでその意味でも移民の子孫であるドリスとは対照的)。彼の気難しさが描かれるのは後半ドリスがいなくなってから後で、むしろそれはドリスがいない寂しさの反動のように描かれていますし。ちなみに今回僕が事前に知っていた役者さんは一人もいませんでしたがフィリップ役のフランソワ・クリュゼはダスティン・ホフマンとロバート・デ・ニーロを足して割ったようなルックスで優しそうなハンサムです。
彼らは互いに影響されあい、欠かせない友人になっていきます。
映像的にはドリスの居場所であったスラム街は青っぽい色味の無い風に撮られています。カメラもハンディっぽい感じで揺れている。一方フィリップの屋敷は主に固定カメラで壁の色も赤みが合ったりカラフルあるいは明るく描かれています。スラムは荒涼と、屋敷はクラシックに。二人が出かける先はその中間と言った具合です。
後は音楽の使い方が素晴らしくて、フィリップの恒例の(故に驚きのない)サプライズ・バースデーパーティーでフィリップが次々とクラシックナンバーをリクエストし、それにドリスがツッコミを入れていくシーン、その後「今度はこっちの番」とアース・ウィンド&ファイアーをかけて踊る場面はともに最高。どっちかじゃなくてクラシック、ポップス両方に価値を見出しているんですよね。冒頭、スピード違反でパトカーに捕まる*6シーンが一瞬緊迫していてそれがアース・ウィンド&ファイアー「セプテンバー」で一気に緊張が緩和するシーンも良かったですね。
ラストは少し悲しげな音楽が流れて終わってしまうのですが個人的にはラストもアース・ウィンド&ファイアーで軽やかに締めて欲しかった気がします。湿っぽさより楽しさが先に来る作品ですから。
フィリップの家の使用人たち、イヴォンヌやマルセル、マガリーといった脇の人たちも良かったです。マガリーの役の人(オドレイ・フルーロというらしい)は普通に美人だったなあ。
とにかく楽しい映画です。フランスおよびヨーロッパでの大ヒットを受けて*7アメリカでのリメイクが既に決定済みのようですが、なんとなくオリジナルより湿っぽくなる気がしないでも無いです。とはいえリメイク作にも本作の脚本・監督のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュがある程度関わるようなのでこちらも期待したいです。
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