The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

記憶上書きします トータル・リコール

 フィリップ・K・ディック原作、ポール・バーホーベン監督、ダン・オバノン脚本、そしてアーノルド・シュワルツェネッガー主演と言えばご存知「トータル・リコール」。1990年のヒット作で、土方の主人公、「コブラ(by寺沢武一)」な導入部、ロボットタクシー、鼻からでっかい機械、おばさんの顔が割れる、三つ巨乳の美女、胸から生えてるミュータント、飛び出そうになる目玉といった独特の下品だが強烈なヴィジュアルで一世を風靡した。その作品がコリン・ファレル主演でリメイク!というので公開日早々に観に行ったのであった。

物語

 近未来、地球は戦争によって汚染され、人類の居住スペースは二箇所に限られた。旧ヨーロッパである裕福なブリテン連邦(UFB)とその支配下にある旧オーストラリアであるコロニーである。UFBとコロニーは地殻を通る巨大エレベーター「ウォール」でつながれ、コロニーの労働者は毎日UFBへと働きに来る。コーヘイゲンの支配するUFBとコロニーの格差は広がり、平等と独立を求める謎のリーダー、マサイアス率いるレジスタンスが連日テロ活動を起こしていた。
 美しい妻ローリーと暮らすダグラス・クエイドもコロニーに暮らし毎日UFBに働きに行く、労働者。毎日のように決まった夢をみるダグラスはある時、「リコール社」の仮想体験記憶を買おうとする。スパイになる記憶を買おうとするが直前で中止、彼には実際にスパイだったことがあるという。そしてそこに警官隊が突入。戦った経験など一切ないはずなのに、ダグラスは自然に彼らを蹴散らしてしまうのだった。一体自分は何者なのか?

 なんだかSF大作で3DでもIMAXでもない作品を見るのは実に久しぶりな感じ。監督は「アンダーワールド」シリーズのレン・ワイズマン。元々のディックの原作は読んでいない。オリジナル公開当時ノベライズは買って読んだけど。今度の映画はディックの原作「追憶売ります」の再映画化ではなくあくまでバーホーベン版のリメイクと言う形なので基本の物語についてはほぼ一緒。とはいえ僕も見なおしてはいないので多少忘れている部分はあるけれど。
 大きな違いはバーホーベン版は地球と火星が舞台だったのに対してワイズマン版は同じ地球の中の2つの場所が舞台。宇宙は全く出てこない。またギャグっぽいシーン(「北斗の拳」の「お前のようなババアがいるか」みたいな劇中本人達はいたってシリアスなのに観客は笑ってしまう感じ)も多かったオリジナルに対するとそういうものは殆ど無い。物語的には特にこれといって秀でたものはないと思う。
 キャストは素晴らしく、記憶がごっちゃになり、自分が一体誰なのかわからなくなる、といういかにもディック的テーマにも関わらずオリジナルはアイデンティティーの危機などこれっぽっちも感じさせなかったシュワルツェネッガーが主演してるのが特徴だがリメイク版ではやはりアイデンティティーの危機などとは無縁そうなコリン・ファレルが演じている。そういえばコリン・ファレルを初めて認識したのはやはりディック原作の「マイノリティ・リポート」だったなあ。ヴァーチャル体験をしたらそれがきっかけで急に強くなって自分が実はその筋では有名な人物だった、というのは寺沢武一の「コブラ」でもあったけどあれはどっちが早いんだろう。まあ、一般労働者としてみるとシュワもファレルも「あんな労働者いねーわ」という感じなんだけど正体である工作員としてだと(映画的に)リアルではある。

 オリジナルでクエイドの妻を演じたのはブレイク直前のシャロン・ストーン。本格的にブレイクしたのはその後の「氷の微笑」(やはりポール・バーホーベン監督作!)このシャロン・ストーンだった役にケイト・ベッキンセールを持ってくるというキャスティングが素晴らしい。しかもベッキン姐さんは監督の奥さんだしなあ。今回冒頭の寝起きシーンを除くと特にヌーディーなセクシーシーンというのは無いけれど、それでも格闘シーンや執拗にクエイドを追いかけるシーンは素敵。突然のサバイバル能力の目覚めに戸惑うクエイドを慰めたと思ったら一気に殺しにかかる時の表情の変化がイイ。そう、彼女はシャロン・ストーンだけでなくオリジナルにおけるマイケル・アイアンサイドの役も兼任してるのだ。
 もう一人のヒロイン、メリーナ役、オリジナルでは黒髪が印象的な以外は特に覚えていないが今回はジェシカ・ビール!いかにもレジスタンスの兵士、という感じでやはり強さを感じさせる。なんといっても「テキサス・チェーンソー」の生き残りで「ステルス」の戦闘機乗りなどタフな役柄を演じてきた女優である。そして、見所はこのジェシカ・ビールの姐御とベッキン姐さんが途中ファレルを放っぽいてファイトを始めてしまうエレベーターシーン。僕が見たかったのはこれだよ!「アイアンマン2」で期待しながら*1果たせなかった夢がそこにある!
 その他、レジスタンスのリーダーマサイアスにビル・ナイ。今回は普通の人間だったがオリジナルのクワトーのようなミュータントで無かったのはちょっと残念。個人的には3つ巨乳美女なんかよりそっちを出して欲しかったなあ。でもビル・ナイは普通の人間なのに全然そんな風に見えなかったのはさすがだ。
 ツイッターで指摘されて気づいたんだけど、ケイト・ベッキンセールビル・ナイは「アンダーワールド」シリーズでヴァンパイアを演じている。コリン・ファレルも「フライトナイト/恐怖の夜」でヴァンパイアを演じたばかり。そしてジェシカ・ビールは「ブレイド3」でヴァンパイアハンターを演じてい、という一大ヴァンパイア俳優大集合でもあったのだな(まあ、ビル・ナイとベッキン姐さんはレン・ワイズマンつながりだろうけど)。とにかくコリン・ファレルを軸に両脇にケイト・ベッキンセールジェシカ・ビールを配置、周辺にビル・ナイというキャスティングだけでもこの映画は素晴らしいと思う。
 その他、敵役であるコーヘイゲンを演じたのはブライアン・クランストンという人で「どこかで見たことあるなあ」と思って調べたら色々とバイプレーヤーとして活躍してる人で僕が「あの人か!」と思ったのはTVシリーズ「マルコム in the Middle」の体毛が濃いお父さん!しかし国の最高責任者が自ら出張って体張っちゃう展開はご都合主義ではあるけど嫌いじゃないよ。
 そのほか冒頭でクエイドにリコール社を紹介する東洋系の人がなんか妙に格好良くて意味深な雰囲気を漂わせてたがその後出てこずただの一労働者だったか。リコール社の人がやはりアジア系で新ヒカル・スールーであるジョン・チョウが演じている。関係ないけどリメイク版のリコール社はオリエンタル風味の怪しさ満タンでオリジナルよりも風俗っぽさが漂っている。

 後はヴィジュアル的にも見所でコロニーは「ブレードランナー」風。UFBは「マイノリティ・リポート」風。そして劇中で警官や軍隊として活躍するロボット、シンセティックは「アイ、ロボット」と「スターウォーズ」のクローン・トルーパーを合わせた感じ。これだけ言うと有り来たりなヴィジュアルか」、と思うかもしれないがそれ以外にも手のひらに仕込んだ携帯電話(ガラスに手を押し付けるとテレビ電話になる)とか小道具のオリジナリティーが素晴らしい。久しぶりに空飛ぶクルマの描写も見たが自由自在に飛べるわけではなくうまく描いている。
 物語の重要な要素コロニーとUFBをつなぐ「フォール」はコアまで突っ切る仕様だが、てっきり僕はコアで爆発させるのかと思ってしまった。結果コアでの出来事も重要だがそこまでではなかったのは少し残念。
 後はオリジナルの「トータル・リコール」における印象的なシーンの幾つかを物語と直接関係ないところでうまく再現していたのはリスペクトを感じられて好感が持てる。3つ巨乳の美人とか(どうせなら4つのほうが良かったな)。後はクエイドが検問を通るシーンで顔をホログラムで偽装するクエイドの前に見覚えのあるおばちゃんが並んでいる。そう顔が割れて中からシュワが出てくるあのおばちゃん。オリジナルより小柄になっているがかなり似せており、オリジナルを見てる人間なら「あれ?あのおばちゃんがクエイドが変装してるのかな?」とか思ってしまう仕掛け。
 ただ、繰り返すがレジスタンスのリーダーが胸から生える形のミュータントでなかったのは残念。


1990年のオリジナルの予告編。
トータル・リコール [DVD]

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 オリジナルのシュワにしても今回のコリン・ファレルにしても自信がみなぎっていてあやふやな記憶に惑わされる男としてはディック的ではないと思う。優秀な工作員としての説得力を持たせつつ、繊細な表現をできる役者もいただろう(例えばランス・ヘンリクセンとかクリスピン・グローヴァーとか)。それでもこの作品に関する限り、やはりこういうキャスティングで成功なのだ。
 アメリカ本国では不入りらしいが、SF作品としてもアクション映画としても佳作。是非ご覧あれ。
 近未来のイギリスとオーストラリアが昔の宗主国と植民地の関係になってることについて、色々考える所もあったけど面倒くさいんで省略。それよりも通路挟んで隣のおばちゃんが映画始まって早々結構ないびきを立てて眠ってしまっていた。多分、寝ている間に我々が見てる映画とは別の自分自身がヒロインとなって活躍する記憶をリコールされてたに違いないです。