The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

未知なる火星に夢を求めて ジョン・カーター

 1997年の公開当時、世界興行収入の第一位だった映画が前回の「タイタニック*1だったが、同じ日に観たのが大赤字決定!とも言われたウォルト・ディズニー生誕110周年記念作品である「ジョン・カーター」である(とはいえ北米以外での世界での好成績により最終的には赤字は回避されたらしい)。ちなみにこの日は「タイタニック3D」の上映終了時間と「ジョン・カーター」の上映開始時間が一緒、と言う強行はしご。ミッション・インポッシブル!受付のお姉さんと綿密に相談して上映前の予告編が13分あるので大丈夫だろう、と。なので4月14日の16時ちょい過ぎにTOHOシネマズ川崎で3Dメガネをかけたまま走っていたのは僕です。およそ330分以上座ってたことになるなあ。それでも両方共面白かったけど。

ポスターの雰囲気が日本とだいぶ違いますね。

物語

 惑星バルスームと呼ばれる火星。この星では赤色人による国家ゾダンガとヘリウムによる長い戦争が続いていた。ゾダンガが勝てばバルスームの文明は終わりを告げるだろう。ゾダンガの皇帝サブ・ザンはサーンと呼ばれる謎の集団から強力な力を授かりヘリウムを滅ぼそうとしていた。
 我々が地球と呼ぶ惑星ジャスーム。1881年、NY。エドガー・ライス・バローズは叔父のジョン・カーターから呼び出しを受ける。叔父の屋敷にたどり着くと既に彼は亡くなっておりエドガーは莫大な遺産と一冊の日記を受け継いだ。不思議な叔父の死の謎を解明するべく日記を開くエドガー。そこには驚くべき内容が記されていた。
 13年前、南北戦争の英雄ジョン・カーターは現実から逃避して先住民の遺跡探しをしていたが第7騎兵隊のパウエル大佐にアパッチ討伐の協力を要請される。戦闘を嫌がるカーターは逃亡するが彼を追ってきた騎兵隊とアパッチの戦闘に巻き込まれる。そして逃げ込んだ洞窟こそ彼が探していた黄昏の眠る蜘蛛の洞窟だったのだ。そこで彼は突然現れ襲いかかってきた男を倒す。男が呪文を唱えたその時彼の持っていたメダリオンが発光しメダリオンを掴んだカーターは惑星バルスームへと瞬間移動してしまう。
 荒涼たる砂漠が続く未知の惑星。目覚めたカーターはここでは自分の力や跳躍力が何倍にもなっていることに気づく。やがて彼を見つけた緑色人サークに保護され、バルスームの運命に大きく関わることになる。

 原作はエドガー・ライス・バローズ。つまり劇中に出てくるジョン・カーターの甥エドガーは原作者と言うことになる。これもちょうど100年前。それこそタイタニック号が沈没した時期に連載されていたパルプSF小説火星のプリンセス」が原作である(今丁度100年の節目で映画が製作されたのかどうかは知らない)。バローズは日本では「ターザン」シリーズの原作者としてのほうが有名だがこの「火星」シリーズは「ターザン」「地底世界ペルシダー」と並ぶ長期シリーズ。また彼の作品はすべての作品が微妙にリンクしていたりしてそんな面でものちのラブクラフトスティーブン・キングに通じるかもしれない。100年前というと既にジュール・ヴェルヌハーバート・ジョージ・ウェルズがSF作家として活躍しているが(一般にSFの元祖はメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」(1818年)とされる)、今風に言って彼らがハードSFの作家だとすればバローズは科学的な知識に重きを置かないソフトSFの作家といえるだろう。僕は「類猿人ターザン」を一冊読んだことがあるだけだが、もう少し後のE・E・スミスの「レンズマン」やロバート・E・ハワードの「コナン」(名探偵に非ず)シリーズは読んでいてなんとなくだが当時のSF・ファンタジーの雰囲気は分かるつもりである(「火星のプリンセス」も作品紹介などで大まかな設定、登場人物、物語は知っていた)。後は例によってアラン・ムーアの「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」の2巻で20世紀初頭を舞台にした架空の人物としてジョン・カーターは登場していた。
 というわけで原作は100年前の荒唐無稽なSFファンタジーである。しかもかなり通俗的。また連載作品の宿命で毎号見せ場を作らなければならない。なので全体として見た時に大きな盛り上がりに欠けたのかもしれない。そういう物を原作とした作品である、という前提は事前に了承しておきたい。
 監督はピクサーCGアニメーション作品「WALL・E/ウォーリー」のアンドリュー・スタントン。実写映画は初だとのこと。知っている人も多いと思うが元々この企画はロバート・ロドリゲスが監督する予定だった。ロドリゲスは「シン・シティ」を共同監督する時、クレジット表記をめぐって全米監督協会と揉めてこれを脱退してしまう。その後も紆余曲折あって(「アイアンマン」のジョン・ファブローも監督する予定だった)ディズニーでの映画化が決定。「ウォーリー」をヒットさせたスタントンにお鉢が回ってくる。元々監督は原作のファンだったらしく出来上がった作品はとても愛に満ちた作品になっていた。
 
 さて、僕はこの映画を大満足で見た。だが実際のところこの作品に対する評価は賛否両論、しかも両極端な意見が多い。それは先程のような100年前のおおらかな(悪く言えば古臭い)原作の雰囲気を受け手(観客)側がどう受け取るのかによるのではないかと思う。僕は「コナン」とかが好きなのでこういうヒロイックファンタジーは元々嫌いじゃないし、劇中ところどころ出てくるユーモアも楽しかった。例えばカーターが騎兵隊に捕まって何度も歯向かっては殴られる、を繰り返すところとか、サーク達の国で逃げようとすると必ず(バルスームにおける)犬のウーラが先回りするところなど。こういうのを何度も見せたりするのは人によって賛否別れる部分ではあるだろう。
 またはっきり言って砂漠の描写、スタジアムでの大白猿との戦い。メーヴェのような小型飛行機、赤色人の飛行船などヴィジュアルは今となっては独特というよりどこか過去のSF映画で見たものばかり。特に大白猿との戦いは「スターウォーズEP2クローンの攻撃」を思い出した人も多いだろう。とはいえむしろそれら(スターウォーズ風の谷のナウシカなど)に影響を与えているのが原作の「火星のプリンセス」なのだ。

 主役のジョン・カーターテイラー・キッチュ。この「ジョン・カーター」と「バトルシップ」と主演の大作が同時に日本で公開され話題になっている。一方両方共大味な大作とも目されコケてしまえば今後のキャリアに影響するだろう、とも。この人は「ウルヴァリン」でガンビットを演じていた人である。僕は言われるまで気づかなかったが。今回はガンビット同様長髪ヒゲスタイル。ただし服装は19世紀風のフロックコートの紳士風だったりあるいは西部劇風だったりそして最も多くの姿をほぼ裸で過ごしたりと多様。一番格好良かったのは紳士風の格好だろうか。おそらく重力の違いによって火星ではスーパーマンとなった彼はバルスームでの戦乱に巻き込まれる。この辺は藤子・F・不二雄の「ドラえもん のび太の宇宙開拓史」に影響を与えていると思われる。
 バルスーム・火星の住人は主に地球人そっくりの赤色人と人間の2倍ほどもある長身で腕が4本、牙があり卵生であるなど人類とはだいぶかけ離れた種族である緑色人がいる。赤色人は顔つきこそ白人だが皮膚の色はインディアンに近い褐色の肌をしている。ヒロインに当たるのは原作タイトル「火星のプリンセス」その人であるヘリウムの女王デジャー・ソリスを演じるリン・コリンズ。ドレスなどを着飾る静の演技とアクションを頑張る動の演技があるのだが、コスチューム物の例に漏れずこの人もアクションしている時のほうが美しく魅力的なタイプ。元々体中に刺青があったり地球とはまた違った(火星には海がないので船に関する知識は地球のほうが上)高い文明を持っているがモデルはインディアンなのだろう。
 一方、他の赤色人はいまいち個性に乏しい。ヘリウムの皇帝も悪役であるゾダンガ皇帝のサブ・ザンもいまいち魅力に欠け他の赤色人と区別がつきにくい。男で唯一個性的なのはヘリウムの将軍であるカントス・カン。彼はカーターの人質になったふりをしてデジャーに会わせたりする。演じるジェームズ・ビュアホイは「ROCK YOU!/ロック・ユー」でエドワード黒太子を演じていた人だ。今回もその時と似たような役柄といえる。僕が事前に知っていたのは主役のキッチュと後述するマーク・ストロングを除くと彼だけだったので個性的に見えただけかもしれないが。

 グリーンスクリーンの前で演じCGで置き換えられたと思われる緑色人のサーク族。僕ははっきり言ってぱっと見の区別がつかない彼らのほうが個性があって見分けがついた。サークの皇帝タルス・タルカスを演じているのはウィレム・デフォー。その座を狙うタル・ハジェスはトーマス・ヘイデン・チャーチサム・ライミ版「スパイダーマン」のグリーン・ゴブリン(デフォーはここでも緑だ)とサンドマン(こちらも砂という意味では縁がある)だね。そしてタルス・タルカスの娘ソルを演じているのがサマンサ・モートン。彼女が可愛いくでヒロインの座をしっかりデジャーと分けあっていた(まあ種族が違いすぎて主人公と恋愛するとかではないけれど)。卵から生まれたばかりのコロコロとした赤ちゃんサークも可愛い。後は犬だよね。バルスームにおける犬であるキャロットのウーラの不細工ながら可愛いという愛すべきキャラになっている。こういうマスコット的キャラはウザくなりがちなのだがそれはこの作品ではない。この点は「ウォーリー」でほぼセリフのないロボットを愛らしく描いたスタントンの手腕だと思う。今年見た映画では「人生はビギナーズ」「アーティスト」に続く犬かわいい映画だ。
 そして真の悪役はサーンと呼ばれ宇宙で最も進化した存在とされる集団のリーダー、マタイ・シャン。バルスームでは実態があるかどうか謎で姿も自由自在に変えられる。彼らが戦争の一方に力を与えることによって文明を滅びに導いていた。演じているのは、マークまた悪役か!ストロング。「シャーロック・ホームズ」「ロビン・フッド」「キック・アス」「グリーン・ランタン」とここ数年大活躍しているがそのすべてが悪役(グリーンランタンは悪役予備軍)。まあルックスから見てもなかなか正義の味方、というわけにもいかない容貌だが悪役ばっかりてのもあれなのでだれかそろそろマーク・ストロングに善良な役を演じさせてあげてください!
 エドガー役は「スパイキッズ」シリーズの弟役を務めたダリル・サバラです。こんなところはロバート・ロドリゲスの置き土産?しかし成長したなあ。

火星のプリンセス―合本版・火星シリーズ〈第1集〉 (創元SF文庫)

火星のプリンセス―合本版・火星シリーズ〈第1集〉 (創元SF文庫)

ウォーリー [Blu-ray]

ウォーリー [Blu-ray]

 エンディングも何だこりゃ、と思う人も多いだろう。実際原作ではメダリオンなどの小道具も登場せず祈りだけで火星に飛んでしまう(正確には地球に肉体を残したまま写しが向こうに現れるのだ)らしい。その辺でSFと言うよりもヒロイック・ファンタジーに近い原作を多少現代風、わかりやすくしているのだ。
 賛否両論あって非の部分もうなずけるところは多いが僕はこの映画は大好きだ。興行収入が芳しくないのでどうなるかわからないが是非ともこのスタッフ・キャストで続編を作って欲しいとも強く思う。
 

おまけ

「火星のジョン・カーター」というタイトルは単純ながらなかなか魅力的な響きで色々弄りたくなってしまう。以下取り留めもなく。

 まあ、歴代大作赤字作品には「火星」と「砂漠」を舞台にしたものが多く(もうひとつは海を舞台にしたもの)、「火星であり砂漠が舞台」の本作はその意味では作品の出来にかかわらず製作自体が博打だったのかもしれない。でも僕はこの作品を愛すべき傑作と信じているよ!

*1:現在の一位は同じジェームズ・キャメロン監督の「アバター

*2:でも先述の「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」ではランドルフ・カーターとジョン・カーターは親戚だったりします。記事タイトルもここから取った