The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

影武者inイラク デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-

「独裁者」という単語にはどこか魅力的な響きがある。
 ソ連スターリン、スペインのフランコ将軍、トルクメニスタンニヤゾフ大統領のようにベッドで死ねたものもいるにいるが大概は悲惨な死が待っている。ここ最近では一連のジャスミン革命とその連鎖によってリビアカダフィ大佐も悲惨な死を遂げた。
 それでも初代の独裁者は実力で成り上がっただけあって二代目以降には無いカリスマ性を備えているのも事実だ。ヒトラーの演説の魅力を否定できる者はそう多くはいないだろう。
 二代目の独裁者といえば我が国の隣の金正日(これまた畳で死ねた人である)で映画好きという一面から一部でカルト的な人気を誇るが、その面は後継者から外された長男の正男くんに受け継がれ政治的に跡を継いだのは次男金正恩。三代続けばもはや完全な世襲王朝でどこが民主主義でどこが人民共和国なのかツッコミが入るところ。ただ、個人的には北朝鮮の体制は金王朝を権威として担いでおいて軍部が実権を握る、というのが近いのではないか、と思っている。それこそ日本の天皇と将軍みたいに。北朝鮮って絶対戦前の日本をモデルにしてるでしょ。閑話休題
 で、ここ20年ほどで最も印象深い独裁者といえばイラクサダム・フセインをおいて他にはいないわけで独裁者の長男坊にまつわる映画「デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-」を観た。

 ギンギラですね。 
 この映画はサダム・フセインの長男ウダイの影武者を務めたラティーフ・ヤヒアの原作を映画化したもの。イラン・イラク戦争終結間際にウダイによって影武者にさせられたラティーフが湾岸戦争後しばらくして逃亡するまでが描かれる。ラティーフとウダイはともにドミニク・クーパーが演じている。「キャプテン・アメリカ」のトニーパパ(ハワード・スターク)ですね。多分に誇張もあるだろうが(ウダイだけでなくラティーフの描写においても)同じ顔ながら落ち着きなく狂気に満ちたウダイに対し常に物事に耐えるような表情のラティーフが良い対比になっていて劇中の人物は勿論(とはいっても家族は見極めてるが)観客が区別がつかなくなることはない。面白いのはウダイはラティーフより3cmせが高い、と言われているのに常に落ち着きのないウダイはむしろラティーフより小さく見えるところだ。その差がそのまま人物の大きさ(器とでも言うべきか)に見える。
 ウダイについてはほぼ誇張なしだと思う。以前から女を侍らせて、マシンガンを乱射したりしている、というのは聞いていたし。ウダイは1964年生まれだが、父親のサダムは68年には政権の中枢部に付いているので小さい頃から権力者の息子として甘やかされて育ったのだろう。その人を最もダメにするには小さい頃からあらゆる欲求を叶えさせてやることだろう、がウダイはまさにその見本のような人物だ。すべてが思い通りになると思っており欲求を否定されると烈火のごとく怒り出す。結果としてともに死んでしまったがサダムの後継者としては次男のクサイのほうが目されてたといい、それもうなずける話である。日本ではとかくサッカー絡みで有名ですね。いわゆる「ドーハの悲劇」というやつで日本では単に負けたというだけだがあそこでイラクが負けていたら血を伴う本当の悲劇が起きていただろう(でもそれは報道されなかったかもしれない)。
 とにかく怖いもの見たさとでも言うのか、ウダイの狂騒的な演技が見物。なんとなくクリス・ロックを思わせる感じ。てかヤクとオンナとガンって独裁者(の息子)ってよりギャングスタ・ラッパーみたいだね。
 劇中でもイスラム圏とは思えないようなバーが登場したりするように実は湾岸戦争前のイラクは比較的世俗主義イスラム色は少ない。イラクがことさらイスラム色を出していくのは求心力を必要とした湾岸戦争後である。
 映画自体は面白かったがラスト近くの逃亡劇と暗殺(未遂?)はどこまで本当なのだろう。ウダイが弟のクサイとともに米軍に暗殺されたのは2003年。映画のラストから10年近く生き延びたことになる。
 後はこの映画舞台はほぼイラク国内で登場人物もイラク人ばかりだが、製作はベルギー映画で監督はニュージーランド人。キャストも国際色豊である。そのせいか劇中で使用される英語は英語である(ところどころアラビア語も使用される)。それはフィクション上全然構わないと思う。ただ、英語を使うと決めたならアラビア語訛りにする必要はないと思った。普通の英語で充分。だって英語で演じられる「三銃士」とか別に普通だけどそれがフランス語訛りだったら興ざめでしょ。本当はアラビア語で喋ってるんですよ、という記号なのかもしれないけど。
 ウダイの愛人役のリュディヴィーヌ・サニエという人が不思議な感じの美人です。監督はリー・タマホリニュージーランドの先住民の血を引く人で男らしい映画を撮りまくっている人であるが実は同性愛者でもある。「シリアナ」という映画は最初彼の監督作になる予定だったそうで「タマホリのシリアナ」とかねたになってたんだけど・・・
 心理学的には女とベッドインするときもマシンガンを手放せないってのは色々と読み取れとれるんだろうなあ。やっぱりどんなに政治的手腕があろうと結果として為したことが立派だろうと独裁者はダメですよ。

 アメリカがイラクから完全撤退したのは2011年のことである。

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 サダム・フセインの出てる映画といえばこれ!
 ちょっと不調なので短めです。