The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

浮世か夢か ボヘミアン・ラプソディ

Is this the real life-(これは浮世か)

Is this just fantasy-(それとも夢か?)

Caught in a landslide-(地すべりに飲み込まれて

No escape from reality-(逃げることなど出来やしない)

ボヘミアン・ラプソディ 

 さて、「ボヘミアン・ラプソディ」です。現時点で5回ほど観ましてですね。一回目は普通に。二回目はもっと音響設備のいい劇場で。そして三回目は応援上映というやつで。以降は特に拘らず時間が合う時に飛び込みで、と言う感じで。今年最も多く劇場で見た映画で、かといって物凄く出来が素晴らしい映画とも頭では思わないんですが、それでも心は持って行かれているので今年のベスト入りは間違いないです。まあ例年音楽映画は評価基準が甘い傾向はあるのですが(自分評価)。

 それではブライアン・シンガー監督作(後述)「ボヘミアン・ラプソディ」感想です。

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 ブライアン・メイの特徴的なギターサウンドによる20世紀FOXファンファーレから始まる本作、物語はイギリスのロックバンドQUEENの、その中でもボーカリストフレディ・マーキュリーの生き様を描いたノンフィクションドラマ。彼らの楽曲が随所に出てくるがミュージカル映画ではない。とはいえ間違いなく音楽映画ではあって、伝記映画だが全編を音楽が彩る。

 QUEENは1971年に結成、1973年にデビュー。ボーカリストフレディ・マーキュリーが亡くなる1991年までほぼ20年間活動していたことになる(フレディ死亡以降もブライアン・メイロジャー・テイラーQUEENとしての活動も継続。オリジナルメンバーでの活動が1991年までという形)。僕は1977年生まれなのであるが、このQUEENABBA(奇しくも両者とも今年関連映画が公開された)は家にレコードがあって(おそらく母がファン)、わりと小さい頃から聴いていた。ただそれがQUEENというバンドの曲であると認識し、メンバーの構成や名前や歌詞内容や、発表された時期などを意識して聴き始めたのは高校以降ぐらいなのですでにフレディは亡くなった後。以降もどちらかというとオリジナルアルバムよりも「グレイテスト・ヒッツⅠ&Ⅱ」あたりを中心に聴いていたので大ファンではあるけれどその経歴などについてはあんまり詳しくなかったりします。とはいえね、もうそれを洋楽と意識する前から聴いてる(自分が聴き始めた順番としてはビートルズより早い)楽曲ばかりなので血肉にはなっています。大体の曲は(歌詞の意味はともかく)歌えるし、自然と口ずさんでしまう感じ。なのでもう映画の評価とはまた別に映画館であの楽曲が聴けるってだけで高評価なのではあります。

 QUEENは海外でまず売れたということで、特に日本でブレイクしたバンドとしても有名なのだけど、おそらくその楽曲が英語の歌としては非常にわかりやすいのも一因じゃないかと思う。フレディ・マーキュリーザンジバル生まれインド育ちで、ゾロアスター教徒の(ということは人種・民族的にはペルシア系)両親の間に生まれた。17歳の時にイギリスにやってきてその後QUEENを結成するに至る。彼自身がゾロアスター教徒だったのかどうかはわからないし(死後はゾロアスター教徒として火葬されたそうだ)、英語が母語だったのか、外国語として学んだのかも分からないが、そういう経歴があるからか、彼の楽曲の歌詞はわりと英語を母語としない外国人が聴いても分かりやすい。もちろんフレディならではの独特な詩的な部分は大いに感じられるが(「Don't Stop Me Now」のゴダイヴァ夫人とかミスター・ファーレンハイトとか最初は何のことかさっぱりわからんかった)文法的には分かりやすい英語が多いし、フレディの歌い方もわりと同じハードロックの他のバンドと比べると聴きやすい。そこにあのメロディが加わって外国でも受け入れやすかったのではないかと思う。f:id:susahadeth52623:20181211000300j:image

 映画は決して史実のQUEENに忠実というわけでなく、おそらく意図的に色々変えてあります。もうすでにいろんな人が検証しているけれど、一番大きなところではフレディが自分がHIVだと知ったのが映画のクライマックスである「LIVE AID」の後、ということ。これは最初から「LIVE AID」をクライマックスに持ってくる、というのが前提としてあって、そこから逆算して物語を構成したからではないかと思う。他にも細かい史実との違いはたくさんあって、そこを映画の評価としてマイナスと取る人もプラスと取る人もいろいろいると思うのだけれど、個人的にはあくまでドキュメンタリーではなく伝記映画、それも音楽を通して感性に訴える要素が多い作品なので全然いいかな、と思う。ここの改変に関しての批判に近いのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でマーティーが1955年にチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」を演奏してそれを間接的にチャック・ベリーが聴いていた、つまりチャック・ベリーはオリジナルとしてではなく、マーティが演奏した別の時間軸の自分の曲に影響された、というタイムトラベルの妙を描いたシーンかなと思う。あのシーンは黒人音楽を白人が作ったことになった!という批判も受けたのだけれど、僕個人はあそこはマーティ自身はむしろリスペクトとして演奏しているのだし、タイムトラベルの不思議さと面白さを描いたシーンなので全然良いと思う。寧ろ許せないのは「ロック・オブ・エイジズ」で主人公が「自分の作曲した曲」と称してジャーニーの「Don't Stop Believin'」を歌ってしまうシーン。あの映画の世界にはジャーニーはいない設定なのかもしれないが個人的には許せなかったですね。閑話休題

susahadeth52623.hatenablog.com

  とまれ、これらの史実と異なる部分に関しては勝手にやっているわけではなくブライアン・メイロジャー・テイラーが製作や音楽監修で関わっている以上、ちゃんと彼らの許可と監修を受けた上で映画としてより良くするためのものなのだと思う。そもそも映画タイトルが「ボヘミアン・ラプソディ」でその冒頭はまさに「現実か幻想か」」なので(自分は無理やり「浮世か夢か」と訳してみました)。
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 映画はQUEENのメンバーそれぞれがそっくり!ということでも話題になった。フレディ・マーキュリーにはずっとサシャ・バロン・コーエンが候補に挙がっていて、僕もツイッターなどでフレディ役はサシャ・バロン・コーエンしかいないのでは?ということを何度か呟いたことがある。結局、演じたのはコーエンではなく、「ナイト・ミュージアム」シリーズで展示物である古代エジプトの王子アクメンラー(架空の人物)を演じたラミ・マレックが演じることとなった。ラミ・マレックのフレディがそっくりかどうかということでいえば映画に出てくる他のメンバーに比べると実は一番似ていない。ただ、実際のフレディより童顔で目が大きく過剰歯によって特徴的な口元が強調されて尚魅力的に演じている。実際のフレディ(特に80年代に入ってからのヒゲと短髪のフレディ)はもっと渋い感じだと思う。この童顔でより無邪気な感じはライブシーンでのフレディのパフォーマンスの再現部分より映像には残っていないプライベート部分(ゲイバーで男をあさったり夜な夜な乱痴気パーティーをする)で観客に嫌悪感を抱かせない効果を果たしていると思う。

 僕が一番そっくりだと思ったのはブライアン・メイのグウィリム・リーで僕はこの映画で知ったこともあって、良い意味で本当に演技の素人、ブライアン・メイその人なのではないか、と思う感じ。ちょっとしたセリフなんかもすごい自然。ちなみにブライアン・リーは天文物理学を学んでいて2007年に博士号を取ったりしているのだけど、宇宙と関連してかSF好きでQUEENが「フラッシュ・ゴードン」のサントラを担当したのはおそらく彼の意向。「マッドマックス2」の音楽を担当しているブライアン・メイは同名の別人です。

 バンドの中でその美少年然としたルックスでアイドル的人気を誇ったドラムのロジャー・テイラーは「X-MEN アポカリプス」でエンジェルを演じたベン・ハーディ。ロジャーの美男子ぶりを全力で再現しています。ロジャーは一番フレディと親しかったらしく(一時期古着屋を共同経営していた)その分直接ぶつかるシーンなんかも。
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 そして、この映画で改めてその重要性を感じ取ったのがジョー・マッゼロが演じたジョン・ディーコン。スター性は低く、いても目立たないが、いなきゃバンドが成り立たない隠し味でありムードメイカー。ビートルズリンゴ・スターモンティ・パイソンマイケル・ペイリンに似た立ち位置。こういう人がいるから個性派揃いのアーティストたちがバンドとして一つになれるのであり、そういう部分は決してライブ映像など表の実際の映像だけ観ていては分からない部分。こういう映像に残されていない部分の描写こそこういう作品の重要要素。ちなみにジョー・マッゼロは「ジュラシック・パーク」でハモンドの孫姉弟の恐竜好きの弟ティムを演じたジョゼフ・マッゼロが成長した姿。はっきり言って当時の面影は無いけれどなんか見てて安心します。

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 この映画のクライマックスは21分の「LIVE AID」パフォーマンスの再現(実際には15分ぐらい)。ここに至る経緯にも史実と映画では違いもあるが(バンド不仲の原因がフレディのソロ活動にあるかのようになっているがこの時期ロジャーもソロ活動をしていたし直前でなく少し前にQUEENとしての活動も再開している)、この「LIVE AID」がなければ解散していただろう、とブライアン・メイも言っていてQUEENにとって記念碑的ライブであったことは間違いないようだ。僕は当時のことなど知らないので後々映像を見た形であるが、確かにこの時のQUEENのパフォーマンスは圧倒的だった。だから91年のフレディの死までの中でここをクライマックスに持ってきたのは理解できて、先述したように史実ではここ以降の出来事をこの前に持ってきたのも観客の感情を高める効果としては大成功だと思う。

 実際の映像(YouTubeで見れますが公式かどうか分からないので貼りません)見たほうがいいじゃん!という意見もあるのだが、映画として見た場合は映画のほうがただのコピーではなく当然実際のライブでは不可能だったカメラワークなどもあり映画は映画で最高でした。

 「LIVE AID」の実際の観客は当然チャリティコンサートの一観客として来ているわけでその時点で映画の観客と違いQUEENやメンバーたちの葛藤や経緯を知らないわけですよ。実際のパフォーマンスでは歌われている「We Will Rock You」と「愛という名の欲望」が映画ではカットされているのだけれど、「We Will Rock You」はともかく(後述)、ロカビリー調の「愛という名の欲望」は実際のパフォーマンスでは良い緩和部分として機能しているけれど、映画では不必要だと思った。最高潮に高まった映画の観客の感情の高ぶりが「愛という名の欲望」で萎えてしまうと思うから。

 で、僕は今回応援上映というのも観に行きました。観客が一緒に歌ったりペンライト振ったりすることが出来る上映形態。僕は「ロッキー・ホラー・ショー」を別としてあんまりそういうのには肯定的じゃないんだけれど、これは結構良い経験でしたね。というか単に劇場側が「今回は応援上映ですよ」といって区別しているだけかと思ったらちゃんと使用しているフィルムも別で楽曲部分で英語歌詞がカラオケのように出てきます(その分日本語歌詞は出ない)。僕が参加した時は正直いうと僕含め、まだ照れがあるのかみんなおとなしめでした。これは直前に誰かが前説として観客を煽ったり先導する役の人がいたらよかったかもしれません。まああんまりやり過ぎるとそれはそれでウゼぇって思っちゃうかもしれないけど。

 そういえば僕はなんとなく「ロッキー・ホラー・ショー」にはQUEENの影響があると思い込んでいたんだけど、時期的にはほぼ同期かなんならQUEENの方が後発なんですな。自分の生まれる前のことなのでなんか時空が歪んでました。

 そして先述の「LIVE AID」。ここでは実際には歌われた「We Will Rock You」がカットされている(撮影はされたらしい)のだけれど、これはすでに「We Will Rock You」創作時のエピソードが出てるからであろう。実際通常上映で観る分には無くて正解だと思う。ただ応援上映に限って言えば確実に盛り上がるので入ったほうが良かった。この映画の応援上映はそれこそ21世紀の「ロッキー・ホラー・ショー」になるポテンシャルを秘めていると思います。

 そして、この映画の監督は一応ブライアン・シンガーということになっている。僕は一回目を観た時点ではシンガー監督作ということは知っていて、でもその割に監督名がパンフでも宣伝でも前面に出してこないなあ、などと思っていたのだけれど、その後調べてみて納得。ブライアン・シンガーは撮影途中でトンズラしてしまったらしいです。残り撮影予定が2週間、という時点で感謝祭休暇が明けても戻ってこなかったらしく、その後の部分は製作総指揮であったデクスター・フレッチャーが監督したらしいが全米監督協会の規定でシンガーのみが監督としてクレジットされた、ということらしいです。

 出来上がった作品のどこまでがシンガーによるものなのかは分からないのだけど(クライマックスの「LIVE AID」は最初に撮影されたのでシンガー演出で間違いなさそう)、最初に観た時はこれはシンガー映画だなあ、と思ったもの。特に「X-MEN」シリーズの2作目「X2」とは姉妹作品みたいにさえ感じた。アイスマン、ボビー・ドレイクが家族にミュータントであることを打ち明けるシーンやミスティークとナイトクロラーの会話など、シンガーがミュータント問題に託して描いたと思われる同性愛関連の描写はそのまま今回のフレディの描写と重なった。実際の演出はしてなかったとしても脚本の完成にはシンガーの意向も強く反映しているだろうし、多分同じQUEENの映画でも別の人が演出していたら全然違う印象となっただろうなあ。ブライアン・シンガー100%の映画で無いかもしれないが、シンガー色の濃い映画ではあると思う。ブライアン・シンガーは今後どうすんのかな……

 他は細かいところではQUEENを理解しないプロデューサーにマイク・マイヤーズが扮していたりします。これが一回目では全く気づかず、クレジット見て「あ、出てたんだ」という感じだったが二回目観たら確かに喋り方といい声色といいマイク・マイヤーズだった。このプロデューサーは架空の人物で「ボヘミアン・ラプソディ」を理解しない偉い人として登場するのだけれど、「車の中で頭が振れるような曲がいい」という台詞といい、完全に「ウェインズ・ワールド」を前提としたマイク・マイヤーズへのあて書きっぽいです。


Bohemian Rhapsody Wayne's World HD

 


Bohemian Rhapsody - The Movie: Official Trailer

 評論家には不評だったり、QUEEN好きに史実改変部分なんかで好き嫌いは激しく分かれていたりするのだけれど大ヒットしています。先述の監督交代劇やクレジット問題などの裏のゴタゴタを考慮すると作品の作家性を重要視する評論家が批判する理由も分からないではないんですが(正直映画本編を詳細に分析したらそりゃあまり出来が良いとも僕自身思わない)、もう本作はそういう評論家がどうこうできる枠を越えている作品だとも思います。 

 ファンだった人もそうでない人もまだ間に合う!劇場へ走れ!

Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)

Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)

 
Greatest Hits 1 & 2

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