The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

機材は進化したけれど…… ブレア・ウィッチ

 昨年のベストである「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の第1作目、最初の「マッドマックス」は長年「もっとも少ない予算でたくさん稼いだ映画(経済効率のいい映画)」としてギネスに認定されていたらしいのだが、それを追い抜いたのが1999年の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」と言われている。この作品は「森で遭難した学生たちの撮影した映像が発見されたので、それを粗編集しただけで公開してみました」という体の、いわゆる「POV(ポイント・オブ・ビュー)」というジャンルの作品。もちろんそれ以前にも「食人族」とか同様の形式の映画はあったのだが、本作以降同様の形式の「低予算のホラー」が大量に作られこのジャンルの中興の祖とでもいうべき作品となった。今では「POVだけどきちんと予算もかけ、めっちゃ構成も考えられた作品」なんかもあって(このブログで取り上げた作品だと「クローバーフィールド」「トロール・ハンター」「クロニクル」など)、ジャンルとして定着しているがそれもこの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」あればこそ。そんな記念碑的作品の正統続編が登場。「ブレア・ウィッチ」を観賞。

物語

 かつてブレアの森で失踪した学生の一人ヘザーの弟ジェームズはYouTubeで姉らしき人物が映った動画を発見。まだ姉が生きていると確信したジェームズは動画の投稿主にコンタクトを取り、同時に森に姉を探しに出かけることを決め、仲間のリサはその様子を卒業制作のドキュメンタリー映画として収めようとする。ジョーンズとアシュリーの4人でバーキッツヴィルへ向かう。
 動画の主レーンとタリアを加え6人で森の奥深くへ進む一行。アクシデントがありながらも一日目は順調に進み夜を迎えるが…

 えー、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は公開当時、実際にあった出来事(本当に発見されたフィルム)という売り文句で宣伝されたと思うのだけれど、もちろん全部創作です。モデルになった事件はあるのだけれど、ブレアの魔女の呪いも、コフィン・ロックの事件もラスティン・パーの事件も映画のために作られた伝説。当然映画は純然たるフィクションです。行方不明になった3人は全員役者できちんと脚本もあったらしい。ただ実際にテントで寝てる時に音を立てたりして出演者をびくつかせた、脚本といってもアドリブも多い、みたいなのはあるようだけど。
 今回特に過去作(「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」と「ブレアウィッチ2」など)を見返すことはなく、馴染みの単語が出てくることで思い出しながら観ていたのだが、自分は映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は決してつまらなくはなかったけれど、本編よりその背景となる「ブレアの魔女の伝説」の方が面白かったな、と記憶を呼び起こした。ちょっとタイトルは失念したけれど、普通に都市伝説としてのバーキッツヴィルに伝わる魔女伝説を追ったドキュメンタリー(地元の歴史家のインタビューなどで構成される)の方が興味深かった記憶がある。確か元は「発見された学生のフィルム」と「インタビューなどで構成されるドキュメンタリー」の2つを組み合わせて一つの作品とするところを「発見された学生のフィルム」だけで本編としたんじゃなかったっけかな?
 映画は特にラスト近くのヘザーのどアップの自撮り映像が象徴的に扱われ(ポスターやソフトのパッケージにもなっている)、多くのパロディも産んだ。もう一つの象徴であるスティックマン(今回も出てくる)は漢字の「文」にしか見えなくてあんまり怖くなかったけれど。ただなんといっても低予算の作品なので結局何が起きたかはよくわからないし、何かクリーチャーが出てくるわけでもなく、消化不良に感じたひとも多いのではないかと思う。

 今回は「正統続編」とのことだが、前作の直後にも続編があって、こちらは普通の劇映画である。ただ監督は「ウェスト・メンフィス3」*1の事件を追ったドキュメンタリー監督のジョーバーリンジャーで、「ブレア・ウィッチの呪い」におけるコフィン・ロックの事件はこのウェスト・メンフィスの事件がモデルとされているので、ある意味本家の監督に続編を託した形となったのだが、完全な劇映画として撮られたことが良くなかったのか、この続編は不評で、ブレア・ウィッチ・プロジェクトブームは終わりを告げた。当時(ソフトになってから見た)は確かにそんなに面白くなかった気がするけれど、POVでなきゃ!って前提が必要ない今見たらまた評価は変わるかも。
 だからかどうか、本作は1作目同様POVの「行方不明になった学生の残した映像を粗編集したもの」というオリジナル同様の体裁を取っていて、さらに主要登場人物の一人に1作目のヘザーの弟という人物を配することで正当性を高めている。
 前作から20年後(前作は製作は1999年だが設定は1994年に行方不明なった学生のフィルムが1年後に発見されたというもの)、の2014年に行方不明になった設定なので、POVと一口に言っても前作からいろいろパワーアップはしている。まずは動画を撮影する機材が小型化して増えたこと。4人は自分の視点で撮影できるウェアラブルのカメラをつけているし、それとは別に通常のカメラもある。またキャンプの時などは定点カメラも設置したりする。そのため、1作目は基本的に一つのカメラだけだったと思うが、本作はめまぐるしく視点は変わる。また、ドローンが登場して高く俯瞰の映像もあったりする。この撮影された映像はそれぞれの機材にカードとして記録されているのか、一つのパソコンにデータとして集められてるのかは分からないが、もしもそれぞれの機材にデータが収められているなら、「発見された映像」という設定とは矛盾もあるかもしれない。
 映像としてはいろいろ見せ方も工夫しているのだけれど、1作目から15年以上経った現在、そんなに新味のある映像というわけでもない。ちょっとだけクリーチャーっぽいのも出てきたりはするんだけどね。

 登場人物は主に6人だけで、4人の学生と地元のカップルに分けられる。主人公といえるのはヘザーの弟ジェームズと発見された映像の監督であるリサの二人で仲間として黒人のカップル、ジョーンズとアシュリー、そしてきっかけとなる動画をYouTubeに投稿した地元のカップル、レーンとタリア。
 レーンとタリアは自分たちもヘザー探索に加わることを条件に映像を撮影した場所をジェームズたちに教えるが、この二人は部屋に南部連合の旗を飾っているような連中でそれを見たジョーンズとアシュリーが嫌な顔をするシーンなんかは細かい。
 森のなかで神経がすり減らされていくうちに仲間内で揉め始め、やがて一人づつ姿を消していく定番の流れなのだが、よくわかんないながらも手間がかかっているな、という感じは伝わってくる。
 ただ、個人的にはこの登場人物の中では主人公格であるジェームズとリサより、途中で別行動を取るレーンとタリアのカップルの方が面白かった。浅利陽介ナオミ・ワッツを若くしたような感じの二人は地元の人間だけあって「ブレアウィッチの呪い」にも詳しい。4人と別れた後は基本的に彼らの視点にはならないのだが、どうやらジェームズたちが1日過ごした間の森で迷って5日間過ごしたらしいことが示されたり(後半にレーンが登場するときも一人だけヒゲモジャになっていて、違う時間速度を過ごしていたことが暗示されていたりする)、絶対レーンとタリアの撮影した映像のほうが面白いよなーとか思ったりした。
 後は1作目も2作目も有名な俳優は出ていないのだけれど、役者のファーストネームと役の名前が同じだったりしてその辺でリアルさと臨場感が出ていたのだが、本作はキャスト名と役名がバラバラだったのもマイナス点といえばマイナス点。
 作品世界の原作者で1作めの監督だったダニエル・マイリックとエドゥワルド・サンチェスは製作総指揮に周り、監督はアダム・ウィンガード。脚本のサイモン・バレットとのコンビで主にスリラーやホラーを撮っているようです。

 結果としては今回も何も分からないのですよ。一応カイルくん(ラスティン・パー事件の生存者)や1作目の誰かがなんで壁の方、向いてたのか?とかはなんとなく分かるようにはなってるんだけど、あくまでPOVとして「実際にあったこと」を気取ってるので物語的な解決はないです。
 個人的に観ていて、この「ブレアウィッチの呪い」のキーワード(エリー・ケドワードとかラスティン・パーとか)が出てくるたびに「あ、オレが面白いとおもったのはこの都市伝説にまつわるドキュメンタリー(モキュメンタリー)の方でPOVの本編じゃないや」とか思っていたので正直、元々期待していたわけでもないけれどやはり物足りなかったなあ。
 まだ「実際にあったこと」として「発見された映像」に真実味があった1作目直後の続編であればPOVの形式にこだわるのもわかるけれど、あれから15年以上経って、もう誰も「実際にあったこと」とは思っていないのだから、きちんと劇映画として製作したほうが良かったと思う。その意味では「ブレアウィッチ2」と本作「ブレア・ウィッチ」は制作する順番を間違えたのかもしれない。

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当時購入した記憶。 この「ブレアウィッチの呪い」という魔女伝説自体は十分魅力的なので、この世界観に基づく物語は今後も観たい気はするのだけれど、それはちゃんとした劇映画であってほしいなあ、と思う(でなきゃPOVでないモキュメンタリー)。

*1:アーカンソー州のウェスト・メンフィスで1993年に起きた殺人事件で3人の少年が犯人として捕まった事件において、冤罪の可能性が高いその3人の少年の通称