The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

人耶獣耶 ジャングル・ブック&ターザン:REBORN

 劇場で予告編を観たのはどっちが先だったろうか、「ジャングル・ブック」と「ターザン」の新作がほぼ同時期に公開された。この2つの作品を予告編で見かけた時、なんとなく「どうせ公開日が近いなら、同日にはしごしてやろうか」と思いたった。共に自然界で両親を失った人間が野生動物たちの中で成長する物語。どうせなら見比べてやろう、と。但しこの公開日が近いのは日本での話でアメリカ本国では「ジャングル・ブック」が4月、「ターザン:REBORN」は日本とそう変わらない7月1日であるので特に両作が意識しあっているということもなさそうだ。「ジャングル・ブック」と「ターザン:REBORN」を観賞。今回は一気に2作品、でも短めで行きます。


 まずは原作。「ジャングル・ブック」はイギリスのラドヤード・キプリングが1894年に出版した短編小説集。その中の狼に育てられた人間の少年モーグリを主人公として取り上げた物語を映画の題材として使用している。児童向けだが、作中には詩も収められている。
 一方「ターザン」は「ジョン・カーター」でも知られるエドガー・ライス・バローズの代表作で「火星シリーズ」「地底世界ペルシダーシリーズ」と並ぶシリーズ作品。この二作の関係性としてはバローズは「ターザン」がキプリングの「ジャングル・ブック」の影響下にあることを認めており(「類猿人ターザン」の刊行は1914年)、キプリングはあまりそのことを快く思っていなかった、なんて情報もある。ただこの2作は設定こそ似ていても本質はかなり違っており、「ジャングル・ブック」は人間の少年が主人公であるものの、基本的にはジャングルという閉じたユートピア内での物語であるのに対して「ターザン」はそのユートピアへの外界からの干渉をテーマとする。また短編である「ジャングル・ブック」に対して「ターザン」は長く続くシリーズであり、シリーズが続くうちには恐竜が出てきたり、アトランティスの末裔が出てきたり魔法的な要素が出てくるなど単なる冒険活劇でなくSFとして完成されている(バローズのもう一つの代表作である「地底世界ペルシダー」とのクロスオーバーもあるらしい)。
 で、この2つは両方共ディズニーによってアニメ映画化されている。「ジャングル・ブック」は1967年。「ターザン」は1999年。今回の映画化は「ジャングル・ブック」は同じディズニー映画でこの1967年のミュージカルアニメ映画のリメイク作品。そして「ターザン:REBORN」はワーナー作品のため、このディズニー版との関係はなし。「ジャングル・ブック」は最初の予告編はシリアスな作品ぽくてリメイクと明言されてなかったが、公開間近になって宣伝のトーンが明るくなって、ミュージカル映画であることも強調されたが、あれはなにか理由があるんだろうか。ちなみに僕は鑑賞前にLittle Glee Monsterによるイメージソング「君のようになりたい」を生で聴く機会があって、CDも買ってしまいました。推しはアサヒさん。

 これ、劇中では巨大猿(オランウータンの突然変異かのように描写されている。地域的にキング・コングと類縁かも)キング・ルーイーが歌うのね。
 インドの狼少年(嘘つきの方ではなく狼に育てられた少年)というと、実際に有名なのはアマラとカマラだが、この狼に育てられたとされる2人の少女が発見されたのは1920年の事なので、むしろ「ジャングル・ブック」の影響でこの少女たちを「狼に育てられた野生児」ということにしてしまった可能性もありそう(現在では二人を保護・養育したシングの記録は信憑性が薄く、少なくとも「狼に育てられた」というのは嘘だろうと考えられている)。
 映画は「少年以外全部CG」を謳い文句にしており、そんなのが謳い文句になるのかな?と疑問も持ったが、確かに実際の自然の中で撮ったような風に思える精密度。これまでももちろん背景をCGにした作品などは多くあるのだが、どうしても平面的というか舞台劇のようなカメラワークが多くなったものだが、本作は主人公モーグリはじめ、皆ジャングルを縦横無尽に動くので単なる背景やCGキャラとの共演というだけでなく本当にそこに立体のキャラがいて共演しているかのようである。あんまり「大自然で育った野生児が活躍する」物語でCGを強調するのもどうなのか?と思ったが、なるほどこれは宣伝文句にしたくなる出来ではあった。監督は「アイアンマン」シリーズのジョン・ファブロー。最初のシリアスな予告編では個人的につまらなかった「カウボーイ&エイリアン」の雰囲気を感じたので、こりゃ駄目かな、とも思ったのだがミュージカルであることを明らかにした宣伝では明るい雰囲気だったので一安心。少年も狼の子供たちも可愛く、楽しんで見れた。むしろミュージカル部分もっと多めでも良かった。
 声の出演という形だがキャストは豪華でビル・マーレイベン・キングズレークリストファー・ウォーケンイドリス・エルバなどが出ています。スカーレット・ヨハンソンもすっかりファブロー映画の常連になったな。ただ、今回僕が観たのは日本語吹替版。松本幸四郎西田敏行宮沢りえ伊勢谷友介などが声を当てていて、西田敏行はぱっと顔が浮かんだけど、後は特に顔を思い浮かべることもなく上手だったかな、と思う。

 ディズニーの「ターザン」はターザンの生い立ち、ジェーンとの出会いを描いたシリーズでも本当冒頭部分を映画化した作品(超常現象要素特になし)だが、「ターザン:REBORN」はその後のラストエピソードとでも言うべき物語。原題が「THE LEGEND OF THE TARZAN」で「ターザンの伝説」なのに対して邦題が「ターザン:REBORN」で「新生ターザン」なのは単なる邦題の流行り廃りもあれど、原題が終章としての意図を感じるのに対して、邦題は新しく始まったターザンものって感じがしてちょっとミスリード
 ターザンはすでにアフリカには居ず、イギリスでグレイストーク卿として暮らしている。物語はベルギーの植民地コンゴ経営の不振からレオポルド2世がダイアモンドの採掘によってその赤字を埋めようとするが、鉱脈の位置を知っている部族の族長がターザンを連れて来い、という。グレイストーク卿はレオポルド2世からの視察団参加は断るが、アメリカ特使ウィリアムのコンゴで行われている奴隷労働の実態を調査する、という依頼を承諾し妻ジェーンとともに再び育ったアフリカへ向かう、というもの。主人公こそ人間であるが「ジャングル・ブック」が時代性を特定できないのに比べ、「ターザン」はかなり帝国主義時代を色濃く背景としている。ターザンは伝説の人物ではあるものの、すでに野生児ではなくなっている。ターザンを演じているのはアレキサンダー・スカルスガルドで長身、小顔のイケメン。精一杯野性味を出そうとしているが、あまりターザンぽくはなかったかも。最も本作に限ればそのターザンぽくない(野生児ではない)てのは問題ないのだが。あとターザンといえばジョニー・ワイズミュラー以来の「アーアー!」という雄叫びだが、スカルスガルドの雄叫びはなんだか低い。これも文明に染まった故か。ジョニー・ワイズミュラーの甲高い雄叫びに比べるとやはりちょっとワクワク感に欠ける(あれも加工してあるので本人の地声ではないそうだが)。

 なんとなくね、ジョニー・ワイズミュラーの「アーアー!」はバナナマン日村さんのヤッホー!、アレクサンダー・スカルスガルドの「アーアー!」は橋本奈々未さんのヤッホー!だと思ってもらうといいかも(そうか?)!

 やはりこちらは人間がメインであるのでね。タランティーノ作品でもお馴染み演説させたら東西の両横綱と言ってもいいサミュエル・L.ジャクソンとクリストフ・ヴァルツの二人が見どころですね。この二人の演技を観るためだけでも価値はあると思う。ジェーン役のマーゴット・ロビーはまあ綺麗だったけれど普通のヒロインという感じ。今年は彼女はハーレイクインとして生きていくからいいのです。
 監督は「ハリー・ポッター」シリーズの後半(不死鳥の騎士団〜死の秘宝」を担当したデヴィッド・イェーツで、あのシリーズでも見られた重厚で薄暗い雰因気は本作でも健在。ただその分本当なら弾けるようなシーンも重く暗鬱とした感じになってしまうのはもはや作風か。クライマックスの動物総進撃は良かったです。

 どちらも見どころがあれど、映画館で大スクリーンで観るということにおいては「ジャングル・ブック」の方が数段勝るでしょうか?物語部分は設定こそ酷似していても全く違うので比べるのがそもそも違いますね。
ジャングル・ブック (新潮文庫)

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類猿人ターザン (ハヤカワ文庫 SF ハ 10-1 TARZAN BOOKS)

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類猿人ターザン《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

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 全体的には楽しく見れる「ジャングル・ブック」だが、一つとても恐ろしいシーンが有る。それはトラのシア・カーンがそれとなく狼の子供たちに暴力の必要性みたいなのものを教えるシーン。ここの不気味さがあるだけでもこの映画には価値がある。記事タイトルはこちらから。「ターザン」とも「ジャングル・ブック」とも全く関係ないですが、冤罪をテーマにしたフランスのエミール・ガボリオの「ルルージュ事件」を黒岩涙香が日本を舞台に翻案した探偵小説。一読の価値あり!