The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

シェルターとゴーレム 10クローバーフィールド・レーン

 ここしばらくブログも更新せず何をしていたかというと、5月下旬はずっと「銀河英雄伝説」のOVA(全110話)を第1話から見なおしていて、6月に入ってからは、なぜか急にドラゴンクエストがやりたくなって、DS版の「ドラゴンクエスト5」を引っ張り出してきて遊んでいたりしていたのであります。ちなみに「銀河英雄伝説」は中学の時に知ってから、なぜか定期テスト前の切羽詰まった時になると原作を第一巻から読み直す、という事があって、今回は原作でこそなかったけれど、その時の現実逃避に近い感覚だったのかも。ドラクエ5もそれに近いものがあって、幼少期から結婚、双子の子供とのヴァーチャルな生活を現実逃避して楽しんでおりました。ちなみにDS版の「ドラクエ5」はプレイ3周目なので、花嫁はデブラです*1。そして、ドラクエ5をクリアした後はそのままドラクエ熱が持続してしまい、今のところオンラインゲームである「ドラクエX」以外では唯一プレイしたことのなかったナンバリングタイトル「ドラクエ6」をプレイしているところです。
 さて、そんなわけで家にいるときはずっとゲームをプレイしたりしていたわけですが、映画もそれなりに観ていたりはします。もう「劇場で観た映画は感想を書く」というこのブログの俺ルールは有名無実化したわけですが、アメコミ、スーパーヒーロー関係で「デッドプール」「変態仮面2」「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」は感想書きます(できれば6月中に)。ただ今回はちょっと別の映画を。J・J・エイブラムス制作の話題作「10 クローバーフィールド・レーン」を鑑賞。ドラクエの話題を冒頭に持ってきたのはちょっと本題とも関連あるからです。

物語

 恋人との別れを決意し一人車を走らせるミシェル。しかし追突事故に遭い、車は転倒。気づくと見知らぬ場所に監禁されていた。監禁した主はハワードという初老の男。彼によると世界は何者かに攻撃され大気が汚染されたため外に出ると死んでしまうという。ハワードは自分の作ったこの地下シェルターへと急ぐ途中でミシェルの車に追突してしまい、怪我した彼女を救ってここに連れてきたという。シェルターには食料や水、エアフィルター、そして娯楽が完備してあり、何年でも暮らせるようになっていた。もう一人シェルターにはハワードのシェルター製作を手伝い、その縁でシェルターに逃げこむことができたエメットという青年がいた。ミシェルはハワードの言を信じず、脱走を試みるがその時エアロックで窓から恐ろしい光景を目にすることに。実際に外で何かが起きたことは確かだ。シェルターの中でミシェルとエメットそしてシェルターのボスとして君臨するハワードの3人の奇妙な生活が始まった。

 タイトルと製作者J・J・エイブラムスから分かる通りあの「クローバーフィールド/HAKAISHA」の関連作。とはいえ物語は全然違っていて、一応続編らしいのだが世界観がつながっているのかも不明だ。共通点といえば主人公たちが謎の根幹に関わるわけではないので何も解明せず翻弄されるところだろうか。「HAKAISHA」は今のアメリカの怪獣映画ブーム(モンスターズとかパシフィック・リムとかゴジラとか)の先駆けと言ってもいい感じで怪獣そのものは魅力は薄かったが作劇にPOVを採用していて作品としては面白かった。映画そのものとは別にネット上で作品を紐解く上で重要なことが展開されていたりしてその辺でも面白かったものだ(もっとも僕はあんまりそういうのを見たりしないので謎は依然として謎のままだったのだが)。
 監督は新人のダン・トラクテンンバーグ。TVシリーズ「バフィー〜恋する十字架〜」でサラ・ミッシェル・ゲラーの主人公バフィーの妹ドーンを演じたミシェル・トラクテンバーグとは関係無いようです。長編はこれがデビュー作の模様。
 映画はIMAX上映もされている作品で僕もIMAXで観たのだが、その価値があったかは疑問。というのもこの作品上映時間の殆どは密室に近い舞台で展開するのだ。最初の追突事故のところは音響でびっくりしたけれど、それ以外は特にアクションやSFX的に派手な見せ場があるわけでもない。IMAXが駄目とは言わないけれど通常の上映で十分だと思います。
 そう、この作品は一見するとSF映画だが実際は閉鎖空間での人間劇だ。「スカイライン」のもっと閉鎖的な息詰まる作品。あるいはスピルバーグ(JJとは縁深い監督だ)の「宇宙戦争」のトムとダコダ・ファニングが逃げ込んだ先にいたティム・ロビンスとの一時的な暮らし。あんな感じの部分に特化した作品である。途中で人類ではない何かに侵略され、それで外に出れなくなった事態が分かるが、それも物語の主目的というよりは舞台を作り出すための設定にすぎない。

サバイバリスト

 映画ではジョン・グッドマン演じるハワードという男がサバイバリストとして地下シェルターに君臨している。サバイバリストは映画では「トレマーズ」シリーズのマイケル・グロス演じるガンマーとその妻だったり、あるいは最近の作品だと「プリズナーズ」のヒュー・ジャックマン一家。前者は純粋に生き残りのために備えるのが趣味の男で、後者は宗教的な価値観が根底にある。映画ではハワードのサバイバリズムの根底に宗教が関連しているのかは特に語られないが、実際に事が起きる前は地元では変人と思われていたことは分かる。
 で、実際に世界が崩壊し、ハワードはその備えによってシェルターに君臨するが、元々他人を救う気などこれっぽちもなく人とのコミュニケーションもろくに取れないような男。彼にシェルターに匿われ助けられてもまともな関係を築くなど不可能なのだ。
 そしてハワードには秘密があって、おそらく彼はペドフィリアの殺人犯で、ミシェルに語っていた娘が実は行方不明になっていたエメットの妹の同級生で、このシェルターに監禁された挙句殺された可能性があることが判明する。小説のタイトルをその単語を使わず説明して当てるゲームではエメットがヒントとしてミシェルのことを指すとハワードは「少女」とかばかり言いエメットが「ミシェルは女の子じゃない。大人の女性だよ」とか言うシーンがあり(ハワードは「Little Princess小公女」と答えるが正解は「Little Women若草物語」)、ここはハワードがミシェルを大人の女性ではなく子供として見ていて、しかしそれが性的対象になっている不気味さを理解させるシーン。
 もしかしたら最初のきっかけとなる事故も、ハワードは緊急事態に家路を急いだハワードが誤ってミシェルの車に激突したと説明するが、これもウソで最初から拉致監禁のために狙ったのもしれない。

違うシェルターへ

 ミシェルは開始早々、急ぐように荷物をまとめ、恋人との生活を後にする。恋人であるベン(声だけの出演だが演じているのはブラッドリー・クーパー)からはしつこく電話がかかってくるがそれにミシェルが答えることはない。ここでも明確には説明されないが、おそらくミシェルはベンからドメスティック・バイオレンスを受けている。だから逃げ出したのだ。この物語の舞台は生き延びるための自家製地下シェルターだが、DVに遭った被害者が加害者から避難し保護されるための施設もDVシェルターなどと呼称される。もしかしたらミシェルもそんなDVシェルターを目指していたのかもしれないが、彼女が連れて来られた先は別のシェルターであった。
映画のキャッチフレーズは「奴らはあらゆるフォームでやってくる」で、これはオリジナル「MONSTERS COME IN MANY FORMS」の日本語訳。実際見ると別に「あらゆるフォーム」とか特に意味なくね?」と思う。ただこの「MONSTERS」を宇宙人だと思うのはミスリードで、ベンやハワードの姿を取って絶え間なくミシェルを襲う男性(に代表される暴力)のことなのかもしれない。

ゴーレム

 さて、ここからはひとつこじつけを。エメットはそれなりに優秀な青年で都会の大学に行くチャンスが有ったにも関わらず不安から地元に残ってしまった。そしてハワードに雇われてシェルター作りに従事する。その御蔭で緊急事態に真っ先にハワードのシェルターへ逃げ込む選択ができたのだが、おそらくハワードに取っては異分子以外の何物でもなかったのだろう。そんなエメットが食事の時に刺青について語る。こんな事態になったのだったら世間体など気にせず刺青を入れまくったら良かった、と。腕、身体はもちろん額にEMMETTと自分の名前を入れる、など。このシーンを見て僕がふと思い出したのがユダヤ教の伝承に登場するゴーレム。ゴーレムは泥土で出来た人形だが作った主人の命令を実行するロボットのようなもの。このゴーレムは額に「真理(英語でemeth)」と書かれた護符のようなものを貼り付け動き出す。そして額の文字を一文字削り「meth(死亡)」とすることで崩壊させることができる。多分僕が思っただけで制作者がそこまで考えいたかは分からないが「エメットEMMETT」と「EMETH真実」は似ていないか?(エメットの元の意味は「力強い」「パワフル」などで全然違う)
 エメットはミシェルと共謀して銃を持っているハワ−ドを捕縛して脱出する計画を立てるがそれが露呈するとミシェルをかばいハワードに撃たれ死亡する。この時直接的な描写はないが、至近距離から撃たれ、おそらくその即死したことから頭、額を撃ち抜かれたと思われる。emethからmeth。真実を知って死んだエメット。シェルターづくりに従事させられ必要なくなったら何の躊躇もなく殺されるエメットはゴーレムと存在が重なってしまった。僕がゴーレムの存在を初めて知ったのはおそらく「ドラゴンクエスト」の城塞都市メルキドを守るゴーレムだが、ここでは城塞に入るためではなく、城塞=シェルターから脱出するためにゴーレムの死が起きる。

 さて肝心の地上を侵略した何かについては、漠然とまあ宇宙人なのだろうなあ、という感じしか分からない。一応「HAKAISHA」の怪獣も宇宙から来たのか?と思えるような描写もあるのだが(最後の主人公が過去に撮影したシーンでさり気なく「空から海に落ちてくる何か」が映っている)*2、、本作との直接的な関連も不明。タイトルの「10 クローバーフィールド・レーン」もハワードのシェルターがある付近の住所という以上のものもない(「HAKAISHA]ではもっと意味不明ではなかったか?)。
 ラスト、ミシェルはシェルターを脱出すると休息する間もなく宇宙人に追われこれに抵抗するのだが、この作品明らかに力を入れているのはシェルター内の方なのでここはもうシェルターを脱出したら、謎の何かがバーン!!で終わっても良かった気がする。本来なら「宇宙戦争」みたいに一挿話で済む話で一本仕上げたようなもんだからね。下手に宇宙人とのファイトを入れたせいでテーマがぼやけたような気もする。

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 ミシェルは自動車を走らせ10クローバーフィールド・レーンを後にする。ラジオからは2つの行き先が。単に避難する場所と戦うための人員を求める場所。その選択肢の中からミシェルが選んだのは…。
Ost: 10 Cloverfield Lane

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「HAKAISHA」で最高だったものの一つにエンドロールで流れたスコア「ROAR!」があるんだけれど、あれには及ばないものの今回もスコアは良かったです。

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一応前作の記事(旧ブログ)。実はなにげにブログを初めて最初に書いた劇場で鑑賞した作品の感想記事です。今読むとかなり拙い。

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果たして関係あるのかないのか製作のJ・J・エイブラムス監督による「SUPER8/スーパーエイト」感想記事。

ダクトテープ最強!

*1:余談だが僕はギャルゲーとかでも結構一途に一人のキャラに尽くすタイプなので1周目でビアンカ以外(フローラとデブラ)を選べる度胸がありません

*2:J・J・エイブラムスが監督した「SUPER8/スーパーエイト」の宇宙生物もシルエットが似てるので関係有るのかなー?とか思ったり