The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

ふぞろいのピッチたち ピッチ・パーフェクト

 引き続きもう公開が終わっているであろう作品の感想を。今回は「ピッチ・パーフェクト」。これは制作されたのは2012年の作品で、日本公開まで約3年間が空いた事になります。劇場鑑賞から日が経って例によって忘れていることも多いので短めに。でもこれは個人的にはかなり好きで今年のベストに入るかもしれません。

物語

 女性アカペラグループとしては初の全国大会に出場したバーデン大学の「バーデン・ベラーズ」。ライバルでもある同じ大学の男性アカペラグループ「トレブルメイカーズ」の活躍を尻目に緊張のあまりオーブリーがパフォーマンス中に吐いてしまい散々な結果に。
 新学期。DJを目指すベッカが入学。父親が教授を務めるこの大学へはいやいや進学したベッカであったがバーデン・ベラーズのクロエにスカウトされバーデン・ベラーズに入ることに。前年の醜態からバーデン・ベラーズに入るようなものは大学でもあぶれたような個性的なメンバーばかり。その中でベッカたちはオーブリーの伝統を重視する古風なやり方に反発を覚えながらもグループを盛り上げていく…

 おおまかに言えば「glee」の大学生バージョン。ちょうど時期的にも「glee」ブームの全盛期で、あるいは便乗企画だったのかもしれない。「Pitch Perfect」というタイトルは歌声の音程=ピッチのことなんだと思うけれど、語感的に関係ない「ビッチ=bitch」の方まで思い出してしまう。あるいは狙ったものなのかもしれないけれど。物語はアナ・ケンドリック演じる主人公ベッカを中心にバーデン・ベラーズが苦難を乗り越え活躍していくさまを描く。とはいえ全体としてはお下品なコメディという印象も強く、高校が舞台でTVシリーズだった「glee」に比べると、大学生で映画、しかも男女混合でなく男性グループと女性グループにはっきり別れ、しかも敵対しているという設定(トレブルメイカーズのメンバーとセックスしたらクビ)であることである種上品だった「glee」に比べると下品になっている。とはいえ「glee」だって同時期の「ハイスクール・ミュージカル」に比べると大人向けって言われていたんだけど。いや大人向け云々で言うならむしろ抑制の効いた「glee」より子供の好きそうなゲロやシモネタに溢れた「ピッチ・パーフェクト」のほうがよほどチャイルディッシュかも知れない。

 ベッカ役はアナ・ケンドリック。2012年だと「スコット・ピルグリム」のあとぐらいか。最近では「イントゥ・ザ・ウッズ」のシンデレラ役でも歌声を披露しているが、その歌唱力は本作で注目されたということらしい。

 ただ個人的に一押しはやはりレベル・ウィルソン。今最も美しいぽっちゃりさん。本作でもその個性的で他のものを圧倒する魅力で異彩を放っています。オーブリーとクロエがどこか古風なタイプの美人なのに比べると新入生は皆個性的。個性的すぎて逆にステロタイプになっている気もするけれど(その辺で苦手、嫌いという人もいるかも)、従来の「バーデン・ベラーズ」のやり方(できるだけ統一されたスタイルで個を殺し、集団としてのパフォーマンスで圧倒する*1)にはなじまないけれど新しいやり方(それぞれの個を活かし、各人のパフォーマンスを全体のパフォーマンスの中で魅せていくやり方)に移行して頑張っていく。この手の映画ではどうしても統一された均一な、完成されたパフォーマンスより多少ばらつきはあっても個性が活きてっるパフォーマンスの方がドラマには向いてしまう。実際はどちらが上ということもないんだろうけど。ただ、タイトルの「完璧な音程」が、「個を殺して集団のために奉仕する」というよりは「様々な音色があってそれぞれをうまく活かし集団のレベルを上昇させる」という方がアメリカ的である。
 本作は音楽映画ではあっても厳密なミュージカルとは言いがたいのであるが、いわゆる日常のドラマの延長で歌うシーンには歌詞に字幕が付いているのだが、大会などのパフォーマンスのシーンでは字幕が付いていなかったのでその辺はちょっと残念。可能なら続編やソフトではきちんと字幕つけて欲しい。 

 大会の解説者(この手の作品にとって実況解説者と言うのはナレーターにも近い重要な役だ)の一人にエリザベス・バンクスがいるのだけれど彼女はなんと本作のプロデューサーでもある。サム・ライミ版「スパイダーマン」シリーズのベティ・ブラント(JJJの秘書)や「ハンガー・ゲーム」シリーズのエフィーで知られる。エフィーはカットニスのプロデューサーでもあったのだけど、製作者としても見ごとな手腕を発揮しました。
 監督のジェイソン・ムーアは本作が初監督作品。でも舞台の方ではキャリアがあって、本作もそんな数々手がけた舞台のミュージカルの延長線上にあるとも言える。

 本作で重要な要素として取り上げられる作品に「ブレックファスト・クラブ」があって、劇中に映画のワンシーンが出てきたり(登場人物が見るシーンがある)、あるいはシンプルマインズの「Don't You(Forget About Me」が流れたり歌ったりするシーンがあって、僕はこの曲が流れると自動的に涙腺が決壊するよう身体が出来上がっているので感動というよりは笑える作品のはずなのにボロ泣きでした。というかこの作品どちらかと言うとかなり下品なガハハ系映画でもあるのでちょっと眉をひそめるようなシーンもないことはないのだが、そういう細かい疵を遥か彼方に追いやって好きになれるのはこの曲が使用されていることに依るところが大きい。僕の場合もうデヴィッド・ボウイの「HEROES」とシンプルマインズの「Don't You」が出てくると冷静な判断はできませんね。


 本作は続編もあって、本作の公開が遅れた事もあって「ピッチ・パーフェクト2」はもうすぐ10月16日に公開です。ちょうど本作のソフトレンタル・発売の頃にでしょうか(というか2の公開にあわせてその頃にソフトが発売されるように1の公開を設定したのかな、と思う)。できれば(今頃感想書いててなんですが)1作目を見て、そして2も見てほしいと思う。最初の方に今年のベストに入ると書いたけれど、もちろん2のほうがより面白かった場合はそちらがベスト入りする可能性も高いでしょう(本ブログのランキングルールとして基本シリーズからは1作品のみ入選します)。

 ライバルグループトレブルメイカーズの凄い嫌なやつは続編でも出てくるのかしら。

ピッチ・パーフェクト-オリジナル・サウンドトラック(完全盤)

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  • アーティスト: サントラ,イェーセイヤー,バーデン・ベラーズ,ジ・アウトフィット,ソッカペラズ,トレブルメーカーズ,フットノーツ,ハイ・ハイズ,アナ・ケンドリック,フラバフーズ,マーティン・ソルヴェグ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
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*1:そもそも女性アカペラグループが全国大会まで行きにくいのは低音の音程を出せる人が少なく音色にバラエティが少ないから、と劇中でも説明される