The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

復讐を乗り越えて英雄になれ! ベイマックス


 新年早々サボりぐせ。年末に観て、新年一発目として2回めを観た「ベイマックス」の感想です。昨年の僕のベスト第3位。

物語

 ここはサンフランソウキョウ。14歳のヒロ少年は天才少年だけど現在は非合法のロボットバトルばかりしています。兄のタダシはそんなヒロを見かねて自分の大学の研究室に連れて行き、そこで研究室の仲間たちを引きあわせ自分の開発したケアロボット、ベイマックスを見せます。最初は馬鹿にしていたヒロでしたが、そこの教授がロボット工学の第一人者キャラハン教授と知って入学を希望します。入学のためには大学の発表会で何か独創的な発明を披露しなければなりません。ヒロは一つ一つは小さなロボットだけれど大量に用い、それを脳波でコントロールすることで瞬時に思うがままに動かせるマイクロボットを披露します。マイクロボットは賞賛を受け、特に興味を示したのはハイテク企業の社長アリステア・クレインでした。
 入学許可をもらったヒロですが、その夜、会場が火事になり会場にキャラハンが取り残されたことを知ったタダシは助けに向かいますがそのまま帰らぬ人に。ヒロは悲しみのあまり大学にも行かず部屋に引きこもるのでした。そんな時偶然起動したケアロボット、ベイマックス。ヒロのジャンパーに残されたマイクロボットがある方向を目指して動いているのを見つけます。マイクロボットはあの火事ですべて焼けてしまったはずなのに。ベイマックスがそのマイクロボットの行きたい先を追いかけ、ヒロも一緒に後を追うとたどり着いたそこでは密かにマイクロボットの大量生産が成されていたのです。そこに現れた歌舞伎の仮面を付けた謎の怪人。辛くも逃れたヒロとベイマックス。ヒロはあの火事は事故ではなくあの怪人が仕組んだものでは無いかと考えます。タダシの復讐のためベイマックスを戦闘用に強化するヒロ。そしていざ怪人の目的を探ろうとするヒロとベイマックスを見守る4つの影が…

 ジョン・ラセターが製作総指揮として名を連ねているけれどピクサー作品ではなくディズニーの最新作。系列的には「塔の上のラプンツェル」や「アナと雪の女王」のようなお伽話を元にした正統派*1ディズニー作品と言うよりは「シュガー・ラッシュ」系統の作品か。特に大ぴらに語られてはいないけれど、かといって隠されているわけでもないので知っている人も多いと思うけれど、原作はマーベルコミックスの比較的マイナーな作品「BIG HERO 6」で、現在マーベルコミックスはディズニーの傘下になっていて、マーベルを買収した時からずっとディズニーで映画化できる題材を検討していたらしい。そして「BIG HERO 6」が見つかった。この「BIG HERO 6」は「X-MEN」で出てきた日本人ミュータント、サンファイアーことシロー・ヨシダが中心となって結成されたもので、当初のメンバーにはあのシルバー・サムライもいてどうにもヤクザな香りがする(映画「ウルヴァリン:SAMURAI」でも出てきたがシルバー・サムライはヤクザ。そしてサンファイアーもその親戚)しかも日本政府公認のヒーローチームということでかなりきな臭いチームだったりするが(といっても僕も読んでいないので「マーベル・キャラクター大辞典」を読んでの印象だけれど)、ヒロとベイマックス(ゴーゴーとハニー・レモンも)はその最初からのメンバーで天才少年とロボットという設定もそのまま。
 もちろん原作として使われていてもこの映画作品には直接マーベルは関わっておらず、この作品は他と世界観を共有しない独自のものとなっている。まずは舞台となっているのが日本ではなく、独自のサンフランソウキョウという架空の都市になっている点だろう。このサンフランソウキョウはその名の通りサンフランシスコと東京が一体化したような町であり、坂が多いところや路面電車などはサンフランシスコ、新橋あたりを思わせるガード下の様子などは東京を感じさせる。主人公のヒロ(コミックスでは姓はタカチホだが、映画ではハマダとなっている)とその兄であるタダシは日本人風だが兄弟の保護者であるキャスおばさんは特にアジア人とも白人とも判明しないなどアジア(日本)的なものを感じさせつつ無国籍な雰囲気に。

 原題はマーベルのコミックスのまま「BIG HERO 6」。日本ではベイマックスを中心に取り上げた「ベイマックス」のタイトル。これは各国様々のようで日本と同様「ベイマックス」をタイトルにしている国もあれば「BIG HERO 6」のままの国も。またチームによるアクション活劇であることを前面に押し出した宣伝方法をとる国もあればヒロとベイマックスの友情というかハートフルな雰囲気を前面に出した国も。日本は後者であるのだが、これは特に間違いでは無いと思う。やはりヒロとベイマックスと他の4人では若干扱いに差はある。そういう意味ではもちろんチーム物ではあるが主役はやはりヒロとベイマックスだろう。
 後は単に日本語吹き替え版と字幕版(一応どっちも観た)という以外に、日本で公開されたものとアメリカで公開されたものでは若干違いがあるみたいですね。これについても僕は別に構わないなあ、という思いのほうが強い。もちろんかなり物語を変更するような大規模なものだと困るけれど。「プレーンズ」のサクラ(日本用のキャラで他の国ではその国に合わせたキャラに変更されていた)みたいな各国それぞれのおまけみたいなものもあるだろう。この辺はCG製作によって容易になった一面もあるけれど実は「魔人ドラキュラ」(1931)の頃から同じセット同じ脚本を使って、でも役者は別で同時にスペイン語版を作るみたいなことをしていたので、そのアップデートされたものみたいな感じで別に構わないだろうという感じ。あと僕は別にオリジナル至上主義ではない。というか実写作品はともかくアニメは基本日本語吹替があればそちらを優先して観る。今回も字幕版の公開が少ないということで一部不満も観られたけれど、本来想定されている客層が子どもやその親であるといったファミリー層ならば、多分逆であるよりはよほどいいのだ。そして僕は便宜上オリジナルという言い方を、あるいは日本語吹替版という言い方をしたけれど、基本的には英語版と日本語版というべきであってその二つ(あるいは更に別の言語の吹き替えられた各国語版)は優劣の関係には無いと思っている。実写だとそりゃ役者の直接の演技が見えるわけで字幕じゃなきゃ!という気持ちもあるけれどアニメだと日本人がより作品理解を深めるためには吹替のほうがいいとすら思う次第。 
 またハートフルさを前面に出した宣伝方法についても観たかぎりけっして間違っていない。僕が読んだ雑誌では「ベイマックスは復讐ものだ!」みたいなものもあったが、これは観た後だとむしろ間違った認識のような気がする。確かにヒロは復讐に駆られ暴走するがそこから一歩踏み出してヒーローとしての行為を復讐にとどまらないものとしてきちんと描いている。バットマンスパイダーマンもそのヒーロー行為の最初の動機には身内を殺されたことによる復讐心があるが、そこから脱却し更に高みを目指している。もちろん復讐に限定した名作作品もあると思うが大衆的な人気を得るにはそこでとどまっていてはダメだろう。この作品は決して「復讐に励む」物語ではない。むしろ「復讐の呪縛から抜け出す」物語とも言える。
 まあ、あからさまに間違っている*2ならともかくそうでないなら各国それぞれの事情を鑑みて宣伝が作られて全然構わないと思うのです。

 基本は日本のみならず、アメリカでも定番の組み合わせである「少年とロボット」の物語。過去の「アイアン・ジャイアント」「リアル・スティール」といった作品を連想したしヒロとベイマックスが物事がうまく行った時の拳を突き合わせる仕草(パラララララ♪)は「ターミネーター2」を思わせる。ベイマックスのデザインには日本からコヤマシゲト氏が関わっているそうで、確かにベイマックスのデサインは「HEROMAN」のデザインと共通するものを感じる。そういやあれもスタン・リー作品だ。ベイマックスはコミックスでは(僕が確認したかぎりでは)巨漢半魚人みたいなロボットと言うより人造人間という感じ(竜に変身したりするシンフォ−マーという物)だったり、最近のものだと映画同様白いロボットだけれどそれでも屈強なイメージだったりするので、この変更はかなり思い切っていて、やはりマーベルコミックスそのままではないのである。元々ケアロボットとして作られていて後から戦闘用にバージョンアップされたりもしている。赤いアーマーを装着するがその前に緑の質実剛健なものも装着したり。ベイマックスの声は川島得愛。この人は「バットマン ザ・フューチャー」のバットマン=テリーのイメージがあるのでDC、マーベル両方でヒーローの声を担当したことに。タダシの声は小泉孝太郎。僕は父親小泉純一郎)にはかなり政治的に批判的だったりするけれど悔しいかな、この息子の演技は良かったし、ドラマの方でも「ペテロの葬列」とか超面白かったし演技も良かった!
 ヒロもメガネをかけた典型的な日本人少年という感じだったコミックスに比べるともっとフラットなイメージに。兄のタダシとともにちゃんと東洋人であることを認識させながら、かといって必要以上にその辺りを強調しないデザインか。
 他のチームメイトには細く長身のハニー・レモンややはり東洋人少女ゴー・ゴー、巨漢の黒人だがその見た目に反して繊細で神経質なワサビ、そして学生ではないけれど大学に入り浸っている怪獣マニアのフレッドというチーム構成。それぞれ大学での自分の研究(フレッドの場合は趣味)を活かしたスタイルでスーパーヒーローとなる。ハニー・レモンはスキンシップが激しいので免疫のないオタクはすぐ勘違いして暴走しそうだな…
 ハニー・レモンもゴー・ゴーもいいけれど僕が一番好きになった女性キャラはキャスおばさんでこの人は劇中では具体的な年齢は出てこないけれど、魅力を保ったまま歳を重ねた妙齢の女性としてとてもいい感じである。程よく肉をつけた二の腕とか胸とか。ハニー・レモンはちょっと細すぎるよね。キャスおばさん役は菅野美穂でちょっと癖はあるかな、と思うけれど上手かったと思います。事前に言われなければ顔が浮かぶことはない。
 そして、やはり僕のイチオシというかこれは完全に日本語吹替版だから魅力増し、となったのがアリステア・クレイン。演じるは慇懃無礼な役をやらせたら3本の指に入る*3森田順平!もうね、どうせなら「ホビット 決戦のゆくえ」のスランドゥイル卿の森田順平さんと合わせてはしごして堪能したら良いと思いますよ。ただ字幕版でもこのクレイン役は「ROCK YOU!」や「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」などでお馴染みのアラン・テュディックなのでコチラはそれはそれで。

ベイマックス オリジナル・サウンドトラック

ベイマックス オリジナル・サウンドトラック

The Art of ベイマックス(ジ・アート・オブ ベイマックス)

The Art of ベイマックス(ジ・アート・オブ ベイマックス)

 とにかく躍動感に溢れる作品で、その作りこまれた繊細さとアクションの激しさはまさにスーパーヒーローもののカタルシスを味あわせてくれる。こういう作品が作られると何かと「日本ネタ」が取り上げられたり、逆に「日本では作れない」とか日本がらみであることを中心に扱われるけれど、そういうのはあくまで予備知識程度にとどめて一個のエンターテインメント作品として堪能したほうがいいと思います。マーベル作品としても上位にくる快作!

 ここからちょっと下世話な小ネタを3つほど。

その1

 元のマーベルコミックスではヒロの苗字はタカチホ。そして敵として登場する怪人は歌舞伎調の仮面をかぶっている。カブキでタカチホとくればこれはもう「ザ・グレート・カブキ」であろう。現在もグレート・ムタTAJIRIなどに受け継がれる日本人レスラーの系譜。東洋の神秘=オリエンタルミステリーとして日本はもちろんアメリカでも(というかアメリカ発?)一世を風靡したザ・グレート・カブキ。ロボットとヒーローの流れでは別段、この映画で日本リスペクトみたいなものはなかった気がするけれど、カブキリスペクトだけはきっちり感じましたぜ!

その2

 クライマックスでベイマックスがポータルの異空間の中で自己を犠牲にしてヒロを助けるシーン。とても感動的だが、ここではアーマーがパージされて下半身だけ赤いアーマーを装着して、右手を除くとベイマックスの白いボディがむき出しになっている。これが妙に裸に見えてしまう。しかも下腹が突き出たおっさんに!別に何にも装着していないプレーンなベイマックスはいわば全裸の状態だが、この段階では愛らしいもののとくに裸だなあ、とかは感じない。ところが半端にアーマーが装着されていることでそれ以外の部分が「裸」として認識されてしまうのだなあ。クライマックスの良いシーンだけにちょっと妙なおかしさを感じてしまった。
 これは日本のTVドラマ「ロボット刑事」でロボット刑事Kが普段は服やコートを着ているがゆえに戦闘シーンでそれをバッと脱ぎ捨てると妙に裸に見えてしまうのと似ている。

ロボット刑事 Vol.1 [DVD]

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その3

 ディズニーであろうとも一応マーベルコミックス映画化作品。エンドクレジット後のお約束も健在。今回は途中でも家族の肖像画として出てきたフレッドの父親が実はスタン・リー御大である、というもの。ヒーローとなったフレッドが父親肖像画に向かって話しかけると肖像画が扉となって秘密の部屋が。そこにはいかにもスーパーヒーロー用のものといったコスチュームが隠されていた。実はフレッドの父親もスーパーヒーローだったのだ!振り返るとそこには父親=スタン・リーが!
 これまでのスタン・リー出演でもかなり上位に来る名シーンだが(サム・ライミ版「スパイダーマン2」のラストでハリーが父親(ノーマン=グリーン・ゴブリン)の秘密を知るシーンのオマージュか?とも思うのだけれど)僕はここである漫画を思い出してしまった。それは唐沢なをきの「まんが極道」。この作品の4巻にそっくりなシーンがあるのだ。内容はあれなんで省略しつつもこんなシーン。


 まあ細かいことは各自確認して下さい。

Excelsior!

*1:正統派といってもこの二つも(あるいはそれ以前の作品から)色々現代的な解釈も多く、単にお伽話題材だから正統派、というくくりもいずれ亡くなるような気もするけれど

*2:ウォッチメン」とか最初の「トランスフォーマー」の予告編とかあるいは有名ドコロだと「マスター&コマンダー」とか

*3:ほかは大塚芳忠とか中尾隆聖とか