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チェイシング「完璧な」エイミー ゴーン・ガール

 この12月、どうしても観たい映画は3本。ひとつは「ホビット決戦のゆくえ」。もう一つは「ベイマックス」。そして残る一つが「ゴーン・ガール」だった。デヴィッド・フィンチャーの最新作。とりあえずこの3本だけは絶対観よう。後は様子を見て…という感じ。いずれもすでに観賞は終わっていて、感想を書いていきたいと思う。「ゴーン・ガール」を観賞。

物語

 エイミーとニックは元ライター同士、美男美女で理想の夫婦だ。元はニューヨークで働いていたが現在はニックの故郷ミズーリ州ノース・カーサジへ。ニックは双子の妹と共に「ザ・バー」というバーを経営している。
 5年目の結婚記念日、エイミーが行方不明になり、家の中で争われたただならぬものを感じたニックはすぐに警察へ知らせる。エイミーの母は児童文学者でベストセラー「完璧なエイミー(アメイジング・エイミー)」というシリーズを出していた。そしてエイミーこそそのモデルだった。平和な街で起きた有名人の失踪事件に町もマスコミも騒ぎ出す。最初のうちは同情を持って取り上げられたニックだが、やがてバーの名義がエイミーのものとなっていたり、夫婦仲はうまくいっておらず、ニックが不倫をしていたことなどが分かってくる。悲劇の夫から疑惑の夫へ。果たしてエイミーに危害を加えたのはニックなのか。そしてエイミーの行方は?

 予告編の段階ではなんとなく「隣人 ネクストドア」のようなニックが犯人だけれど、本人自身もそれに気づいていない、というようなサイコサスペンスなのかと予想した。良くも悪くも過去の観賞経験から物語を予想してしまう癖がついていて、その意味では「大体こんなもんだろ」という侮りはあった。ところが実際の作品はこちらの予想を超えてくるもので、サスペンスではあるが、むしろブラックコメディとでもいうべきシロモノだったのだ。
 原作はギリアン・フリンの同名作で彼女は脚本も手がけている。この作品、大きく3分割できると思うが、最初のうちは「失踪後」の時間軸とエイミーの書いた日記による「回想」が交互に続く。日記の方はエイミーの一人称であるのでどちらかと言うと観客はエイミーに共感を抱く。この「回想」はすべてまだ発見されていない日記にもとづいていて、「失踪後」は特に誰かの視点には立っていない。そこで前半は観客もエイミーを心配しつつニックに疑いを抱いていく。そして明らかな事実であるニックとエイミーの夫婦不仲や不倫、といった事柄が明らかになっていく。この時点でニックは絶対絶命。
 しかし中盤で真実が明らかになる。全てはエイミーが企んだ自作自演でありエイミーは綿密な計画のもと自分を抹消し、その罪をニックに被せるつもりだったのだ。ここでエイミーは急激に悲劇のヒロインからサイコパス(劇中ではソシオパスと呼ばれる)へと観客の認識も変わる。それではあの「日記」は?あの「日記」もいずれ警察に発見されることを見越して書かれたものであった。するとその「日記」に基づいて描かれた「回想」シーンはすべてウソか?もちろん全部が全部ウソではないだろう。それでもニックが犯人であるとの印象を警察に決定付けるため書かれたものであることは確かなのだ。
 エイミーが以前に交際してしかし現在はストーカー扱いされた人物や高校時代の相手デジー(ニール・パトリック・ハリス)が登場するが、いずれも実はエイミーにはめられた可能性が高いことが分かる。失踪前のエイミーとは親友と思っていたノエルも妊娠していたことからエイミーに利用されていたのだった。余談だがニール・パトリック・ハリスといえば「天才少年ドギー・ハウザー」であり「スターシップ・トゥルーパーズ」の超能力者カールなど「天才」役が多い。しかしエイミーはその天才を凌駕して虜にするのであった。
 中盤はニックが真実に気づく一方、警察やマスコミから追い詰められていき、それと平行してエイミーの逃亡生活が描かれる。太り、顔に怪我を負い、髪の色を変えて話題のエイミーとは別人のように冴えない女性に扮するエイミー。前半のサスペンスな雰囲気は一転、コメディタッチになる。しかしモーテルで知り合った男女に逃亡資金を見られ、奪われてしまう。逃走計画の挫折。しかしここからが彼女の本領発揮。エイミーはデジーに電話すると彼の別荘に匿われる。エイミーの「ニックが自分を殺そうとしたから逃げた」という話を信じて、頼られたことを嬉しがるデジー。彼はエイミーが自分のもとになったと信じこむ。
 そして最終章。ニックは自らの疑いを晴らすため、TVに出る。浮気を認め、夫として完全ではなかったことを謝罪。そしてエイミーに帰ってきて欲しいと訴える。TV出演は功を奏し、再びニックに同情が集まる。それはエイミーもしかり。
 エイミーは自らデジーを誘い、行為中にデジーを殺す。そして血だらけのまま自動車でニックの待つ自宅へ帰り着く。デジーに監禁されていたが隙を見て反撃したのだ、と。もちろん全てはウソ。しかし工作はバッチリ。そしてニックはそんなことは信じない。しかし今やニックはエイミーに取って結婚前に見たような理想の男性。エイミーはニックにニックの子供を妊娠したことを告げ、二人は夫婦生活を続けることを決める。イカれた夫婦は再びTVへ。

 主演はアゴことベン・アフレック。今回はモヤモヤっとしたぱっと見はイケメンだけど優柔不断でダメな男を好演。この場合好演というのは本当に頼りないダメな男にしか見えないということ。特に明確な表情を表に出さず、結果として常に半笑いのような表情で記者会見に臨んだり、うかつに女性とツーショットを撮ってしまったり。ベン・アフレックのいけ好かない部分がいけ好かない形で発揮されてて、とても良かったと思う。双子の妹マーゴ役の人はキャリー・クーンという人でメガネかけてると美人なのに取ると冴えない、というフィクションでよくある描写の逆を行く人だった。この双子という設定で劇中でも批評でもニックとマーゴが近親相姦の関係にあるんじゃないか、とか疑われたりするんだけれど、僕はそれほどこの二人が依存しあっているようには見えなかったのでそう思った人はおそらくエイミーの策略にまんまと引っかかっているのかもしれない。
 女性が活躍する映画で刑事役のキム・ディケンズも凛々しい(パートナー役の警官がなんか面白い)。後はミッシー・パイル!出てくるだけで強烈な印象を残す人だ。
 しかし、やはり一番はエイミー役ロザムンド・パイクだろう。この人は007の「ダイ・アナザー・デイ」でボンドガールを演じ(ボンドを裏切る方)ていて、その後は「プライドと偏見」の長女役なんかが印象深いか。最近では「アウトロー」のトム・クルーズの相棒役を演じた。ここでは美しい、スタイルもいい見せかけの「完璧な」エイミーと、体重を増やし、冴えないおばさんを装う(しかしある種の解放感からとても楽しそう)エイミーとをまさに完璧に演じている。

 ところでベン・アフレックでエイミーといえば「チェイシング・エイミー」である。ケビン・スミスのジェイとサイレント・ボブサーガの1編であるこの作品はベン・アフレック演じる漫画家がやはり漫画家のエイミーに惚れるが彼女はレズビアンだった、というお話。ベン・アフレックケビン・スミスの作品にはいくつか出ていてその都度、役柄は違うのだけど(「ドグマ」では主役)、個人的には「モール・ラッツ」のいけ好かない洋服店店長なんかがオススメですね。「モール・ラッツ」にはスタン・リーも本人役で出ていて主人公に「ファンタスティック・フォー」のMr.ファンタスティック(リード・リチャーズ)のアソコはどうなっているのか執拗に聞かれて呆れる役。リー御大曰く「コミックスのヒーローの性器ばかり気にするのは君が初めてだ」。閑話休題
 で、劇中でも出てくる「完璧なエイミー(アメイジング・エイミー)」などからつい「チェイシング・エイミー」を連想してしまった。エイミーは両親がそう求めたのではないにしろ、モデルにされた「完璧なエイミー」を自分のダブルのように感じている。劇中では特に両親に対する恨み事は描かれてはいないけれど、おそらく「完璧なエイミー」と比べられることがエイミーに取って苦痛であり、しかし誇りでもあったのだろう。それは自宅の書斎に「完璧なエイミー」のポスター等が飾られていたことからも分かる。してみれば彼女の計画はニックのみならず「完璧なエイミー」から逃れる術でもあった。逃れるには死ぬしかないのだ。その上で自分の死に対しての罪をニックに着せられればより完璧。エイミーは自分自身が話題となりフィクションのエイミーを過去に追いやることで自分こそが「完璧なエイミー」となるのだ。

 監督はデヴィッド・フィンチャー。作風としては一見(サスペンスというジャンルから)前作「ドラゴン・タトゥーの女」や「ゾディアック」あたりを思わせるけれど、似ているのは「ソーシャル・ネットワーク」だったりブラックコメディな部分は「ファイトクラブ」も似ている気がします。特に「これだ!」というビジュアル的に優れているシーンはなかったりするんだけれど(これは厳密には無い、と言うよりこれ見よがしに映していないだけで、あらゆるシーンが計算され意味のある絵作りになっていると言ったほうが正しいかと思う)、例えば廃墟となってスラムのようになったモールのシーンなど凄いシーンはたくさんあります。
 これ製作にリース・ウィザースプーンがいて、何でも最初は彼女がエイミー役を自分で演じるつもりだったらしいですよ。それだとコメディ具合が増してしまってちょっと方向性がおかしくなった気もしないでもない。

 今は現在の状態に満足しているエイミーだけど時間が経ち、世間が彼女たちに興味を無くし、再びニックが凡庸な夫に戻った時、エイミーは再びやるだろう。その時、エイミーは完璧でいられるのか?

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 多分あと一回簡単に更新して、年内のブログ更新終わります。