ガンズと薔薇 美女と野獣
古典の映画化作品3本め!フランスのお伽話*1「美女と野獣」はこれまでにも何度も映像化されていて(基本タイトルは全部「美女と野獣」)、有名なところでは1946年のジャン・コクトー監督版、1991年のディズニーアニメ版、後は1987年から始まるリンダ・ハミルトンとロン・パールマン主演のTVシリーズなどか。多分僕も含めて一番馴染みの深いのはディズニー版であるが、当然あの作品は原作に忠実というわけでもなく、今度の作品(これも別に原作に忠実というわけではないようだが)とはおおまかな設定と物語では同じだが細部はかなり違う。クリストフ・ガンズ監督作品「美女と野獣」を観賞。
物語
母が子に語る物語。その商人には3人の息子と3人の娘がおり、妻をなくしても幸せに暮らしていた。しかしある時所有する三隻の船がすべて嵐で遭難し一家は破産。家を出て田舎で暮らすことになる。兄姉は不満を漏らすも末娘のベルはこのささやかな生活に幸せを感じるのだった。商人は長男を後継者にやり直そうとするも、長男は悪い輩に借金を。息子を探してその輩に追われた商人は森で迷い、謎の城にたどり着く。城内で食事と子どもたちに頼まれた品々を手に入れる。帰ろうとした時にベルが望んでいたバラを忘れていた事に気づき庭園のバラの花に手を伸ばすが城の主である野獣に襲われる。バラを盗んだ罰として商人を殺そうとした野獣は商人に子どもたちと別れをいう猶予を与える。家に戻った商人は子どもたちに事の次第を話し別れを告げるが、それを聞いたベルは父に変わり城に赴く。城にはベルのために用意したドレスや食事が用意してあり、そこでベルと野獣の奇妙な生活が始まった…
監督はクリストフ・ガンズ!フランスのエンターテインメント派とでもいうべき監督で日本の漫画原作の「クライング・フリーマン」を映画化したりフランスの実際にあった事件を映画化した「ジェヴォーダンの獣」。そしてなんといってもコナミのゲームの映画化「サイレントヒル」の監督である。僕としても大好きな監督の一人で、この監督がこの題材で撮るならそれは観ねばなるまい、という感じ。ただ、過去作に比べるとこの「美女と野獣」はファミリー向けファンタジーとでもいうべき感じのもので、主演のレア・セドゥやヴァンサン・カッセルは脱ぎたがりだし、ベッドシーンなども躊躇しないタイプの役者を起用しているがヌードもなければ(厳密には少しあるが乳首などは見せず非常に抑制の効いたものとなっている)、グロテスクなシーンもなくその辺で監督の名前で期待した向きにはちょっと残念な作品といえるかもしれない。
この映画はフランス映画でハリウッド映画ではないので一概には言えないけれど、多分サム・ライミが「オズ はじまりの戦い」を撮ったり、ブライアン・シンガーが「ジャックと天空の巨人」を撮ったみたいな、すでにヒットを飛ばした監督がその名をさらに大衆に広めるためにファミリー向け大作ファンタジーを撮った一連の流れの中にこの作品も位置づけられるのではないかと思う。ただ、ティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」あたりから始まり最近だと「マレフィセント」まで連なるCGで作られた綺麗だけどまるで無菌室のような自然背景*2の作品に比べると土の臭いを感じるというか、そのへんはちゃんと作られているように思った。
で、ティム・バートンといえばこの映画を観て最終的に連想したのはティム・バートンの「シザーハンズ」。やはり冒頭子供に語りかける語り主が最後にヒロインだったことが判明する構造とか、世間から隔絶した男とそれに理解を示すヒロイン。そして攻め立てる者達という関係は同一だ。というか「シザーハンズ」は元の話は「フランケンシュタイン」がモデルだけれど、この辺もやはり古典的なある種おとぎ話の定型であるといえるのか知れない。そもそも物語自体は本作よりディズニー版の方が「シザーハンズ」と近い気がする。
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主演ベル役はレア・セドゥで前述したとおり今回は脱いでません。故に妖艶さは出さず、むしろ素朴なヒロインとしての魅力を全面に押し出している。すでにメジャー作品でも女殺し屋だったり、ヌードも普通に披露する人なのに見かけは少女っぽいという人だが、今回はその少女っぽさを全面に出した感じか。あるいは少年ぽいとさえ言えるのかもしれない。とにかく裕福に育ったためどこか頼りない兄や姉たちに比べると素朴ででも芯の強い人柄として描かれている。このへんのキャラクター設定はディズニー版とほぼ一緒か。正直艶やかなドレスを着ている姿は綺麗だとは思うけどあんまり魅力的ではないかも。この辺は個人的は見解だけれど。この好奇心旺盛だけど優しい娘が野獣の心をつかみやがて呪いを解く。
野獣はヴァンサン・カッセル。クリストフ・ガンズ作品では「ジェヴォーダンの獣」に出演。後は僕が観たものだと「ブラック・スワン」か。フランス人男性と聞いてイメージするおしゃれな雰囲気と言うよりは元々野性味溢れる俳優ですね。久米田康治の「さよらな絶望先生」だったか、「野獣だった時は格好いいのに、人間に戻ると残念!」等と言われる「男狼」状態(byドラゴンボール)だったディズニー版野獣に比べると、こちらは人間に戻った素のヴァンサン・カッセルのほうが格好いい。野獣はライオン風で多分着ぐるみではなく(撮影時はわからないけれど)、CGで野獣の表情を操作していてそれはヴァンサン・カッセルの表情や演技を元にしているのかもしれないけれど、ちょっ線が細い感じで正面から見るとあまり格好良い感じはしなかった。なんていうか毛並みのフサフサ感とか眼球の存在感が足りない。
後はビーグル犬が元となっている城の妖精?みたいなのがアメリカのものとも日本のものともまた違うキモかわいさで良かったです。
その他野獣の城の財宝を狙う「悪い輩」ペルデュカスに「ラストスタンド」のエドゥアルド・ノリエガ。今回も太い眉毛にギョロッとした目で楽しそうに悪役を演じている。この悪党ペルデュカスに付き添う占い師の女が結構良いキャラでした。
他、ベルの兄と姉が三男を除き基本役立たずで泣ける。
この映画ではなぜ野獣になったのか?というのが描かれるがこれが「鶴の恩返し」というか「ごんぎつね」というかある種の異類婚姻譚による呪いで自身の妻がニンフと知らずその正体である牝鹿を執拗に狙いいざ狩りに成功したらこれが妻だったので妻の父である森の神に呪いを受けたというもの。これはこの映画のオリジナルであるらしい。
ペルデュカスたちが野獣の城に入ると巨大な石像が襲いかかりこの巨像の動きは中々スリリング。3体の巨像は野獣が人間だった時近習だった者達で石像となってからもきちんとその個性が生かされている。
ラストは先に書いたとおり子どもたちに物語を語る語り部である母親がベルその人であったことが判明。子どもたちはそれが自身の父母の物語とは特に思わぬまま幸せな家庭を満喫する。人間に戻り王の座と城を捨て農民として暮らす元野獣。椅子に座り本を読む父。晴耕雨読の生活。財宝は無くとも幸せな暮らしだ。
これまでのクリストフ・ガンズ監督の作品に比べるとバイオレンスもアクションも殆ど無くやはりファミリー向けと言っていいだろう。これまでの作風を期待すると拍子抜けするかも。とは言え、ところどころにガンズらしい毒っけも隠されていて、一本の映画としてみれば十分良作と言える。
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