The Spirit in the Bottle

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唐沢寿明が中の人 イン・ザ・ヒーロー

 アニメの声優や特撮番組のスーツアクター、いわゆる顔を出さない演者を指して「中の人」などというが*1僕の記憶ではおそらくアニメの声優より、特撮番組のスーツアクターの方が早く認識していたと思う。アニメを声優などに注目して見だしたのは1988〜89年頃だが、スーツアクターという存在を知ったのは多分1984年の「ゴジラ」でゴジラに入っていた薩摩剣八郎氏だと思うから。
 一般に裏方と思われているが、中には熱烈なファンを持つ人もいるしそこに注目して作品を見る人もいるだろう。今回はそんな「中の人」を取り上げた作品。「イン・ザ・ヒーロー」を観賞。

物語

 子供に人気の番組「神竜戦士ドラゴンフォー」。その映画版の制作が始まった。当初は長年レッドのスーツアクターを務める本城渉が初の顔出しでレッドの悪の分身であるブラックを演じるはずだったが、直前でその役を売り出し中のアイドルに取られてしまう。そのアイドル一ノ瀬リョウの目標はハリウッドに向いており、映画を「ジャリ番」と言って馬鹿にしている。やがて一ノ瀬を鍛えていくうちに本城にもチャンスが回ってきて・・・

 これまでもスタントという方面あるいはヒーローショーのアクターという形で裏方をテーマにした作品はあったと思うが特撮ヒーロー番組のスーツアクターを主役にしたものはなかったのではないか。スーツアクターと言うと実は最初に思い浮かぶのは中島春雄薩摩剣八郎と言った怪獣映画で怪獣の中に入っている人たち。いわゆる等身大ヒーローとはまたちょっと違う。初代「ウルトラマン」に入っていた古谷敏はその長身が生かされ、続編の「ウルトラセブン」では顔出しのアマギ隊員に抜擢された。ちなみにウルトラマンの特徴である及び腰の戦闘スタイルは古谷氏が特撮はもちろん火薬による爆発に不慣れだったことから来たスタイルだったという。
 等身大ヒーローの方で言うとまずは仮面ライダー1号本郷猛こと藤岡弘、その人。TVの最初の方ではその多くで実際に藤岡弘、がライダーの中の人も担当していたそうだ。そして撮影中の事故で藤岡弘、が大怪我。離脱を余儀なくされてそのことが結果として仮面ライダー2号一文字隼人を産み、藤岡弘、が復帰した後はダブルライダーで番組が盛り上がることとなる。仮面ライダーで怪人やスタントを担当したのが大野剣友会で中村文弥氏や中屋敷鉄也氏などは顔出しでもシリーズに出ていたりする。
 僕のリアルタイム(昭和ライダーの多くはリアルタイムではなく小学校時の再放送が出会い)のヒーロー番組だと「鳥人戦隊ジェットマン」で敵組織次元戦団バイラムの幹部グレイを演じた日下秀昭氏。後は大葉健二氏や渡洋史氏なんかは元はスーツアクターだけどしっかり主演番組を持った人たち。現在だと「仮面ライダー電王」で様々な人格の電王を演じた高岩成二氏とかか。この間、「乃木坂ってどこ?」で松井玲奈さんが尊敬する人の1位に上げてましたね。他にも知る人ぞ知るではあるだろうが、スーツアクターでも有名な人はたくさんいるのだ。
 
 さて、まずはこの映画は唐沢寿明を主役に据えた時点である程度目論見は成功したと思える。というのも唐沢寿明はそのキャリアをスーツアクターとして出発させていることは有名だ。「愛という名のもとに」あたりでブレイクした後は基本的にそういう番組には出ていないが、下積みの頃は仮面ライダーにもスーパー戦隊シリーズにも出ていて有名なところでは「ライダーマン」を演じていたらしい(「仮面ライダーZX」特番?)。大和ハウスのCMで役所広司が渋ったダイワマンの役を嬉々として引き受ける唐沢寿明、というものもそういう背景を知るとより楽しめるだろう。

 これは劇中で主にピンク(女性役)に入る寺島進もそうだそうでそのキャリアの初期をこういう特撮番組で積み重ねた人も多いのではないだろうか。唐沢寿明寺島進もそういう己のキャリアが役に深みを与えていることは間違いない。もしかしたら劇中のようにチャンスを知名度の高い他の役者に取られた、なんて経験もあったかもしれない。
 ところが!一方で唐沢寿明は過去にその知名度で他人のチャンスを奪った過去もある。今回で言えば一ノ瀬リョウの役回りをやったことになる。以前も「レゴムービー」のところで書いたが「トイ・ストーリー」の吹き替えだ。あの時本来はウッディ=山寺宏一、バズ=玄田哲章でキャスティングされ実際アフレコも終わっていたらしいが、当時の山寺宏一では知名度に欠け宣伝材料として乏しいと判断されウッディ=唐沢寿明、バズ=所ジョージとなってしまった。そしてこれがまた素晴らしい出来だったのがまた複雑*2なのだが、このように唐沢寿明は両方の気持ちが分かる俳優といえるのではないだろうか。
 だからこの映画はある意味唐沢寿明のための唐沢寿明映画である。

 劇中で展開される、当初一ノ瀬が特撮ヒーロー番組を「子供向け」と言って馬鹿にしたりあるいはハリウッド映画の日本側プロデューサーと思われる加藤雅也はあからさまに馬鹿にしたりする周囲の偏見は現在のものというより、もう10〜20年ぐらい前の感覚ではないかな、と思う。僕が特撮ヒーロー好きだからそう思うのかもしれないが、今どきあんな風に馬鹿にする人は少ないんじゃないだろうか。一年間に渡って一つの役柄を演じられる番組というのはもう日曜朝の「スーパー戦隊」と「仮面ライダー」を除くとNHK大河ドラマくらいしか無くて、しかも他のドラマにはない特殊な経験を積むことができることでこれらは若手には格好の場とされる。アクションはもちろん(スーツを着てのスタントはプロがやるとはいえある程度顔出しのアクションも求められる)、アフレコによる声優技術(今は基本同録となっているらしいが、当然変身後のシーンなどはアフレコを必要とする。これによって特撮出身の声優も多い)、そしてその撮影期間には映画の撮影も含まれる。大河ドラマは基本的にすでに名の知れた俳優が主演を務めることが多いがこちらは無名の新人が抜擢されることも多く現在は若手俳優の登竜門となっている。だから今時の若手俳優が馬鹿にする、というのがちょっと一昔前の認識、という気がする。後は、頻繁に「顔も名前も出ない」と言われているけれど、普通顔はともかく名前は出るよねえ(もちろんレッド役としてクレジットされたりするのとはまた別だろうけれど)。劇中の世界は現実とはちょっと違うのかもしれない。
 とはいえ、その偏見がドラマを動かすことも事実なのでその意味では構わないのだが。
 一ノ瀬リョウ役の福士蒼汰はご存知仮面ライダーフォーゼこと如月弦太朗。元が特撮番組出身なので劇中のように特撮番組に偏見などないだろうけれどこちらはこちらで背景が描かれ、その上昇志向でもって決してただ嫌なやつではないところは良かった。唐沢寿明の娘として杉咲花ちゃんが出てますね。弦ちゃんと花ちゃんはここで知り合ってそのあと一緒にauショップに行ったり花火大会に出かけたりする仲になったに違いない!

 クライマックスは一ノ瀬がオーディションに合格したハリウッド映画がノーワイヤー・ノーCGのアクションシーンを撮ると監督がごねてそれができるのは唐沢寿明だけだ!という展開になる。ただこのハリウッド映画というのが大変へんてこりんな代物で、監督がこだわる意味がわからないし、そのシーン(燃える本能寺で白ニンジャが大立ち回り)だけならオールセットなんだから別に日本で撮る必要なくね?と思ってしまう。しかも実際に劇中で出てくるそのシーン(あくまで「イン・ザ・ヒーロー」としての映像なのか、実際にそのハリウッド映画のワンシーンとして出てくるものかはちょっと分からないが)はCGもワイヤーもガッツリ使っている!てか最初からグリーンバックじゃん!大作のはずなのにいきなり松方弘樹(本人役)はじめ劇中のHAC(元ネタはJACと思われる)の役者たちが敵の黒ニンジャ役として参加できるのもよくわからない。
 このハリウッド映画がらみのシーンは全体的に???となる部分が多くて映画全体としては面白いのにクライマックスが微妙…という感じ。日本の劇中劇としては*3「神竜戦士ドラゴンフォー」がそこは東映が実際に手がけているだけあって本物のスーパー戦隊と比べても遜色ないレベル(ピンク役は「特命戦隊ゴーバスターズ」のイエローバスターこと小宮有紗)に思われたのであくまでこの番組、そしてその映画版を通しての話に限定したほうが良かったと思う。

 映画製作の裏側映画、という側面ももちろんあるんだけれどここで描かれる裏側はあくまで映画用に誇張された物、と思ったほうが良さそう。全体的に面白いけれどちょっとモヤッとする部分も多い。それでもある意味トム・クルーズ主演映画が総じてトム・クルーズ映画であるように唐沢寿明映画としてきちんと成立しているので、そこは見どころだと思う。

イン・ザ・ヒーロー (小学館文庫)

イン・ザ・ヒーロー (小学館文庫)

*1:特撮ヒーロー番組のヒーローの変身前の役者をいう場合もあるが、多分例外

*2:唐沢寿明の吹替技術が上手いのは過去のキャリアとも関係有るのかも

*3:邦画の劇中劇って映画の中の住民はこんな低レベルの作品を見させられているのか、と思うぐらい作りが適当なものが多い