The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

疾風怒濤を体感せよ! イントゥ・ザ・ストーム

 予告編の段階では全く興味がそそられなかった作品。なんだかいかにもスペクタクル描写にだけ力を注いだ空っぽな大作、という印象を受けてスルー予定だった。でもTVスポットを見たら主演がトーリン・オーケンシールドことリチャード・アーミティッジで、さらにその時点では名前が出てこなかったがどこかで見て印象に残っていた女優さんが出ていることが分かったので急遽観たい作品に早変わり。公開早々に観に行ってきたのだった。「イントゥ・ザ・ストーム」を観賞。去年の夏は「イントゥ・ダークネス」だったが今年はストームにイントゥだ!

物語

 アメリカの田舎町シルバートンで竜巻が発生。それを映像に収めるべく竜巻ハンターの一団が追う。一方街では高校の卒業式が行われ教頭のゲイリーは仕事に追われている。卒業式のカメラマンを命じられた映像部の部長でゲイリーの息子のドニーは想いを寄せるケイトリンの課題のビデオ撮影のために卒業式の撮影を弟のトレイに任せて廃工場へ向かう。さらに馬鹿げた映像を動画サイトに上げることを至上の喜びとする命知らずなボンクラもいた。各々がそれぞれの目的でカメラを回す中、街には史上最大の竜巻が発生しようとしていた!

 今年の話題作といえば新しいハリウッド版「ゴジラ」であるが、その前のローランド・エメリッヒゴジラもエメリッヒが参加するようになるまで紆余曲折があった。エメリッヒは自分が参加した段階で脚本もデザインも新規にしたがその前に監督候補だったのがポール・バーホーベンの作品や「ダイ・ハード」などの撮影で知られ、キアヌ・リーブス主演の「SPEED」を大ヒットさせたヤン・デ・ボンである。デ・ボン版の「ゴジラ」はグリフォンという新怪獣が登場する予定でゴジラのデザインも上半身は日本のゴジラに準拠しているが足が獣脚になっている。この時のデザイン画と思われるものはちょっと検索すればネットでもすぐ出てくるはずである。で結果デ・ボン版の「ゴジラ」は事前の段階で予算が大幅に超過することが分かり、結局ヤン・デ・ボンは降板、エメリッヒの手に渡り制作されることとなった。
 で、なんでこんなことを書いたかというと「竜巻」をテーマとした映画の嚆矢といえばやはりヤン・デ・ボン監督の1996年作品「ツイスター」だと思う。そしてこの映画は元々制作されなかったデ・ボン版「ゴジラ」の企画が怪獣を竜巻に置き換えて流用されたものである、と言われている。もちろんそのまま置き換えただけ、ではないだろうが劇中の竜巻はなるほど怪獣と言われてもおかしくない破壊っぷりだったし、劇中出てくるただ逃げるだけでなく調査のため追いかける、という描写などはもしヤン・デ・ボン監督作の「ゴジラ」が作られていればこんなんだっただろうなあ、と想像させるには十分なものだった。
 だから今回の「イントゥ・ザ・ストーム」は明確に意識するとしないとに関わらず多くの人が「ツイスター」と比べてしまうだろう。この夏は広島や高知などで大雨災害があったり、そうでなくても311以降、パニック・ディザスター映画を笑って観れる、という風には中々出来ないのだがこの映画予告編の印象(それこそエメリッヒ系の大味なバカ映画というイメージ)に比べると結構堅実な作品だった。それは主に表現方法による。

 この作品、なんと驚きの変則型POV。「クロニクル」同様、劇中の映像は実際に登場人物が劇中でカメラを回していたもの、という設定。変則型と書いたのは「クロニクル」もそうだったがカメラが1台ではなくまた複数のカメラが登場すること。この辺は「クローバー・フィールド」や「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「トロール・ハンター」などの1台のカメラだけで回したのと違ってちょっとご都合主義っぽくもある。個人的な志向だけれどPOVの場合使われたビデオカメラはきちんと回収されて、そこに残された映像を編集したものが映画として公開される、という形式を守って欲しいと思ったりする。「クロニクル」や「イントゥ・ザ・ストーム」の場合複数のカメラがあり、さらにそのカメラが回収されない場合もあり、作品自体がそれらをまとめたもの、という感じではないのがちょっと残念なんだよね。それだったら自撮りカメラもあるけれど基本は客観視された映像が登場する擬似ドキュメンタリータッチの「第9地区」みたいな方がいいと思う。特に前半は観客が「この映像はどのカメラで撮られたもの」という認識ができるのに比べて後半はわけが分からなくなってくる。
 

 物語は竜巻に関わる複数の集団がそれぞれカメラを回し、徐々に彼らが集合していく。タイタスという装甲車を擁して竜巻のスペクタクル映像を追うグループ、廃工場で竜巻の被害にあい閉じ込められるドニーとケイトリン、ドニーを探すゲイルとトレイ、そして命よりもバカ映像だ!というボンクラ二人組などに分かれ、それぞれがカメラを回す。人命より映像だ!という人がいたり、シングルマザーで子供のところに頻繁に電話する女性、新人カメラマンが勇気と無謀を勘違いして大変なことになったりと類型的なキャラクター描写。ほんの少ししか出てこないが学校の高校生たちもいわゆるアメリカの学園モノ登場するジョックやガリ勉などが登場する。ドニーはちょっと奥手なビデオオタクだし、弟のトレイはお調子者。そしてこの親子はちょっとギクシャクしているなどこれまた類型的。でもこういう映画はその辺を下手に凝るよりはそういう分かりやすい設定でいいのだと思う。
 主人公(一応群像劇でもあるが)ゲイルはトーリン・オーケンシールドことリチャード・アーミティッジ。今回は素顔での登場。僕はこの人は「キャプテン・アメリカ」で超人兵士となったスティーブ・ロジャースが最初に戦うヒドラのスパイで初認識。その後超絶格好いいけれどひげ面のドワーフとして多く見ているのであんまり素顔の印象はない。ただこの人は素顔はたしかにハンサムでスタイルもいいのだけれどいわゆるゲルマン顔というかちょっと冷たい印象の白人というイメージ。やはりナチスの親衛隊などが似合ってしまう雰囲気のルックスの持ち主なのだな。彼はイギリス人だけどやはりドイツ人のトーマス・クレッチマンあたりと印象がかぶ*1。だからトーリンを演じた時に比べると冷たい印象もあるのだけれど、今回は生真面目な高校の教頭、息子ともちょっとギクシャクしている、という役柄でそういう印象をうまく利用していると思う。子供への思いは序盤からわかるけれど徐々に物語が進むに連れて結構自然に子どもと分かり合う様子が描かれていてよかった。
 もう一人、僕が観に行くきっかけとなった女優はどこかで見たことがあると思ったらTVシリーズ「ウォーキング・デッド」のローリを演じたサラ・ウェイン・キャリーズだった。この人も力強い女性の役がよく似合う。
 高校生組がまああんまり印象に残らないけれど、お調子者の弟トレイがどこかで見たことがあると思ったらこれがTV「iCarly」のフレディ・ベンソン役だったネイサン・クレス。作品変われどカメラを回す役柄は変わらず!とはいえフレディに近いのはドニーの方だけれど。
 この作品悪役がいない。強いて言うなら竜巻の素晴らしい映像を撮ることに執着するピートかな、と思うけれどこのジェームズ・クロムウェルっぽい雰囲気をもつマット・ウォルシュ演じるピートはそれなりに芯の通った格好良い役柄。新人が大変なことになって教会で責られるシーンもあんまりピートが悪いとは思えなかったりする。
 後はJACKASSがモデルだと思われる動画サイトに命知らずの映像を上げることを至上としている二人組が楽しい。この2人を要らないウザキャラと思うかは人それぞれだと思うがシリアスな中にもいいアクセントとなって僕は良かったと思う。

 この手の映画の真の主役とも言える竜巻は最初の細めの数本から最終的に超極太な一本に。この辺はいかにもディザスタームービーっぽい大法螺が効いていて観ていて楽しい。
 もう一つ、映画の主役といえるのが竜巻追跡用専用車タイタスである。この装甲車かと見まごう車が格好良くハッタリが効いていて素晴らしくキャラクターが立った自動車だと思う。作品の中ではこの車に大小25のカメラが仕掛けてある、ということでこの車がカメラマンとなって撮影される映像も多い。物語の中でもきちんと各種機能が役だっているしとにかくこのタイタスを独立させた作品を作って欲しいと思うくらいである。

事前の興味が完全にフラットだったこともあって予想した以上に楽しめた。90分を切る上映時間の割には密度が濃くいい意味で結構長く感じられたし、ディザスター映画としてはとても面白かったです。オススメ。疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドラング)を体感せよ!

Into the Storm

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ドイツ近代劇の発生―シュトゥルム・ウント・ドラングの演劇

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*1:クレッチマンはやはり「キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー」「アベンジャーズ2」でヒドラの幹部バロン・フォン・ストラッカーを演じるね