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受け継がれる盾、蝕まれるシールド キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー

 というわけで「マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)」のフェイズ2も大詰め、「キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー」を鑑賞。すでに3回観ましたですが、アメコミ映画、マーベル映画としてはコミック的な部分と現実のリアルな部分の話バランスが抜群で最もよく出来たアメコミ映画ではないだろうかと思います。シリーズ単独では2作品目、世界を共通するMCU作品としてはもう9作目ということで色々とっつきにくい部分はもちろんあるけれどそれでも屈指の出来ですね。

物語

 チタウリのニューヨーク襲撃から2年。スティーブ・ロジャースはS.H.I.E.L.D.(シールド)の一員として各種作戦に参加。今度の作戦はフランス海域でシージャックされたシールドの船の解放。キャップとナターシャ他の工作員たちは見事船の解放に成功した。しかしナターシャが人質救出作戦とは別にシールド長官ニック・フューリーの密命を受けて動いていたことでキャップは不信感を抱く。
 フューリーはキャップにインサイト計画について話す。より強力になったヘリキャリア三隻が衛星とリンクしDNAからテロリストを事前に狙い撃ちできるというのだ。それは恐怖に依る支配だとキャップは危惧する。ナターシャの持ち帰ったファイルが自身の権限で開けないことに疑問を持ったフューリーは世界安全保証委員会の理事アレクサンダー・ピアースにインサイト計画の延期を申し出る。フューリーは何者かに襲われ命を落とし、ファイルを委ねられたキャップとナターシャはシールドから追われるはめに。フューリーを殺した刺客はウィンター・ソルジャーと呼ばれる金属の腕を持つ謎の男。そして2人はファイルの出処をさぐり恐るべき秘密に辿り着く。やがてキャップと相対したウィンター・ソルジャーはその素顔を晒す。それは70年前に戦死したはずのかつての相棒バッキーだった…

 前作の感想はこちら。

 アメリカンコミックを映画化した場合、ジャンルをどう判断するか、という問題が起きる。スーパーヒーロー物の場合たいていはSFアクションという感じで通りはするが、それでも「バットマン」と「スーパーマン」は同じヒーローでも成り立ちから能力から全く別のものだ。バットマンはミステリーやハードボイルドな探偵物と見ることもできるし、スーパーマンは神話規模のスペースオペラと観ることもできる。これが完全に別物ならまだいいが厄介なことにスーパーマンバットマンの世界が地続きとされる場合もある(スーパーマンVSバットマンは来年公開予定)。
 もちろんこれはマーベル作品にも言えることで、「アイアンマン」は機械工学の世界だが「ソー」は北欧神話をモデルとしたファンタジー。一作目の「キャプテン・アメリカ」は戦争アクションである。そしてこれが全てつながっているのだ。だからもうここは「アメコミヒーロー映画」というジャンルを作ってしまうべきと思うけれど、そこにはあらゆるものが内包されている。かつて出版コードでヒーロー物以外がほとんど出版されなくなったが逆にヒーローコミックの中で全てを表現しようとしてきたように。
 そして本作「ウィンター・ソルジャー」はといえば「ポリティカルサスペンス」ということになるであろう。これまで積み上げてきた世界観の上にいよいよ政治的な物語が展開される。もちろんそこはアメコミ原作であるので現実のリアリズムに拠ったものではなく、あくまでマーベル世界のリアリズムで再現されたものである。だから現実的ではない要素もあるし、悪の秘密結社が出てくるところなんかはむしろ荒唐無稽なところだが、マーベルの世界観に擦り寄って作られているポリティカルな物語ということではこれまでのMCU作品の中でもやはり重要な作品といえるだろう。
 物語(というか設定)の底本となっているのはこちら。

キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー (ShoPro Books)

キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー (ShoPro Books)

 以前「ロボコップ」の感想でもゲーム「メタルギアソリッド」に似てる!というようなことを書いたが、本作はデザイン以上に物語の部分においてMGSシリーズによく似ている。映画冒頭のタンカーは「MGS2」のタンカー編を思わせ、さらにインサイト計画はDNAで人を管理するという意味ではSOPシステムに似ているし、SSRがそのままシールドに移行したのは「賢者たち」が「愛国者たち」となったのを連想させる。3台のヘリキャリアはアウターヘイブンやアーセナルギアを思わせるものである。もちろん、本作のほうが映画という時間が限られた物語でさらにコミック原作ということもあって、ヒドラの存在やヘリキャリアで攻撃、といったもっとわかりやすい物になっているが、それでもシリーズをプレイし、本作を観た人はかなり似た印象を持つだろう。もちろん似ているからダメ、というわけではない。「ロボコップ」の時も書いたが互いにいい影響を受け合っている証とも言えるだろう。MGSは現在映画化が進んでいて、それはきしくもマーベル映画を多く手がけてきた(ただしMCU作品とは別)アヴィ・アラドの制作になるが、この「ウィンター・ソルジャー」を越えられるか否かが一つの目安となると思う。
 それではいつものようにキャラクターごとに。

 本名スティーブ・ロジャース。1918年生まれ(コミックスだと1922年生まれ)の96歳。前回の「アベンジャーズ」は70年間の氷漬けから目覚めてすぐの出来事ということでそれでもすぐにリーダーシップを発揮していたが本作まではずっとS.H.I.E.L.D.の管理下にあった模様。こういう設定だと(「マイティ・ソー」であったような)キャップ自身のカルチャー・ギャップを楽しみたくもなるが、そういう描写はほとんどなし。意外と時代が経ちすぎると順応も早いのかも。これが90年代ぐらいのインターネットや携帯電話が一般にも普及し始めた頃だと逆に順応が大変かもしれないけれど。ただ、原作コミックの60年代も映画の2010年代も共にアメリカ政府に対する不信感が強い時期でこれが80年代の共和党レーガン路線だった頃だとまた違ったのだろうなあ、と思う。
 今回は大きく2種類のコスチュームが登場。ひとつはダークブルーの目立たないカラーリングのもので冒頭のタンカーに乗り込むミッションで分かる通りステルス性が高い。胸の☆マークやヘルメットのAのマークでキャプテン・アメリカとわかるもののシンボルとしての意味合いは薄い。ヘルメットには翼も描かれていない。単純に見た目だけで言えば格好良いコスチュームだが、実はこのコスチュームを着ているときは正確には「キャプテン・アメリカ」とはいえないのだ。この時は「キャプテン・ロジャース」もしくは「キャップ」としか呼ばれない。スティーブ・ロジャース自身はおそらく特に使い分けてはいないだろう。しかしフューリーやその他のシールド隊員は彼をこの時点ではキャプテン・アメリカとしては見ていない。フューリーと情報の開示を巡って齟齬が起きるのもその辺に起因する。実際このデザインはキャプテン・アメリカと名乗っていなかった時に着用していた物がモデルになっている。「アベンジャーズ」で着用していたコールソンがデザインしたとされるコスチュームははっきりってそれだけ見ると非常にダサい。そのことは劇中でスティーブ自身が直接ではないが言及していた。

あの星条旗のデザインは・・・古臭くないか?

 しかしやはりコールソンが言ったようにシンボルとしての意味合いが大事なのだ。

今起きてることと、これから起きることを考えれば、古き良きものこそ人々の支えになる。

 だからキャップはスーパーマンと同様星条旗カラーを身にまとう。そして一見ダサく見えるコスチュームもその行動によって格好良く見えてくる。その意味ではこのステルスタイプのコスチュームは単純に見た目で格好良いがキャップの思想を体現したものではないのだな。物語的にもこのコスチュームを着ている時のキャップはヒーローとしてのキャプテン・アメリカではなくシールドの工作員キャプテン・ロジャースにすぎない。
 後半に着用するコスチュームはその古き良きもの。戦時中のコスチュームをスミソニアン博物館に展示されていたものを借用する形となる。これが凍漬けになっていたキャップが着用していたものか、再現したレプリカかは不明だが、「ファースト・アベンジャー」ではなかった腹部に赤いラインがもう一本加わって、正面から観た時3本の赤い線が見える原作スタンダードのデザインの再現となる。
 これは映画的な要請か、キャップはよくヘルメットを脱ぐ。映画のスティーブは別に正体を隠しているわけでもないし、時と所によってはかぶっている必要もないのだがその辺は少し残念な部分でもある。ただし代わりと言っていいぐらい今回キャップの装備でキャップを体現しているものにキャップの盾がある。今回盾を使ったアクションが異様なぐらい充実していて、防御だけでなく投擲武器、殴打、盾越に殴ることで衝撃を伝える。逆に落下するときなど足の下に敷くことで衝撃に耐えるなど様々な使い方がされる。そしてその盾は隠密活動であろうときちんと星条旗カラーなのだ。感心するのは投擲武器として使用して投げたあと必ず回収する描写がきちんとあることでキャップの愛用武器である、ということが強調されているし、最終的に自らその盾を捨てる描写があることで、そのシーンではキャップがバッキーに対してキャプテン・アメリカではなく、幼馴染のスティーブ・ロジャースとして接するつもりだということが分かる。何しろ普通に部屋に帰宅するときでもシールドは持って帰っているのだ。コスチュームはダークになりシンボル的意味合いは薄れたが、盾だけが彼のキャプテン・アメリカとしてのアイデンティティを証明してくれる。
 キャップはその名前やコスチュームからアメリカ帝国主義的な部分を象徴するヒーローと思われる時もある。それは時代によっては必ずしも間違いではないが、戦後復活してからは大体においてアメリカ政府とキャップが信奉するアメリカ的価値観はすれ違うことが多い。先述したとおり復活した60年代や今回の映画化の2010年代はむしろアメリカ政府に対する不信感みたいなものが強く出た時期でキャップもそういう側面を象徴する。「シビル・ウォー」ではヒーローの政府登録を巡って賛成派のアイアンマンと対立し、反対派のヒーローをまとめて立ち向かう。結果彼は暗殺されてしまう!
 今回のキャップもまだ蘇生して最初のうちは政府(シールド)に従っているがやがて彼自身の判断で動く。そこでアメリカ政府と対立する時も出てくるかもしれないが、むしろ真のアメリカ的価値観を体現しているのはキャップの方だとも言えるだろう。
 演じてるのはもちろんクリス・エヴァンズ。かつてはジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチだったとはもはや信じられないほどキャップとして定着している。「マイティ・ソー ダーク・ワールド」ではロキが変身した地球で新しく出来た友人としてちょこっと出演。

  • ファルコン

 本名サム・ウィルソン。退役軍人で元パラシュート部隊。ワシントンでのキャップのジョギング仲間。退役軍人省で退役軍人を対象としたカウンセラーを務めている。原作では戦後復活したキャップのサイドキックという役割を担う。また相棒の鷹のレッドウィングと意思疎通できる能力も持つがその辺は映画ではカット。ただキャップが退役軍人省の彼の元を訪れる際、キャップの後ろに鷹の写真があったりする。人工翼で空を自在に飛びキャップを手助けする。新しいサイドキックが退役軍人であるという設定は実は元サイドキックでやはり退役軍人、そしてベトナムからの帰還兵による集団の名称を元にしたらしいウィンター・ソルジャー/バッキーと対比されている。
 演じているのはアンソニー・マッキー。「アイアンマン」のローディとはまた違った若々しいサイドキックを好演。日本語吹替では溝端淳平が声を当てていて確かにいわゆる黒人の声というには細く高い感じではあるが、演技自体はうまく最初こそ少し違和感はあってもすぐ慣れる感じ。

  • ブラック・ウィドウ


 本名ナターシャ・ロマノフ。「アイアンマン2」で初登場し自身が主人公となるタイトルこそ持たないが(「アベンジャーズ」ではタイトルロールの一人だから主演と言っていいだろうけど)、今回もファルコンと並ぶキャップのもう一人の相棒的役割で(助けられ役という意味での)ヒロインというよりもう一人の主人公と言っていい活躍を見せる。彼女の生年が1984年とされているが(これは演じるスカーレット・ヨハンソンと同じ)それだとKGBに在籍したみたいな台詞と矛盾があるような。まあKGBというのは単にロシアを意味するだけかもしれないが。
 演じるのはもちろん引き続きスカーレット・ヨハンソン。髪型が毎回違うけど今回はセンター分けのロングストレート。そういえば彼女もマーベルの赤毛のヒロインであるなあ。スカーレット的にはお肌の具合は今までで一番荒れているようにも思えるが、劇中では自分を偽ること無く、かつミッション以外のユニークな見せ場も多いのでこれまでで一番イキイキとしていた気がする。日本語吹替は「アベンジャーズ」に引き続き米倉涼子。「アベンジャーズ」の時はお世辞にも上手いとは言えなかったが、今回はかなり上手く出番も多かった割に米倉涼子である、ということはあまり感じなかった。このままMCU作品にナターシャが登場する度きちんと米倉涼子が担当してくれるならそれはそれで構わないです。宣伝のため「アベンジャーズ」だけ、というのが一番やっかいな形だったわけで。

  • ニック・フューリー

 S.H.I.E.L.D.長官。「アベンジャーズ」を除くMCUタイトルとしては初めてシールドが最初から深く関わってくる物語であるため、いつもはゲスト出演的な彼も今回はメイン登場人物。フューリーは原作ではキャップ同様WW2の英雄の一人なのだが、映画ではその辺は無くなっているようだ。劇中でキャップに祖父の話をするけれど、多分このお爺ちゃんはキャップと同世代位だよね。
 彼はシールド内部に巣食ったヒドラと戦う役割だけれど、実は思想的な面では彼とピアースにそれほど大きな差はない。そもそもインサイト計画の成り立ちがめちゃくちゃで「(「マイティ・ソー」や「アベンジャーズ」で)地球以外の勢力による侵略が確認された。この自体に対処するため地上のテロリストを事件を起こさなくても処分する」というのは論理的におかしい。なぜならチタウリやロキと地上のテロリスト(例えばテンリングス)は基本的に無関係(ゼロではないが)。冷静に考えればキャップでなくてもそれは自由ではなく恐怖による支配だ、と気づくはず。それではこれは脚本の瑕か。いや現実にもそういう直接関係のない二つの事柄を結びつけて軍事行動を起こす事態はあった。最近ではイラク戦争がそうでイラク911同時多発テロとは関係なかったし、開戦口実であった大量破壊兵器も結局見つからなかった。だから、ここでインサイト計画を支持する世界安全保障員会の面々や最終的に不自然さに気付き延期を申し入れたもののフューリーの中では特に矛盾はないのだろう。 キャップがヒドラだけでなくシールドの壊滅も視野に入れて行動するのにフューリーは異議を唱えるがそこが彼とキャップの違いとも言えるだろう。
 ちなみに彼が最初に襲われる際、音声認識のコンピューターが制御する特製自動車に乗っているのだが、これはおそらくシールド製作と言うよりスターク謹製のマシンとみましたね。なんとなくコンピューターが機械的な対応をする割に妙に人間臭い感じがしたり(なんとなくジャーヴィスっぽい)、あるいはもしその気なら襲う側がまず自動車のシステム乗っ取りが可能だと思われるのに独立していたところなんかを見ると多分シールドの一般車両とかとは別物だと思われます。
 演じているのはサミュエル・L.ジャクソン。そして吹き替えは竹中直人米倉涼子同様こなれてきたのか「アベンジャーズ」の時より馴染んでいるしどうせやるなら今後のMCU作品でも継続して貰いたい。しかしサミュエル・L・ジャクソンスカーレット・ヨハンソンの上司と部下ってそういえばフランク・ミラー先生が監督した「ザ・スピリット」でも一緒だったのだなあ。あちらでは悪役だったけれど。

  • S.H.I.E.L.D.

 S.H.I.E.L.D.その他の人たち。副長官マリア・ヒルは要所々々で活躍します。静かにフューリーにキャップの意見に従うよう諭すのが印象的ですね。事件が終わった後はスタークインダストリーの秘書(受付?)になったみたいです。さらに女性エージェントとしてはエージェント13が登場。劇中では語られないけれど彼女の本名はシャロン・カーター。あのペギー・カーターの姪にあたる。映画ではキャップがペギー(まだ生きてた!)と話をして部屋に戻った後彼女が登場するので微妙にその辺を匂わせているのかなと思う。100歳近いはずのペギーを演じているのは前回に引き続きヘイリー・アトウェル。前作のメイン時代WW2の頃の人物としてはキャップとバッキー以外では唯一の生存者か。彼女は50年代にキャップが最初にヒドラから救出した兵士の一人と結婚したようです(ハウリングコマンドーの一員の一人かしら)。こういう時代を越えた物語もオリジンの時代が固定されているキャップならでは。そのペギーはじめSSRのメンバーはシールド創立者として写真で登場。トニー・スタークの父親ハワード(ドミニク・クーパー)やフィリップス大佐(トミー・リー・ジョーンズ)などですね。
 TVシリーズ「エージェント・オブ・シールド」で当然この「ウィンター・ソルジャー」は影響を与えてるようで第16話がこの映画と同時期の物語だそうです。「アベンジャーズ2」公開までになんとか日本でも放送して欲しいですね。その他実はヒドラだった、という人たちに関してはヒドラの方で。
 

獅子身中のヒドラ

 元はナチスの科学部門として発足したヒドラはやがてレッドスカルの元、ナチスから独立し独自に世界征服と人類の支配を目論む。アスガルド由来の四次元キューブを使い先進兵器で連合軍を苦しめたがキャップの活躍によりその野望は絶たれた。首領レッドスカルはキューブに飲み込まれ消滅、ヒドラも壊滅したと思われたが…実はその後も組織は存続していた。劇中では密かにS.H.I.E.L.D.内部に巣食っていたが「一つの首を切り落としても後から二つ首が生えてくる」のスローガンの通り、おそらく世界中にその牙は侵食している。

  • ウィンター・ソルジャー

 本名ジェームズ・ブキャナン・バーンズ。キャップの親友でWW2でのミッションでヒドラの列車から谷底に落ちハウリングコマンドー唯一の戦死者となった……はずであったが、実際はその後生き延びてヒドラの元謎の暗殺者として暗躍していた。おそらく原作同様まずはソ連に拾われ、記憶を無くし永遠の若さを得、金属の腕を持つウィンター・ソルジャーに。その後ソ連ヒドラ(おそらくヒドラは米ソ始め世界の至る所に存在した)経由でピアースのもとに。ウィンター・ソルジャーというコードネームの由来はベトナム戦争の帰還兵による団体の名前だそうで今回の相棒ファルコンが退役軍人省で退役軍人のPTSDに対するセミナーを行っていたが、ある意味バッキー(そしてキャップも)その最たるものといえるのかしれない。
 バッキーは原作コミックスではいわゆるバットマンのロビンに代表されるような少年のサイドキックであるが、映画では同年代の親友に変更。これはまあ納得の行く変更だと思う。少年が戦場に行くというのはどんな理由をつけても到底実写で納得の行くものではなし。「ファースト・アベンジャー」で彼がドクターゾラに人体実験されていた描写がちょっと出てきたがここできちんと回収された。
 演じるセバスチャン・スタンも前作から継続して出演。キャップと違って70年経っても若々しいのはちょっと無理があるのかしれないが、とりあえず格好良いので良し。彼の力強い地に足の着いたアクション(文字通り下半身がどっしりとした感じでカンフーアクションみたいにすごく動くという印象でもないけれど激しい)は見どころでデザイン的にも原作コミックスにかなり忠実であるにもかかわらず実写でのミスマッチ感がゼロで格好良い。彼は生き延びておそらく次のキャップの物語でも登場するはずである。

 S.H.I.E.L.D.の理事。典型的なWASP容姿のハンサムで穏やかな印象の持ち主だが、実はヒドラでありフューリーやキャップを追い詰める。演じているのはこの人ロバート・レッドフォード!最初に予告編を見た時は遂にロバート・レッドフォードがマーベル映画に出る時代になったか、と感慨深いものがあった。もちろんロバート・レッドフォードがこれまで娯楽大作に出演しなかったわけではないが(本作に微妙に近いのはレッドフォードがハッカーチームを率いるサスペンス「スニーカーズ」あたりか)、それでも悪役でここまでの超大作に出ているのは意外である。とはいえ実は監督が本作を制作するにあたって参考にしたのがレッドフォード主演の70年代の「コンドル」「大統領の陰謀」といったポリティカル・サスペンス映画で、特に「コンドル」はアクションの規模こそ違えど共通点は多く、それ故のロバート・レッドフォード起用ということになるのだろう。

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 彼はいわばヒドラシールド支部の指揮官とでもいうべき役割だったことが判明するが、厳密にヒドラ(レッドスカル)の思想に感化されてたのかはわからない。むしろ人類を恐怖によって指導する、という方法論に惹かれたのかもしれない。その辺で「一つの首を切り落としても、そこから二つ新しい首が生えてくる」というヒドラのスローガンを最後の言葉として残すため、ちょっといかにもコミック的な悪党になってしまったのはもったいないかも。
 さて、ロバート・レッドフォード起用ということでこのピアースというキャラクターで連想するのはもう一人、「ウォッチメン」のオジマンディアスことエイドリアン・ヴェイトである。ザック・スナイダーの実写映画ではマシュー・グッドが演じていたが原作での彼の外見上のモデルはロバート・レッドフォードである。ヴェイトもピアースも結果のために手段を選ばないという意味では似たキャラクターとも言える。 

  • ブロック・ラムレイ

 キャプテン・アメリカヴィランというのは大き二つに分けられるみたいで、ひとつはキングコブラ、ブッシュマスターのような蛇をモチーフにした悪党で彼らは「サーペント・ソサエティ」という集団を形成する。もう一つはレッドスカルに代表されるドクロをモチーフにした悪党(主にナチがらみ)でこのブロック・ラムレイという人物もクロスボーンズというドクロを模した覆面をかぶる悪党である。今回はまずキャップやウィドウの仲間であるシールド工作員、いわゆる普通の軍人として登場する。そして彼はキャップ追討のリーダーとして何度もキャップとやりあう。今回シールド内にいてキャップたちを追跡したメンバーが全員実はヒドラなのか、それとも単に上司の命令として従っているのかは分からないが、少なくとも彼はヒドラの一員であった。最後まで執拗にキャップたちに対抗し、苦しめるが破れ大やけどを負う。次回作ではクロスボーンズとしての活躍が期待される。ある意味アンチヒーローであるパニッシャーの更にアンチみたいなキャラクター。演じるのはフランク・グリロ。軍人や警官、傭兵みたいな役が多い。

  • バトロック

 冒頭で出てくるシールドのタンカーを襲ったテロリストのリーダーでフランス出身。本名も同じでキャップとある程度対等に戦うことのできる格闘技術の持ち主。彼もコミックでは覆面をかぶヴィランである。映画では覆面こそかぶっていないが、意外と身体を覆う衣装はコミックのデザインに近く、若干色味が落ち着いた、という程度である。演じているのはUFCチャンピオンのジョルジュ・サンピエール

  • アーニム・ゾラ

 前作でも強い印象を残したヒドラの科学者。WW2後はその頭脳を買われS.H.I.E.L.D.設立に関わり、密かにシールド内部にヒドラの種を残すことに成功した。彼の残したヒドラの種は70年を経て大きく成長し、やがてシールドという宿主を食い破るに至る…彼の肉体はすでに滅びているが膨大な量に上る記録テープとして彼の頭脳は生き続ける。インサイト計画のアルゴリズムも彼が作り上げたものである。前作ではハウリングコマンドーの捕虜にされていたが、その後は転向したと見せかけてヒドラの命脈を保った。このドクターゾラの設定はWW2後にソ連やアメリカがナチスの優秀な科学者をいち早く確保し戦後の核兵器や宇宙開発の礎としたことにちなむのであろう。日本でも悪名高い731部隊の出身者などが研究をアメリカに引き渡すことで戦時中の罪を免れたりしている。ヒドラを取り込んで強くなったシールドは逆にヒドラに乗っ取られてしまったのであった。演じるのは前作に引き続きトビー・ジョーンズ。今回は回想シーンのほかはコンピューターのモニターにその特徴的な顔を模した映像で登場する形だが一度見たら忘れられないその容貌は健在。前作ではあくまでレッドスカルの脇に控えていた形だが、ある意味今回は黒幕であるとも言える。

 「アイアンマン2」でトニー・スタークを糾弾したスターン上院議員が実はヒドラの一員だったという形で登場。彼がヒドラだったということは「アイアンマン2」での彼の目論見もまた別の視点で見ることができよう。そして「マイティ・ソー」などでコールソンの同僚として出てきたジャスパー・シットウェルも実はヒドラの一員だったことが判明。まあ名前がいかがなものかと思ったりしたものなあ。彼が自白させられたところによるとインサイト計画で真の標的となるのはフューリーやマリア・ヒルなどヒドラでないシールド幹部、そして反体制的な傾向の持ち主たち。更にその中にドクター・ストレンジという名前も出てくる。ドクター・ストレンジはマーベル世界を代表する魔術師であるが彼もヒドラの敵対勢力である事がわかる。というかこのシーンで分かるのはこの時点でアメリカ政府=ヒドラという図式にかなり近いのではないのか、ということ。合衆国の喉元にもうヒドラの毒牙は伸びていたのだ。インサイト計画が発動されて実際に標的が特定されるシーンでは「アベンジャーズ」でのスタークタワーが映ることでトニー・スタークはもちろんヒーローたちも標的になっていることが分かる。

 恒例のおまけはヒドラの別基地。そこではバロン・フォン・ストラッカーがシールドとシールド内のヒドラの壊滅を持って表に出ることを誓う。彼は言う。他のヒドラ基地の情報をキャップにわざと流し、キャップが別基地を襲っている間に時間を稼ぐと。彼の視線の先にはツインズと呼ばれる男女が。少女は物体を宙に浮かせ、もう一人は狭い檻の中を高速で動きまわる。そして奇跡の時代の到来を宣言する。そこにはかつてロキが使用していたチタウリのスピアーが……
 ここで登場するバロン・フォン・ストラッカーは原作でも出てくるヒドラの幹部。原作だと戦前から活躍するナチス幹部で戦後のヒドラを成長させた立役者である。映画ではどういう設定となるのかはまだ分からないが、ピアースたちシールド内部のヒドラと違ってかなりナチス臭が強い。またここでの台詞から世界各地に存在するヒドラとは横の連帯はあっても縦の序列はないように感じられる。そして他の基地を平気で犠牲にできるところなどはレッドスカル直系というところか。ストラッカーを演じているのはピーター・ジャクソンの「キング・コング」でイングルホーン船長を演じたトーマス・クレッチマン。きっちりドイツ人である。彼はブライアン・シンガーの「ワルキューレ」でトム・クルーズが演じたシュタウンフェンベルク大佐を演じる予定だった人物でもある。
 ツインズは双子のワンダとピエトロのマキシモフ姉弟でワンダは現実改変能力を持つ。そしてピエトロは高速で動く。2人はそれぞれスカーレットウィッチとクイックシルバーという名で活躍するミュータントであり、父親はあのマグニートーである…とはいってもこれはX-MENシリーズとMCUが統合されたとかそういうことではなくこの双子がX-MENアベンジャーズの両方で活躍する人物だからである。特にクイックシルバーはともかくスカーレットウィッチはほとんどアベンジャーズの印象のほうが強い。映画ではマグニートーは登場しないだろうしおそらくミュータントではなくウィンター・ソルジャー同様ヒドラの実験で生まれた超能力者、ということになるのではないだろうか。X-MENのミュータントの設定はマーベルユニバースを構成する重要な要素だがMCUでこれを取り入れるとかなり複雑になっちゃうからねえ。例外的にこの2人は版権が両方(マーベルスタジオと20世紀FOX)の両方にまたがっているらしく映画の「X-MEN フューチャー&パースト」でもクイックシルバーは登場します(ワンダは不明)。こちらではきちんとマグニートーの子どもという設定になると思われます。ちなみにピエトロはアーロン・テイラー・ジョンソン、ワンダはエリザベス・オルセンが演じてますが、この2人はレジェンダリー版の「GODZILLA」で恋人(夫婦?)を演じてますね。更にいうと「X-MEN フューチャー&パースト」でクイックシルバーを演じているのは「キック・アス」でキック・アス/デイヴの友達トッドを演じていたエヴァン・ピーターズ。こんがらがる!「キック・アス2」ではオーガスタス・ブリューにキャスト変更してアス・キッカーというキック・アスのバッタモンになっていたけれど。

キャプテン・アメリカ:ニューディール (MARVEL)

キャプテン・アメリカ:ニューディール (MARVEL)

Captain America Will Return AVENGERS:AGE OF ULTRON

 さて、次のキャプテン・アメリカの登場は「アベンジャーズ2」。そしてその後フェイズ3で「キャプテン・アメリカ3」が待っている。監督はこのまま、アンソニージョーのルッソ兄弟が担当する。噂では今度は戦後50年代に赤狩りに邁進した2代目*1キャプテン・アメリカヴィランとして登場するとかしないとか。これが実は歴史的に非常に面白い話で、本来はこの50年代に活躍したキャップはスティーブ・ロジャースその人でここでのキャップは確かにスーパー右翼と言われてもしょうがない暴れぶりであった。しかし60年代に入りファンタスティック・フォーなどで人気を博したマーベルが満を持してキャップを登場させようとなった時、暴力的な赤狩りヒーローでは当時の世相に合わない。そこで取った手段が本当のスティーブ・ロジャースは戦時中に行方不明となったが、そのことを秘密にしたアメリカ政府によって別人がキャプテン・アメリカとなり、スティーブ・ロジャースのふりをして反共活動を続けていた。しかし彼が暴走し始めたため彼は政府によって捕らえられ封印され、その後本当のキャップがアベンジャーズの手によって見つかり復活した、という設定に変えたのだ。そいういう複雑な事情をもつため今回以上にポリティカルな話になりそうである。それにしてもDCのキャラクターはあまりヒーロー自身と似たヴィランと戦うことは少ない印象があるが*2、マーベルのヴィランはヒーローの偽物、暗黒面とでも言ったヴィランが多い。「アイアンマン」のアイアンモンガー、ウィップラッシュ、「インクレディブル・ハルク」のアボミネーション。そして「キャプテン・アメリカ」のレッドスカルにウィンター・ソルジャー。その辺にマーベルヒーローの業の深さを感じる。
 MCUの最初のブレイクで基幹となったのは「アイアンマン」シリーズだが、その世界観において四次元キューブなどのアイテムや世界の宇宙的拡がりの提示するのは「ソー」、そしてその世界の歴史という縦軸を提示するのが「キャプテン・アメリカ」と言える。この二つは確かにMCU作品としての色合いが濃すぎていきなり参入できない部分きつさもあるが、その分開き直っていてそれに比べると「アイアンマン」はまだ単独シリーズとして売ってやる、という見栄が感じられた。「ファースト・アベンジャー」はイマイチという意見も多いようだが、それはまだ序章にすぎないからという部分もあり、まだ牧歌的だったヒドラとの戦いは70年を経て壮絶な戦いへと変化した。実は色々対比されている部分もあり、合わせて見て欲しい。
 さて、フェイズ2もいよいよ大詰め、残すは新シリーズ「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー」。多分この作品自体は本作とは直接つながりはない物語で宇宙規模のスペースオペラ的な展開となり「アベンジャーズ2」への布石となるのであろう。

 とにかくエキサイティングで面白い作品なので是非観て欲しい。とりあえずMCUフェイズ2の作品では一番好きです。
スタン・リーも出てるよ。
Excelsior!

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マーベル・シネマティック・ユニバースまとめ

当ブログ(旧ブログ含む)内のマーベル映画関連記事のまとめです。

*1:本当は5代目ぐらい

*2:映画化されてない部分ではグリーン・ランタンのシネストロ(映画ではいい人のまま終わり)とかフラッシュのズームとかスーパーマンのビザロとかいるけれど