The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

孤独のアフガン ローン・サバイバー

 実録/ノンフィクション作品週間第2弾。前回の「フルートベール駅で」の2009年から少しさかのぼって2005年6月の出来事。「ローン・サバイバー」を鑑賞。

 2005年6月、アフガニスタンタリバンの幹部の暗殺を目的とした作戦がネイビー・シールズによって行われる。山岳地帯の偵察をしているマーフィー大尉を隊長とする4人で構成された部隊はミスにより羊飼いの一家を捕虜とすることに。殺して任務を続けるか、解放して撤退するか迫られ、マーフィーは解放することを決める。撤退するチームだったが、やがて羊飼いによりチームの存在を知ったタリバンがやってくる。多勢に無勢の戦闘が始まった・・・

 監督はピーター・バーグピーター・バーグと言うとこのブログをずっと読んでいる人はピンとくるかもしれないが、あの「バトルシップ」の監督。僕はあの時に、

多分この監督の次回作があってももう観ないだろう(と言いつつ題材によってはまた騙されるんだろうなあ)。

エメリッヒよ!貴方は偉かった! バトルシップ

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等と書いた。「バトルシップ」は(一部世間に熱狂的なファンが居るのは知りつつも)本当に個人的にダメな作品で、ネタ的に消費するのもきついぐらいだった。そしてその前の「ハンコック」も僕好みの題材でありながら、全然ダメだったのだ。だからもしも同じような路線の作品だったら、今回も見なかっただろう。ただ、今回は評判が良かったことや、出演するマーク・ウォールバーグが好きな俳優の一人だったこと。また今回は実際にあった出来事を元にした作品でシリアスな作品らしいこと、などが観に行くきっかけとなった。この監督僕が思うに意図的に笑わせようとする演出がとてもダメな気がするのだ。シリアスに徹すればまあ、手堅い演出をする人だとは思う。「ハンコック」の更に前の「ランダウン」なんかは面白かったけれど、あれはロック様とショーン・ウィリアム・スコットの主演二人に依るところが大きかった気がする。実のところ、この時は久々の劇場での映画鑑賞で、もう劇場で映画が観られれば何でもいい、という感じではあったのだけど。
 まあ、ターセム・シンなんかも「インモータルズ」で「二度と見ない!」と言っておきながら「白雪姫と鏡の女王」では実に良かったりしたのでいいのです。戻れぬ橋はないのです!

 で、結果からすると面白かったです。やはりこの人は比較的シリアスな物語を淡々と演出するのが合っているのだと思う。
 作品は冒頭とラストに実際の写真や映像を持ってくる最近よくある作りで、冒頭のきつそうだけどどこか牧歌的な(単に厳しいだけじゃなくどこかユーモラス)な訓練風景の映像(多分この映像は実際の物を使用しているのだと思う)から始まり、あんまり階級差を気にしない横のつながりが強そうな海軍の兵士たちのアフガニスタンでの日常が描かれる。この辺はまだユーモラスな感じだが、その後作戦が開始されてからはシリアスな雰囲気が作品全体を占める。
 チームはテイラー・キッチュ演じるマーフィー大尉を始めとした部隊でその他マーク・ウォールバーグのマーカス・ラトレル二等兵曹(医療担当)、ベン・フォスターのマシュー・アクセルソン(アックス)二等兵曹(狙撃担当)、エミール・ハーシュのダニー・ディーツ二等兵曹(通信担当)の4人からなる(括弧内の担当はだいたいこんな感じというもの)。キッチュのマーフィーだけ士官で後は二等兵曹と結構な階級差だけれど、あんまりその辺を気遣った、会話をしている気配はなくその辺はアメリカ的であるのだろうか。タイトルの「ローン・サバイバー(Lone Survivor)」、「たった一人の生存者」はウォールバーグのマーカスを指し、後半はマーカスが主人公という感じだが、前半から中盤のマーカスが部隊の中で一人だけ死を免れるまではほぼこの4人は並列で主人公と言っていい。山岳地帯の撮影は中東の砂漠のイメージとは遠いんだけど、アフガンはまあああいう風景も多いんだよね。撮影はニューメキシコだそうだけど。
 マーク・ウォールバーグが相変わらず格好良いのは当然として、テイラー・キッチュは「バトルシップ」の時の不真面目な軍人とは打って変わって有能なチームリーダーを演じているし*1エミール・ハーシュはスタイルのいいジャック・ブラックという感じ。
 ベン・フォスターは金髪に蒼い目、高い鼻に白い肌、と典型的なWASP風の容貌である。「3時10分、決断のとき」のギャングの副官みたいな役柄でも顕著だったけれどある意味「悪そうな白人」のイメージに合致したりする。ここでは決して悪いキャラではないが、捕虜(タリバン支持のようだが一般人の羊飼い)の扱いについて「殺してしまおう」という提案をする。他の3人が黒い髪で人種的にもそんなに白人!という感じではないのに対して相対的に一番白人らしさ、ひいてはアフガンと敵対するアメリカっぽさが感じられる。とは言えそんなアックスの奥さんは東洋人だったりするのだれど。
 前半のユーモラスな部分では新兵であるパットンが一人前と認められるためにかくし芸を披露する部分があってそこでパットンはジャミロクワイの「Canned Heat」を踊るところだろう。とは言えこれはジャミロクワイのダンスというより映画「ナポレオン・ダイナマイト*2」の中で主人公ナポレオンがダンスを披露するシーンの真似である。「ナポレオン・ダイナマイト」は2004年の作品でちょうど公開がこの作品の時代となる2005年6月の一年前ぐらい。多分2005年の4月にMTVムービーアワードで作品賞を受賞しているので当時全米の若者の間でこのシーンを真似するのは大ブームであったはずである。このパットンのシーンなんか笑えるシーンだけれど無理に笑わそうとするのではなく、あくまで実際の再現であるから良かったのではないだろうかという気がする。
 ちなみにこのパットン、ヒゲだらけの兵士の間で唯一と言っていいぐらいのスベスベ肌でその辺もまだ場馴れしてない新兵という感じである。血気盛んだったが残念ながら…。演じているのは「ハンガー・ゲーム」でプロの一人でカットニスとピータを追い詰めたケイトーを演じたアレクサンダー・ルドヴィグ。体格的にもあの頃よりでかくなっている気がする。
 マーク・ウォールバーグの主人公もそれほど特別な存在ではなく生き延びたのも偶然に近いだろうし、匿ってもらってる時にもアメリカ人らしい傲慢さが見え隠れするが、やはり最後まで生き延びるタフガイとしてはふさわしい演技。
 あとエリック・バナも出てます。

 後半は一人生き延びたマーカスがパシュトゥーン人に助けられ、彼らがタリバンからマーカスを助ける様子が描かれる。2001年のアメリカ同時多発テロの首謀者がウサマ・ビン・ラディン率いるアルカイダによるもので彼らがアフガニスタンタリバンに匿われているということでアフガン戦争が始まったわけだが、当時さんざん揶揄されたようにアルカイダタリバンの前身であるソ連のアフガン侵攻に抗した義勇兵士(ムジャヒディン)を援助したのはアメリカである。「ランボー3怒りのアフガン」なんかはその最後に「アフガンの兵士たちに捧げる」という献辞があったりするのだ。さらに根は複雑で、映画ではマーカスをかくまったのはパシュトーン人の教えに従ったからだ、と出てくるが、タリバンを構成する主要民族もパシュトゥーン人である。パシュトゥーン以外で構成される北部同盟乱暴狼藉がひどかったため、厳格なイスラム主義を唱えるタリバンが支持されたという背景もあった。2005年ごろはもうタリバンアフガニスタン全域ではなく一部を支配するにとどまっていただろうけど、テロでアメリカにダメージを与えていたことは作戦を解説するシーンでも伺える。
 それにしても例えば2008年の「アイアンマン」では物語の端緒となる部分が原作発表当時ベトナムだった舞台をアフガニスタンに変えただけでほぼ同じ展開がされていたし、イギリスのTVドラマ、現代をを舞台にしたホームズ物「SHERLOCK」ではアフガニスタンで戦傷を負った軍医ワトソンという原作の設定が100年以上経った現代でもそのまま通用していた。冷静に考えると怖いね。

アフガン、たった一人の生還 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

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 ところどころタルい部分もないではなかったけれど面白かったです。「バトルシップ」みたいにイラッとするところは無かったしね。ただピーター・バーグ監督はこの「ローン・サバイバー」を撮るためにしょうがなくビッグバジェットである「バトルシップ」を撮った、みたいなことを言っているそうだ。こういう後出しジャンケンみたいな発言は好きじゃないなあ。僕は「バトルシップ」は嫌いだけれどそれでもこういう発言は好きになってくれたファンに失礼な気がするよ。

*1:僕は「バトルシップ」は嫌いだけど別に主演のテイラー・キッチュが嫌いなわけではないのよ。同時期の「ジョン・カーター」はベタ褒めしてるし

*2:バス男」という邦題であったが今更ながら「ナポレオン・ダイナマイト」に改題。すでに「バス男」を持っているのでジャケットだけ新しいのを欲しいんだけど。20世紀FOXさん!