The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

ハンスを憐れむ歌 アナと雪の女王

 去年の暮ぐらいから、作品によっては通常の予告編の他に劇中のフッテージが丸々上映されて、比較的劇場へ出かけることの多い僕なんかはすっかり食傷気味だった作品で、3月の公開までずっと見ることになるのかなあ、などと思っていたけれど、意外と早くその時がやってきて、もちろん期待作ではあったけれど予想以上に大ヒット作品となった模様。ディズニーの新作「アナと雪の女王」を鑑賞。

物語

 貿易で栄える国、アレンデール。王家の王女、エルサとアナは仲良し姉妹。エルサには生まれつき雪や氷を作り出す能力があって、夜中にその力を使って愉しむのが姉妹の楽しみでした。しかし、ある時エルサは誤ってその力でアナを傷つけてしまいます。国王夫妻は森に住むトロールに助けを求め、トロールの長老はアナからエルサの能力に関する記憶を封印し、難を逃れます。しかしそれ以降自分の力を恐れたエルサは部屋に引きこもりアナとは会わなくなってしまいました。
 しばらくして国王夫妻はとある用事で国外に出かけ事故で亡くなってしまいます。それからしばらくしてエルサが即位する日がやってきます。閉ざされた王宮の門が開け放たれてアナは嬉しさのあまり町へ飛び出しますが、そこで即位式にやってきた南諸国のハンス王子と出会い意気投合します。即位式はつつがなく進行したかのように見えました。久しぶりの姉との会話を愉しむアナ。しかしハンスとの突然の結婚を決めたアナに反対するエルサは感情的になって能力を開放、化け物呼ぼ割されたショックでエルサは王宮を去ります。アレンデールはエルサの力で氷に覆われ、即位式にやってきた要人も出国できなくなりました。アナは後事をハンス王子に任せ姉を説得に向かいますが・・・

 一応間に「シュガー・ラッシュ」とかも入るのだろうけど、正統派ディズニー作品としては「塔の上のラプンツェル」に続く、そして3DCGアニメーション作品としては2作目、ということになる「アナと雪の女王」。原作はアンデルセンの「雪の女王」ということだが、まあ、エルサの能力だけ生かして後は名前から物語からほぼディズニーオリジナルである。「塔の上のラプンツェル」は東日本大震災後最初に劇場で観た劇場作品ということもあって思い入れも深い作品。今回は物語的な部分では「ラプンツェル」に軍配が上がるけれど、音楽その魅力とさらにパワーアップした映像美では「アナと雪の女王」が上かな、と個人的には判断する。

 本編前の短編は「ミッキーのミニー救出大作戦」で白黒の初期ミッキー(「蒸気船ウィリー」の頃)の登場から始まって最初のうちは新作ではなく昔の作品なのかな、と思いきやこれがやがて3Dを最大限に活かしたスラップスティックな展開になるのは見事。僕は初見を2Dだったのだけれどこれだけのために3Dでもう一回観たいと思ったほどで実際2回めを観ました。実はあんまりディズニーの定番キャラはドナルドダックを除いてあまり好きではなくこれまであんまり見たことがなかったのだが、これはどちらかと言うと「トムとジェリー」や「バッグス・バニー(というかワイリー・コヨーテか)」を思わせる短編でしかもそこに技術の進歩をきちんと反映させる感じでとても面白かったです。ちなみにここでのミッキーの声はウォルト・ディズニーその人です。 

 本編は姉妹の幼い頃から始まり事故による隔絶の後、姉妹の再びの出会いと別れという形を迎える。アレンデールなど世界観の描写は19世紀初頭ぐらいと思われ、いわゆるお伽話よりはちょっと近世に近い。ラプンツェルとフリン・ライダーがゲスト出演したりしているけれど、まあラプンツェルとは明らかに時代が違うでしょう。
 劇場で何度も観せられた「Let It Go」。それは字幕版だったため多少は変更が欲しくて初見は日本語吹替版で鑑賞。松たか子が担当。「ラプンツェル」の時は中川翔子が声のみを担当していて歌は別の人だったけれど松たか子はエルサの声と歌両方担当している。食傷気味ではあったけれど飽きるということはなくてやはり素晴らしい。ただ、事前の映像は宣伝用とかMVとして独自編集されているのかな、と思ったけれどそんなことは無くて一回目の鑑賞ではちょっと「Let it go」のみ独立した風に感じてしまった。最もこれも2回め見た時はそのへんの違和感はあんまり感じなかったんだけど。
 この歌は主題歌としてエンドクレジットでも流れる。日本語歌詞は劇中で流れるミュージカルとしての歌詞と主題歌としての歌詞は少し変更しても良かったんじゃないかなあ、という気もするけれどどちらもいい曲です。
 英語版でエルサの声と歌声を担当するのはイディナ・メンゼル。「glee」のレイチェルの実の母親シェルビー役でも知られているがなんといっても「ウィキッド」のエルファバ役で有名だ。歌声にはもう申し分ない。

 一方、アナの声は日本語が神田沙也加で英語がクリスティン・ベル。神田沙也加はご存知松田聖子の娘だが自分のブログだと以前「マンマ・ミーア!」の感想の時に親子で宣伝してたのでちょっと触れたかな(旧ブログの方です)。NHKでやっていたディズニー&ジブリの歌特番でPerfumeとかAKB48に混じって参加していてその歌声に聴き惚れたものだが、ここでも歌も台詞も文句なし。クリスティン・ベルもあんまり唄うイメージは無かったけれど(「バーレスク」で踊ってはいたね)美しい歌声です。ただ、アナのキャラクター自体はちょっと掘り下げが足りないというか、王宮で不自由なく、でも責任なく育ったためかちょっと精神的に未発達なところもあって、エルサでなくてもその唐突な行動にはイラッとするかも。中盤のクリストフと出会ってしばらくの世間知らずな会話は笑わせられるけど。彼女も一応悲劇的な展開を迎える役どころではあるんだけどそれは主に肉体的な部分でメンタルな部分ではエルサの背負った心の疵には及ばない。

 その他、男連中は記事の後半に触れるとして、いわゆるマスコットとしてオラフという雪だるまが登場する。これは幼いころエルサがアナのために作った者の再現でエルサが「Let it go」を歌いながら何気なく作った雪だるまが命を持ったもの。これが微妙に空気の読めないウザキャラであれだね、ジャック・ブラックとかザック・ガリフィアナキス系。個人的には人参の鼻がない方が可愛く思えるんだけど、まあその辺は置いといてこれを日本語版で演じているのはピエール瀧である。いわゆるピエール瀧のちょっと強面な感じは全く無くて雪だるまなのに夏を求めるキャラクターを上手く演じている。

 25ヶ国語で歌われる「Let it go」。なんとなく南の国の歌い方はこの歌の雰囲気に反して陽気そうで、北の国の歌い方はやはり氷や雪と似合う感じがしますね。偏見ですが。

歴代氷ヒーロー

 氷を操るキャラクターといえばこれまで数多く登場しているけれど、ちょっと軽く歴代の氷・雪を操るキャラクターを紹介してみてエルサと比べて観るのも一興。まずはヒーローチームからこの人。


 本名ボビー・ドレイク。コミックスではX-MENのオリジナルメンバーの一人、映画では1作目から登場しているが「恵まれし子らの学園」の生徒という形での出演でメンバーとして本格的に出てくるのは2作目から。映画ではもっぱら手から凍気を放つ、という形での描写ばかりだったけど、コミックスでは前身を氷に変えて(時期によって身体を氷で覆う形から完全に氷に変えてしまうものまで様々)活躍する。ミュータントとしての氷化能力をある種の呪いと考えた場合エルサに一番近い心理を持っているのはボビーかなと思う。「X-MEN2」でウルヴァリンたちとともにボビーの実家に逃れた際、両親にまるで病気のように思われたり(この「直せないの?」というのは同性愛を治療可能な病気だと思っている古い人達の反応を再現したもの)、弟にまで疎まれていたりとある意味エルサ以上に悲惨だけれど、彼の場合幸いにも同じ境遇の仲間と能力のコントロールを学ばせるプロフェッサーXという指導者に出会えたことが大きな違いだろう。アレンデールにもプロフェッサーXがいればよかったのに、と心底思う。トロールの長老はエルサの力を禁忌の物とし、両親もこれときちんと向き合ってこなかった。

  • 青キジ


 続いて「ONE PIECE」から元海軍大将青キジことクザン。ヒエヒエの実の能力者で「だらけきった正義」を心情とする男。劇中でも最強の人物の一人。悪魔の実の能力者は呪いであるとか海に嫌われる、とか言われているけど、まあこの作品世界では他にも悪魔の実の能力者はザラにいて、一部を除いて特に差別されていたりという描写は少ない(チョッパーや幼い日のロビンなどは例外だろう)。能力的にはそれこそ海を凍らせて渡ることができるくらいその能力は強大でエルサに匹敵する。とはいえ、もう精神的には完成されてる部分があるのでその辺はエルサとはぜんぜん違うか。

ONE PIECE 73 (ジャンプコミックス)

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  • ブルーローズ


「私の氷はちょっぴりコールド、あなたの悪事を完全ホールド」の決め台詞でお馴染みのシュテルンビルドの歌姫。本名はセリーナ・カイル5/27追記。ブルーローズの本名はカリーナ・ライルでした。どうもキャットウーマンの本名とごっちゃになってしまったようです。スイマセン。ご指摘いただいたsomething09さんありがとうございました)。多分氷を操る能力ということでは今回ここで上げたキャラクターでは一番低いかもしれない。また彼女自身がその能力のせいで酷い目にあったという描写も特にないが、虎徹やファイヤーエンブレムの過去を考慮すると少ならからず世間の厳しい目にはあったかもしれない。一応周りには正体を隠しているようだし。

  • フロゾン


アナと雪の女王」に先立つディズニー系列ピクサーの作品から「Mr.インクレディブル」のフロゾン。スペルは「Frozone」で「アナと雪の女王」の原題も「Frozen」。本名はルシアス・ベスト。モデルは先のアイスマンだと思うけれど*1、人種は黒人で、その黒人と雪というあまり結びつかない要素で僕は「クール・ランニング」なんかを連想したものだ。ヒーロー活動が禁止された後*2Mr.インクレディブルとともに密かにヒーロー活動をしたりしていた。後半でも大活躍。

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 いずれの作品も、大なり小なりその能力が忌むべきものと周囲から思われて、それによって迫害されている、という描写はある。ただ「アナと雪の女王」と大きく違うのは、そういう特別な能力を持つ者は世界に一人だけでなく多数の仲間がいることだろう。その意味では特殊であっても特別ではない。エルサの不幸なところは他に似た者がおらず、自分の力を呪いと決めつけ禁忌の物として扱おうとしたことだ。言っても詮無いことだが、国王夫妻は本当に能力のコントロールを求めているなら、王宮に押し込めずそれこそトロールのもとに預けるということをしたら良かったのに、と思う。ボビーのところでも書いたがエルサにプロフェッサーXに当たる人が存在すれば良かったのにと心から思う。
 ただ、最終的にどの作品でも(もちろんこの「アナと雪の女王」に置いても)その特殊な力を肯定して終わるのは良かった。
 

ダブルヒロイン、そしてダブルヒーロー?

 今回のヒーロー役はクリストフ。氷を売って暮らす山男。小さいころにトロールと出会いともに暮らしてきた。僕は「塔の上のラプンツェル」の感想で、フリン・ライダーはエイドリアン・ブロディに似ている、と書いたが、今回も実際に声を当てているキャストとは別で僕は別の俳優を想像してしまった。それはオーウェン・ウィルソン


 ね!似てるでしょ。実際に声を当てているのは「glee」のジェシー役でお馴染みのジョナサン・グロス。キャラクターとしてはフリン・ライダーほどアウトローではないけれど、街の暮らしとは少し距離を置いている感じで、しかも登場直後からすでに人間として完成されている感じはフリン同様ディズニーのヒーローとしては異質なのかもしれない。ちょっと気になるのは前回の「ラプンツェル」でもマスコットキャラであるカメレオンのパスカルや馬のマキシマスは人語を解しても喋らなかったけれど、今回もエルサの魔法で生まれた雪だるまのオラフは別としてトナカイのスヴェンは喋らない。3DCGになってやはり普通のアニメだった時とはちょっとリアリティの模索が違うのだろうか。

 僕は予告編や「Let it go」以外特に事前に知識を得ず観に行ったので、ハンス王子が出てきた時は普通に彼が今回のヒーロー役なのかと思ったし、その後クリストフが出てきて(登場自体は子供時代も含めて早いけど物語にメインで関わってくるのは中盤から)少し戸惑うもハンスがイイ人である、という認識は動かなかった。ハンス王子にはクリストフのようなワイルドさはないかもしれないけれど、誠実で真面目なタイプ、例によって「愛と誠」の岩清水弘タイプだと思ったのだ。ところがハンス王子は13番目の王子で国元ではとても王位に就けそうにないため、他の国の王女と結婚してその国の王位を狙う悪人だったことが判明する。正直この展開にはびっくりしたし、未だに納得はいっていない。というのもこの物語は特に明確な悪役を必要としない物語だからだ。確かにウェーゼルトン公爵(ウィーゼルタウン=イタチの町と間違わられる)は悪役といっていいし、エルサも一時的に悪役のような形になる。でもハンスを悪役にしなくても十分同じようなエンディングを迎えられたと思うのだ。なんといってもハンスが悪人としての本性を現すシーンに至るまでそれを予見させる伏線のようなシーンが無く、突然の文字通り「君子は豹変す」るので観ているこちらのダメージがでかい。

 この原因の一つに前半にアナとハンス王子のとてもチャーミングな「とびらを開けて」というナンバーが用意されていることもあるだろう。この素晴らしいデュエットがなければハンスが悪人という結末ももう少し素直に受け止められたかもしれないが、なんとなくあんなキュートな歌を唄う人物が悪人であろうはずがない、という意識が働いてしまう。
 僕はアナとクリストフがソリに乗りながら「初めて会った男とその日に婚約」論争をしている時に思い出したのがアニメの国から実写の世界にやってきたヒロインを巡るディズニーの物語「魔法にかけられて」なのだが、例えば「魔法にかけられて」でジェームズ・マーズデン演じる王子が最初はジゼルと恋仲になりながら最終的にナンシー(イディナ・メンゼル!)と結ばれたように、ダブルヒロイン、ダブルヒーローでも良かったと思う。もちろん「魔法にかけられて」のようにアナと結ばれないからエルサと、という具合に単純にはいかないだろうけど、アナとクリストフを祝福しつつ静かに身を引く、というようなことも中盤までのハンス王子のキャラクターなら素直に想像できた。アナとクリストフが結ばれるのが既定路線だとしても、僕はハンス王子とクリストフは名前から「雪の女王」の原作者ハンス・クリスチャン・アンデルセンの名前を分け合っているのかななどと深読みしてしまったぐらいなのでハンス王子の処遇にはイマイチ納得いかないのだ。もちろん、その辺を差し引いてもこの作品は素晴らしいです。

アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック「英語版」

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 物語は氷と雪に閉ざされたアレンデールと再びエルサの魔法を受けてしまったアナを救う「真実の愛」が恋人との愛などではなく姉妹の互いを思う愛と示され、ハッピーエンドを迎える。先に述べたように少しばかり(主にハンス王子の扱いについて)疑問点が残る部分もあるが、それでもそういう細かい部分を吹き飛ばす威力があるのもミュージカルや美しい映像の魔力だ。多少の瑕はさて置いても素晴らしい作品であることは間違いない。
 僕は初回を日本語2D、二回目を3D英語で見たけれど、多分順番としては初回字幕、二回目吹き替えの方がいいかもしれない。というか何度も言っているけれど字幕なら2D、3Dなら吹き替えの方が本当はいいんだけど、今回は3D吹き替えは用意されていないようだ。残念。

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実は「雪の女王」といって最初に思い出すのはこの「女神異聞録ペルソナ」の隠しシナリオの方だったりします。
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*1:インクレディブルファミリーのモデルがファンタスティック・フォーでさらにそれぞれモデルがいる

*2:実はこの作品ストーリー的には「ウォッチメン」のフォロワーでもある