The Spirit in the Bottle

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我は炎、我が名は死なり ホビット 竜に奪われた王国


 今年の2月は「Thor」に始まり「Thorin」に終わる!2月頭の「マイティ・ソー ダーク・ワールド」と対になるように北欧神話の影響の強いもう一つの物語「ホビット 竜に奪われた王国」の公開です。てか多分「ソー」と「トーリン」は語源一緒だと思うし(トーリンは英語発音だと「ソーリン」に近いような)。J・R・R・トールキンの「ホビットの冒険」の映画化であり、大ヒットシリーズ「ロード・オブ・ザ・リング指輪物語)」の前日譚にあたるこの物語。魔法使いと13人のドワーフ、そして1人のホビットの冒険もはなれ山に近づいていよいよ佳境。作品は全編見せ場となります。「ホビット 竜に奪われた王国」を鑑賞。

物語

 冒険を続けるビルボ・バギンズとトーリン・オーケンシールド率いるドワーフの一行。いまやホビットをばかにするものはおらず固く友情で結ばれています。しかし一行を次々と災難が襲います。邪悪なオーク、アゾグとその一味たち。熊人ビヨルンの助けのもと森に逃げ込んだ一行を襲う大蜘蛛たち。そして闇の森のエルフに捕らわれた一行はまたしてもビルボの機転で脱出しますが、今度は人間の町に入らなければなりません。かつてのエレボールの麓デイルの王ギリオンの子孫バルドの手を借りて湖の町に入るトーリンたち。はなれ山の秘密の入り口を指し示すデューリンの日の最後の光が指し示す時までに彼らははなれ山にたどり着くことができるのでしょうか。

 前作「ホビット 思いがけない冒険」の感想はこちら。

 原題は「The Desolation of Smaug」で「スマウグの荒らし場」と訳されることが多いですね。邦題はもうちょっと分かりやすくした感じでしょうか。
ホビットの冒険」という物語全体に付いては以前こちらで結構力を入れて書いたので今回は映画の方に絞って短めに書きたいと思います。3部作の原作を実際に3部作で映画化した「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズに対して、本作は1冊の原作を3部作として映画化。しかも当初は前後編の予定だったのを3部作にしたわけですから、そこには監督ピーター・ジャクソンの意図ととして「LotR」3部作と「ホビット」3部作の各作品はそれぞれ対応しているとかんがえるのが妥当でしょう。本作はある意味一番原作のアレンジ度、ピーター・ジャクソンのオリジナル度が高い作品だと思いますが(3作目が公開されないとなんとも言えないけれど)、その分「二つの塔」との類似点が多いです。例えば湖の町エスガロスでは映画オリジナルのキャラクターとしてアルフリドという町の統領の腰巾着的なキャラクターが登場しますが、これは「二つの塔」の蛇の舌グリマに相当するキャラクターでしょう。愚かな統領はグリマを通してサルマンの支配下にあった頃のローハン王セオデン、そして彼らに反対するバルドはエオメルを連想させます。また中盤以降一行は3つのグループに分かれますがこれも「二つの塔」を踏襲したものと言えます。
 前作に比べると牧歌的な描写は減り(それでも「二つの塔」に比べれば全然明るいですが)、暗い描写が続きます。湖の町はジメッとどんよりとしていて死者の沼を思わせますし*1、ビルボがだんだんと(それでもフロドほどではありませんが)一つの指輪の魔力に溺れていく様子が描かれています。

 まず何より、今回は3部作の2作目ということで、いきなり始まり、そしていいところで突然終わる、という形を取っています。なので一本で完結した作品として観た場合は当然ダメだという人も多いでしょう。どのくらい存在するかわかりませんが、前作を観ておらず、シリーズ物だということも知らず、続編も見る予定はない、あるいは「あくまでこの一本だけで評価するぜ」という人には厳しい作品だと思います。とはいえ映画はその昔は連続活劇であることのほうが普通でした。また、例えば「007」シリーズ、「ダークナイト」シリーズなど、一作一作の興行成績を持って次の作品の制作が決まる、という形でなく、最初から3部作であるとアナウンスしてるシリーズなので、基本的には3部作の2作目、一作目から引き継ぎ、完結は三作目へ引き継ぐという形式は前提知識として客側が知っておくべきことかな、とも思います。冒頭で「思いがけない冒険」について物語を復習するなどということも特になし、潔いくらいです。
 ただ、確かに見せ場の連続で、ストーリー的にぶつ切りで終わるのは全然構わないのですが、見せ場の連続過ぎてちょっともたつく部分はあるかも。前作冒頭のような明るく牧歌的で愉快な描写がもっと欲しかったですね。その辺今回の冒頭で登場する熊男ビョルンあたりの描写をもっと丁寧に見せてくれても良かった気はします。
 物語としては暗めですがアクションは明るめで、前作のゴブリンの洞窟でのジェットコースターに乗っているようなスラップスティックなアクションは今回は樽に乗って川を下りながら、オークの追手を逃れるアクションがとてもアトラクション性が高く愉快です。この一連のシーンでは樽に乗ったドワーフたちの他に本来ドワーフを捕まえるための追手であるエルフ(レゴラス!)たちとオークの主に弓を使った戦いも見事ですね。二つの樽のドワーフの頭にまたがって矢を放ったり、あるいは樽にはまったまま地上に乗り上げ、樽から手足を出してオークと奮闘し、樽を破壊して再び別の樽にはまるボンフールなどはユーモアと激しいアクションの融合といった感じで見ていてとても興奮するものでした。

 前作はホビットドワーフたちと同じ画面に映る多種族が背の高い魔法使いのガンダルフがメインで裂け谷のエルフやゴブリンぐらいで人間より小さい種族というのがあまり認識しづらく、トーリンやフィーリ・キーリの兄弟のスタイルの良さも相まってその大きさを忘れがちでしたが、今回は冒頭の粥村の酒場で食事をとるトーリンや湖の町で人間に囲まれるドワーフたちというシチュエーションが多く用意されることでドワーフ本来の大きさが実感できます。ドワーリンなんかドワーフなのに巨漢のイメージがあったからなあ。
 もちろん、前作から主要キャストは継続。トーリン・オーケンシールドはリチャード・アーミテージ。前半は前作ラストを引き継いでビルボを強く信頼する様子を見せますが、後半、いざ湖の町で人間相手に演説をぶつあたりから独善的な面が見え始め、ドワーフ王の証でもあるアーケン石に対する強い執着を見せ始めると不穏な感じに。この辺はやはり「二つの塔」での指輪に対する思いが強くなって周りを信じられなくなっていくフロドやあるいは「旅の仲間」ラスト近くのフロドから指輪を奪おうとするボロミアを彷彿とさせます。
 ドワーフ一行でやはり特筆すべきはキーリで、前作でも兄のフィーリとともにそのドワーフらしからぬハンサムぶりで驚かせましたが、今回はオリジナルの要素としてエルフとの恋愛が!お相手は闇の森のエルフ、タウリエル。囚われて牢にいるときに交流を交わし、オークに脚を射抜かれたキーリをタウリエルが救うというドラマティックな展開。タウリエルは弓の名手で王子であるレゴラスから好かれていますが、レゴラス父親であるスランドゥイル王からは身分の違いを理由に邪険に。レゴラス、キーリ、タウリエルの美男美女三角関係!もっともタウリエルの方はレゴラスをなんとも思っていないようですが。キーリはエイダン・ターナー、タウリエルエヴァンジェリン・リリー。そしてレゴラスはもちろんオーランド・ブルーム
 オーランド・ブルームは大多数の人と同じく僕もレゴラス役として知りました。今回は闇の森が舞台の一つとなることでレゴラス再登場となりました。「王の帰還」から10年、再び永遠の若さを持つエルフを演じることになります。「思いがけない冒険」ではレギュラーのガンダルフイアン・マッケランの他に裂け谷のエルロンドとしてヒューゴ・ウィービングガラドリエルの奥方としてケイト・ブランシェット、白のサルマンことクリストファー・リー御大、そしてビルボ・バギンズイライジャ・ウッドなどが登場しました(もちろん老ビルボことイアン・ホルムも)がガンダルフ以外はスポット参戦と言ったところ。それに比べるとレゴラスの参戦はゲストというには本格参戦です。それで10年経ってるわけですが全然変わらないですね。ちなみに父親であるスランドゥイル役のリー・ペイスオーランド・ブルームより年下です。
 実は僕はオーランド・ブルームレゴラスで認識しているのでそれ以外だといまいち誰だか分からなくなることがあります。特に「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのような口ひげを生やす役だと今回出てくる新キャラ、バルド役のルーク・エバンスと区別がつきにくいです。なので最初にルーク・エバンスとオーランド・ブルームが同じ作品に登場する、と知った時は区別が付くか心配でしたが、ルーク・エバンスの方こそ新登場でいつもの口ひげスタイルですがもちろんオーランド・ブルームレゴラスなので問題なし!大体一緒の画面に出るわけでもないですしね。
 レゴラスといえば相方はギムリなわけですが、本作ではギムリの父であるグローインとの出会いも。ロケットに入っていたギムリ肖像画を見てレゴラスが「なんて醜い!」なんて言うシーンも有りますね。この時を越えた出会いはなんとなく「キャプテン・アメリカ」〜「アベンジャーズ」でのスティーブ・ロジャースが時を超えてハワード・スタークと出会い、後に自身は年を取らぬまま、その息子であるトニー・スタークと出会う、という流れを思わせます。

 灰色のガンダルフイアン・マッケラン。強力な魔法使いとして切り札的な位置付けでもあり、何らかの理由をつけて旅の一行から外れるのも「二つの塔」以来のお約束といえるかも。今回は度々一行を襲うオークのアゾグたちがただ襲うわけではなく、何らかの闇の意思によって指示を受けての行動ではないか、と疑い旅の一行から離れます。これは前作にも言えることですが、この「ホビット」というシリーズ自体が単に「LotR」の前日譚というだけでなく来るべき「指輪戦争」の前哨戦という意味合いが強いものになっています。それもあって、例えば茶のラダガストと待ち合わせ場所がナズグルことアングマールの魔王の霊廟であったりします。ここでガンダルフは「死人使い」と相対しますがその正体は冥王サウロンです。象徴的な燃える目が出てきますがその中で瞳を形作るのはまだ肉体を失う前のサウロンのシルエット。
 ビルボ・バギンズはもちろんこの人、マーティン・フリーマン。基本的には朗らかで前向きなホビットを今回も演じています。ただし前回、ゴクリ(ゴラム)から「一つの指輪」を奪ったことで少しばかりガンダルフに対して後ろめたい思いを抱くことになります。ビルボは指輪を手に入れたことを伝えられず、代わりに「勇気」を手に入れた、と告げますがそれが本当の勇気なのか、それとも偽りなのかはまだわかりません。指輪を嵌め、姿を消した時の描写はこれまでの描写に準じていますが、大蜘蛛たちの会話が聞き取れるようになるなど、単に姿を消すのではなく、闇の世界に身を委ねているのだ、ということがわかります。またこの時指輪が一時的にビルボの手を離れますが、この時のビルボの「いとしいしと」に対する執着はすでにかなりのものです。この描写はおそらく3作目でさらに描かれるでしょう。「ホビットの冒険」自体はいろいろあってもハッピーエンドで終わるはずですが、映画の方はもしかしたら後の「指輪戦争」を暗示させ暗めに終わるのかもしれません。
 ビルボははなれ山に着いて、日が沈んでしまって、他のドワーフが諦めてしまってもビルボだけは諦めません。バーリンはスマウグが眠るその場所からアーケン石を取って来る仕事を、もし怖いならやめてもいいと言うけれどビルボはこれを決行します。そして眠るスマウグの元へ訪れますが前作ではゴクリとの問答がある意味クライマックスでしたが、今回もスマウグとのやりとりがクライマックスといえるでしょう。しかしゴクリと違ってスマウグは巨大な竜です。その威厳はゴクリの比ではありません。そしてその魔竜スマウグを演じているのがベネディクト・カンバーバッチです。
 ベネディクト・カンバーバッチは昨年「スター・トレック イントゥ・ダークネス」で悪役カーンを演じましたが、あれとはまた全然別の悪役です。実はカンバーバッチは声だけでなくスマウグのモーションキャプチャーも務めているそうです。これがドラゴンの顔の表情のみならず、身体の動きまで含めて演じたそうですが、例えばゴクリの同じヒューマノイドタイプのクリーチャーのモーションキャプチャーならともかくドラゴンとなるとどのように演じたのかちょっと想像がつきません。
 マーティン・フリーマンベネディクト・カンバーバッチといえば彼らの故国イギリスのBBC放送の「シャーロック」におけるワトソンとホームズです。そこでの二人の関係なんかも考慮するとこのシーンも味わい深いです。
 やがて、スマウグはその全身を表し、巨大なエレボールの空間でドワーフたちと戦います。この辺は建物の中(だけど巨大な空間)*2での戦闘ということでスマウグの巨大さが際立ちます。元々ドワーフの宮殿というだけでなく採掘場兼加工場でもあるわけでそこでは溶鉱炉も備え付けてあり、ドワーフたちは溶けた金を浴びせることでスマウグに一矢報いようとしますが・・・
 金を浴びたスマウグはさながら一首のキングギドラという感じでそのままエレボールを離れ夜の大空へ飛び立つさまは圧巻の一言に付きます。スマウグは言います。

我が名は炎、我が名は死だ

 そしてスマウグが腹いせとばかりに人間の住む街、エスガロスを燃やそうと向かうところで映画は終わります。この唐突な終わり方!これは完結編への渇望感が高まります。最初の方でも書いたとおり、単品の映画としてみた場合、この作品は途中から始まり途中で突然終わる、形式のため評価は厳しいかもしれません。それでも前提が3部作の二作目なんでこれでいいんですよ!

 今回も初見はIMAX3D。HFR(ハイフレームレート)での鑑賞です。ただ残念ながら前回はあったこのバージョンでの日本語吹き替えは無し。正直3D作品は吹き替えをメインに敷いて欲しいんですが。字幕が二重になるんですよね。前作で各バージョン別の興行収入とかが考慮されたんでしょうか。HFRはちょっと気味が悪いぐらいにウニョウニョ動くのが特徴ですが今回は樽に乗っての激流下りあたりで顕著だったかな、と思います。
 そして二回目は日本語吹き替え。もちろん日本語吹き替えキャストも前回から続投です。「思いがけない冒険」ではビルボとゴクリのやりとりが最高でしたが今回はゴクリを演じたチョーさんは登場しません。代わりと言ってはなんですが闇の森のエルフの王スランドゥイルが森田順平。スランドゥイルはエルフならではの選民意識やかつてスマウグに襲われるドワーフたちを見捨てたことからちょっとした悪役を担っていますが、その慇懃無礼な嫌味っぷりが森田順平さんの演技で濃縮されています。いやあ、チョーさんも森田さんも最高です。そして必然的にチョーさんと森田さんが丁々発止で激しいバトルを繰り広げる「タンタンの冒険」は至高の逸品ということですね。こちらもピーター・ジャクソン制作作品!

 ただ一部固有名詞には少し不満もあって、前作から続く「ネクロマンサー」のカタカナ用語。そして吹き替えの方では前作でビルボがトロールの棲家から見つけたエルフの短剣が「つらぬき丸」と名付けられる由来のシーン。こちらが字幕では「つらぬき丸」なのに吹き替えだと「スティング」になっているのです。日本語で由来を語るにしても「つらぬき丸」の方がやりやすいと思うんですがこれは「LotR」から続く名称だからでしょうか。これは是非吹き替え版も「つらぬき丸」にして欲しかったですね。この辺はほんとうに残念。
 3部作の最終章、「ホビット ゆきてかえりし物語」はやはり当初の予定より延期されてしまって2014年12月全米公開予定。日本だと2015年春ぐらいでしょうか。やはり「王の帰還」と対になる作品となるであろいうことは明らかで(本作でも幾つかその断片が示されています)、見せ場として「王の帰還」の「ペレンノール野の合戦」に匹敵する「五軍の戦」が描かれるはずです。いずれにしろこのピーター・ジャクソンによるトールキンの中つ国の物語はまもなく終わりを迎えます。その時を心して待ちましょう!

ホビットの冒険〈上〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈上〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈下〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈下〉 (岩波少年文庫)

*1:というかラブクラフトの「インスマスの影」を思い出してこの辺もしかしたらギレルモ・デルトロの影響なのかなと思ったり

*2:ドワーフの建築技術が優れているのは「旅の仲間」でのモリアでも示されていました