The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

そこは深く暗く、しかし 「新しき世界」

 例によってかなり前に観た作品の感想。なんでしょう。面白かったからこそなかなかうまく書けないというか、本当なら「超面白かった!以上!」で終わらせたいくらいなんだけど、ちょっと大したこと書こう、と思っていると逆に進まないパターン。こちらももうほぼ公開は終わっている感じなので短めに。韓国映画「新しき世界」を鑑賞。

物語

 韓国最大の犯罪組織にて企業としては中堅規模であるゴールドムーンのボス・会長が突然の事故死。後継者の候補は大きく2人。組織生え抜きのイ・ジュングと華僑出身で外様でありながら中国との取引を任されNo.2まで上り詰めたチョン・チョン。チョン・チョンの右腕であるイ・ジャソンは実はソウル警察のカン課長の命を受けて組織に潜り込んだ潜入捜査官だった。8年にも渡る潜入に置いて心身ともに疲労したジャソンだがカンはもう少し任務は続くと言う。やがてジュング一派、チョン一派の後継争いが激化し、それを煽る警察にチョン・チョンは警察のスパイがいるのではないかと疑うが・・・

 この作品、とても面白かった。ただ、一部ではBL的な騒がれ方をしていたように思うが、個人的にはそういう要素は感じなかった。普通にヤクザ物における「仁義」「兄弟杯」といった概念で説明できると思う。韓国の闇社会がどのような形式に則っているのかは分からないが、基本日本のそれとほぼ同じだろう。組長がいて若頭がいて、舎弟がいて・・・ただゴールドムーンは暴力団フロント企業にしても大ぴらに表に出過ぎな気がするが、韓国では普通なのだろうか。以前にもちょこっと書いたが、日本ではこういう男同士の友情だとか仁義の話だと最近はすぐBL方面で語る人が多くなってきている気がするなあ。逆にアメリカ映画やこういう韓国映画などがうまく描いている気がするなあ。もっとも僕はBL方面は全然詳しくなく、作品中にちょっとでも存在する同性愛的な要素を妄想で膨らませて語ることを言うのなら全然OK。またあくまで僕の意見であって、そういう見方を全否定するわけではないです。

 配役が僕が事前に知っているのはカン課長役のチェ・ミンシクのみだったが全員いい顔。主人公のイ・ジャソンはイ・ジョンエ。ハンサムで理知的な容貌だが、ヤクザというには温和なルックス。警察とヤクザの間で苦悩する表情は見事だがどちらかと言うとよくこれで闇社会で出世できたな、と思わないでもない。しかしこれが最終的には見事に厳しい悪のカリス性を漂わせた表情になるから見事だ。
 チェ・ミンシクは今回も太り気味でずんぐりむっくりなう感じのベテラン刑事。部下を送り込み、そもそも物語のきっかけとなるゴールドムーン会長の事故死を演出したのも彼(おそらく警察による謀殺)。この映画ではゴールドムーンの「一般人への犯罪行為」は描かれないため、この警察も必要以上にあくどく見える。その警察の顔として画面に出てくる。
 他に冷静な経済ヤクザと言った風情のイ・ジュングをパク・ソンウン。見かけはそんな感じだが、おそらくヤクザとしては昔ながらのタイプで組織生え抜きでありながらチョン・チョンに経済力では劣るタイプなのだろう。組織の序列ではチョン・チョンに一歩劣り激しく対立する。彼ら物語の主役となる後継候補たちが40歳前後だとすれば単に序列で言えば上位に来るスギ理事やヤン理事と言った連中は前会長の舎弟にあたる感じで60前後といったところか。スギ理事のチェ・イルファ小野寺昭っぽい。僕がチェ・ミンシク以外に知っていた役者はヤン理事のチャン・グァンでこの人は「トガニ」の双子を演じてた人ですね。ちなみに韓国語版「シュレック」のシュレック役としても有名なんだそう。浜田雅功ポジション!
 その他、男は基本渋いイイ顔の役者が多く、数は少ないけど出てくる女性はみんな凄い美人ばかり。
 でも僕が、そしておそらく観客の殆どが魅了されるのはチョン・チョン役のファン・ジョンミンだろう。韓国華僑の出身で組織のNo.2の威厳は殆ど無い飄々としたチンピラと言った風情だが、これが人懐っこい表情と動作でチャーミング。しかしいざとなればヤクザらしい暴力性も遺憾なく発揮する。これはブレイクしますぜ。僕は見ていてジョン・レグイザモを連想してしまった。とにかくチョン・チョンが魅力的でこの映画の肝です。

 潜入捜査官という題材から香港映画の「インファナル・アフェア」シリーズやそのリメイク「ディパーテッド」などを連想するが(最近だと日本版も作られたね)、主人公を一人に絞ることで苦悩を丁寧に描いている気がする。
 また僕はこの映画で韓国社会における華僑というものを知った。もちろん韓国社会にも中国系はいるだろうけど、こんなに明確に区別されるものだとは思わなかった。歴史的には元々現在の北朝鮮中国東北部(旧満州)の境界にはたくさんの民族が混在していたが、現在の華僑は19世紀末にやってきた中国人が第二次世界大戦後に韓国に来たものと、中国の内戦によって主に山東省から逃れてきたものと分けられるそうである。
 軍事政権だった頃は明確に朝鮮民族である国民とは様々な差別があったが、民主化以降は法的には差別は取除かれている。また若い世代は「韓国化」が進んでいるがそれでも「中国人」という意識を持つ人も多いようで、やはりこの辺は日本だとそのまま日本に住む華僑と言うより、在日韓国・朝鮮人に近いのだろうか。もし本作を日本でリメイクするとしたら日本の暴力団における生え抜きと在日韓国人系の外様が次の組長を巡って抗争、という感じになるのであろうか。
 主人公はラスト、事情を知る全ての人物を抹殺して潜入捜査官という本来の自分の過去を完全に消し、ゴールドムーンの会長の座、韓国裏社会の頂点へ上り詰める。しかしジャソンも知らないが、実は彼の妻も実はジャソンを監視する役目を負ったものであった。彼女だけは事情を知っているが・・・
 最後は潜入間もない頃のジャソンとチョン・チョン。己を偽ってはいるがそれは確かにジャソンにとってかけがえのない日々だったのだ。
 
 ちなみに本作すでにアメリカでリメイクが決まっているそうです。もう観ている最中からチョン・チョンはジョン・レグイザモにしか見えなかったので、ぜひ彼でお願いしたい。イタリア系マフィアの組織でヒスパニック系の外様なのに若頭までのし上がったギャングという設定でいけますよ!