The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

世界は周回する。されど変わらず スノーピアサー

 すっかり遅くなってしまってけど「スノーピアサー」の感想です。待望のポン・ジュノ最新作。また原作にフランスのグラフィックノヴェル(いわゆるバンドデシネ)を持ってきたことで、当然韓国人キャストだけでは制作できないので多国籍作品となりました。ただ、先行するキム・ジウン監督の「ラスト・スタンド」やパク・チャヌク監督「イノセント・ガーデン」の時とは違って、アメリカ(ハリウッド)に進出したと言うよりはあくまで多国籍なキャストが必要だからというのにとどまっていて本作は韓国が中心に、フランス(原作)アメリカとの合作映画という位置付けのようです。もう大部分の劇場で公開も終わってしまったみたいですが、短めに。

物語

 2014年、深刻な温暖化に対して人口冷却物質が大気圏上層部に塗布された。しかし地球の温度を最適に保つはずのそれは世界を雪と氷の世界へと変貌させ地球はまるで氷河期のように。外の世界ではほとんどの生物が死滅する中、生き延びた人類は一年かけて世界を一周する特別な列車「スノーピアサー」の中で暮らしていた。しかしそこでも後部車両の虐げられ惨めな暮らしを強いられる貧困層と、前方車両で優雅に暮らす富裕層の格差が存在した。
 2031年、後部車両で暮らす青年カーティスはこの現状を打破すべく前方車両への進出、つまり反乱を企てる。そのためにはスノーピアサーのセキュリティを担当したというナムグン・ミンスとコンタクトを採らねばならない。そして反乱の時が来た・・・!

 ちなみに韓国版のポスターはこちら。

 ソン・ガンホ推し!(とはいえ最近の映画の例に漏れず、各キャスト事のポスターが作られてるみたい)
 人によって感じ方が違うようで、「ポン・ジュノらしい」と思った人もいれば「いままでのポン・ジュノらしくない」と思う人もいるようで、僕はどちらかと言えば前者。もちろん作品の規模も大きくなり、メインのキャストが韓国人だけじゃなくなり、SF/ファンタジーの要素も大きい作品ということでこれまでの作品とは雰囲気は異なるけれど、それでもポン・ジュノらしいと思った。
 物語の発端となる人口冷却物質「CW-7」の散布にまつわる設定は「グエムル」でのエージェントイエローを思わせる。物語に不気味な雰囲気を残して終わるところなんかは「母なる証明」や「殺人の追憶」ぽい。いずれにしろポン・ジュノが「犬を犬鍋にするかどうか」という物語から人類の生存競争まで描くに至ったのだなあ、と思うと感慨深い。
 人類が窮地に陥りながらもなお差別を作り出す構図はジョージ・A・ロメロの「ランド・オブ・ザ・デッド」を思わせるし、緻密なSFというより寓話的に貧富の差を描くということでは「TIME/タイム」なんかもあった。もちろん普通に考えると一車両一役目の列車という設定ではかなり無理がある物語でこの辺SFと言うよりは寓話/お伽話に近い作品だと認識したほうが良いと思う。
 原作はフランスのジャック・ロブ、ベンジャミン・ルグランド、ジャン=マルク・ロシェット等によるBDでロシェットは劇中の画家に拠る似顔絵も手がけている。ただ、映画はBDのままというわけではなくて設定こそ流用しているけれど、大筋はポン・ジュノによるものらしい。とは言え、ポン・ジュノ初の原作物、ということになる。
 作品を占める不思議な雰囲気はやはりポン・ジュノ監督の手腕に依るところが大きと思われ、これが原作でもあるフランスの監督だったらもっとアーティスティックなファンタジーになっていた気がするし、アメリカのメジャーどころによる制作だったらもっと設定を突き詰めて、その上で分かりやすいアクション活劇になっていたかも。その辺で不思議な雰囲気を残しつつ、でもきちっとエンターテインメント作品として成立している部分はポン・ジュノさすがだなあ、と思う。

 キャストは韓国からはソン・ガンホとコ・アソンの「グエムル」でも親子を演じていた2人。ソン・ガンホもコ・アソンも変に気を張ることなくいつもの演技という感じなのが素晴らしい。2人は多少の英語も混ぜつつ、基本的には韓国語でしゃべり、必要に応じて翻訳機を通訳にする。また親子でクロノール依存症という要するにヤク中の設定だが、そのせいかカーティスたち後部車両の住人が常に緊迫感に満ちた状態なのに対して、どこかフワフワしていていいアクセントとなっている。
 コ・アソン演じるヨナは劇中では詳しく語られないが、おそらく「サイコメトリー」のような能力を持っていて(劇中では「クレヤボンス(透視)」と言われるがサイコメトリーの方が近いと思う)、それで扉の向こうの様子が分かったりする。劇中では背広をばりっと決めた恰幅の良い男性二人組(軍人?)が登場するが、この一人が死ぬ直前にヨナに触る。そしてヨナはもう一人を見てその一人はその後執拗にヨナを狙う。この辺全く説明がないが、おそらくこういうことだ。この二人組は恋人同士である。そして死ぬ直前にヨナに触れたため、ヨナはサイコメトリーでそのことを知り思わずもう一人を見る。その表情で全てを察したもう一人はそのことを知るヨナを必ず殺そうと決意する。この車両世界では同性愛はタブーなのか、それとも恋人の最後の想いを知られたことに嫉妬したのかはわからない。この男はまるでターミネーターのように執拗にヨナを狙う。もちろんこの解釈以外にも説明は付けられると思うけど僕はこのように解釈した(ちなみに最初のほうでこの2人が寄り添っているシーンはあるので多分この2人が恋人同士という設定は間違ってないと思う)。
 主人公のカーティスはキャプテン・アメリカことクリス・エヴァンズ。せっかく氷漬けから蘇ったとおもいきや再び氷の世界へ。彼が後部車両の住人のリーダーとなり革命を引き起こす。しかし、彼にも隠された過去があり色々苦悩する。
 カーティスの舎弟にジェイミー・ベル。この人も背が低いのでこういう舎弟役が似合う。また、カーティスを頭脳面で支えるギリアムにジョン・ハート。そしてある意味一番の見せ場であるのがティルダ・スウィントン演じるメイソンである。ティルダ・スウィントンは「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」と同一人物とは思えないくらい漫画チックなキャラクターを演じていて、あの美しさはどこへやら。ある意味彼女の怪演が見どころ。それにしてもジョン・ハートティルダ・スウィントンは「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」ではあんなに仲睦まじかったのに!
 その他、「ヘルプ」のオクタヴィア・スペンサー、「トレインスポッティング」のユエン・ブレムナーなどが出演。
 そして、ラスボスとでもいうべきキャラクターを演じているのがエド・ハリスである。

 物語は先頭車両にて、スノーピアサーの創造主ウィルフォードと出会うに至る。彼は人類がこの列車内で暮らしていくには定期的な口減らしと適度な息抜きが必要だと語り、そのためにギリアムと組んで定期的に反乱を誘発していたのだという。カーティスの反乱は三度目にして最も大規模なもので彼はカーティスを自分の後継者にしようとしていた。この展開は「マトリックス」だ。だから僕はてっきり連れ去られた子どもたちはその身体をまんまスノーピアサーの熱源、バッテリーとして使用されてると思ったのだが、そうではなく、部品がもう無くて人力で動かさなければならない部分があるけれど大人だと入れないので子供、ということなのだな。
 エド・ハリスの演じたウィルフォードは全てを操り神を気取る、という意味で彼が過去に演じた「トゥルーマン・ショー」のクリストフに通じるものがあるだろう。ここまで書いて分かったけど、この「スノーピアサー」、「トゥルーマン・ショー」の脚本や「TIME/タイム」の監督・脚本を手掛けたアンドリュー・ニコル作品に全体として通じるところはあるかもしれない。

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 他には扉を開けたら、魚加工?のための装備をした人たちがいて、戦闘が起きるかな、と思ったら、「はい年が明けますよ」で一瞬、緊張が途切れるところとか、寿司のシーン、そしてなんといっても聖火ランナーのシーンなど、妙ちくりんなシーンも満載。この緊張と外しの妙というのもポン・ジュノらしいかな。
 ラストはヨナと生き延びた少年が新しいアダムとイブになることを示唆して終わる。。。。というかあのシロクマは、外の世界が氷河期を脱しつつある、生命が生存できる、ということを表現してるのかもしれないけど、あのままだと普通にシロクマに襲われて人類終わってしまうような…。まあやはりここは厳密なSFではなくて、社会風刺も交えた寓話・お伽話として捉えるのがいいのだと思いますよ。

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