The Spirit in the Bottle

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虎と兎とミドルクライシス 劇場版TIGER&BUNNY The Rising

 というわけで2月ヒーロー強化月間はまだまだ続くぜ!お次は邦画「劇場版TIGER&BUNNY The Rising」。前作「The Beginning」から一年以上、大幅に予定はずれたけれどやっとの公開です。

物語

 NEXT能力の減退というヒーローとして致命的な限界を抱えながらも2部リーグのヒーローとして現役活動を続けているワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹とその相棒バーナビー・ブルックスJr.。1部リーグへの復帰を口にするバーナビーとこのままでいいと思っている虎徹の間で微妙にずれが生じるのだった。
 2人の所属するアポロンメディアは新たなオーナーマーク・シュナイダーを迎え、彼はバーナビーの1部リーグを復帰を決定。2人揃っての復帰だとバーナビーは思っていたが、実は復帰はバーナビー1人だけで新しい相棒ゴールデンライアンがそこには待っていた。しかし傲岸不遜なライアンとのパートナーシップはあまりうまくいかない。
 一方、シュテルンビルトでは街に伝わる女神の伝説を模倣したと思われる奇妙な事件が相次ぐ。事件を起こしていると思われる3人のNEXTをヒーローたちは追うがその内の1人にファイヤーエンブレムがやられてしまい・・・

 前作の感想はこちら。

虎と兎事始 劇場版TIGER & BUNNY The Beginning

劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning- [Blu-ray]

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 前作の「The Beginning」はTVシリーズの1、2話に新規の2.5話を加えた入門編、文字通り「始まり」の物語だったが、今回は間にTVシリーズを挟んでその後の完全新規の物語となる。なのでTVシリーズを見ていないとちょっとつらい部分もあるのだが、本編に入る前に簡単に説明してくれるので特に問題はないと思われる。
 前作を観た後で僕は、

TVシリーズで棚上げにされていた「ウロボロス」にまつわる話やルナティックとの決着は2013年公開の映画「劇場版TIGER & BUNNY The Rising」でなされるのだろう。

と書いたが、違っていた。どうやら製作者たちはその点に付いて特に詳しく言及するのをやめたのではないだろうか。これは全然否定的に言っているのではなくて、おそらく世界観として「謎の組織ウロボロスが暗躍していて、通常のヒーローの他にダークヒーローとしてのルナティックが存在する」というところまでが「TIGER&BUNNY」の世界として構築されているので、多分シリーズがよほど続かない限りそこの部分に踏むこむ物語は作られないのではないだろうか、という気はする。逆に言うとそこまで踏み込まなければ息の長いシリーズとして続けることが可能だ。本作も完結編と言うよりはちょっと豪華ではあるけれど普段のエピソードという感じ。
 今回はワイルドタイガーの1部リーグ復帰?という縦軸とシュテルンビルトの女神伝説に合わせた見立て犯罪という横軸が交わる形。犯人の過去が復讐という形で関わってくるところなんて「劇場版 HUNTER×HUNTER -The LAST MISSION-」とほぼ同じ構図なんだけど正直出来としてはこちらの方が良い出来だと思う。
 各キャラクターそれぞれに見せ場があり、特にファイヤーエンブレムのネイサンが敵NEXTの一人に強制的に睡眠状態に陥れられて睡眠の中で自身のトラウマを味合わされるシーンはかなり刺々しい痛さ。ネイサンはまあ、テンプレと言ってもいいオネエキャラで普段はいわゆる筋肉質なオカマキャラだけどいざとなると時にはドスの効いた男らしいキャラにもなる、という描写が特徴。実際のLGBTの人たちが見てどう思うかは分からないが、僕はこういうキャラクターは嫌いじゃない(最近でも「仮面ライダー鎧武」の吉田メタルが演じる仮面ライダーブラーボこと鳳蓮・ピエール・アルフォンゾが一番お気に入りのキャラだったりする)。このネイサンが学生時代(中学〜高校の頃か)そのLGBTとしてのあり方を同級生や親に酷く言われているのがネイサンのトラウマとなっている。意外に感じたのはその描写で、NEXT能力の持ち主がヒーロー扱いの一方で化け物扱いもされてある種の差別をされていたのはTVシリーズ(「The Beginning」の1,2話の犯人である少年もそういう扱いを受けていた)でも度々描かれていた。一方でシュテルンビルトでは様々な人種が集まる国際都市であるし(虎徹の故郷が度々登場することからそんなに離れていない日本なのかな、とも思うがとにかく特定の国家を連想させない無国籍な都市でもある)、そういう人種や民族、性的嗜好による差別はないものと思っていたのだ。もちろん、例えばネイサンがシュテルンビルト出身とは限らないし、あるいはこの睡眠中のトラウマ体験自体、ネイサンの心の隅で眠っていたものがNEXT能力で強制的に増幅されたもので、両親や同級生による罵詈雑言も実際は無かったのかもしれない。だから、この描写だけで「T&B」世界におけるLGBTの扱いを断言することはできないのだけれど、それでもアニメできっちり描いたのは画期的だったのではないだろうか。その後のファイヤーエンブレムとして彼が他のヒーローたちのある意味支えになっている描写や、復活と大活躍まで含めてある意味今回のサブ主人公である。
 
 スカイハイやドラゴンキッドあたりはTVシリーズから順当に成長している感じか。スカイハイはまあ元々立派だったんでまああれだけど、ドラゴンキッドの成長は著しい。一方で髪が更に短くなって気のせいか身体の成長の方はより少年らしくなってしまったので、これだけ見た人は女性ってわからない人もいるんじゃないだろうか。
 ブルーローズは昏睡状態のネイサンの発火能力が暴走している状態を何とか食い止めようと私服でNEXT能力(氷を操る)を発揮している時の格好が可愛いです。
 また、折紙サイクロンさんが見きれ職人という立場から脱却し、しっかりヒーローとして正統な活躍をするようになったのも見どころといえるだろう。彼も年齢の若さや人物的に成長の幅が広いキャラクター。劇中でも一度はかつての弱さを見せるのか?と思わせておいて・・・
 各々活躍する中一番割を食ったのがロックバイソンだろうか。彼はTVシリーズでは虎徹が陥りいがちだった、不人気のヒーローとしての立場に悩むことになる。かつてはタイガーがいたためビリではなかったが、今では人気/実力ともにどんけつ。その中で他のヒーローのポーズを真似してみたり、かつての折紙サイクロンよろしく見きれることでスポンサーへの義理を果たしてみたり。色々とミドルクライシス(中年の危機)が彼を襲う。個人的にはですね。ロックバイソンはコスチュームがよくないと思いますね。彼のNEXT能力は肉体強化(皮膚の頑強化)なのでああい鎧みたいなコスチュームを着ることはないと思うんですね。ドリルや角は彼の能力を補うものとしていいと思うけれど、服装自体はもっと彼の肉体美を強調するファイヤーエンブレムみたいな衣装に武器を付属させた方がいいと思う。イメージとしてはやはりバッファローマンぽい感じで。後はこのロックバイソンの衣装、またスポンサーが変わったのですな。胸と腕の「太麺堂々」が前回加わったが、今回は更に肩の「牛角」が消えて「すき家」に。これがまた白一色で馴染んでた「牛角」ロゴに対して赤と黄色の悪目立ち。スポンサーが変わったのはほんとうに残念。そしてこれならやはりもう別コスチュームにした方が良かったのではと思う。彼には今後の活躍を期待したい。
 ルナティックは例によって素顔の判事として登場の後クライマックスにルナティックとして登場。彼は登場ヴィランが復讐の相手として狙う相手こそが本当の悪であり処刑に値するとして、彼らの行動を妨害しようとするヒーローたちの邪魔をし、タイガーと対峙する。彼の価値観は絶対で今後も変わらないだろう。ここでも決着は付かないがもはやイレギュラーなアンチヒーローとしてのルナティックの登場にシュテルンビルトの住人も慣れてしまっている部分があるようだ。
 新キャラのライアン・ゴールドスミスことゴールデンライアンは傲岸不遜な性格でバーナビーとのコンビネーションもいまいち。最初の頃のタイガーとバーナビーのコンビ仲がギクシャクしていたのをバーナビーを軸にひっくり返した感じ。その意味では確かに「The Beginning」と「The Rising」は確かに対になる作品であるのだ。犯人の標的も女神像というミニマムなものだった「The Beginning」に対し女神の伝説に則ったシュテルンビルト全体というある意味やはり対になっている。

自信満々のゴールデンライアン。
 ごめんなさい!劇中のバーナビーじゃないけれど、ずっと、それこそ最初にキャラクターが発表された頃からずっと「こいつが今回の悪役か」って思ってました。が実際はそのNEXT能力もミスリードで性格に難あれど立派なヒーローであった。今回限りが惜しいキャラクター。後シュテルンビルト以外でも似たようなヒーロー運営制度が行われているんだねえ。

 悪役として出てくるNEXTは四人。それぞれ、X-MENのバンシー、マルチプルマン、そしてマグニートーなどを連想させる。正直黒幕の動機やキャラクターは若干弱いが物語の中では十分に機能している。ただ、彼らのある種の被害者で復讐がその動機ならちょっとネイサンやシュテルンビルトの住民に対しての扱いは酷いか。

ヒーローはクールに去るぜ。とはいかず、虎徹は再びワイルドタイガーとして1部リーグへ。なんといっても彼のヒーローとしてのあり方を模索する物語でもある。ヒーローとは職業ではなく生き方、そういうものを深く感じさせてくれる。
 作画的にも申し分ないのだが、一部虎徹さんの顔がちょっとおかしくなる部分が所々あったような。それともあれは僕が個人的におかしく感じただけでそういうものだったのかな。
 声優は昨今の劇場版アニメとしては逆に珍しいくらいしっかりしていて、レギュラーメンバーはもちろんそのまま、新キャラには大塚芳忠平川大輔小山力也水樹奈々、そして麦人ともう申し分のないキャスティング。

 主人公の虎徹を演じる平田広明の代表作は多数あり、おそらく本作と「ONE PIECE」のサンジ、洋画の吹き替えだとジョニー・デップのほぼフィックス、後は「ER」のカーターあたりだと思うんだけど、飄々としたおっさんを演じさせればピカイチかも。ただこの人の代表作として僕が挙げたいのは実はアニメや洋画吹き替えではなくてバラエティ番組でかつてテレビ朝日で放送されていた「LEADER'S HOW TO BOOK 」。TOKIO城島茂がMCを務めるこの番組ではナレーションとして活躍していたが、そのナレーションが最高に面白かった。もう5年ぐらい経つけれど今でも続編を放送して欲しいし、ダメなら是非ソフト化してほしい。

劇場版TIGER&BUNNY ‐The Rising‐

劇場版TIGER&BUNNY ‐The Rising‐

劇場版 TIGER&BUNNY-The Rising-オリジナルサウンドトラック

劇場版 TIGER&BUNNY-The Rising-オリジナルサウンドトラック

 ウロボロスやルナティックとの決着をつけるということでは残念ながら今回も果たされなかった。また、とりあえずはここで終了でまたシリーズが続くというアナウンスは今のところ、ない。でも逆にそれらをシュテルンビルトの日常として位置付けたことでいつでも再開できるし、どこからでも描かれる用になったのではないかと思のです。今後にも期待だ。