The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

薄氷の上で踊る不健康たち アメリカン・ハッスル


 むーん。どうもサボり癖が付いちゃって映画の感想書くのが遅くなっちゃってるなあ。別に時間を置いたからといって良いのが書けるわけでもなく、ただただ内容忘れていくだけなのに。というわけで2月スーパーヒーロー月間の初めとして公開初日1000円で観に行ったのが「アメリカン・ハッスル」。ちなみに「マイティ・ソー ダーク・ワールド」も初日に観に行ったんですが感想は2回めを見てからにしたいと思います。というわけで短めに。

 この映画、物語だけで言うと全然スーパーヒーローものとは関係ないけれど、何しろ出演者がバットマンクリスチャン・ベールロイス・レーンエイミー・アダムス、ミスティーク&カットニス=ジェニファー・ローレンス、そしてホークアイ=ジェレミー・レナーといずれもスーパーヒーロー&ヒロイン経験者なのですな*1。そして主要5人の残る一人、ブラッドリー・クーパーもこの後に「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー」でマーベル・シネマティック・ユニバースに参戦するのです!彼が演じるのはロケット・ラクーン、遺伝子改良されたアライグマの役です。さすがに声の出演だけでモーションキャプチャーを務めるとかそういうことはないと思うけど(最近は意外とそこまでやるから油断できない)。それを置いといても「特攻野郎Aチーム」のフェイスだったりするわけで彼もヒーロー経験者ではある。そのようなスーパーヒーロー経験者ばかりが集う映画なのです。これを楽しみにしないでどうするのか!ましてや僕は「クリスチャン・ベール主演映画に外れなし」という持論を持っているのでこれはもちろん期待して観に行ったわけです。そしてそれは期待に沿うものでした。
 タイトルの「アメリカン・ハッスル」、「ハッスル」は英語で「詐欺」とか「騙し合い」みたいな意味があるそうで、これは1980年に発覚した実在の「アブスキャム事件」をモデルにしたフィクション。「ハッスル」は日本だとどちらかと言うとフィジカル的に健康的な意味合いが強いし「マッスル」や「レッスル」と韻を踏むことでプロレス関係などにも使われ、肉体的なイメージがあるが、本作はもう健康とは程遠い不健康な者達による知能ゲームという感じ。
 監督はデヴィッド・O・ラッセルで僕は大体1作置きぐらいに劇場で観ているかな。僕が前に観たのは「ザ・ファイター」。ここではクリスチャン・ベールエイミー・アダムスが共演していた。そして監督の前作は「世界に一つのプレイバック」で僕はこちらは見ていないのだがこちらではジェニファー・ローレンスブラッドリー・クーパーが共演しており、今回はその2作品で出演した役者たちの集合とも言えそうだ。

 映画は冒頭からすだれハゲ、に下腹もだらしなく膨れあがったクリスチャン・ベールの衝撃的な姿で幕を開ける。彼は頭頂部に部分かつらを乗せ(この時接着剤みたいなの塗るのがちょっと印象的)、脇から上の方に持ってきて髪型を作る。ベールの役作り(主に体型部分において)は有名で「マシニスト」で鶏ガラのごとく痩せてその後「バットマン・ビギンズ」でマッチョに*2。その後も「ザ・ファイター」でまた痩せて「ダークナイト ライジング」で再びマッチョにというのを交互に繰り返している。「キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー」ではクリス・エヴァンスがCGと代役を駆使して痩せっぽっちと筋骨隆々のキャップ=スティーブ・ロジャースを演じていたが、クリスチャン・ベールの体型については全て自前。おそらく彼は今後技術が発達しようとも基本的には自分でやるんだろうなあ。今回も頭部に関しては実際に髪の毛を抜いた自前のようだ。腹についてももしかしたら特殊メイクではなく実際に太ったのかもしれない。ただ、どんなに不健康に太ろうと顔はクリスチャン・ベールその人なのでその話術とも相まってやはり格好良いのだなあ。彼が演じるアーヴィンは外見はおっさん(ルックスだけ見ればいい男だけど)、大胆な一方で小心者の小悪党な部分もありいわゆるヒーローとは程遠いけれどぎゃくに その複雑な人格が魅力的。
 今回はコメディ調の物語でガハハ系ではないオフビートな感じではあるが、かと言ってウィットに富んだコメディというわけでもない。そのへんでどっちつかずな印象もあり、ダメという人も多そう。そもそもクリスチャン・ベールでコメディというのがあんまり印象がないのだが、それでもよく考えるとこれまでのフィルモグラフィーはコメディと紙一重というのも多い気もする。
 とにかく今回は役者同士のパフォーマンス合戦とでもいうべき見せ場がたくさんあり、個人的にはそれが大成功していると思う。キャラクターは全員自分の才能にうぬぼれている人物でとにかく弁が立つし、やたら攻撃的部分もあるのでとにかく喋る。
 5人のキャラクターはそれぞれ最高で、特に個人的にはアーヴィンの妻ロザリンを演じるジェニファー・ローレンス推したい。旦那が外に愛人を作っているのを承知のうえでそれでも上位に立とうとし、実際家庭では彼を支配している。また市長に贈られた電子レンジの「金属を入れないでください」という注意を無視して「もう大人なんだから人の指図は受けないわ」とアルミホイルを入れてレンジを爆発させるシーンが最高。よく漫画で何故か電化製品を触ると爆発させてしまう人というのが登場するが(吉田聡の「湘南爆走族」の石川晃とか)、まさか実写で見るとは思わなかった。しかもこの展開が実に自然。それ以前にも家事で火事を起こした過去が描かれているが、こう自然にデストロイな行為ができるキャラクターなんだろうなあ。ロザリンは「007死ぬのは奴らだ」の主題歌であるポール・マッカートニーウィングスの「Live and Let Die」を歌いながら掃除?してストレスを発散させるシーンも最高。この映画では当時を彩った楽曲中心で流れるが僕は半分ぐらいすでに何らかの形で持ってましたね。

 エイミー・アダムスはあいも変わらず美しいです。アーヴィンの愛人(というかビジネス上の重要なパートナーでもある)シドニー役。彼女がイギリスの王室に連なる人物を演じて詐欺話に真実味をもたせる。ただ残念なのは彼女が自分がイギリス人ではなくアメリカ人だとブラッドリー・クーパーのFBI捜査官リッチーに告白するシーンで、それまでの英国なまり(キングスイングリッシュ?)を戻すのだが、このへんが字幕ではわかりにくかった。いやもちろん吹き替えでもわかりにくさは一緒だと思うけれど(例えば京訛りでおしとやかな人物を演じていたのが突然ギャル風のしゃべり方になるとかそんな感じか)、ちょっと英語話者意外には不親切んだったかな。
 ブラッドリー・クーパーはちょっと精神的に脆いところのあるFBI捜査官を演じている。彼は私生活では口うるさい母親と、全然本気ではない婚約者と暮らしていて鬱憤がたまっている。それを捜査やまじめに暮らしていたのでは中々お目にかかれないシドニーとの出会いで晴らしているところがあって、ちょっとFBI捜査官としては能力に疑問の残るところ。面白いのは彼の上司で中々彼の作戦に許可を出さないソーセンがリッチーに「凍った湖での釣り(ワカサギ釣り?)」の思い出を語るシーン。父の言うことを聞かず例年より早く釣りに出かけた兄の話だが数回出てくるがいつもオチの前に邪魔が入る。大体想像がつくところでは氷がきちんと張る前に釣りに出かけて氷が割れて死んだ、とかそういうもので「急いで事を進めようとすると失敗する」という教訓化と思いきやラスト近くでそんなオチではない!と否定され、結局中に浮いたままで終わってしまう。このへんの外しも面白い。
 5人の主要キャストのうち、他の4人からちょっと外れたところにいるのがジェレミー・レナーが演じるポリート市長。市民の人気は絶大でカジノを建設しようとして詐欺に関わってくる。この人は一度お金を受け取るのを明確に拒否しており、半ばFBIに陥れられた形なのだがそれでもまあマフィアとのつながりはあるので完全に善人でもない。その辺の酸いも甘いも噛み分けた、でも家庭や本質的にはいい人、というキャラクターを見事に演じている。

 で、実はこの5人の他にもう一人とんでもない大物スターがノー・クレジットで出演している。マフィアの大物でマイヤー・ランスキーの右腕だったとされるテレジオ役。このテレジオをロバート・デ・ニーロが演じているのだ。最初はこれまた地味な容貌で、「似てるけど別人かな」とか思うのだが、その後キャラの説明とともに若い頃のシーンが映し出され、ここでは紛れも無くデ・ニーロ。デ・ニーロでマフィアといえば「ゴッド・ファーザーパート2」や「アンタッチャブル」のアル・カポネが思い出されるが、その他マーティン・スコセッシ監督とのコンビで撮った「グッドフェローズ」なども印象深い。余談だけどこの間午後のロードショーで「ケープフィアー」が放送されていて、久しぶりに観ながら「実はこの物語は『フランケンシュタイン』とよく似ていて(自らの作った怪物に追われる、無学だった怪物が復讐に至るか過程で博学になるなど)、この後デ・ニーロがケネス・ブラナー監督のもと『フランケンシュタイン』に出演するのはある意味必然だったのだなあ」などと思ったりした。閑話休題
 で、そのデ・ニーロ出演シーンはテーブルをクリスチャン・ベールと挟んで会話する形。ご存知の通り、デ・ニーロも役作りのための髪の毛を抜いたり体型を変えたりといったすさまじいエピソードで知られている。このシーンはある意味新旧「役作りのために生命をすり減らすスター」の共演とも言えそうだ。
 
 映画のもととなった実際の事件はちょうど映画「アルゴ」の事件が起きたりした時期でもあり色々とアメリカと中東が縁深かった頃でもある(イラン革命の中東全体への拡がりを防ぐためアラブ諸国とアメリカは利害が一致していた)。シークと呼ばれるアラブの酋長、僕なんかはザ・シーク(サヴゥーの叔父さん)やアイアン・シークと言ったプロレスラーのギミックを連想してしまうが、を利用した詐欺。映画を観る限り、あんな物に騙される人がいるのかな、と思ってしまうが、まあ日本でも皇室・宮家を語る詐欺が合ったり未だにM資金詐欺が起きて定期的に話題になったりするぐらいなので人間、金に目が眩むと案外ころっと騙されてしまうものなのかもしれない。

「アメリカン・ハッスル」オリジナル・サウンドトラック

「アメリカン・ハッスル」オリジナル・サウンドトラック

サウンドトラック。僕は半分ぐらいすでに持ってたけど、70年代のヒット曲で当時の空気がなんとなく感じられるラインナップ。
アメリカン・ハッスル 上 (河出文庫)

アメリカン・ハッスル 上 (河出文庫)

アメリカン・ハッスル 下 (河出文庫)

アメリカン・ハッスル 下 (河出文庫)

 原作、というかこちらは映画のモデルに成った実際の「アブキャスト事件」についてのノンフィクションのようです。名前とかも映画とは違うし、当然コメディ調ではないようだ。

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監督の前々作。

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 とにかく役者の激突!という感じで見応えがあります。が、人によっては当たり外れが大きいかもしれないなあ。

*1:ロイス・レーンはまあ主役でもないし、スーパーパワーを持っているわけでもないけれど、コミック史上に残るヒロイン役ではあり、おそらくもっとも有名なキャリアウーマンである

*2:この時は逆に鍛えすぎて用意したバットスーツが入らず、再びちょっと痩せたという