The Spirit in the Bottle

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背負った十字架は覚えがなく エンダーのゲーム

 TOHOフリーパスで観た作品の感想もほぼ終わり(実はあと1本ある)、実費で観た作品の感想に入ります。とりあえずまず今年に入ってから公開された最初のSF大作と言ってもいい作品である「エンダーのゲーム」から。

物語

 フォーミックと呼ばれる異星の種族による攻撃を受けた地球。人類は一度それを撃退し次の侵略に備えていた。立ち向かうのはまだ年若い子どもたち。衛星軌道上に作られたバトルスクールで優秀な子どもたちを育てているのだ。
 地球では産児制限が設けられ夫婦一組2人までしか産むことができない。しかし兄姉が優秀だったことで例外として3人目として産み育てることを認められた少年それがエンダーだ。能力的には兄と姉に匹敵ししかし性格的にはバランスのとれているエンダーは能力を認められバトルスクールへと進む。やがて人類の命運を賭けた戦いを指揮するために・・・!

 原作はオースティン・スコット・カードのネビュラ賞ヒューゴー賞という2大SF文学賞を受賞した1985年の作品。僕は名前ぐらいはもちろん知っていたが読んではいない。この作品が面白かったら読んでみようかな、とも思っていたが、ちょっと現在は保留中。原作者のオースティン・スコット・カードがモルモン教徒で同性婚合法化などに反対している保守派、という経歴もちょっと読むのに躊躇する原因ではある。もちろん作家と作品の質はまた別なんだけど、先に作家の為人を知っちゃうとちょっとね。日本でもネトウヨぶりが激しい放送作家/小説家の小説がベストセラーになって映画化もされているがもうどんなに出来が良いとか言われたって読む気にはなれないものなあ。まあ「エンダーのゲーム」の原作とその続編は2作連続でネビュラ賞ヒューゴー賞を連続W受賞した傑作らしいのでいずれ余裕ができれば読むとしよう。
 事前に予告編やチラシを見た段階での印象は、「サードチルドレン」という単語や「選ばれた子どもたち」という概念が日本の「新世紀エヴァンゲリオン」に似てるなあ、というもの。実際エヴァンゲリオンはじめとする後続の作品に多大な影響を与えているらしい。しかし実際に映画を観て連想した作品は2つ。「ハリー・ポッター」シリーズ(特に初期のクリス・コロンバス監督による2作)とポール・バーホーベンの「スターシップ・トゥルーパーズ」だ。
ハリー・ポッター」との共通点ははハリーとエンダーの立ち位置の設定、そしてバトルスクールで行われるチームバトルとホグワーツで行われるクィディッチというチーム競技など。なんとなく能力以上に主人公が学校側から贔屓されているように見えてしまうのも一緒だ。これはおそらく両作とも演出が悪いんだと思うけれど。
 そして「スターシップ・トゥルーパーズ」は同じ昆虫型異星種族との戦争、そして未来の地球ではどうやら軍部優先の政治体制が採られているらしいという背景の設定。原作者のロバート・A・ハインラインも多少保守的な面を持っていたことも共通点か。もっともどちらの作品にしても「アメリカ人の考えるファシズム体制って甘いよな」と思ってしまうくらい未来の地球は軍事優先体制といっても若者はそれなりに青春を謳歌できる感じではあるけれど。
 実はかなり早い段階で「これはジュブナイル化された『スターシップ・トゥルーパーズ』だなあ」という認識を持った。特にバトルスクールに行ったエンダーたちが宿舎で彼らの生活を取り仕切る先任軍曹に「男女シャワーは別だ」と言われた時点で個人的に「スターシップ・トゥルーパーズの下位互換作品」という思いを抱いてしまった。「スターシップ・トゥルーパーズ」では軍隊での男女は完全に同権でシャワーも一緒に浴びる。若い男女が全く恥ずかしがることなくシャワーも浴びるし宿舎も一緒。「エンダーのゲーム」でも宿舎は男女一緒なのだけれどどうせならそのへんも徹底するべき?
 ただ、主人公のエンダーは司令官となるべく教育されていくので当然「スターシップ・トゥルーパーズ」の機動歩兵とは違う。他の訓練兵もどちらかと言うと参謀本部付きという感じなので、「スターシップ・トゥルーパーズ」で言うならニール・パトリック・ハリスが演じたカールたちを主人公とした場合という感じか。もちろん「エンダーのゲーム」の方は主人公たちは10代の少年少女なのでいいんだけれど。

 原作は読んでいないけれど(それこそ「ハンガー・ゲーム」とは対照的に)「かなりダイジェストになってるんだろうなあ」という様子はつかめる。またウィキペディアの原作小説のあらすじを読むと重要な部分がそっくり削除されているような・・・一応、カードも制作として映画に関わっている。
主人公たちはバトルスクールではもっぱらチームバトルばかりやっているのだれど、映画の中ではいまいちルールが把握しきれてないのと(この辺は「クィディッチ」と一緒だ)、あれが最終的な軍事行動においてどのような意味を持つのがわかりづらいのが欠点。これが主人公たちが直接戦闘する歩兵である、というならまだ分かるんだけど。
 後半は別の基地に場所を移し、エンダーと彼のチームがフォーミックの軍勢を打ち破るシュミレーションを繰り返す。彼の資質をみるためかつての英雄メイザー・ラッカムはじめとする軍の幹部が集まる。もしも最終試験がうまく行けば全軍がまだ幼いエンダーの指揮下に入るのだ。彼は見事シミュレーション上のフォーミックを打ち破るが・・・
 この展開はまだ少年である主人公の精神的負担を考えるとかなりキツい。実はそれはシミュレーションではなく実際の戦闘であった。エンダーは勝利するがそれは(シミュレーション上の存在だと思っていた)多くの犠牲と敵種族の絶滅という一人の少年に背負わせるには重すぎる十字架だ。

 キャストは主人公エンダーに「ヒューゴの不思議な発明」のエイサ・バターフィールド。16歳だがもうちょっと幼く見える容姿。ただ神経質そうな雰囲気と実際に優秀なんだろうな、と思われる表情は見事。そして一応はヒロインに当たるのだろうか。エンダーの先輩で理解者となるペトラに「トゥルー・グリッド」のヘイリー・スタインフェルド。ただ正直この作品では「トゥルー・グリット」の胆力あふれる少女という雰囲気はあまり感じられず、ちょっと物足りない。いい意味で女性軍人っぽい感じは出てるのだけれど。また彼を支えるチームにはインド系やアラブ系と思われる少年たちがいるがあれは原作でもそうなのかしら?あと何故かエンダーはいじめっこっぽい訓練生を自分のチームに招くがああいう学園ドラマみたいな部分が妙に子供っぽいんだよなあ。いや実際子供なんだし、これが下っ端の歩兵の訓練所とかなら分かるんだけれど、彼らはバトルスクールに進んだ時点で勝ち抜いてきたエリートのはずなのに妙にガキ臭く感じてしまった。
 主人公のエンダーには能力は優秀ながら暴力的で組織に向かない兄ピーターと逆に優しぎて軍人には向かない姉バレンタインがいるが劇中で重要な役割を果たすのはバレンタイン。このバレンタインを演じるのが「リトル・ミス・サンシャイン」「ゾンビランド」のアビゲイル・ブレスリン。すっかり美しく成長し出番は少ないながら(途中でCGキャラとしても出てくるが)強い印象を残す。
 メインの役柄は少年少女たちなので大人の出番は少ないが、その少ない大人をハリソン・フォードベン・キングズレーというベテランの大スターが演じている。ハリソン・フォードはエンダーを導く(というか色々傷めつけて圧迫訓練する)グラッフ大佐役。例によって何を考えているのか分からない表情で感情が読めず、しかも今回はヒーロー役ではないため「もしかしたら悪い人なのかな?」という思いを最後まで抱いてしまった。
 ベン・キングズレーは死んだことになっていた英雄ラッカム役で顔にはマオリの刺青を彫っている。彼はこれまで様々な人種を演じてきたが、そこに今度はマオリ族が加わった!とりあえず後半エンダーを導く役として大人では一番格好良いです。

 映画はつまらなくは無かったけれど、SF戦争映画としてみた場合、やはりジュブナイルな子供向けという感じはします。特に最後の戦争はエンダーだけでなく観客もシミュレーションバトルだと思って観ているので「映像は凄いけどどうせシミュレーションでしょ?」と思っていたところであとから本当の戦闘だったと知らされてもポカーンとしてしまう。この辺原作を読んでいるのと読んでいないのとで感じ方が違うのかなあ。
 監督/脚本は「ウルヴァリン: X-MEN ZERO」のギャヴィン・フッド。また制作には「トランスフォーマー」シリーズや「スター・トレック」シリーズの脚本家ロベルト・オーチーアレックス・カーツマンも名を連ねています。

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監督の前作。旧ブログの方です。

 原作小説上下巻。書店で並べてあるのは更にこの上にアニメイラスト風の表紙が掛けてありますね。
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 今回は吹替で鑑賞。吹替はとても良い出来でした。また「エンダーのゲーム」というタイトルは最初は「?」となるものの、作品を見ると「ああ、エンダーのゲームだなあ」としか思いませんね。