これでラスト!なら万々歳!そうでなきゃ・・・ トリック劇場版 ラストステージ
映画ファンからは恐ろしく評判の悪い邦画の監督。それが堤幸彦監督。特にTV局主導のTVドラマの映画化作品などに否定的な人にはほぼ全否定されるような存在だろう。それでも彼の人は作品を撮り続けることができるし、作られた作品はそれなりにヒットする。最近も「SPEC」シリーズの映画などがあった。僕自身も正直この人の映画を積極的に観たいとは思わない。ただ、この人の監督作を見比べることでTVドラマと劇場用映画の違いみたいなものが分かってくるのではないかと思う。人気TVシリーズの最終作と謳った「トリック劇場版 ラストステージ」を鑑賞。
物語
日本科学技術大学の教授、上田次郎は村上商事の加賀美慎一から依頼を受ける。赤道直下の国スンガイ共和国のレアアースの採掘権を取得したがムッシュム・ラー村の住人が立退きに応じないという。村には呪術師がいて、その呪術師が「聖なる土地を渡すわけにはいかない」と拒み住人もそれに従っているというのだ。呪術師のインチキを暴けば村人も立退きに応じると加賀美は上田に相談したのである。しかし村上商事の有田が呪術師の予言通り日本で上田たちの前で死亡してしまう。上田はTVのドッキリで騙されて恥をかき家賃の支払に困った自称天才の売れない魔術師、山田奈緒子を連れスンガイ共和国に向かう・・・
元になったのは人気TVシリーズ「トリック」。2000年から始まり、TVシリーズ全3シーズン、劇場版3作(本作含め4作)、その他TVスペシャルやスピンオフも含めると15年、結構な量を誇る人気シリーズだ。僕も劇場版を劇場で観るのこそ今回が初めてだが、TVシリーズは最初のものからほとんど見ている。このシリーズはいわゆる超常現象、超能力や心霊といったものを暴きつつラストにちょっとトリックでは片付けられない不思議な余韻を残す物語。また主人公の上田次郎と山田奈緒子を演じる阿部寛と仲間由紀恵のキャラクターや生瀬勝久や野際陽子、そして毎回登場する強烈な個性のキャラクターも魅力の一つ。世界観自体がダジャレや不条理なコメディ調で彩られていた。
堤幸彦監督はTVのドラマの監督としては実力がある人だと思う。その意味で僕は全否定する気は全くないし、TVドラマであれば毎回面白く見ている。ただ、劇場用映画の監督としては難ありであるのも確かだと思う。同時期の「SPEC」などはTVシリーズも見たしTVで放送された分に関してはスペシャルや劇場版もチェックしたが正直劇場版の完結編を観る気にはなれなかった。まあ1作きりなら観てもいいかな、と思ったのだけれど前後編であったし、「SPEC」の場合過剰な(そして正直笑えない)ギャグを削れば一本で住むんじゃないかと漠然と思っている。正直「SPEC」の世界観にはあの寒いギャグは合わず、シリアス一辺倒(少なくとも劇場用では)で行くのが良かったのではないかと思う。
ただ「トリック」の場合元々世界観自体がダジャレとギャグに彩られたものであるため、比較的突拍子のない舞台(大概は横溝正史的な田舎)が出てきても違和感はなかった。
今回は「トリックシリーズ14年間の集大成!本当に最後です!」とのことだが、既に劇中に野際陽子演じる山田の母の書道教室の中の習字として「もしかしたらまだ続くかもよ」みたいなことが暗示されているのが腹ただしい。今回本当に最後であればある意味ラストシーンで全て許せる感すらあるので、これで真の終わりにしてほしい。
キャストは相変わらず格好良い阿部寛と美しい仲間由紀恵。阿部寛は劇場で観たのは「テルマエ・ロマエ」が一番最近か。それ意外にもドラマやTVで映画が放送されればとりあえずチェックはする俳優だなあ。そして仲間由紀恵を劇場で観るのは実に「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」でイリスに殺される女性キャンパーを観て以来!もちろんTVではずっと見ているけれど。いつまでも美しいし、特にこの山田奈緒子という役はほとんど成長が見られない変わらぬ役なのであるけれど、若干最初の頃よりふっくらしたかな。でもむしろ美しさは倍増。山田奈緒子のちょっとフシギな部分は結構魅力的だよね。
後は生瀬勝久と池田鉄洋のコンビ。まあ相変わらず出てくるだけって感じではある。ヅラネタはもういいかな。ラスト近くに初期相棒の前原一輝(ギンガレッド!)も登場してます。
ゲストはまず東山紀之。物語開始近く東山紀之と阿部寛がスポーツジムで並んで運動してたりやはり並んでシャワーを浴びてるシーンはいいですね。こういうサービスは大いにやるべき。
その他北村一輝がおねえ口調の医師を演じてたり、水原希子が呪術師を演じてたりする。こういう個性と言いつつ逆に枠にはめたキャラクターは普通の作品だとイラッとするけどまあ「トリック」ならありかな、とは思う。
正直物語的には全く評価しづらくむしろ不満も多い。例えば舞台となる村の呪術師の名前「ボノイズンミ」とか写真で出てくるスンガイ共和国建国の母、菅井きんとかがTVシリーズの初期エピソードの「母の泉」を連想させるのに全くつながりが無いところなどは大いに不満を感じた。また呪術師であることと霊能力者であることは必ずしもイコールではないと思うのだが、そのへんがごっちゃになっているのも微妙にフラストレーションが溜まる。まあこれはシリーズ通していえることではあると思うけど。
後は完全なる余談だけど劇中ではムッシュム・ラー村だとか執拗にダチョウ倶楽部のネタで攻めてくるが最後にダチョウ倶楽部本人たちが登場する。何かでリーダーの肥後さんのお母さんは沖縄の巫女というかそういう霊媒師の家系だとか聞いた記憶があるなあ。
とはいえラストはシリーズのラストを飾るにふさわしい出来でこのラスト10分で多少の傷は無視して許せる気分になるのも確か。この物語に関して言えばこのラストを基点として本編から何から全てがこのラストを盛り上げるために存在するべきだったと思う。その意味で言えば外国など舞台にせず、むしろ日本のカルト教団などシリーズ初期のモチーフに舞い戻るべきだったのではないか、とさえ思う。
堤幸彦監督はTVドラマであったり、企画の発案者としてはとても優秀だと思う。ただ劇場用映画の監督としてはキツい。TVは堤監督が手がけてもそれが劇場版となる時は別の人に任せた方が良いのではないかと思う。
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