The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

母と 「麦子さんと」 私

 ここらでちょっと新年明けてから観た映画の感想など。というか昨年観た分では「仮面ライダーMOVIE大戦」と「ハンガー・ゲーム2」が残っているんだけど、こちらは公開中に感想あげるのは難しそうなんでもうこうなったら特に急がず。「ハンガー・ゲーム2」は前作はそうでもなかったのに2作目は凄い好きになり過ぎて逆に感想がまとまらないのです(仮面ライダーはただのさぼり)。
 というわけで今回は堀北真希主演の「麦子さんと」。あんまり宣伝とかされてない印象だけど非常に軽やかで楽しい映画でありました。

物語

 とある田舎町にやってきた麦子。彼女を乗せたタクシー運転手は彼女が昔その土地にいたある女性とそっくりだと驚く。その女性こそ麦子が今抱きかかえているお骨の主だったのだ。
 数ヶ月前東京。父親が亡くなって3年、兄と二人で暮らす麦子さんの元へ小さい頃に別れた兄妹の母がやってくる。実はこれまで兄妹のために生活費を入金していたがそれを減らさなければならないため、同居させてほしいと言う。再び母子で暮らし始めるがやがて兄は恋人と同棲するために家を出る。ほとんど母親の記憶のない麦子と母親の奇妙な同居が始まったが・・・

 ぬっくん(温水洋一)が警察官をタクシーではねる、という衝撃的なオープニングで始まる本作だが(すいませんちょっと大げさに書きました)、予想以上に楽しい作品だった。面影のないほとんど他人として生きてきた母との突然の生活とその死、という一見重いテーマではあるのだが、全然暗くなることはなく、要所要所でシリアスな部分もあるけれど基本的に軽やかで笑って見れる作品(かと言ってコメディか、と言うとちょっとそれも違うのだな)。
 僕なんかは最初のタクシーで警察官をはねておきながら、知り合いだから、となあなあで済ませるところとかがもう個人的な思い出も加味されて笑ってしまった。僕は小学生の頃自転車で友達と競争していて勝った勢いでそのまま車道に飛び出て軽トラックにはねられたことがあるのだな。結構おもいっきり宙を舞った記憶があるが幸いにも大きな怪我はなし。今なら大事になるし、するところだが、当時は運転手のおっちゃんに「おう大丈夫か。大したことないな気を付けろよ」で済まされてしまった。親には自転車で転んだ、ということで終わらせた思い出が蘇った。
 映画は最初に田舎から始まりその後過去に遡る形式を取る。だから余貴美子演じる母親が亡くなることは冒頭で分かる。この一連の同居シーンは全体からすると短いし、笑えるところや軋轢もあるけれどその短さが逆に後半に生きてくる。
 主人公の麦子を演じるのは堀北真希でアニメショップでアルバイトしながら声優学校への入学金をためているという設定。当然アニメオタクで劇中で彼女が見ているアニメと兄貴と母親の会話がシンクロするシーンが面白い。
 堀北真希は実写映画の「逆境ナイン」で知ってその時は原作のヒロイン二人を合体させた役柄。島本和彦の強烈なキャラに囲まれて、透明感はあるし可愛いけれどどこか線の細い印象があって言葉は悪いが貧相なイメージがして、正直すぐ消えるだろう、という思いさえあった。でも今調べたらそれ以前にもキャリアは積んでいたんだなあ。今は可愛さはそのままに当時の悪い意味でのか細いイメージは消えている。現在25歳とのことだが、普通に女子高生とかでもOKなんじゃないでしょうか。あ、あと堀北真希乃木坂46生田絵梨花さんが姉妹を演じる作品が観たいです*1
 兄の憲男には松田龍平。ご存知松田優作の息子だが、あんまりそういう目で見たことはない。というか松田優作自身リアルタイムで見た作品って遺作の「ブラック・レイン」ぐらいなのでほとんど後追いで息子だからといって投影したことはない。ただ、イメージはあって、弟の松田翔太が大衆的な広く人気が出そうなのに対して兄貴は求道的というかストイックな役者道を進んでいるという感じ。更にプライベートとかがエキセントリックそう、というイメージも持っていた。その辺が崩れるのは朝の連続テレビ小説あまちゃん」のミズタクによってで、今回もどちらかと言うとそのミズタクの延長線上といえるかもしれない。あ、後述しますし色んな所で言われてると思いますがこの作品「あまちゃん」初めとして最近の朝ドラファンの人は楽しめること間違いないなしだと思うのでおすすめしますよ。この憲男という役柄は麦子より5歳ぐらい年長なのかな。母親の記憶が残っていて普段は悪態をつきながらも亡くなると人知れず泣いているという部分がいい。憲男と麦子の漫才みたいなやりとりも見ていて楽しい。
 余貴美子は「愛と誠」以来か。あの時も小さい時に子どもと別れた母親、という役柄だったけれど、こっちのほうがフワフワしていて良かった。ただ、その独特のふわふわ感は時にイラッとすることも確かで劇中の麦子のように対応してしまうのも分からないではない。

 後半(というか中盤以降)は母親の故郷に納骨に行く麦子が描かれ冒頭のぬっくんタクシーのシーンに戻る。街のアイドルだった母親の若いころそっくりな麦子は町の人達に囲まれる。埋葬許可証を無くした麦子は母の友人だったミチルの部屋に厄介になりながらしばらく町で過ごすことになるが・・・
 前半の母親との同居シーンが意外にあっさりしているがそれがここで母親と十分に過ごせなかった後悔として訪れる。といっても決して重くなるわけではなく旅館の親子に自分達を重ねたり、母親に料理を教わったというミチルに母親の影を重ねたりする。
 旅館の親子はガダルカナル・タカふせえりの夫婦に岡山天音の息子が演じており、母親をババアと呼んだり、カネをせびってそれを麻雀やパチンコに使う部分などは兄の憲男と重なるのだろう。まあ雰囲気はこの息子が本当に親を嫌っているわけではなく親もそれで苦しんでいるとかではないのは雰囲気で分かるが、それにしても旅館の客のいる前で親に金をせびる、しかも客のいる部屋に入ってきててのはちょっと非常識が過ぎますぜ。それでも息子の親への悪態は最後に「死ね」という言葉が出たことと突き飛ばした状況が自分の時と似たことも合って最後に麦子一発かますシーンが心地よい。
 ミチルは麻生祐未。今でも十分美人である。彼女も離婚して子どもと離れている、という背景が語られ、色んな意味で麦子は母親を重ねる事となる。ミチルと麦子が街を買い物するシーンは多分脚本なしのアドリブなんじゃないかなあ、思う感じでとてもいいシーンだった。
 
 さて、余貴美子(若い頃は堀北真希の二役)演じる母親・彩子がアイドル歌手を目指して東京に出たという設定は「あまちゃん」を連想させるに十分だ。時代的にも松田聖子の「赤いスイートピー」がアイドルの楽曲として取り上げられているから「あまちゃん」の春子が上京した時期と彩子が上京した時期はそんなずれないだろう。とはいえこちらは構想に7年かかっているというし麦子自身がアイドルになるわけでもないので連想はするけどパクリだとか似てるからダメ、というわけでは全然なく両方共相乗効果で楽しめると思う。
 後はオタク的視点からも楽しい作品だと思う。例えば引っ越しの結果荷物が増えて3人がそれぞれの宝物をガラクタ扱いするシーンとか、自分には大切なものでも他人にはゴミ、ということを改めて思わせるし、アニメを見ていた麦子に彩子が「魔法使うの?これ」と聞いて麦子がイラッとしながら「いやこれは科学で・・・」と言うシーンとか僕も覚えがあるなあ。親とかと一緒に見てるとこういうことある。僕も昔はイラッとしたが、今ならあしらうというと失礼だが否定せず流すかな。
 後はミチルの部屋のシーン。麦子がアニメ好きと知ってミチルも押入れの自分の漫画コレクションを見せるのだが、それが全てBL物だと知って引いた麦子の様子を見てさっと押入れのふすまを閉めるところとか。他人が引いたら自分の趣味を無理強いしたらいけませんぜ。

 ラストは松田聖子の「赤いスイートピー」をバックにやはり軽やかな締め。そしてそれが終わるとエンドクレジットだが、ここはもう挿入歌という形じゃなくて主題歌にしてしまって「赤いスイートピー」バックにエンドクレジットが出てきても良かったんじゃないか、と思う。いずれにしろ親子関係や母親の死。孝行したい時分に親はなし、という感じの重い映画にすることもできたろうに最後まで楽しい映画でした。超おすすめ。

さんかく 特別版(2枚組) [DVD]

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 監督は吉田恵輔*2。ちょっとした外しの感覚が見事ですね。憲男の彼女がまるで子供みたいに小柄で凸凹カップルででもその小柄な彼女がトラック運転したりとか(勝手に長距離運転手だと思ってる)。僕は見ていないけれどそういえば「さんかく」や「ばしゃ馬さんとビッグマウス」も評判良かったな。公開待機作は荒川弘原作の農業高校漫画「銀の匙」の実写版。僕は原作は好きで単行本も買っているけれどさすがに実写版はいいや、とか思っていた。が、この「麦子さんと」を見て同じ監督と知ったら急にこっちも楽しみになってきたので観る予定です。
平松愛理 ベスト & ベスト PBB-64

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 特に触れてないけどぬっくん最高!

*1:ちょっと似てる俳優がいるとすぐ親兄弟を演じさせたくなる悪い癖

*2:正確には下が長い「吉」みたい。パソコンでは表示できないみたい