The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

嘘の中の最高の逸品 鑑定士と顔のない依頼人

 えー、2年間コツコツTOHOシネマズを利用した結果、TOHOシネマズフリーパスポートというのを入手いたしまして、この年末年始に利用してます。おかげで普段ならあんまり見ないような作品も見てみようかなあ、などと思ってます。今回は予告編の段階から普通に面白そうではあったので、別にフリーパスでなくても観る予定でありましたが、とりあえずフリーパスポート使用第一弾!「鑑定士と顔のない依頼人」観賞。

物語

 鑑定士でオークショニアのヴァージル・オールドマン。その道30年の彼の趣味は女性の肖像画のコレクション。あるとき彼のもとにやってきた一件の鑑定依頼。それは依頼人の女性の両親が死んだため屋敷に残された絵画や家具を査定してほしいというもの。姿を見せず約束をすっぽかすこともある依頼人に腹を立てつつ、彼女の屋敷へ向かう。そこでオールドマンはなぞの部品を見つける。知り合いの機械技師ロバートに見せると18世紀に作られた自動人形「オートマトン」の部品だという。
 やがて、依頼人が広場恐怖症アゴラフォビア」で屋敷の外に出られず、普段は屋敷の中にある隠し部屋で暮らしている人物だと知る。二人は時にぶつかりながら互いに惹かれていくのだが・・・

 監督・脚本は「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ。音楽もかの巨匠エンニオ・モリコーネですね。ということはこれは実はイタリア映画なのである。ただ、役者は英語圏の人で固められており使用言語は英語。舞台も多分イギリスだと思う(撮影は主にイタリアのようだ)。イタリアでは大ヒットしたそうです。
 主役のヴァージル・オールドマン(おそらくヴァージン(童貞の)オールドマン(老人)という役柄をそのまま表現した役名)を演じるのはジェフリー・ラッシュ。冒頭の数シーンで潔癖でがんこでしかし天才肌である鑑定士としての彼のキャラクターをうまく表現している。一方でオークショニアとしての上手い演出力(演技力、司会力?)も見せてくれる。基本的に孤高の人ではあるのだが、ドナルド・サザーランドハンガー・ゲーム2楽しみ!)演じる友人がいて、彼はオークションでオールドマンの代わりに彼のコレクションに加える女性肖像画を入手する役を担っている。友人は元々画家志望でオールドマンが評価してくれなかったことにわだかまりがあるようだ。かなり彼に認められたいという気持ちが強い。
 また、機械技師のロバートがいる。彼はおそらく息子ほどの年の離れた若者だが、そのプロフェッショナルな知識と技術でオールドマンからは対等に扱われており、またオールドマンが依頼人であるクレアに恋をしてからは女性経験においては先輩として彼に手ほどきする。彼はオールドマンの依頼のもとオートマトンの修復復元に尽力するが・・・
 オールドマンは潔癖症で携帯電話で電話するときもハンカチに包んで使用する。また女性の肖像画コレクションをやはり隠し部屋(その意味で彼とクレアは似たものであるのだ)の壁一面に飾りそこでくつろぐ姿は彼の母親への思い、胎児願望のようなものを想起させる。

 実はこのオートマトンが出てきた時、僕は「もしやこの姿を見せない依頼人とやらは人造人間というオチなのではあるまいな」などと思いながら観ていたのだが、実際は更に想像の先を行くものであった。英語原題は「The Best Offer」(イタリア語題の「La migliore offerta」をそのまま英語にしたもの)で「最高の逸品」みたいな意味。映画の中では「贋作の中にも贋作師の無意識の筆使い、タッチが現れ、時にそれは本物を超える作品となる時がある(ただし贋作であるため正当に評価されることはない)」みたいな感じで使われていた。これはそのまま物語全体の構図に使われる。
「顔のない依頼人」という題は途中から依頼人クレアが姿を表すため、物語全体の題名としてはちょっとあわないかも。前半は不思議さを醸しだしていいと思うけれど。
 オールドマンは気まぐれなクレアに時に呆れ怒りながら、やがて彼女に好意を抱きその姿を覗き見ようとする。彼女は屋敷に人がいなくなったことを扉の開閉音で確認してから隠し部屋から出てくるのだが、その時に音だけ偽装して隠し見るのだ。この辺「鶴の恩返し」あるいは「オルフェウスの冥界下り」「イザナギの黄泉比良坂行き」などで見られるような「見るなのタブー」を思い出す。数々の神話や民話同様、ここでも最終的に覗いたことがばれてしまう。その後は神話と違いオールドマンとクレアの仲が進展したように思えるが・・・
 クレアと恋仲になったオールドマンは初めて女性を抱き「ヴァージン」ではなくなる。そして引退を決意する。ドナルド・サザーランドの友人はオールドマンに「オレの絵を評価していたら人生変わったのに」と言うとオールドマンは「君の絵は値段がつく逸品としては価値がないが自分にとっては大切、そういうものだ」というようなこと言う。

 ラストは実はクレアとロバート、ロバートの恋人(役)、そして屋敷の管理人はグルとなってオールドマンのコレクションを奪う窃盗グループだったということが判明する。コレクションを失ったショックで呆然とするオールドマン。その後彼らの足取りをたどるもすべてが自分のコレクションを奪うための周到な罠だったことが判明する。このあまりの結末には僕も観ていてびっくりしてしまった。多分、引退してクレアと幸せに暮らしましたとさ、であっても映画としては十分に成立する。ある意味「グランド・イリュージョン」を超える用意周到な犯罪計画。個人的にはこの犯人グループの伏線、あるいは動機などがもう少し語られて欲しかった気もするが(それぐらい唐突で故に衝撃的ではある)、これはこれで映画のサプライズとしては良かった。例えばロバートが実はオールドマンによって将来を潰されたドナルド・サザーランドの息子だった、とかあればその周到さと執念に観客の理解が及び安い、が書いてて救われない気持ちになったのでやっぱりなし。
 ラストはかつてクレアから聞いた東欧のカフェでなんとなくクレアを待つオールドマンの姿で終わる。カフェは確かに実在したが話が本当かはわからないのに。このラスト、ショックで施設で廃人同然となるオールドマンの描写と前後関係がいまいち分からないので時系列的な最後はどちらなのかはわからないのだが(見落としてるのかもしれないが)普通に時系列的にも最後(立ち直ってカフェに向かった)というものなら意外にアンハッピーエンドと言えない雰囲気なのが面白い。オールドマンはたしかにコレクションのすべてを失ったが、代わりにこれまで得られなかったものを得たことも事実なのだ。ハッピーエンドとまでは言えなくても奇妙に幸せな印象の残る作品である。とはいえ好き嫌いは分かれるだろうなあ。
 原題通り「(クレアたちの嘘の中にも)最高の逸品」を見出した終わりなのかもしれない。

劇中に出てくる名画の数々も見どころ(僕なんて殆どわからなかったが)!

鑑定士と顔のない依頼人

鑑定士と顔のない依頼人

 原作あったのですな。
 
 最初に述べた通り、フリーパスで色々観たいとは思ってるんですが、とりあえず2013年度ということではこの辺まで、ぼちぼち今年のベストテン的なものを出したいと思いますのでよろしくです!