The Spirit in the Bottle

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時の記者、炎上! タイムスクープハンター -安土城 最後の1日-

 日本史上の重大事件といえばいくつかあるが、その中でも「歴史のif」として一番魅力的なのはやはり1582年に起きた「本能寺の変」だろう。天下統一を目前に控えた織田信長が家臣明智光秀に襲撃され命を落としたこの事件は織田信長という人物が当時としても常識を越えた人だったため、「もしも織田信長が生きていたら」という「歴史のif」はその他の暗殺事件などをはるか後方に差し置いて魅力的な光を放っている。家臣でのちに天下を獲った豊臣秀吉にその構想の多くが受け継がれているとも言われるが実際のところは分からない。明智光秀自身も信長家臣団の中では信長によってその実力を評価され出世した人物であるため、なぜ謀反を起こしたのかも含めて謎が多い。
 そんな本能寺の変絡みの中でも変後当時世界でも有数の高層建築でありながら炎に消えた安土城の炎上をテーマとした「タイムスクープハンター -安土城 最後の1日-」を観賞。

物語

タイムスクープ社はタイムワープ技術を駆使し、あらゆる時代にジャーナリストを派遣、人々の営みを映像で記録し、アーカイブする計画を推し進めている機関である。

「当時の人々にとって、私は時空を超えた存在です。彼らにとって私は宇宙人のような存在です。彼らに接触する際には細心の注意が必要です。私自身の介在によって、この歴史が変わることも有り得るからです。彼らに取材を許してもらうためには、特殊な交渉術を用います。それについては極秘事項のためお見せすることは出来ませんが、今回も無事密着取材することに成功しました」

 時空ジャーナリスト沢嶋雄一の今回の取材対象は天正10年、1582年の京都。明智光秀による本能寺の変で混乱する京都で争いを逃れ一種の難民と化した庶民を御所で保護する織田方の武士矢島権之助の奮闘を追った。しかし権之介は本能寺の変を逃れた博多の豪商島井宗叱を無事博多まで送り届ける役を残された織田家の武士に頼まれる。急遽博多への旅への取材となってしまった。かつては戦場で活躍したものの、一向宗の虐殺を手がけたことで武士に嫌気が差し戦場での出世を諦めた権之介は野盗を殺す事もできない。そこへ謎の山伏が現れ3人を襲う。山伏はこの時代にあるはずもないフリーズガンを使い権之介と島井宗叱の動きを封じると宗叱の持っている茶器を奪おうとする。実はこの茶器こそ名器と謳われ国一国の価値があるとも言われる「楢柴肩衝」だったのだ。楢柴肩衝は沢嶋と山伏の格闘の末川の流れに消えてしまう。本来なら明暦3年、1657年の明暦の大火で消失するはずの楢柴がここで消えてしまえば歴史が大きく変化してしまう。
 急遽沢嶋はサルベージされ、タイムスクープ社はフリーズガンが歴史の重大事件を取材する第一調査部に支給されていたものという事実から社内に歴史的遺物をコレクトする犯罪組織の工作員によるものと判定。その調査の一方で沢嶋雄一は歴史の改変を防ぐため新たな相棒細野ヒカリとともに1985年、1945年、そして再び1582年へと時空を移動する。果たして歴史をもとに戻すことはできるのか?

 NHKの人気シリーズ「タイムスクープハンター」の映画化作品。要潤扮する時空ジャーナリストが歴史の表舞台には出てこない一般民衆の営みを取材するモキュメンタリー風味な時代劇である。作風としてはカツラなどを使わないリアルな風俗(武士のかつらがそのまま題材となったこともある)、現代とは大きく違うであろう当時使われていたと思しき言語(故に古代を扱った時などはほぼ字幕だよりであった)、有名な役者を使わないことによるリアルな雰囲気(僕が知っている中で一番有名だったのはグラビアタレントのかでなれおんが出演していたことぐらいか)、といったこれまでの時代劇とは一線を画す作品だった。
 僕は最初にこのシリーズを観た時は横山光輝の「時の行者」を思い出したりしたのだが、あまり歴史改変とかSF的な要素は控えめであくまで歴史資料では残りにくい市井の人たちを描いたのが新鮮だった。
 設定としてのタイムスクープ社がどのぐらい未来の設定なのかは分からないが、これが設定は徹底していて、オフィシャルブックはタイムスクープ社がNHKに取材を許可して発行された、という体裁だったし、スペシャル回のロバート・キャンベルが沢嶋雄一にインタビューする回でもあくまで設定にこだわった作りになっていた。そんな人気作の劇場版が今回の「タイムスクープハンター -安土城 最後の1日-」。


 劇場版は副題として「安土城 最後の一日」と付いていて、本来歴史的な重要事件は第一調査部の仕事なのになんで第二調査部の沢嶋雄一が関わることになるのだろう?と疑問に思ったりしていたのだがその辺はうまい誘導の仕方がされてたか。
 TVシリーズは全編沢嶋雄一の取材という形で放送されるが、今回は前半こそいつもの取材画面という形だが、中盤からは完全な劇映画の作り。二時間近い本編を丸々TVと同じ作りで劇場で見せられるのは結構キツイかな、という気もするのでこれはこれで良い判断だったかな、と思う。まあTVのフォーマットをそのまま映画に持ってくるやり方もそれはそれで見たかった気もするけれど。
 また、やはり劇場版、という形だと売りが必要なのか、それまでではほとんど出てこない有名俳優が続々登場。物語のヒーロー役とも言える矢島権之助には時任三郎*1、実在の人物でもある博多の豪商島井宗叱(宗室)にはダチョウ倶楽部上島竜兵、野盗となった元織田方の武士伴山三郎兵衛には嶋田久作などが出演している。またこれまでは要潤の沢嶋雄一と沢嶋をサポートするオペレーター(時に現場にも)杏演じる古橋ミナミ以外にはタイムスクープ社のキャラクターは出てこなかったけれど、こちらも一気に登場人数が増えた。ミナミの上司に当たる谷崎(第2調査部の責任者?)にカンニング竹山。そして更にその上役に宇津井健!そして新人のジャーナリストとして第1調査部志望なが沢嶋の現場サポートとして共に行動する細野ヒカリに夏帆が扮している。特に夏帆演じる細野は1985年のセーラー服での登場から始まり、画面に彩りを与える。まあぶっちゃけ夏帆を見るだけでもそれなりに価値はあると思わせる作品である。

 TVの方は要潤扮する時空ジャーナリスト沢嶋雄一が取材をする、という形式なので沢嶋雄一自身が画面に映ることは少ない。それでも実際の撮影では本来なら画面に映らずただナレーションとして存在感を発する沢嶋雄一こと要潤が実際にカメラの位置に位置し、取材される側(要するに歴史上の人物たち)は実際にそこに沢嶋雄一がいるものとして演技できたと言う。ただ、モキュメンタリーから純粋なドラマへ構成を変えたことで沢嶋雄一も出ずっぱりとなる。またこれまでは常に取材対象及び古橋に対して敬語でしゃべっていたのだが、細野に対しては上からの口調になっている。もちろん細野は沢嶋の後輩に当たる新人なので当たり前といえば当たり前なのだが、なんとなく沢嶋雄一は身分の上下関係なく目下のものに対しても丁寧な口調で応対する人物と思い込んでいた。また第1調査部志望の細野に対してケチを付けるのも意外といえば意外。もちろん歴史の表舞台に出てこない庶民の生活を取材する、という沢嶋たち第2調査部の仕事も尊く誇りを持つのは分かるが、これはどちらが上でどちらが下ということでもないだろう。単に取材だけしている時には見かけられない沢嶋雄一の意外な側面といえるのか。
 また、TVシリーズでも沢嶋雄一は意外なほどに取材対象となる時代について特に事前学習をしていない。これは視聴者と同じ目線に立つ、という作用もあるしあえて事前知識を入れず取材対象と接する沢嶋雄一の取材方針なのかもしれない。今回の映画版では細野に「もちろん知ってますよね?」というようなことを言われてごまかすシーンが有ったりする。ちなみに要潤も撮影前にあえて知識を入れることはしないそうだ。
 今回はメインとなる安土時代にも1985年と1945年も一時的に舞台となる。この時代、特に1985年は僕はもちろん30代以上の人間にはまだ歴史と言える時代ではない。ただ未来の人間である沢嶋雄一たちにとっては1985年も1582年も同じ過去の出来事。演じる際に要潤自身の経験が反映されないようにあくまで時空ジャーナリスト沢嶋雄一としてアプローチするように心がけたそうである。1985年といえば同じNHKの大人気ドラマ「あまちゃん」の主人公天野アキの母親小泉今日子演じる天野春子(若いころを演じるのは有村架純)がアイドルを目指して上京していた時期。どうせならちょっと有村架純演じる春子らしき女性と何か起きるとかそういう展開があればサービス抜群だったのになあ、と思う。TVの映画化として作るならそれを徹底することも有りだ。
 ただし、歴史改変を防ぐためにこれらの時代ヘ行ったりするのはいまいちSF的に納得が行かない微妙な物なのでこの辺は少し脚本に難ありかなあ、という気もしてしまう。
 後半は再び1582年を舞台に今や誰もいなくなった安土城の財宝を狙って城内に詳しい島井宗叱を連れて行く野盗たち、それを追う矢島権之助と装備を奪われた沢嶋たち。そして村の神様(見た目にはただの石)を織田家に奪われた農民たちが安土城に集う。ここでは少人数ながら戦も描かれて、いかにもこのシリーズらしいのだが、即物的な死が描かれる。味方の農民も飛んできた矢に頭を貫かれてあっという間に死ぬ。特に血を出すとかではないがその呆気無い死に様は逆にリアルだ。息も絶え絶えになりながらじっくり時間をかけて死ぬ、というのとはまた別に戦さの非道さ、生命の尊さを教えてくれる(もちろん、作品によって死に際にいろいろ語ることで戦争の悲惨さ、生命の尊さを教えてくれる場合だって有ります。ただこのシリーズにはそういうのは似合わない)。
 最後はもちろん無事解決するのだが残された「安土城 炎上の謎」は謎のまま。城内に仕掛けたカメラが劇中では特に描かれなかった登場人物たちの様子映し出す。エンドクレジットとともに流れるそれらの様子は各キャラクターが火の取り扱いに無頓着(まあ所詮は他人の城である)な様子描かれ、結局どれが炎上の直接原因となったのか分からない。

 TVシリーズに比べて格段に豪華になっている、という印象もそれほどない。TVシリーズを見ていない人にどこまで受け入れられるかも微妙だ。途中劇映画となっているが雰囲気はTVのまま。普通の時代劇やそもそも映画とも少し作りが異なるのでTVシリーズのファン以外には難しいかな、という気もする。それでも意欲作であることは確かだが。

タイムスクープハンター [DVD]

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*1:彼は第5シーズンのラストにもちょこっと登場