The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

ゾンビ、ブラピも彼岸まで ワールド・ウォーZ

第三次世界大戦でどのような兵器が使われるのか、私は知らない。だが第四次世界大戦は石と棍棒によって戦われるだろう。

 とは、アインシュタインが第三次世界大戦ではどのような兵器が使われるかと尋ねられて答えたものと言われている。冷戦終了後核戦争という危機は去ったに見えても人類は今もどこかで戦争を続けている。アメリカ合衆国にとっては一番犠牲者を出した戦争が内戦(一応南部が一時的に独立していたとも取れるが)である南北戦争なので、もうアメリカがやばい時=世界の終わりとして描かれることが多い。またイギリスではあるが、H・G・ウェルズの「宇宙戦争」やそれを元にした映画の原題が「The War of the Worlds(世界戦争)」であったりするように、人類と人類以外の者の全面戦争も「世界戦争」と呼ぶことがあるがこのへんはあまり日本人には馴染まない感覚かもしれない。その流れと一緒で今回観た世界中にゾンビが蔓延する物語も「世界ゾンビ大戦」と名付けられた。8月15日も終わったことだし改めて「世界ゾンビ大戦」に挑んできた。ゾンビ、ブラピも彼岸まで。ブラッド・ピット主演作「ワールド・ウォーZ」を観賞。

物語

 フィラデルフィアに住む元国連職員のジェリーとその妻、二人の娘はいつもの様に車で出かけている途中、いつもと違う様子に戸惑う。外に出て確かめようとした所警官に押しとどめられるがその警官は暴走した車両にはねられてしまう。尋常じゃない様子に車を降りて逃げる家族たち。凶暴化した人間が人々を襲い、襲われた人々もまた10秒足らずで同じ症状に陥ってしまっていたのだ。
 そこへかつての同僚である国連事務次官のティエリーから連絡が入り、ジェリーを減りで救出するという。途中で助けてもらったスペイン人一家のトミーも含め間一髪ヘリに乗り米軍艦隊の船にたどり着く。
 世界では人々を凶暴にするウィルスが蔓延しており、その発生源もつかめていない。艦の収容人数には限度があり、ジェリーは家族の安全と引き換えに「希望の星」若きウィルス学者の補佐を務めるため特殊部隊とともにまずは報告があった韓国へ向かうことになる・・・

 この映画事前には「ゾンビ」という単語を使っての宣伝はいけないとかどうとかで少し話題になっていたけれど、まあ、ちょっと勘の良い人なら最初の予告編を見て、いわゆるロメロゾンビでないにしても『28日後...』系列の亜種ゾンビ映画であることは容易に判断できると思う。それで「予告編と違う!」って怒るのも「ゾンビって前面に出せよ!」ってのもどっちも大人気ないなあ、などと思ってしまった。
 そもそもこの作品は一応原作付きであるし、タイトルの「Z」はそもそも「ゾンビのZ」でしょう?まあ最終戦争的な意味での「Z」もかけているのだろうけど。原作はメル・ブルックスの息子のマックス・ブルックスの書いた「WORLD WAR Z」で前著の「ゾンビサバイバルガイド」と同設定に基づいた「ゾンビだらけになった世界での架空のインタビュー集」という凝った作りの小説。ただ、この映画ではほとんど別物らしい(この映画で出てくるゾンビはいわゆる走るゾンビだが、原作で出てくるゾンビは走らないゾンビであるらしい)。さっきから「らしい」を連発してる通り僕は原作は未読なので原作についてはここで終了。
 で、予告編で見られる緊迫したシーンというのは実は冒頭も冒頭で、その他俯瞰で撮ったシーンなども中盤のものである。前半と後半でがらっと違う雰囲気になる作品で映画的なスペクタクルな映像が見れるのは主に前半。後半はそれこそゲームの「バイオハザード」を彷彿とさせる研究所内でゾンビから逃げながら目的を果たす、というミニマムな話になる。ただそういう流れであるからつまらないかといえばこれが結構面白かった。

 僕は観ながら「28日後...」と同じ世界で起きたもうちょっと世界の根源的な物語、という印象を持った。いわゆる走るゾンビの先駆けであるダニー・ボイル監督の「28日後...」はゾンビ(レイジウィルスの感染者)が蔓延した原因などには触れず*1、目覚めたら大変なことになっていた主人公(キリアン・マーフィー!)とその仲間たちのサバイバルが描かれたが、その一方でこの作品の主人公ジェリーのように原因究明に奮闘する人々もいたんだろうなあ、などと想像してしまった。
 この映画で描かれるゾンビはウィルスによる感染が原因ということでいわゆるブードゥーゾンビともロメロゾンビとも少し違う。劇中でもはっきり「ゾンビ」と呼ばれるし、「アンデッド(生きた死体)」という単語も登場するが、あくまで感染した人間がなるもので例えば土葬された死体が蘇ったりするものではなさそう。ただ、「28日後...」に比べるともっとゾンビらしいメイクにはなっている。
 ゾンビは群れてなんぼのモンスターである。たとえ運動神経も体力もからっきしな僕でも2,3人のゾンビ相手ならなんとなる(多分)。でも大勢に襲われたらひとたまりもない。おそらく武装した軍人集団でもゾンビが絶え間なく襲ってきたとしたら最終的に勝つのはゾンビの側である。奴らは痛みを知らないし、頭を撃たれて動けなくなるまでひたすら目の前の標的を襲い続ける。この映画ではその一体一体はたいした事ないが群れになったら怖い、というゾンビ描写の極北と言っていいと思う。中盤のイスラエルでは壁を築いてゾンビの侵入を防いでいるが、調子に乗った人々が歌を歌い始め、それに感づいたゾンビが壁にすごい勢いで押し寄せ、登る手段がなければ仲間が覆いかぶさって坂を作ればいいじゃない!とゾンビ坂を作って壁を乗り越える。それ以外にもバスを押し倒したりもう群れでひとつの生き物といった様相。これまでのゾンビ映画ではありそうで無かった描写だと思う。
 後半はウェールズのWHOの研究所が舞台。ジェリーがこれまでの体験の中でゾンビが特定の人物を避けていることがあるのに気づく。その原因をその人物が特定の病気にかかっていてそれをゾンビのウィルスが避けているのだろうと判断する。最初の韓国でそういう軍人が出てきた時点でそいつを連れ帰って調べろよ、とか思っていたのだが。病原菌を保管している研究棟はゾンビが出たため閉鎖されており、そこへの潜入が後半の展開となる。前半〜中盤のスペクタクルな描写と違ってゾンビに見つからないように狭い建物を探索する。監視カメラからの定点映像なども相まって本当に初期の「バイオハザード」っぽい感じになる。単純に考えると後半になるほど映像がしょぼくなっていく感じなのだが不思議と観ている時はそんなに気にならない。逆にずーっとイスラエルのような映像ばかり続いていたらそれはそれで凄いかもしれないがメリハリはなくなっていたかもしれないなあと思う。
 後はコント的な外しが時折見受けられて、予告編でもあった注意した警官が直後により大きな車両にはねられる(ぶつかる?)のとかもそうなのだが、人類の希望の星と称され、飛行機の中では中々含蓄のあるセリフを吐く若い学者が目的地の韓国米軍基地に着いた途端、ゾンビの来襲にビビって滑って転んで死んだ所とかは思わず笑ってしまいそうになった(このシーンセリフでは「滑って転んで死んだ」となっていたが実際は護身のために持っていた拳銃の引き金に指をかけていたため転んだ拍子に自分の胸に向けて撃ってしまったのだろう。ブラピにも指を引き金に掛けるな、と忠告されていた)。しかしこの「希望の星」が滑って転んで死ぬシーンが前半のハイライトで、そこから少し予告編で見られるような緊迫したシーンばかりではないんだよ、という観客への忠告だと判断。実際ここからはちょっとづつおかしなシーンも現れる。
 例えばゾンビは音に反応するからと、大雨の中自転車でペダルコキコキ移動するのだが、案の定、そこへジェリーの妻から電話がかかってきてけたたましく鳴り響き、当然ゾンビが反応!ジェリ―たちあたふた!という場面など。護衛していた軍人さんに「上映中の携帯電話はお切りください」と茶化される始末。お約束といえばそうなんだけど、「マナーモードにしとけよ!」と思いますね。このゾンビと音ネタは後半も登場して緊迫感を煽る、というよりは「志村うしろうしろ」的な観客参加っぽいのりで表現されます。なんか最初のフィラデルフィアイスラエルのシーンと、韓国、ウェールズのシーンは違う監督が撮ったんじゃないかと思うくらい雰囲気が違う感じ。監督は「007 慰めの報酬」のマーク・フォスター。

 主人公ジェリーはご存知ブラッド・ピット。ブラピの映画を劇場で観るのっていつ以来かな、などと思っていたけれど「イングロリアス・バスターズ」を観てたのでそれほど昔でもないんだな。でも「イングロ〜」はすっかりブラピ主演であることを忘れていた。今回は家族思いで有能な元国連職員を演じている。色々過酷な現場も経験していて、その反動からか今は主夫?の家族思いの男。家族が米国艦に保護されてからはその居場所を守るため、世界中を飛び回る。元は「希望の星」の補佐役だったのに「希望の星」があっけなく流れ落ちてしまったのでそこからは積極的に行動している。まああんまりブラッド・ピットぽいかというと特にそういう程でもないが*2ヒーローとしては十二分に活躍。
 ジェリーの家族としては次女のコニーちゃんが可愛かったです。
 ほかはイスラエルからウェールズにかけてジェリーを補佐するイスラエルの女兵士セガンを演じたダニエラ・ケルテスが印象的。あの国は女性も普通に徴兵される国だからなあ。どうやらこの人本当にイスラエルの女優さんのようですね(ウィキペディアヘブライ語版しかない)。その他ジェームズ・バッジ・デールデヴィッド・モースなんかも出演しています。

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

World War Z

World War Z

 ホラー映画のゾンビ映画としてみた場合、いわゆるゴア描写がなくて物足りないという人もいるかもしれないが、先の群体としてのゾンビの描写や、ところどころにみえる外しの演出などが面白く、とくに群体描写は結構画期的なように思えてゾンビ映画の新たな地平を切り開いた作品といえるのではないだろうか。
 ラスト、ジェリーはゾンビたちが襲わない、「透明になれる」病原菌を突き止める。一見人類が勝利すると思う。でも相手はウィルス。実際の人類とウィルスの勝負が対策とそれに対抗する進化の繰り返しであることを考えるとゾンビの方も再び進化するであろう。戦いはまだ始まったばかりだ。
ゾンビサバイバルガイド

ゾンビサバイバルガイド

彼岸過迄 (新潮文庫)

彼岸過迄 (新潮文庫)

タイトルこちらから。ちょっと早いけど大体上映期間が彼岸までぐらいですかね。

*1:劇中で主人公たちが探求しないということ

*2:例えばスピルバーグの「宇宙戦争」はトム・クルーズでなければならなかった感じだが、この映画では特にブラピでなければ、とは思わなかった