The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

悪夢と家族 少女と巨漢 その2「飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲」

 というわけで、「サイレントヒル リベレーション」と並ぶ「7月の絶対観るぞ!ムービー」もう一本は伝説的なホラー映画「悪魔のいけにえ」シリーズの新作。こちらもタイトルから分かるように3D映画。これまでにも続編、パラレル?、リメイクと様々な作品が作られてきたが、今回は「第1作目の本編終了直後から物語が始まる正統続編である」というのが謳い文句。ちなみに僕の頭のなかのテキサスは西部劇とプロレスと「悪魔のいけにえ」で9割方占めます。残りは「マチェーテ」。それではまずは「悪魔のいけにえ」シリーズ全体について軽く。

テキサス州電ノコ虐殺事件史

この映画は若者たちの惨劇の物語だ
いけにえの5人の若さが、哀れさを増す
長く生きのびても同様の異常な衝撃には出くわさなかっただろう
悪夢と化したドライブ
この事件こそ米国犯罪史上 最も異様な「テキサス自動のこぎり大虐殺」
 
“ The film which you are about to see is an account of this tragedy. which befell a group of five youth, in particular Sally Hardesty and her invalid brother Franklin. It is all the more tragic in that they were young. But,had they lived very, very long lives, they could not have expected nor would they have wished to see as much of the mad and macabre as they were to see that day. For them an idyllic summer afternoon drive became a nightmare. The events of that day were to lead to the discovery of one of the most bizarre crimes in the annals of American history, The Texas Chainsaw Massacre.”
(ソフト字幕より)


 記念すべき1作目は1973年にテキサス州で主にドキュメンタリー作品などを制作していたトビー・フーパーが監督した伝説的作品。僕はこの作品を「映画史上最も恐ろしい作品」として中学高校ぐらいの時点で知識としては知っていたのだが、当時は地元にレンタルビデオ店が無く(あるにはあったがどちらかと言えばアダルトメインの店だった)、映画好きを標榜してもリアルタイムでの劇場公開作か地上波の放送が頼りで実際に見ることはかなわなかった。実物を見ることが出来たのは大学時代に一人暮らしを初めてからでちょうど夜中の3時ぐらいに見始め、劇中同様ラストが夜明けだったことを覚えている。映画は予想したより(「最も怖いと言ってもその時点で20年以上前の作品、多少時代補正もかかっているのだろう」とたかをくくっていた)もスプラッター描写などは控えめだった(既に「13日の金曜日」や「エルム街の悪夢」などは見ていてそれなりに耐性はあるつもりであった)が、ドキュメンタリータッチなリアルさと、全体的な乾いたタッチ、そして観ているものの神経を揺さぶられるようなキャラクターの描写などに打ちのめされた。劇中最後の一人となって生き延びたサリーは笑いながら生き延びたことを実感するが、観ているこちらも唖然とし思わず乾いた笑いが出てくるような作品で、「映画史上最も恐ろしい作品」というのは伊達ではなかったのだ。
 物語は1973年8月18日に始まる。車椅子のフランクリンとサリーの兄妹、その仲間たち5人が一台の自動車で二人の田舎テキサスへ帰る気ままな旅を続けていた。途中とあるヒッチハイカーを乗せる。そのヒッチハイカーは自分の手をナイフで切ったかと思うと次に突然フランクリンを切りつける。当然追い出されたヒッチハイカーを後にして一行は進むが今度はガス欠となり、とある一軒家を訪れる。カークとジェリーが家を訪れるが誰も出てこない。空き家かと思い奥へ進むカークに対し突然奥から人の皮をかぶった大男が現れ、カークの頭を金槌で打ち付ける。痙攣を起こすカークに二度目を打ち込むとそ大男レザーフェイスはカークの身体を奥へ運び扉を閉めてしまう。これが惨劇の始まりだった・・・
 作品はフィルムがニューヨーク近代美術館に保存されているという美術作品としても高い評価を受けている作品。単におどろおどろしいだけでなくカット割りなども見事で今でも十分に鑑賞に値する。僕も何度か書いているし、一般にヒッチコックの「サイコ」同様1954年のウィスコンシン州で発覚したエド・ゲインの事件をモデルにしている、とされずっとそのように言われてきたが、最近はどうも違うようで監督のトビー・フーパーは確かにそういう事件のことを知ってはいた(子供の頃に度々聞かされたらしい)が製作では直接モデルにはしておらず、作品の評判とともにエド・ゲイン事件との共通点などが語られるようになり本人も驚いていたらしい。とは言え、フォークロワとしてのエド・ゲインとノーマン・ベイツ、レザーフェイスの関係は「なぜ殺したか」と「どのように殺したか」をうまく象徴的に二分化しており、ある種の魅力にあふれている。映画はドキュメンタリータッチで描かれるが、むしろ影響を与えたのはフーパーが在学中に起きたテキサス大学タワー無差別乱射事件の方かも知れない。元海兵隊員のチャールズ・ホイットマンによるこの事件は「ダーティハリー」のさそりのモデルの1人でもある。
 チェーンソーを人殺しの道具として使用したのもこの作品が最初といううわけでもないが、これはフーパーが夏の客で混雑するスーパーで壁にかけられたチェーンソーが目に入り「あれで人混みをかき分けられたら・・・」と思ったのが使用のきっかけだという。これがその不快な作動音とともに作品の象徴となった。よく「13日の金曜日」のジェイソン・ボーヒーズがチェーンソーを武器にしている、と勘違いされるがこれは2つの映画をごっちゃにしているかホッケーマスクの主人公がチェーンソーを武器に戦う「スプラッターハウス」というTVゲームの影響ではないかと思う*1
 ここで恐ろしいのは生贄となる若者たちに襲い来るのはレザーフェイスだけではなく、彼をはじめとした一家であるということだ。レザーフェイス、ヒッチハイカー、一家の大黒柱であるコック、そして半ばミイラとなったようなルックスのじい様(グランパ)である。この中で比較的社会性があるのはコックだけで、彼はガソリンスタンドを営み若者たちに道を教えてたりしている。


 実はこの家族構成がいまいち不明で、例えば僕はレザーフェイスから見てグランパが祖父、コックが父親、そしてヒッチハイカーが弟だとずっと思っていたのだが、解説によってはグランパが父親でコック、ヒッチハイカー、レザーフェイスは3兄弟である、とするものもある。これはテキサスでは父親をさして「グランパ(お爺ちゃん)」と呼ぶ風習があるからだとか、英語では普段は単に「兄弟」とだけ読んでそれが兄であるのか弟であるかまでは特に触れないことが多いからでもあるのだろう。僕が見た字幕ではコックがヒッチハイカーにチェーンソーによってボロボロになったドアをさして「見ろ!お前の兄いの仕業だ」といっているシーンがあったのでレザーフェイスが兄、ヒッチハイカーが弟、そしてコックは二人の父親だと判断した(今持っているDVDでは「何度も言ったぞ。弟(レザーフェイス)を1人にするなと」「お前の弟の仕業だ」となっている)。しかしこの一家にはばあ様のミイラがあるがレザーフェイスたちの母親にあたる女性が見当たらない。そこでじい様とばあ様の間にまず生まれたのがコック、その後コックとばあ様の近親相姦によってレザーフェイスとヒッチハイカー(&2で登場するチョップトップ)が生まれたと判断するとしっくり来る。つまりコックは父親であり兄貴でもあるわけだ
 とにかくこういう異常な家族が若者を嬲るシーンが続き、彼らが最後に生き残ったサリーを囲んで晩餐を開くところは狂気の一言。またじい様が過去に牛を殺すプロフェッショナルだったことから屠畜業を元々の生業としていた一家であることが判明する。この辺りかなりきわどい描写であるがいわゆる「怖い田舎」描写の極北であろう。本質的には髪が長いから、というだけで最後に主人公たちを撃ち殺した「イージーライダー」の田舎者たちと一緒なのだ。
 低予算作品ではあったがそれはあまり感じさせず、また直接的な残虐描写も少ないがそれ故観客の想像を刺激する作品であった。おそらくもう誰にもあのような作品は作れず、あの時あの場所のフーパーたちであったからこそ可能な作品であったのだろう。
 それはおそらくトビー・フーパー自身がよく分かっていたと思われ、13年後にメジャー作品として撮った「悪魔のいけにえ2」は1作目とはガラッと変わった狂騒的な作品となっている。前作の人喰い一家(ここでソーヤー家と判明)は生き延びたサリーによって告発されるがソーヤー家の面々は逃亡。殺されたフランクリン(と言うことはサリーの)叔父である保安官レフティ一家をずっと追いかけている。あるときラジオの番組にいたずら電話をかけた若者がチェーンソーの大男によって惨殺される事件が発生。その様子はラジオで放送されていた・・・
 メジャーの予算と大スター、さらに特殊メイクの魔術師トム・サヴィーニという手段を得て遊園地のセットや直接的な虐殺描写など格段にパワーアップしている。しかし物語はデニス・ホッパー演じる復讐に狂う保安官レフティがなぜかやはりチェーンソーをフル装備してレザーフェイスとチャンバラをやったり、前作で死んだヒッチハイカーの双子の兄チョップトップ(海外留学してたらしい)の変態演技*2、さらにレザーフェイスがDJストレッチに恋をしてペアの人皮マスクをプレゼントしたり、ドレイトン(コック)に「女とチェーンソーどっちを取るんだ!」と迫られたりするとにかくぶっ飛んだ作品だった。ある種スラップスティックなコメディ映画として見ることも出来、前作とは全然趣が違う。ソーヤー一家は廃遊園地を根城としており、ドレイトンはチリソースでテキサス一の味と人気を誇る人気者となっていた(もちろん材料は・・・)
 他のフーパー作品全体で鑑みるとむしろこっちがフーパーの本来の監督としての持ち味であり、オリジナルの「悪魔のいけにえ」こそ突然変異的な奇跡の一品だったのだと思う。ちなみにやはり何度も書いているけれどこの「悪魔のいけにえ」と「同2」、ジョージ・ミラーの「マッドマックス」と「同2」、そしてティム・バートンの「バットマン」と「バットマン・リターンズ」の正続併せての3作品が僕のオールタイム・ベスト作品である。
 
 一応「悪魔のいけにえ2」までがトビー・フーパーによる正統続編シリーズ、その後シリーズは若き日のアラゴルンことヴィゴ・モーテンセンが人喰い一家の1人を演じた「悪魔のいけにえレザーフェイス逆襲」、オリジナルの脚本をフーパーとともに担当したキム・ヘンケルによる「悪魔のいけにえ レジェンド・オブ・レザーフェイス(4)」が作られる。この2つは一応ソーヤー家の物語ではあるものの家族構成は一新され、パラレル、あるいは別の物語という感じであろう。3では「SAW IS FAMILY(のこぎりこそ家族)」と刻まれたチェーンソーが登場する。また4では卒業パーティを抜けだした高校生が犠牲になるがヒロインを演じているのはレニー・ゼルウィガーであり、ソーヤー一家の家長をマシュー・マコノヒーが演じている。この4はアメリカではマシュー・マコノヒーが権利を買い取って封印作品とし上映も販売もできないそうで実質アメリカでは見ることが出来ないらしい。日本ではレンタル店によっては置いてあるところもあるかも。4の方ではソーヤー一家のバックに政府らしき大きな組織が付いている描写もあり話の規模(だけなら)一番。原題の副題は「The New Generation」で新たな物語が紡がれるかと思ったが結局これっきりとなった。
 
 2003年にはマイケル・ベイ製作、マーカス・ニスペル監督によるリメイク作品「テキサス・チェーンソー」が作られる。舞台も1973年に設定し、もちろん新たなアレンジもあるが5人の若者が犠牲になる大筋で同じ物語。一家の名前はヒューイットに変わっており、オリジナルでは存在しなかった(生きた)女性の家族も登場する。オリジナルでは近親相姦を伺わせたが、こちらでは他人の赤ん坊をさらってきて(あるいは拾ってきては)は自分たちの子どもとして育てているらしい描写も。レザーフェイスにはトマス・ブラウン・ヒューイットというフルネームが与えられる。一家を実質取り仕切るのは「フルメタル・ジャケット」のハートマン軍曹ことR・リー・アーメイ。地域の保安官ホイトとして若者たちの前に登場するが実は法の守護者どころか、家族のためには法を犯すことをなんとも思っていない狂人だった!*3
 オリジナルのサリーにあたる生き延びる女性役はジェシカ・ビール。後々の女傑としての活躍を知っていれば納得だがこの時点ではほぼ無名。それでも単に逃げ延びるだけでなくきちんと復讐も遂げるあたり後の片鱗をのぞかせる。
 フーパーとヘンケルは脚本として関わっているが更にもう一人、オリジナルで撮影監督だったダニエル・パールがやはり撮影を担当している。彼は「悪魔のいけにえ」のあとはミュージックビデオの方にキャリアを変更しており、そちらではマドンナの楽曲を担当するなど売れっ子であったらしい。知らないだけで彼の撮影したMVを見ている人は多いかも。時代を現代にせずオリジナルに合わせたこともあって「悪魔のいけにえ」の乾いた雰囲気はよく再現している。ただマーカス・ニスペルがやはりリメイクとして撮った「13日の金曜日」と比べると(もちろん舞台など設定に依る部分も大きが)この雰囲気はダニエル・パールによるところが大きいのではないかと思う。
 2006年には「テキサス・チェーンソー」のオリジンとしてレザーフェイスとその一家の生涯をたどる物語「テキサス・チェーンソー・ビギニング」が公開。奇形であったためすぐに捨てられた赤ん坊はヒューイット家の女に拾われ一家の一員として成長する。成長したトーマス・ブラウン・ヒューイットは食肉処理工場で働くがやがて工場は閉鎖され居場所を失った彼は工場長を殺してしまう。一家は彼を逮捕に来た保安官を殺し(それが元々のホイト保安官であった)、一家は自分達の土地を守るため守るため今後は通りかかる人間を食卓に並べ生きていくことを誓う。そしてまた新たな犠牲者が・・・
 レザーフェイスが初めて人皮をかぶるまでが描かれているこの物語。彼はどうやら工場長とそこで働く女性との間に生まれたらしく、彼の最初の殺人は実の父親相手であったことにある。
 レザーフェイスの相手となるのはベトナム帰りの兄とこれからベトナムに行く予定の弟、そしてその彼女たち。さらに後半は仲間を殺された暴走族(といっても日本の暴走族とは違いヘルズエンジェルス系の凶悪ないい大人)が現れ、食人鬼一家VSベトナム帰りVSヘルズエンジェルスという構図になりこれはこれで魅力的であった。監督は後の「世界侵略: ロサンゼルス決戦」や「タイタンの逆襲」を撮るジョナサン・リーベスマンで前作から引き継いだ乾いた作風はその後の作品にも受け継がれているように思える。
 そして、2013年オリジナルの「悪魔のいけにえ」から40年、それを記念したのかどうかは分からないが改めてオリジナルの直後から始まる物語として作られたのが本作「飛びだす 悪魔のいけにえ」である。

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物語

 ソーヤー家の凶行から生き延びたサリーの告発によって彼らの犯罪は白日のもとに晒され、フーパー保安官はソーヤー家に行き出頭を求める。一番の目的はもちろんレザーフェイスことジェダだ。しかしソーヤー家の建物には一族が勢揃いし立て篭もるつもりらしい。そこへ町の実力者であるバート・ハートマン率いる自警団が現れ保安官を無視して銃撃戦を開始する。やがてソーヤー家の建物は炎上してソーヤー家は全滅したかに思われた。自警団の1人によって連れ去られ彼ら夫婦の養子となった赤ん坊を除いては・・・
 現代。成長した赤ん坊はヘザーと名付けられ、スーパーの精肉店で働いている。彼女のもとに祖母と名乗るヴァーナ・カーソンが死に、彼女の財産をすべてヘザーが受け継ぐこととなる文書が届く。養父母から自分が養子であることを聞いたヘザーは恋人や友人たちとテキサスノニュートへ向かう。広大な屋敷を手に入れたヘザーだったが、街の住人は妙によそよそしい。やがてその建物に住む何かがヘザーたちを襲い始め・・・

 映画はオリジナルを編集した1作目のダイジェストから始まる。これが見事に「悪魔のいけにえ」の見どころをつなぎあわせた編集で作品の象徴的なカットがほぼ全て使われている。ただしジム・シードウが演じたドレイトン(コック)はジム・シードウがすでに亡くなっており今回はチョップトップことビル・モーズリーが演じているため彼の顔は見えないようになっている。その後本編直後のシーンになり、赤ん坊を釣れた女性やライフルを持った太っちょなどが屋敷に集まり前作では登場しなかった他のソーヤーが現れる。ここでは先のビル・モーズリーほかオリジナルに出演していた人たちが出ており、太っちょはオリジナルレザーフェイスことガンナーハンセン(役名はボス・ソーヤー!)。ガンナー・ハンセンはその巨体に似合わずインテリで素顔は包容力の有りそうな気のいいおじさんといった感じ。関係ないが彼を見るとECW,WWEなどで活躍したミック・フォーリーを思い出してしまうのだな。彼も素顔はとてもいい人でありながらレスラーのギミックとしてレザーフェイスをモチーフにしたマンカインドなどを演じていた)
 また、グランパもオリジナルのジョン・デュガンが演じている。彼はおじいちゃん役ではあったものの、グランパを演じた当時はまだ若くてその特殊メイクが苦痛だったという。彼の年齢については未だに錯綜していて今回もパンフレットのキャスト紹介では1940年生まれ、となっているのに対し、プロダクションノートではオリジナル撮影当時20歳だった、と書かれている。1940年生まれなら撮影当時すでに33歳のハズで13歳近く差があることになる。僕の持っているDVDにはグランパの特殊メイクを施す様子が収録されているがそこでの彼の素顔を見ると当時20歳、が合っているのかなあ、とも思うが白人の年齢は分かりづらいのでなんとも言えない。
 ハンセン演じるキャラクターはいかにも田舎のヒルビル―という風体だが、そこに登場する痩せた女性は「テキサス・チェーンソー」に出てきたキャラクターを想起させる。このように今回は過去のシリーズを1作目以外なかったことにする代わりにオマージュと思われる部分が多い。以下僕の推定ながらシリーズから持ってきたネーミングなど。
 まずは分かりやすい所で言うと黒人保安官であるフーパー。これはもちろん「悪魔のいけにえ」のトビー・フーパーその人からの引用であろう。中立的な立場からもそれが伺われる。
 そして主人公であるヘザー。奇しくも「サイレントヒル リベレーション」の主人公と同じ名前になってしまったが、こちらはおそらくフーパーの「ポルターガイスト」で主演の少女を演じ、また同シリーズの3を撮った直後に亡くなったことで話題となったヘザー・オルークからではないかと思う。
 レザーフェイスの本名が2で判明したババ・ソーヤーではなくジェダマイヤ・ソーヤー(愛称ジェダ)となっているのはリメイク「テキサス・チェーンソー」で一家の一員でありながら家族の行為に疑問を覚える子供ジェダイア・ヒューイットからではないだろうか。ちなみに演じていたのは「ザ・リング」の子役でもあるデヴィッド・ドゥーフマン。
 同じく街の実力者であるバート・ハートマンは「テキサス・チェーンソー」でホイトを演じたリー・アーメイの当たり役「フルメタル・ジャケット」のハートマン軍曹からだと思われる。(この辺まで行くとかなり遠くて無理してるなとは自分でも思いますが)。

 僕はてっきり1973年直後から物語が始まってその時拾われた少女が成長してからが本編ということで「ああ、1990年代半ばぐらいが舞台なのかな。それでも2の時代は過ぎちゃってるし、2とはパラレルな話なんだな」とか思いながら見ていたのだが、中盤劇中でiPhoneが出てきてびっくりした。どうやら時代設定は適当らしく日付は語られても年代は語られない。もしも1973年から現代(2012〜3年辺り)に飛ぶのではあればヒロインは40歳前後という設定になるはずだが、さすがにそれは無理がある。ちなみにヒロイン・ヘザーを演じたアレクサンドラ・ダダリオは超絶美人だが1986年生まれの27歳で予想したよりは(20歳ぐらいだと思ってたし、おそらく設定上はそのくらいだろう)上だったが、さすがに設定上40歳というわけではないだろう。劇中では豊かな胸とへそ出しルック、しかし腕は隠すというメリハリの聞いたボディと衣装で素晴らしいです。

 彼女はソーヤー一家の生き残りであるわけだが、遠く離れまったく別の人生を歩んでいるはずなのに結局スーパーの精肉店で肉を加工する仕事をしているというのが皮肉である。ソーヤー家も元々は屠畜場を生業とする一族であった。彼女が相続した祖母の豪邸はカーソン家で祖母のヴァーナはソーヤー家から嫁いできたものと思われる。一家が殺された時家にいたヘザーの実の母親はこのヴァーナの娘だった。おそらくソーヤー家、カーソン家などはテキサス州ニュートの名家でまたハートマンの家もそうであったのだろう。そして「ロミオとジュリエット」のキャピュレット家とモンタギュー家、あるいは「ロリ・マドンナ戦争」のフェザー家とガッシャル家のようにソーヤー家とハートマン家は長年争ってきた一族なのかもしれない。ともあれヴァーナが亡くなったことでヘザーはソーヤーとカーソンの血を引く最後の一人となる。ソーヤー家のものは皆、「S」の字をかたどったペンダントを身に着けていた。ヘザーはペンダントこそ持っていないが、赤ん坊の頃に火事でペンダントと同じ痣(火傷痕?)が胸に残る。ちなみにほんの少しであるがヴァーナを演じているのはオリジナルでサリーを演じたマリリン・バーンズ。もちろん、最初のオリジナルフッテージの部分でも彼女は出演しているので一つの映画で犠牲者と加害者の家族をこなしたこととなる。
 レザーフェイス一家がハートマン率いる自警団に焼き殺された後も実は生きていてカーソンの屋敷でヴァーナに匿われていた。地下室でひっそりと引きこもり生活を送っていたが(とはいいつつばれない程度に凶行を繰り返していたのではないかと思われる)、ヴァーナが死に、見知らぬ人間が屋敷に来たことによって再び表に出て来ることに。ヘザーたちが旅の途中で乗せたヒッチハイカー(この辺はオリジナルを踏襲しつつうまく外していて面白い)を手に掛けたのを最初に次々とヘザーの仲間を手にかけていく。ヘザーにも襲いかかるが、カーニバルの人混みの中でも堂々とチェーンソーを振り回して追っかけていくるのがこれまでと違う所。ヘザーはイケメン保安官補に間一髪で救われる。このイケメン保安官補を演じているのはスコット・イーストウッド。名前で分かる通りクリント・イーストウッドの息子で「父親たちの星条旗」以降の父親の監督作には(それほど大きな役ではないが)ほとんど出演している。僕はいつもクレジットを見て「あああれがイーストウッドの息子だったのか」と思う感じだったが、今回はオープニングのクレジットにも名前が出てきて、かついくつかのシーンでは若い頃のクリント・イーストウッドにそっくりだったので最初から認識できた。
 ヘザーは保安官事務所で過去のソーヤー家の犯した事件、そして自警団の暴走とその結果による実の母親の死、それを止められなかったフーパー保安官のことなどを知る。このへんから物語はおかしな方向に行き始め、やがてクライマックスの価値観の転倒につながる。ヘザーは自分を見つけ出しカーソンの相続人とした弁護士と会うが彼によるとレザーフェイスはヘザーのいとこであり、彼の世話をすることが相続の条件だったことを知る(ヴァーナはドレイトンかグランパの姉妹であるのだろう)。やがて「ソーヤー家の血を残しちゃなんねえ」という今や町長となったハートマン(イーストウッドJrは彼の息子だったのだ!)がヘザーを捕まえ食肉処理場で彼女を吊るす。そこへレザーフェイスがやってきて彼女を血祭りにあげようとする。ヘザーは必死に身内だと訴えるがレザーフェイスの耳には届かない。その時胸の痣がレザーフェイスの目に止まり、彼はヘザーが家族だと知るのである。ここからヘザー&レザーフェイスのソーヤー一家VSハートマン一家の第2ラウンドが始まり、二人はこれに勝利する。なぜか勝利した二人を見逃すフーパー保安官。もうこの時点では完全に「町を牛耳る悪党ハートマンVSその犠牲になった哀れなソーヤー家」みたいな図式になっていてレザーフェイスはすっかり姫を守る騎士の役割。そして再びカーソン屋敷に出向いた二人はそこで家族の絆を再確認、ヘザーはかつてのヴァーナに代わりレザーフェイスの面倒を見ることを誓うのだった。・・・ってこの展開はどうなのだろうか。ヘザーも恋人や仲間殺されてるんだよ(恋人と親友は浮気していたようだがヘザーはそのことを知らない)。それにレザーフェイスの尻拭いは結局ヘザーと言うより保安官と弁護士がやるのであろう。確かに「レザーフェイス一家の逆襲」ではあったが、これは微妙なオチであるなあ。
 「血は水より濃い」という言葉がある一方で、「生みの親より育ての親」などの言い回しもある。「13日の金曜日」シリーズでもボーヒーズの連なるものがジェイソン退治の決め手になる作品などもあるが、この展開にはさすがにびっくりだ。ハートマンの方も観客が憎々しいと思うキャラクター造形になっているため、見ているときはそんなに不思議に思わないが、冷静に考えるとかなり怖い。そもそも最初の発端であるサリーやフランクリンたちの悲劇は100%ソーヤー家が悪いわけだからね。
 レザーフェイスは時折非常に人間臭い所見せるのも魅力のひとつ。今回はその辺もちょっと少なかったかなあ。後はせっかくの人皮マスクがあんまりなじんでないブカブカな感じでもあった。まあ革だから着用していくうちにちょうどいい顔に合わせてフィットするようになるさ!後はマスクをかぶるときにただかぶるのではなく直接自分の顔に抜いつけていく描写は今までなかった気がする。
サイレントヒル リベレーション」も「飛びだす 悪魔のいけにえ」も

  • 主人公の名前がヘザー
  • 主人公に襲い来る巨漢が後に守護者となる
  • カーニバルが出てくる
  • 主人公は養子であるが、その血統が重要となる

など共通点が多い。しかし「サイレントヒル」は最後養父母との絆を見直すのに対し、「飛びだす〜」では養父母がオチに使われる。まあ確かにこの養父母は決して良い親ではなかったことが伺われるし、そもそも実の母親の敵でもあるわけだけれど。
 「サイレントヒル」同様1作目を越えることが出来ないのは最初から分かっていてそれでも十分楽しめる作品ではある。ただやっぱり2の存在を無くしてしまったことや、劇中の年月の曖昧さ(別にiPhoneが出て来なければ細かく設定しなくても1990年代半ばとかで済む話なのになんであんな分かりやすい「現代のもの」を出しちゃったんだろう)、そしてレザーフェイス(とヘザー)以外の家族が本編に出てこないこと、など不満点も多い。正統続編を謳うならその辺はこだわって欲しかった。それでもシリーズの1作というだけでどうしようもなく肯定してしまう物であるのだ。
 
 この映画を見ている時、少し離れたところにいた客が主にグロテスクなシーン中心にケラケラ笑っていたのが気になった。もちろん喋っていたとかではないし、僕自身それなりにこの手の映画は見慣れているので家でホラー映画(特にこういうタイプの映画)を見るときは笑いながら見ることが多い。ただやはりこの映画はホラー映画なので、家やイベント(例えば公開日の夜に行われた「悪魔のいけにえオールナイト」とかではどうだったのだろう)などはともかく普通の劇場で観るときはちょっとマナー違反に近いのではないかな、と思う。別に悲鳴を挙げろ、とは言わないが劇場でそれなりのホラー映画を観ている時は笑ってしまうのはTPOに欠けた行為のように思う。僕自身この映画で思わず笑いそうになった部分もあるし、微妙な問題ではあるけどね。

*1:8月1日追記。コメント欄でナムコットンさんより指摘あり。ゲーム「スプラッターハウス」でも主人公はチェーンソーは使用しないそうです。僕も印象だけで書いちゃいました。

*2:これもてっきり前作でダンプに轢かれたヒッチハイカーがかろうじて生き延びた姿だと最初は思っていた。ちなみにヒッチハイカーは薄く伸びたミイラで登場

*3:続編で判明するが彼は本物の保安官を殺して勝手に彼になりすましてるなんちゃって保安官だったのだ。