青春から匂いたつ死臭 スプリング・ブレイカーズ
先日、「荒野の七人」「きっと、うまくいく」を観た日に締めの一本として観たのが「スプリング・ブレイカーズ」。はっきり言って頭空っぽにして楽しめる作品かなーと思ってたらトンデモなくドス黒い作品だった。ヴァネッサ・ハジェンスの水着姿に惹かれて観に行ったのだけれどもっと事前に予習しておけば良かったなあと思ったりしたのです。
物語
女子大生のフェイス、キャンディ、ブリット、コティの4人は春休みをフロリダのセントピーターズバーグで過ごす「スプリング・ブレイク」のために金策に勤しんでいたが全然お金はたまらない。業を煮やしたキャンディ、ブリット、コティの3人は水鉄砲とハンマーでレストラン強盗を働く。首尾よくカネを手に入れた3人は比較的真面目なフェイスも合わせてスプリング・ブレイクに出かけるのだった。
フロリダでは享楽的な休みを過ごし、ここから離れたくないと思う4人。しかし大麻の所持疑惑で警察に逮捕されてしまう。到底保釈金など払えないが一晩の後釈放される。保釈金を払ったのは地元でDJや麻薬売買を営むエイリアンと自称するギャングだった・・・
「スプリング・ブレイク」というと一昨年、一部で話題を読んだ「ピラニア3D」が「スプリング・ブレイク」を舞台にした物語だった。日本は4月が新年度扱いだが、アメリカは9月開始。日本の夏休みにあたる休みが春休みという感じなのか。風光明媚な土地で大学生(高校生も?)が享楽的に過ごすイメージか。
事前には「『ピラニア3D』からピラニア要素を抜いた感じ」という評価を見たりはしていたのだが、要するに明確なコメディとまでは行かなくても基本は明るく楽しい感じかと思っていたのだ。「アメリカン・パイ」とかの女性視点の物語という感じ。実際は物語は背徳的で暗く、映像は常に揺れて粒子も荒く画面は歪み、脚本は一見深そうで実は水たまり並みに浅いセリフをひたすら繰り返すだけ、というものだった。同じスプリング・ブレイクを扱った映画でも、たとえ凶悪ピラニアが出てくると分かってても「ピラニア3D」のそれは非常に楽しく行きたい、と思わせるのに対し「スプリング・ブレイカーズ」のそれは絶対行きたくねえ!と思わせるに十分だった。
映画は比較的ドキュメンタリーっぽい構成。会話がいつの間にかナレーションに移行したりする。主人公たち4人は大学でもそれなりに馬鹿らしく享楽的に過ごしているが退屈しておりスプリング・ブレイクを熱望する*1。
監督はラリー・クラーク監督の「KIDS/キッズ」の脚本を書いているハーモニー・コリン。ガス・ヴァン・サント*2とかラリー・クラークとかはもともと僕はちょっと苦手な作家なのだけれど、この監督もその仲間入りしそうだ。
出演は強盗まで働く3人組にヴァネッサ・ハジェンス、アシュレイ・ベンソン、レイチェル・コリン。そしてそこに真面目なフェイス役のセレーナ・ゴメスを加えた4人組。アシュレイ・ベンソンとレイチェル・コリンは僕はこの作品で初めて見たが、ベンソンは主にTVシリーズに出演していたようだ。コリンはそれなりに出ているようだがあまり日本で公開された作品というのは無さそう。ヴァネッサ・ハジェンスはご存知「ハイスクール・ミュージカル」のガブリエラ。その他「エンジェル・ウォーズ」や「センター・オブ・ジ・アース2」などでもその健康的な魅力を振りまいていたが、今回は正直「ディズニーヒロイン出身なのに、こんなの出ていいのかよ」と思ってしまう感じだった。同じようなことは「エンジェル・ウォーズ」の時も思わないでもなかったのだが、今回に比べればあれは全然許容範囲内だなあ。
セレーナ・ゴメスは僕自身はきちんと映画で見るのは初めてだがもちろんアメリカのアイドルとして名前と顔を知っていた。「ザ・マペッツ」に本人役で出ていたのぐらいかなあ。「モンスター・ホテル」ではメイヴィス役だったらしいがあれは、日本語吹替版で観たからな(川島海荷!)。彼女が4人の中では一番年下で(劇中設定としては同い年か)ちょっと幼いルックスに黒髪で比較的真面目な役柄。役名(ニックネーム?)の「フェイス」はそのまま「信仰」と訳されるように信仰深い人でもある。というか、他の3人は金髪でヴァネッサなど地は黒髪なのに金髪に染めているわけで、こういう外見から「この子は他の3人とはちょっと違いますよ」というのを非常に分かりやすく(時に偏見を持って)表現しているわけだ。
フェイスも最初はスプリング・ブレイクの魔力に溺れ、帰りたくない、理想の場所などというが、エイリアンによって保釈された後は現実に戻り、他の3人をおいて先に帰ってしまう。で、ここでセレーナ・ゴメスは本当に退場してしまうのだ。てっきりまた戻るか、帰った後の別行動でその後が描かれるのかと思ったら本当にもう登場しない!
残った3人はエイリアンの元、対立するギャングを襲ったりと徹底的に無軌道になる。身体は水着か小さいTシャツを着た状態で顔には目出し帽。この出で立ちで犯罪を犯す。やがて対立するギャングも報復を開始、コティが被弾し彼女もまた去る。残ったのはキャンディとブリットの二人。コティと違ってエイリアンから主導権すら奪ってしまった彼女たちにはもう戻れる場所はない。コティが去ったにも関わらず、二人とエイリアンは対立ギャングのアジトに報復に出かける。
エイリアンを演じるのは「スパイダーマン」「オズ」のジェームズ・フランコ。いかにもギランギランな格好のギャングスタで「アメリカン・クライム」とか「スモーキング・ハイ」とかの延長線上にある演技か。この男がまた口八丁手八丁で女を利用しようとするが、こいつが一見深いこと行ってそうでものすごい浅いことしか言わない。ベッドに放りっぱなしの消音器付き銃を口に入れられて主導権も奪われてしまう。この逆フェラチオ(もどき)シーンは中々興味深い。ラスト近くのコティの復讐を兼ねた襲撃ではあっさり一発で殺されてしまうのもそのへんの主導権がもはやエイリアンではなくキャンディとブリットに移行していることを示すのだろう。
まるで観客の方もクスリでラリった状態で観るのが最適、と言わんばかりの映像。とにかく即物的で無軌道な若者の生態を描いている(のか?)物語としてはキャンディとブレットは最後まで反省することも痛い目に合うこともない。斬新といえば斬新だがかなりきつい。
とにかく青春を謳歌する映画、みたいなつもりで観に行ったら生命の息吹はおろか死臭しかしなかったので驚いた。決してつまらない作品では無かったけれど観ていて辛かったし、二度と見なくていいし、好きか嫌いかと言われたら即答で嫌い、と言える作品である。
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