The Spirit in the Bottle

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残虐性が埋められた無垢の庭 イノセント・ガーデン

 今年は本当に無関係に観てるとは思えないぐらい、劇場で観る作品が連想ゲームのように何らかの形でつながっているようで面白い。一月前に鑑賞した韓国のキム・ジウン監督のアメリカ進出第一弾作品がシュワルツェネッガー主演の「ラストスタンド」であったが、今回はやはり同じ韓国の映画監督、「オールド・ボーイ」「親切なクムジャさん」「渇き」などのパク・チャヌク監督によりハリウッド進出第一弾。「イノセント・ガーデン」を観賞。

物語

 アメリカの名家の令嬢インディア・ストーカーは18歳の誕生日を迎えていた。敷地の中に隠された誕生日プレゼントは毎年成長に合わせてサイズが異る同じデザインの靴。しかし今年はプレゼントの箱のなかには謎の鍵だけが置かれていた。そして判明する父親の謎の事故死。
 父リチャードの葬儀の最中インディアは彼女を呼ぶ謎の声を感じる。それはリチャードの妻でインディアのは母であるエヴィも詳細を知らなかった叔父チャールズだった。彼は世界中を旅していて長らく行方知れずだったという。しばらく屋敷に泊まることになるチャールズ。
 インディアは理解者だった父を失い、エヴィは夫とも娘ともうまくいっていなかった。エヴィはリチャードの若いころによく似ているチャールズに惹かれていく。インディアはチャールズと距離を置き、屋敷では長年家政婦を務めたマクガーリック婦人が姿を消す。それでもチャールズとインディアも徐々に距離を縮めていくが・・・

 またまた例によって主演ミア・ワシコウスカニコール・キッドマンであること、監督がパク・チャヌクであること、そして原題は「Stoker」であること。この3点のみが事前に得ていた情報。後はポスターを見てどちらかと言えばクラシックな服装のニコール・キッドマンを見てなんとなく彼女の以前の主演作「アザーズ」やそれに影響を与えたたというヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」などを連想した。だから最初にパトカーが出てきて舞台が現代(劇中で1993年がインディアの誕生年だと言及されるので2011年が舞台だと思われる)だと分かった時はちょっと拍子抜けした部分もあるのだが、全体としてはとても古風な舞台がメインであり、その意味ではミア・ワシコウスカの前作「ジェーン・エア」と同様彼女のクラシックな魅力を引き出している。
 脚本はなんとTVシリーズ「プリズン・ブレイク」の主演俳優ウェントワース・ミラーで彼の出演作品は「バイオハザードⅣ アフターライフ」などのバカ大作(失礼!)だが、こんな繊細な脚本を書く人なのだなあ。ちなみに日本人俳優池内博之に似たウェントワース・ミラー。若く見えるがもう40歳で、様々な人種の血を引いている。この作品は匿名で世に出され、2010年時点で映画化されていない魅力的な脚本として有名だったという。
 原題は「Stoker」で、これは主要人物であるインディア、エヴィ、チャールズの姓であり、確かにほとんど彼らだけで展開される。事前にどんなジャンルなのか(ミステリーなのかホラーなのか、それとも関係ない一般ドラマなのか)分かっていなかったこともあって最後まで根源的なオチは読めなかった(物語的なオチは読めたがそれでも例えばストーカー家に遺伝的・超常的な秘密があるのではないかとかそういうもの)事もあって最後まで魅力的に楽しめた。「ストーカー」とカタカナにしてしまえば日本では「stalker」の方で連想してしまう人が多いだろう。そういう要素もないではないが、誤解を招かない意味でも変えたのは正解だったと思う。この「Stoker」という姓は「吸血鬼ドラキュラ」で有名なイギリス(正確にはアイルランド出身)の作家ブラム・ストーカーがおそらく由来であり、またパク・チャヌク監督の前作が変則的な吸血鬼映画である「渇き」だったこともあってチャールズはヴァンパイアなのではないか?という思いも抱きながら観ていたが、多分それほど見当はずれではない。もちろん超常的な存在としてのヴァンパイアものではないがサイコパスとしてのチャールズやそれに恐れつつも惹かれるインディアの存在は「吸血鬼ドラキュラ」のドラキュラとミナ・ハーカーに似ている。

 ミア・ワシコウスカはクラシックな装いが似あいながらも「ジェーン・エア」の自立した女性としての力強さとは別の儚い少女を演じている。結構彼女の顔立ちって岩みたいな感じで出演作品の傾向か、すっぴんぽい状態が多いので地味この上ないのだが派手で身長の高いニコール・キッドマンとの対比もよく、そのティーンの少女の無垢な部分と残虐な部分の共存がよく表せていたと思う。
 ポスターだけ見ると現代劇とは思えないの感じだがストーカー家は日本で言うところの旧家のような名家で世間とは少し浮世離れしている。広大な敷地で貴族のような生活。またインディアは彼女自身が学校などで周囲から浮いており、写生の時間に全然別のものを描いたりして男子生徒のからかいのもとになっている。ゴスという程でもないが社会には馴染めていない人物。
 父親とは狩猟を通じて仲が良く、そのシーンが挿入されるが最後でこれが生きてくる。確実に獲物の行動が読める瞬間、それは対象が他の獲物を襲っている時(「HUNTER × HUNTER」でゴンも言ってましたね*1)!

 ニコール・キッドマンがもうハイティーンの子供を持つ役を演じても違和感ないのか、と思うとちょっと不思議な気持ちだが、それでもまだまだ若くどうやら本来の奔放な性格が名家に嫁いできたことで抑圧された部分などがあるのかなあ、と思わせる役柄と演技。娘ともその父親で夫のリチャードともあまりうまくいっていなかったところへ死んだ夫の若いころに似ている義弟がやってきて心惹かれてしまう。全体としてはこのエヴィの役はインディアの引立てなのだが、モデル級の 美人であるニコール・キッドマンと野暮ったいところのあるミア・ワシコウスカが見事に対比されている。インディアがエヴィの髪を解くシーンは無防備な相手の背後をとる、という意味で恐怖を煽るしそこからの場面転換も最高。

 ハンサムで魅力的だが、その意味深しげな眼差しがどこか怪しいチャールズを演じているのはマシュー・グッド。僕が先日鑑賞した「ポゼッション」のジェフリー・ディーン・モーガンと同じ「ウォッチメン」組。マシュー・グッドはエイドリアン・ヴェイト/オジマンディアスを演じていた。このへんでも観賞がキーワードでつながっていく。僕ははっきりってオジマンディアスとしては惜しいキャスティングだったと思っているが*2、今回はそのギョロギョロした目でカリスマ性とサイコパスな狂気の両方を見事に演じている。ちなみにこのチャーリー役、もともとコリン・ファースが演じる役だったのがグッドに代わったと聞くがこの二人は「シングルマン」で恋人同士を演じている。
 この作品の見所としてインディアとチャールズのピアノ連弾シーンが有るのだが、これが曲の見事さと演出が相まって素晴らしくエロティックに仕上がっており、この作品におけるセックスの隠喩として最高。他にもエロティックなシーンもいくらでもあるのだが、それでも一番印象に残るのはこのピアノ連弾シーンだろう。

Stoker

Stoker

 パク・チャヌク監督はこれが英語作品初監督作ということで、非英語圏の監督が英語作品を撮るときによく見られるセリフの不自然さ、非常に聞き取りやすい丁寧な英語、と言った要素は多少見られる。とはいえ、この作品においてはそれが現代でありながら非常にクラシックな屋敷や人物たちの物語であることで世界観にマッチしており、違和感は殆ど無い。余談だが、そういうセリフの違和感ということでいうと「ラストスタンド」はほとんど普通のアメリカ映画と変わらぬ感じでキム・ジウンは別の意味で凄かったんだなあ、という気はする。もちろん監督その人の英語力というのも重要なのだと思うが、「ラストスタンド」の場合役者同士の演技に関してはもう役者を信じて、その裁量に任せているのではないか、という気がする。一方この「イノセント・ガーデン」ではちょっとした台詞のやり取りにも監督がこだわりを持って演出してそうである。

 
 チャールズは実は世界中を旅などしておらず、小さい頃に弟を殺して精神病院(この精神病院もストーカー家が出資している)にずっと入院していた。兄であるリチャードは彼の退院に際して屋敷には戻らずNYで暮らすように手配するがなぜか姪のインディアに執着するチャールズは兄を殺し何食わぬ顔をで屋敷にやって来る。おそらくリチャードはインディアのことをチャールズに話してはいないが、マクガーリック夫人がチャールズに知らせていたのだろう。病院の中から靴を送っていたのはチャールズであった。
 最後は伏線も一応の回収をして、それまでの事件がすべて解明はする。なぜジン大叔母がチャールズを恐れたのか。しかしそもそものインディアに対する異常なまでの執着やそれに呼応するインディアの性格や行動の謎までは解明されない。その辺、作品内では明かされないもののストーカーという血統に対する科学では解明できない何かがあるのかもしれない。
 昨年の「ドリームハウス」や今年のトム・クルーズ主演作品の「アウトロー」、ノルウェーのポール・シュレットアウネ監督の「隣人 ネクストドア」「チャイルドコール 呼声」の2本など、物語としては一応の解決を見せるも不可解な要素が残る作品があり、この「イノセント・ガーデン」もそんな作品のひとつだと思う。
 きちんとすべての謎が解明され伏線がすべて回収される。作品内で提示されたパズルが一所に収まっていく快感というのもあると思う。しかし僕はどうやら綺麗に収まるよりもちょっと収まりの悪い違和感が残る作品の方が好きみたいだ。結果として超常的な要素はゼロだが、それでも説明のつかないものもある。

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 初英語監督作、それも自分のために書かれたわけでもない脚本で、それでもしっかりパク・チャヌク印を刻んだパク・チャヌクは見事。かなり好きです。おすすめ。

*1:話はおもいっきりずれるが日テレで放送の新版「HUNTER × HUNTER」アニメのキメラアント編がなかなかエグくて凄いことになっている

*2:それはオジーがカリスマ性あふれた完璧超人のような存在だったため、役者(グッド)のまだ未成熟な魅力では押しきれてないと思ったため。オジーだけ例えばブラッド・ピット(原作ではロバート・レッドフォードが外見のモデルでブラピはレッドフォード2世といわれることもある)のようなあの時点での大スターを配したほうが効果的だったのではないかと思っている