The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

LAPD対組織暴力 L.A.ギャングストーリー

 先日のリメイク版「死霊のはらわた」に続き観れてなかった作品の鑑賞。この作品に関しては結構「ダメな作品」という評価が既に定着していて、僕も「もうスルーでいいかなあ」などと思っていたのだが、愛しのエマ・ストーンが出てることや最近は世間の評価と自分の評価がずれることが多いのでやはり気になった作品は見れる時は見ておこう、と思ったのだった。まあ僕は比較的映画を見るときの評価は緩くて世間で60点ぐらいの評価の作品だと大体75点ぐらいで採点することが多いと思う。どんな映画でもそれなりに楽しめる性質だと思うのだ。かと言って僕が数少ない「こりゃダメだ」と思う作品は世間で大絶賛だったりするので映画はわからないものである。「L.A.ギャングストーリー」を観賞。

物語

 1949年ロサンゼルス。街はボクサー出身ユダヤ系のギャングミッキー・コーエンによって支配されていた。警察や検事といった司法もコーエンの手に落ちている。現状を見かねたLAPDのパーカー本部長は1人我が道を貫くジョン・オマラ巡査部長に極秘裏にコーエンの組織を潰すべくバッジを付けず非合法に活動するギャング部隊の結成を命令する。オマラは警察の中から人を集め、「目には目を。歯には歯を」のギャング部隊でコーエンの組織を潰すべく活動を開始する。
 一方コーエンの情婦グレイスと恋に落ちた若きやり手刑事のジョン・ウーターズは顔見知りの靴磨きの少年がギャングの抗争に巻き込まれ死亡したのを受けて自らギャング部隊へ志願する。度重なる襲撃にコーエンも警察の仕業を疑う。ギャングとギャング部隊の血で血を洗う戦いが今始まる!

 一応、実際の出来事が元になっていて、ミッキー・コーエン、パーカー本部長、オマラなど主要人物は実在の人物。ミッキー・コーエンはあのベンジャミン・”バグジー”・シーゲルの用心棒だったらしく、と言うことは系列的にはラッキー・ルチアーノ、マイヤー・ランスキーの傘下ということに。1947年のバグジーの暗殺後うまいこと立ちまわってLAを支配下に置いたようだ。
 舞台は1949年ということで最近観た作品だと「ザ・マスター」の1950年が一番近いか。やはり第二次世界大戦終了後、朝鮮戦争開始前という間の時期で主要人物が戦争帰りだったりする。オマラは軍の特殊部隊にいた事を匂わせる描写もある。後はLAというとハリウッドということもあり「HOLLYWOOD LAND」の看板が出てきたり、女優志望だったヒロインが登場。また冒頭にLAに来たての若い女性をスカウトのふりをしてコーエンの娼館に拉致しようとする描写などがあり、この辺は同じ時代、場所を舞台にした「ブラック・ダリア」を思わせる。
 監督は快作「ゾンビランド」のルーベン・フライシャー。「ゾンビランド」の後に撮った「ピザボーイ 史上最凶のご注文」も本作同様実際の事件がモデル(正式には認めていないが)だが、後半は失速した感じだった。確かに本作もキャストの重厚さに反していわゆるフィルム・ノアールの重厚さはないが、「ピザボーイ」の時に比べたら安定した演出で世間で言われるほどダメでは無かったと僕は思う。
 後はこれは邦題がイマイチでこの「ギャングストーリー」というタイトルだと主軸がギャングの方に置かれておりショーン・ペン演じるミッキー・コーエンの一代記か何かと勘違いする人も多いだろう。この物語はあくまでギャングに対抗する警察の物語であり、原題の「GANGSTER SQUAD」をカタカナにした「ギャングスター・スクアッド」だとか、あるいは「L.A.アンタッチャブル」とでもしたら良かったのではないかなあ、と思う。「アンタッチャブル」といったように僕はこの作品を見てまず「アンタッチャブル」を思いだした。禁酒法時代のシカゴを舞台にアル・カポネと警察の遊撃隊「アンタッチャブル」の戦いを描いたノンフィクション(というか捜査官エリオット・ネスの多分に妄想と自己神格化が入った伝記をドラマ化したものとその映画化作品)だがこの「ギャングストーリー」でも汚職にまみれた警察の中で手練をスカウトしていく様子などが似ている。

 予告編などではコーエン役のショーン・ペンとウーターズ役のライアン・ゴズリングが主役のように感じてしまうが、主役は明確にオマラ役のジョシュ・ブローリン。もちろん群像劇の要素があるのではあるがやはり一枚看板としてトップを張るのは彼であろう。すっかりいい顔の渋い男が板についたブローリンだが、ここでも「MIB3」の延長線上にあるような生真面目な捜査官。冒頭1人で娼館に乗り込み女性を救出するあたりから腕っ節の強さを発揮する。先述したように彼は特殊部隊帰りである。
 彼にギャング部隊の結成を命令するパーカー本部長にニック・ノルティ。ブローリンと並ぶとそのいかつい顔がまるで親子のようだが彼がオマラを「息子」と表現するシーンが有る。とはいえこれはヤクザにおける親分子分の関係と同じで信頼出来る部下を息子と称したのであろう。このように警察もマフィアも手段を選ばない、ともにギャングのように描かれているが、一方でコーエンは従来のマフィアの枠を越えた人物として描かれており、古風なパーカーと対比にもなっている。
 古風といえばまるで西部劇の人物として描かれているのが伝説の拳銃使いで実録犯罪雑誌の表紙を飾ったりもしているケナードでこれをロバート・パトリックが演じている。僕は「この格好良いキャラを演じているの誰だろう。ロバート・パトリックに似ているけどここまで老けていないよな」などと思いながら観ていたのだが、エンドクレジットで案の定ロバート・パトリックだったというオチ。
 その他ナイフ使いの黒人警官にアンソニー・マッキー。ケナードを慕うメキシコ系警官にマイケル・ベーニャ。このへんの仲間集めシーンはやはり「荒野の七人」を思い出すなあ。
 そして部隊の中で唯一の頭脳派キーラーを演じるのがジョヴァンニ・リビシで彼は他の警官ほど武闘派ではないため、次第にエスカレートしてギャングと変わらないやり方に疑問を持っていく部隊の良心でもある。結果彼は犠牲になるがこういうキャラクターは重要だよなあ。

 ライアン・ゴズリングがそのハンサムぶりで女性の心を掴んでいるが、僕はいまいちピンとこない。もうちょっと老ければ味わいが出てくるとは思うんだけど。「ドライヴ」でもそうだったが、彼の演じるヒーローは若くてハンサムでものすごい有能なのに過去が見えない。「ドライヴ」の時も今回も僕は彼を見てマンガ「魁!男塾」の主人公剣桃太郎を思い出した。でも僕は富樫源次ジョシュ・ブローリン)の方が好きなんだよ!
 後は「ドライヴ」の時は寡黙でセリフも少なかったので気にならなかったけどライアン・ゴズリングは結構声が軽くて高いんだね。低く渋い声というのとは正反対で声だけだとこういう映画にはとても向いていない。エマ・ストーンとのベッド事後シーンや靴磨きの少年との会話とか相手のほうが声が低くて物語と関係ない部分でちょっと笑ってしまった。関係ないが洋画の吹替版を作るときスター・ウォーズやディズニーのようなルーカスフィルムやディズニーが直接製作に関わってくる時、重要視されるのは「どれだけ元の俳優に声質が似ているか」。一方日本だけで作る場合はもちろん声質の似てる似てないも重要だけど役柄として合っているかどうかが優先される傾向がある。どちらかと言うと日本人が見て違和感がないのはやはり後者なのだなあ。だからもしこの作品の日本語吹き替え版が制作されても、もうちょっと低くてイイ声の声優さんをあてて欲しいと思う。個人的には置鮎龍太郎氏あたりが合うかなあ、と思ったり。
 ヒロインのグレイスを演じているのはエマ・ストーンで彼女は架空の人物らしい。女優志望でLAにやってきたが今はコーエンの情婦(表向きはコーエンのマナー講師)。しかしゴズリング演じるウーターズと恋に落ちてしまう。僕はまだ観ていないがエマ・ストーンライアン・ゴズリングの二人は「ラブ・アゲイン」でも恋人同士だったらしいですね。予想したより出番が多くて彼女の信奉者としてはとても良かったです。

 裏の主役、ミッキー・コーエンを演じるのはショーン・ペン。最近はそうでもないがもともとこの人はチンピラっぽい役が多くある意味その集大成とでも言える感じだ。個人的に彼は小さい頃の近所の意地悪な奴にちょっと似ていて僕は苦手な俳優だったのだが(更に「カジュアリティーズ」で嫌悪感がマックスに)、だからもしかしたら彼の登場作品を劇場で見るのは初めてかもしれない。彼が演じるミッキー・コーエンは先述の通り実在のギャングでそのルックスはアル・カポネに似ている。カポネから愛嬌さを取り除いたような感じ。ペンは下手に似せると「アンタッチャブル」のロバート・デ・ニーロの真似っぽくなってしまうのであえて似せなかったそうだ。結果実際の太めの容姿と異なり元ボクサーらしい小回りの効く雰囲気になっている。「パブリック・エネミー」でも描かれていたが、もうこの時代になると銀行強盗のような直接的なやばい仕事はマフィアはほとんど手がけておらず、表向きはまっとうな仕事の看板を掲げ(コーエンの表向きは園芸店の経営者だったらしい)裏で売春、ノミ屋、麻薬売買、水商売などを取り仕切る。劇中でもノミ屋の多大な利益をもたらす通信網をめぐってシカゴのギャングとの抗争が描かれる。
 
 ラストは定番通りの銃撃戦。ギャング部隊それぞれに見せ場があり、単に捕まえて終わりでなくコーエンのプライドをへし折るようにオマラとコーエンのストリートボクシングが始まる。ここで徹底的にこれまでの鬱憤をぶつけるように殴りつけるオマラ。

 確かにハードボイルドさ、ノアールの重厚さを求めると物足りないかもしれない。それでも僕はいうほど悪い作品ではなかったと思う。
「バッジを付けない警察組織」ということで例によって「ダーティ・ハリー」を連想するけれど、ラストにバッジを捨てた*1ハリーと同様オマラもバッジを捨てるがそれはかなり認識が違う。ハリーは警察に対する絶望が合ったが、オマラはむしろ警察を正義の手に取り戻したことにより改めて付ける必要がない、という感じだ。

 音楽がすごい良かったです!当時の流行歌だと思われる歌の数々もいいけど、スコアが最高でした。担当は「トランスフォーマー」シリーズなどのマイケル・ベイ監督作品で多くを担当するスティーブ・ジャブロンスキー。てっきりハンス・ジマーだと思ってた。
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 比較で出した2作だけど両方共ブライアン・デ・パルマ監督作だ。確かにルーベン・フライシャーはフィルム・ノアールを撮るにはまだ若いかもしれないけれど、今後の研鑽でより優れた物が撮れるかもしれない。
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タイトルネタはこちらから。LAPDって言っちゃうとちょっと違うんだけどね。

*1:2で普通に警察に戻ってたのはバッジにゴムが付いてたかららしいよ