The Spirit in the Bottle

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国境のラストライド ラストスタンド

 ジャッキー・チェンの「ライジング・ドラゴン」はジャッキーがアクションからの引退を宣言した映画だったわけだが、一方でアクション映画に主演復帰したのがアーノルド・シュワルツェネッガー。もともと政治意識の高かった人であるがカリフォルニア州知事に就任してからは俳優業は引退状態。知事を辞めてからも盟友シルベスター・スタローンの「エクスペンダブルズ」シリーズなどにゲスト出演するぐらい(ターミネーター4の顔だけ出演なんてのもありました)。本格的な主役復帰は10年ぶり「ターミネーター3」以来となる。「ラストスタンド」を観賞。

物語

 メキシコ国境沿いの町サマートン、特に大きな事件も起こることのない平和な街だ。そこで保安官を務めるレイ・オーウェンズはかつてはL.A.で麻薬捜査官をしていたが今では平和な街の治安を守り静かに暮らす。
 一方ラスベガス。麻薬王コルテスをFBIが移送中、仲間の襲撃によって逃走。女性捜査官を人質に特別仕様車コルベットを駆りメキシコ国境を目指す。FBIも対策を練るが尽く後手に回ってしまう。
 サマートンでは農夫が殺され、それを追った保安官たちは謎の集団と銃撃戦になり副保安官が撃たれて死亡してしまう。FBIからの連絡でコルテスのことを知ったオーウェンズはコルテスがメキシコへの逃げ道がなくFBIも見逃しているこの街に即席の橋をかけそこからメキシコへ逃亡するつもりであることを見抜く。応援もなく、オーウェンズたちは即席の保安官チームと古い銃を武器に麻薬組織に立ち向かう!

 アーノルド・シュワルツェネッガーといえば確かにスタローンやジャッキーなどと並んで80年代から90年代にかけてのアクション映画のアイコンで子供たちのヒーローであった。とはいえ、だからといって僕自身はシュワルツェネッガーの大ファンというわけでもなく、「アクション映画主演復帰!」というだけでは正直惹かれる要素は薄かった。だから最終的に観に行ったのはそれ以外の要素が次々と出てきたことによる。
 まずは、監督が「グッド・バッド・ウィアード」「悪魔を見た」のキム・ジウン監督であるということ。キム・ジウン監督のハリウッド進出第一弾がこの作品というわけだ。一時は香港映画の監督がこぞってハリウッド進出をアクション映画を制作していた。10年ほど前にはホラー映画を通して日本の映画監督のハリウッド進出が目立ったが、今は韓国映画の監督がその時期か。キム・ジウンの他にも「オールド・ボーイ」「渇き」などのパク・チャヌクも「イノセント・ガーデン」(日本では5月31日公開予定)でハリウッド映画を撮っている。
 次の観たい要素が、ジェイミー・アレキサンダーが出演していること。「マイティ・ソー」でも見せてくれた横顔美人。彼女が出ていてそれもどうやら保安官チームとして、ソーの戦の女神シフ同様女傑ぶりを発揮するらしい。
 そして、美女がもう一人、「崖っぷちの男」で場に似合わぬ美しさを発揮したジェネシス・ロドリゲスも出ているらしい。はっきり言って美しさの個性としてはあんまり記憶になくてでも、とりあえず美しい、ということとそのジェネシス・ロドリゲスという個性的な名前だけは覚えていたのでこれはぜひ観ておきたい。関係ないけどミシェル・ロドリゲス姐さんが女優引退を宣言しましたね。似た役柄ばかりオファーが来る、というのも理由だそうだけど、他の誰でも替えの聞かない女優さんなので残念です。まあいつの日かの復帰を祈って。
 ここまでで、

  1. シュワの主演復帰
  2. キム・ジウン監督ハリウッド進出第1作
  3. ジェイミー・アレキサンダー出演
  4. ジェネシス・ロドリゲス出演

と4つ要素が揃ったのであともう一推し欲しい。あんまり個人的にはスポーツカーやロドリゴ・サントロのような美男子もピンとこない。ジョニー・ノックスビルも「jackass」特に好きなわけではないからなあ。と思った所で超個性的で見覚えある顔が。それがルイス・ガスマン!あの超個性的な顔を見たくてこれは劇場で観なくてはなるまい、といそいそと劇場に出かけたのだった(と冗談めかして書いていますが実際の所、やはり評判が良かったから、というのが大きいです)。

 物語は直球で、少数が田舎の町に立てこもって強力な悪党相手に立ち向かうというもの。「ラストスタンド」というタイトルは「最後の抵抗」とか「最後まで立っているもの」とかそんな意味で意思の強さを感じさせる。物語は平和な街の日常から始まり、そこに似合わぬ強面の保安官の少し神経質なのではと思うくらいの平和への信念を感じさせる。
 シュワルツェネッガーは「エクスペンダブルズ」でも思ったが、やはり身体は小さくなっているように思う。というか肩幅と腹の部分が同じ太さで全体としてはもちろんマッチョなのだろうが全盛期の影は見る影もない。スタローンと比べると一目瞭然だろう。しかし、この役柄はムキムキでも似合わないわけで程よく筋肉を落としたシュワルツェネッガーによく似合っている。
 後はなんでか留置所に入った状態で登場のロドリゴ・サントロは僕は「300」のクセルクセスと「フィリップ、君を愛してる」のジム・キャリーの恋人という両極端な役で知っているが、まあクセルクセスは判断材料には出来ないので置いておくとして、今回はまっとうなちょいワルハンサムとして登場。ジェイミー・アレキサンダーの恋人役でもあります。
 ジェイミーは副保安官。遣り手のしっかり者で小柄ながらアクションでも頑張ってる。建物の上から狙撃したりもするが、あれですね。小柄な女性とロングバレルのスナイパーライフルの組み合わせとかっていいですよね。
 そして和ませ係がルイス・ガスマンとジョニー・ノックスビルのふたり。ルイス・ガスマンも副保安官だがあんまり銃とかは得意では無さそう。一方、ノックスビルは私設の銃砲博物館を経営しているガンマニアで特に愛すべき銃たちには名前までつけている。保安官チームは彼の博物館のアンティークな銃を使って立ち向かうのだ。ノックスビルは相変わらずノックスビルな役。
 保安官チームのひよっこジェリーをザック・ギルフォードが演じていて、彼は「田舎は暇なんでロス市警を紹介してください」とかいう冒頭から死亡フラグを立て、案の定犠牲になる。とにかく頼りないがいいやつで、彼の死が皆を発奮させることとなるのだ。
 先述したメンバーの他に、麻薬王コルテス(パブロ・エスコバル以来の大物、とされる)にエドゥワルド・ノリエガ。ハンサムだがギョロッとした目、太い眉毛なんかはイーライ・ロスやザッカリー・クイントを思わせないこともない。彼は手下を使って見事な逃走を繰り広げるが、普通に考えて一旦出しぬいた時点でもっと確実なメキシコへの出国手段があるんじゃないかという気がする。しかし彼は最新鋭スポーツカーで数々のFBIの妨害を突破して一直線に国境を目指す。確かな運転技術も持っていてどちらかと言うと自身で何事もやりぬきたいタイプなのだろう。中盤のこのFBIとのやり取りはちょっと彼を応援してしまいたくなる部分もある。また劇中で親から続く3代目のボスとされるが、そこかしこにその辺のおぼっちゃん気質が見受けられるのも確かで、できるやつだが甘いやつでもある。
 コルテスの手下で橋建造チームの責任者となるのがピーター・ストゥーメア演じるブレル。このブレルが実質銃撃戦を指揮するので映画劇中において最も長く敵対する相手となる。ピーター・ストゥーメアはこれまで何作か見ているがある意味マーク・ストロング以上に「黒いスタンリー・トゥッチ」とでもいうべき容貌になっていて、「こんなに似てたっけ」と思うぐらい。
 後は平和な街の最初の犠牲者としてハリー・ディーン・スタントンが出てきているのだが、これがほぼスタントンのまんまというか「エイリアン」以来の彼そのまま。「アベンジャーズ」でも遠く空の上から落ちてきたハルク、ブルース・バナー博士を見つける役を演じているが、本当にレッドネックがよく似合う。
 
 FBIはフォレスト・ウィテカー、ダニエル・ヘニーそしてジェネシス・ロドリゲスが主要3人。フォレスト・ウィテカーはFBIの捜査官というにはちょっと気が短すぎるような気もしないではないがいつもの温和な容貌以外にも鋭い部分も見せてくれる。ダニエル・ヘニーは「ウルヴァリン: X-MEN ZERO」でエージェント・ゼロ、マーベリックを演じていた。あの時もそうだが、アジア系にしては異様に捜査官役というか背広にショルダーホルスターといい格好が似合う人だと思う。この人はアジア系のアメリカ人でアメリカのみならず韓国のドラマなどでも活躍しているそうですね。
 そして、ジェネシス・ロドリゲス。相変わらずすごい美人ではあるがすぐ忘れそうな容姿。彼女はコルテスに人質にされるFBI捜査官だが、実は最初からコルテスと通じていた裏切り者でもある。もっぱらクルマの助手席にいるだけで、しかもクライマックスではコルテスに裏切られてクルマから落とされてしまうのでほとんど目立つアクションはないのが惜しい。個人的にはジェイミー・アレキサンダーと激しい取っ組み合いをして欲しかったです。

 キム・ジウン監督のハリウッド映画第一作ということで、(アメリカから見て)海外の監督のハリウッド進出映画に見られる要素もやはり見受けられる。例えば類型的な人物造形。登場する人物たちは皆複雑なキャラと言うよりはひとつの役割に徹しカキワリのようなキャラクターたちだ。同じキム・ジウン作品でも「悪魔を見た」のチェ・ミンシクや「グッド・バッド・ウィアード」のソン・ガンホのような複雑な性格を持っていない。それでも物語が骨太で比較的単純であることと、個性豊かなキャストを揃えることでその欠点を補っている。男性キャストが美男子から醜男、ベテランから新人まで幅広く揃えているのに対して、女優陣は比較的単純に「美人」という一点で揃えているのも海外初進出作っぽい(食堂のウェイトレスも美人)。
 一方で、最近の大作系ではあまり見られなかった(そしてこのストーリーだったら別にやらなくても良かったのではと思うような)人体破壊描写はキム・ジウンならではという感じか。なんとなく「ロボコップ」でハリウッドデビューしたポール・バーホーベンを思い出す。それも単にアクションの果ての描写ではなく、爆弾背中のカバンに入れていた悪党の背中に照明弾を撃ってそれが引火して木っ端微塵!とか足元もおぼつかないようなおばあちゃんが無断侵入した悪党を撃ち殺すとか、悪いジョークのような描写も多い。この映画R-15指定らしく、おそらくそのせいでアメリカではヒットはしなかったようだけど、僕個人は面白かったし作家性も感じられたんだけど、もうちょっとゆるめでも良かったんじゃないかという気がしないでもない。
 また、もうひとつの見せ場であるカーチェイスにしても従来のストレートなものではなくちょっとひねったものになっており、特にラスト近くのコルテスとオーウェンズのトウモロコシ畑でのチェイスは互いに相手がどこ走ってるか分からない。(トウモロコシが高く伸びすぎて判断できない)でも上から見ればすぐ近くにいる、という緊迫と外しのテンポの妙とでもいうべき演出が光った。
 ラストはもう堂々の一騎打ち。どちらかというと総合格闘技っぽいコルテスに対してプロレス技で挑むオーウェンズ。綺麗なバックドロップを橋の上で決め、マウントを取って殴っていると伸ばした腕に相手が腕ひしぎ。しかしそれを持ち上げてそのままラストライド(高々度からのパワーボムWWEのスーパースター、ジ・アンダーテイカーの必殺技。テイカー様「レッスルマニア」21連勝おめでとうございます!!)という攻防。やはりプロレスは最強!コルテスは一旦やられるもそこからナイフで足を刺すという暴挙に出るが、ここはいっそ、シャープシューター(サソリ固め。アメリカではブレット・ハートの必殺技のためこの名称で使われている*1)や四の字固め、テキサス・クローバーフォールドなんかでとどめを刺して欲しかった気がする。とにかくラストの橋の上の格闘も見どころ。

 国境沿いの街が舞台ということもあって、この映画は外国のキャストが多い。コルテス役のエドゥワルド・ノリエガはスペイン、ルイス・ガスマンプエルトリコロドリゴ・サントロはブラジル。ジェネシス・ロドリゲスキューバベネズエラの両親を持ち、キャリアはテレノベラ(スペイン語のドラマ)から始まっている。もちろん南米、ヒスパニック系の役者が多いのは物語上当然であるが、それ以外にも(舞台上の必然性は薄いが)ピーター・ストゥーメアはスウェーデン、ダニエル・ヘニーは韓国系(その他タイやイギリスの血も)。何よりシュワルツェネッガーその人がオーストリア出身だ。そしてこのシュワルツェネッガーオーストリア出身というのもどうやら物語に反映されているようなのだな。シュワ演じるオーウェンズはコルテスに「俺たち移民の恥晒しめ」というようなセリフを放つ。これは二通りにとれて劇中のオーウェンズひいてはそれを演じるシュワルツェネッガー自身が移民であること。そしてもう一つアメリカという国家自体が移民によって成り立っている社会である、というふたつを示す。移民による様々な問題は確かにあるがそれでもアメリカは移民によって構成されているのだ。もちろん監督は韓国出身のキム・ジウン

 この映画、公開は字幕版だけだが、アーノルド・シュワルツェネッガーといえばこの人、玄田哲章氏による吹替は既に作られていて、試写では大好評だったそうである。ぜひソフトになってからも見返してみたい。

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監督の前々作(旧ブログの記事です)。

 シュワルツェネッガー自身は結構早い段階からアクション一辺倒だけでなくコメディなどで役者として幅を広げてきた。これからは必ずしも体を張った役ばかりではなく幅広い役柄を演じられると思うのだ。その意味ではこの作品はアクションではあるもののアクションにとどまらない部分を見せれてとても良かったと思う。ファンもそうでない人もぜひ観てほしい一作。

*1:ちなみにロック様もシャープシューターを使うがロック様はスコーピオン・キングであらせられるため、ロック様のシャープシューターは日本語風にスコーピオン・デスロックの方が格好いいと思いますです