The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

続・夕陽のガンマン を吹き替えで見よう!


 劇場で観た映画の感想以外では、時折書いているのがTV東京「午後のロードショー」で見た作品。時々大好きな映画が放送されるとツイッターでまるで回し者のように宣伝してしまったりするのだが、4月木曜日は西部劇特集。「大いなる西部」のようなクラシックな名作とサム・ライミのマカロニ風味な「クイック&デッド」。そして名匠セルジオ・レオーネによる「夕陽のガンマン」と「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」という充実のラインナップ。
 僕は「続・夕陽のガンマン」が特に大好きなこともあって今日は以前の「大脱走」の記事にならってちょっと書いてみたい。

荒野の用心棒

 ご存知日本映画の巨匠黒澤明の「用心棒」を西部劇に置き換えたマカロニ・ウエスタンの基本となる作品。東宝には無断で制作したため裁判沙汰になったが黒澤明自身はよく出来たリメイクと評価していたそう。主演のクリント・イーストウッドはTVドラマノ西部劇「ローハイド」で人気を博しており、当時契約でアメリカ映画には出られなかったのでイタリア製西部劇に出ることにしたのだとか。上映時間は96分(後の完全版でも100分)で「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」に比べると短め。英題は「A Fistful of Dollars(一握りのドルのために)」。日本ではセルジオ・コルブッチの「続・荒野の用心棒(Django)」とシリーズのように扱われたが全く関係はなし。

夕陽のガンマン

 むしろアメリカでは「荒野の用心棒」とシリーズのように扱われたのが「夕陽のガンマン」英題「For a Few Dollars More(もう一握りのドルのために)」でクリント・イーストウッド演じる「名無し」が賞金稼ぎとして活躍する作品。

 主要人物が3人、リー・ヴァン・クリーフも出ている、という点で「続・夕陽のガンマン」との共通点は多い。しかし改めて見てみるとイーストウッドよりリー・ヴァン・クリーフ演じるモーティマー大佐の方が主役という印象が残る。特に僕の場合先に「続・夕陽のガンマン」における悪役としてのリー・ヴァン・クリーフが印象強いのでなおさら。
 アメリカでは「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」の3つをドル三部作あるいは「名無し三部作」としてシリーズ扱いするのが通例のよう。実際に物語的なつながりはないが、「続・夕陽のガンマン」終盤でイーストウッドがお馴染みのポンチョを入手するためあえて、イーストウッド演じる名無しが同一人物だとすると「続・夕陽のガンマン」「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」の順になるのだろうか。とはいえこの作品のイーストウッドはまだまだ浅慮で血気盛んな若者という印象もあるのでやっぱり別人だよなあ、と思うけれど。
 

続・夕陽のガンマン/地獄の決斗


 で、今回一番楽しみにしていたのがこの「続・夕陽のガンマン」。僕は大好きな一本で何度も述べているがこれと「荒野の七人」そして(西部劇ではないけれど)「大脱走」をとにかく繰り返し観ていた時期がある。ただ僕が最初に「続・夕陽のガンマン」を観たのは2004年に発売されたDVD「アルティメット・エディション」で存在は知っていたものの意外に最近。しかしすぐにその面白さに打ちのめされてしまった。
 物語は南北戦争の最中にイーストウッド演じる”善玉”ブロンディ*1、その賞金詐欺仲間である”卑劣漢”トゥーコ*2、そして殺し屋の”悪玉”エンジェル*3の3人が南軍の士官が隠した金貨を求めて時には騙し合い、時には手を組みやがて金貨の隠された墓地へと辿りつく・・・というもの。
 僕の見たアルティメット・エディションは1973年にテレビ朝日日曜洋画劇場で放送された吹替が収録されている。今回午後のロードショーで放送されたのもこのバージョンで当然ながらカットがされており、その部分は吹き替えは無し。DVDでは一部字幕で処理されていた。で、完全版では174分もの長尺な映画であるが(日本で劇場公開されたものはもう少し短いらしい)、二時間の放送時間からCMなどを抜くとおそらく110分ほどだろう。およそ一時間近くもカットされているわけだが、そのカットの仕方が興味深い。
 というのはこの作品全て観ると英題タイトルロール「The Good, the Bad and the Ugly(善玉、悪玉、卑劣漢)」の3人の内、実質的な主人公はイーライ・ウォラック演じる”卑劣漢”トゥーコであることが分かる。実際イーストウッドは最初、自分が主役ではないことを知って出演をためらったとも聞くし、主役が誰かはともかく、見た後に強い印象を残すのはウォラックである。ウォラックはこの前に「荒野の七人」でオリジナルの「七人の侍」では印象の薄い山賊のボス、カルベラを演じて強烈な印象を残しているが更にそれを発展させたような役作り。ちなみにウォラックは1915年生まれの今年97歳だが今も役者としては現役で一昨年はユアン・マクレガー主演の「ゴーストライター」で短いながら強い印象を残した。てかあの時は予期せぬウォラックの出演に劇場で歓喜したのだが90代には見えぬ元気の良さだったなあ。
 話を戻すと、TV放送版ではトゥーコの出番で物語に直接影響しない部分をカットして3人の比率を比較的イーストウッドよりにしている、と思う。やはりウォラック主演と言うよりはイーストウッド主演、という方が受けはいいのだろう。そのカットシーンの殆どはトゥーコのシーンである。「アルティメット・エディション」を吹き替えで見た時から一部字幕シーンがカットされたところなのだなあ、と言うのは分かっていたが、やはりそのカットされた状態で見るのはまた別。主なカットシーンは

  • エンジェルが自分の雇い主を殺すシーン(「オレ悪いやつ」の部分だけ使われている)
  • 賞金稼ぎがトゥーコを狙うがブロンディによって殺されるシーン(詐欺の前準備段階)
  • エンジェルがビル・カーソン(金貨の隠し主)の情婦を脅すシーン
  • ブロンディに捨てられたトゥーコが銃砲店を襲い、いろんな銃からひとつの銃を組み立てるシーン
  • トゥーコがブロンディへの復讐のために仲間を集めるシーン

など。これらは前半に集中しているためTV放送版を見ると進行が早く感じる。中盤ではトゥーコが神父である兄のところへ瀕死のブロンディを連れて駆け込むところもカットされているが、要するにほとんどがトゥーコのシーンである。完全版は未公開シーンを一つの作品としてまとめあげた部分もあるので劇場公開時どのようだったかはちょっとわからないのだが、それでも編集によってトゥーコの出番を減らしブロンディを目立たせる、という意図は合ったのではないかと思う。
 ただ、今回放送版を見てみて意外と物語の進行に問題はないというか(当然ではあるのだが)、大幅に出番をカットされたとはいえ、やはり見た後に印象に残るのはウォラック演じるトゥーコであるのだなあ。どちらかと言うとキャラクターの肉付けの部分がカットされたという感じか。
 後はやはりセリフ回しも魅力的で特に吹替版はイーストウッド山田康雄リー・ヴァン・クリーフ納谷悟朗がどちらかと言うとそれほどしゃべるタイプのキャラクターではないのに対してウォラックの大塚周夫はとにかくしゃべり倒す役でもあるのでその人間臭さが魅力となっている。特に要所々々での罵倒やラストの「ごめんなさ〜い」は必見。

 僕が所持している2004年の「アルティメット・エディション」の他にも色々とソフトは発売されているようで、レンタル店などで扱っているのは字幕だけで未公開シーンを別個収録の162分のバージョン(レンタル用は特典はないかも)。

 そして僕が所持している2枚組の「アルティメット・エディション」。こちらは先程も言ったとおり未公開シーンを本編と繋いだ完全版。未公開シーンはイタリア語版しかなかったため、イーストウッドとウォラックは新たに英語版を吹き替えたらしい。日本語吹替版は一部字幕。 そして「セルジオ・レオーネ生誕80周年記念 夕陽コレクターズBOX -日本語吹替完声版- 」と題して「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」「夕陽のギャングたち」をセットにした物。基本内容は上記「アルティメット・エディション」と一緒だが日本語吹き替えは未収録シーンを新たに録音した「日本語吹替完声版」が売り。僕はこのバージョンは未見だが見た人の話によるとやはり山田康雄氏亡き後の録音のためイーストウッドの声を多田野曜平氏が演じていて、微妙に異なるため切り替わる所では違和感があるそうだ。また納谷悟朗氏も年月の変化による声の変化の影響を感じるとか。同じ手法で完全版吹替にした「荒野の七人」は違和感がなかったのだが、やはり多少は違和感が残るのだろう。それだったら、TV放送版はそれで残しつつ、全編新規吹替版を作ったほうが良かったのかも知れない。 ブルーレイは完声版ではなく僕の持っている「アルティメット・エディション」のブルーレイ版。
 とにかく面白い映画なのでぜひ見てほしい一本。
The Good, the Bad and the Ugly

The Good, the Bad and the Ugly

名匠エンニオ・モリコーネによる珠玉のサントラ。クライマックスでかかる「黄金のエクスタシー」はメタリカがライブの最初に演奏する序曲としても有名。

*1:人物紹介ではジョーとなっているがトゥーコには一貫してブロンディ(金髪野郎)のアダ名で呼ばれる

*2:吹き替えではトーコ

*3:人物紹介ではセンテンサ、吹き替えではハゲタカ