The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

貴方の親愛なる隣人は変態! HK 変態仮面

 早いものでもう「アベンジャーズ」の全米公開からはや一年。物語は次のフェイズへと進み、「アイアンマン3」が公開される。アメリカの公開に比べると何ヶ月も待たされる事が多かった、このシリーズ、遂に日本先行公開という地位まで登りつめた。僕も楽しみにしているが、その前にやらなきゃいけないことがあったのだ。とある日本のヒーロー物が公開された。僕としてはこのちょっと気になる作品をなるべく「アイアンマン3」の前に鑑賞しておきたかった。それで急いで見に行ってきたのだった。「HK 変態仮面」を観賞。ちなみにこの映画タイトルを言うのが恥ずかしい人は「HK」で通じるよ、ということだったが、僕は自動券売機でチケットを購入。しかしマシントラブルで係員の人を呼び出してしまい、結局互いに「変態仮面」連呼してしまったのだった!

物語

 ドSの女王様とドMの刑事の間に生まれた色丞狂介は恵まれた身体と殉職した父譲りの正義観の持ち主だが、実際の戦いはからっきし。高校の拳法部で日々頑張っているが上達は難しい。ある時金融会社の立てこもり事件に遭遇。転校生姫野愛子が人質に取られ、狂介は彼女を救うべく建物に乗り込む。正体を隠そうと覆面をかぶろうとするが、それは女性用のパンティだった!パンティをかぶることで色丞狂介は母譲りの変態の血が目覚め通常30%しか発揮されない肉体の潜在能力を100%発揮することが出来る正義のヒーロー「変態仮面」となるのだ!
 変態仮面は一躍有名に。しかし、そこに学校の乗っ取りを企む大金玉男が来襲。変態仮面はこれを撃退するものの復讐に燃える大金は次々と刺客を差し向けるのだった。そして遂に偽変態仮面が登場!変態仮面は正義を貫くことが出来るのか?!

 物語紹介を書いていてちょっとクラクラしてきたが、元になったのは1992年から1993年にかけて約一年間週刊少年ジャンプに連載されていたあんど慶周のマンガ「究極!!変態仮面」。当時はいわゆる雑誌発行部数が600万部に到達して「世界一売れている雑誌」だったジャンプの黄金時代*1で同時期の連載作品に「幽遊白書」や「スラムダンク」等がある。僕は当時は読んではいたがその強烈な印象だけ残して細かくは覚えていなかった。それでもそのビジュアルは鮮明に記憶されていた。まさか連載終了20年近く経って実写映画化されるなんて誰も予想しなかっただろう。どうやら俳優の小栗旬がこの作品のファンで製作を持ちかけて実現したらしい(ただし彼のクレジットは脚本協力だけ)。
 変態とは言ってもそれもあくまで少年誌に載ったレベルの話でいわゆる子供が喜びそうなレベル。「サウスパーク」に出てくるカナダ人コメディアン、テレンス&フィリップのおならギャグみたいなものだ。
 アイアンマン絡みというわけでもないが、変態仮面が登場して後、とあるマーベルコミックスのキャラクターが変態仮面呼ばわりされることがあった。それはデッドプール。目の周りを黒い円で囲んだマスクのデザインが変態仮面に見えるというわけだ。更に言うとこのデッドプールスパイダーマン似ということでも有名である。故にスパイダーマン変態仮面は似ている。というわけでこの作品はもっぱら「スパイダーマンサム・ライミ版)」の(結構しっかりした)パロディ作品でもある。


 冒頭、オープニングクレジットのデザインもスパイダーウェブの登場する「スパイダーマン」の代わりにこちらはパンティのひらひらのレース。ウェブスリングの代わりにSMの鞭で街を飛び回る。ビルの屋上で佇む変態仮面。極めつけが偽変態仮面との対決シーンだろう。ここでのいい意味での外しっぷりは一番笑えるところかもしれない。
 しかし、スーパーヒーロー物としてみた場合、意外と真っ向から向かい合っていて、「ヒーローはなぜマスクをかぶるのか」とか「ヒーローの二面性」、そして「ヒーローとは実は変態なのではないか」という新しいようで実は昔ながらのテーマをポルノに落としこむのではなく描いた純度の高いヒーロー映画であると思う。個人的な感覚では日本製ヒーロー映画では「ゼブラーマン」よりも出来がいいと思う(ゼブラーマンも前半は良かったんだけど)。
 スパイダーマンのパロディが多いけれどヒーロー映画としてはジム・キャリーの「マスク」が近いと思う。冴えない男がとあるマスクをかぶることで自分を開放し、ヒーローとして活躍する。変態仮面の場合はそれがパンティであるのだけれど。また、主人公(ヒーロー)とそれに惚れるヒロイン、しかしその正体である主人公(素)には興味なし、という三角関係も「スーパーマン」から続く伝統だ。この「変態仮面」キワモノのようでいてまっとうなヒーロー物の王道を歩んでいる。
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 監督は予算が少ないことを逆手に取ったファンタジーコメディドラマ「勇者ヨシヒコと魔王の城」「同〜悪霊の鍵」を制作した福田雄一(脚本も)。同時期には「コドモ警察」も公開中だ。最初は彼の監督ということで悪い意味で貧乏臭い映像に仕上がっているのではないか、とも思ったが、特にそういうことは無く(もともと衣装などでは安上がりなものである)、しっかりしていた(ラスト除く)。そしてそのビジュアルに貢献していたのが主演の鈴木亮平である。
 鈴木亮平は30歳で、高校生を演じるにしては少々歳を重ねているが特に違和感はない。何度か書いているが中学ならともかく、高校を舞台にした物語だと特に男子はちょっと老けているぐらいでちょうどいいんだよね。彼の鍛えられた美しい肉体が変態仮面に説得力を与えている。
 そしてヒロインが「仮面ライダーフォーゼ」の城島ユウキ役だった清水富美加。彼女がここでも快活で健気なヒロインを演じている。正直彼女は色気という部分では殆ど無い。それでも伸びやかな肢体や屈託のない無邪気な笑顔が爽やかで素晴らしい。この健康的なヒロインを迎えて「変態」を売りにしながら妙にいやらしさを感じない、ある種爽やかな映画となっている。シモネタであっても下品ではない、難しいがそういうことだと思う。
 敵役には黒幕大金玉男にムロツヨシ、そして変態仮面の宿敵となる偽変態仮面安田顕ムロツヨシは一応彼自身そこそこ強いという描写はあるが基本的にはツッコミの人。彼の扱いをもうちょっとよく出来ればよかったのにな、と思う。そして安田顕は偽変態仮面と書いたがある意味「真性変態仮面」である。この映画は基本的には少年誌連載だったこともあってそれほどディープに突っ込んだ下ネタではないのだが彼だけが深く変態について語り始める。曰く「おまえ(変態仮面)はパンティの内側を顔に接しているが、オレは外側を顔につけている。分かるか、オレはパンティに拒絶されることでその屈辱をパワーに変えているのだ」などと言うようなことを言っている。先にも書いた屋上での対決シーンは「スパイダーマン」においてスパイディとグリーン・ゴブリンの対決のパロディだが、敗れた変態仮面の正体を確認した後、立ち去るのかと思えば少し離れた所で亀甲縛りした自分の体を横たえる。つまり彼は放置プレイを楽しんでいるのだ。
 この安田顕出演の一連のシーンだけ温度が違うというか、ちょっと見てはいけないものを見てしまったなあ、感が強い。彼の貧相な肉体がまた鈴木亮平のたくましい肉体と対比されてしかし変態度では圧倒的に優っていて彼を凌駕する。子供にはおすすめできないが一番の見所だとは思う。
 その他佐藤二朗木南晴夏など「勇者ヨシヒコと魔王の城」でお馴染みの役者も登場。
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 全体としては予想していたよりずっとよくできていて満足だったのだが、ラストにしょぼいCGの巨大ロボットが出てきたのは正直興ざめ。偽変態仮面という強力な宿敵の後だからだったからかもしれないが唐突に過ぎたし、これまでの作品カラーといきなり変わったので最後はちょっと残念だった。
 後は「テルマエ・ロマエ」の映画化あたりでも顕著だったが、いわゆる主人公の独白の多さ。マンガ(アメコミも含め)は全てを絵で見せているわけでなく当たり前だが吹き出しの中のセリフも重要だ。そして主人公の内面描写もセリフで進行する場合が多い。これを映像化するとき、そのままセリフ化してしまうと「すべてを説明ゼリフで片付けてしまう」という批評も出てくるのだろう。ただこの映画に関しては主人公の二面性、葛藤を中心にしているので原作同様心理説明の独白が多いのは仕方ないかな、と思う。
 
 さて、実はこの手の下ネタヒーローは何も「変態仮面」が最初ではない。「顔を隠してからだ隠さず」の永井豪けっこう仮面」あたりが最初だろうか。これもジャンプ連載作品である意味「変態仮面」は男版「けっこう仮面」とでも言えるような作品だよな。同作の姉妹作「まぼろしパンティ」や幼児向け下ネタヒーロー「へんちんポコイダー」や「へんき〜んタマイダー」などもある。しかし個人的に一押ししたいのは「あばしり一家」。この中であばしり一家長男の五エ門*2が自分以外の痴漢の手から女性を守る「怪傑痴仮ン面」に変身したり、痴漢である痴仮ン面を許せないと五エ門の同級生赤黄みどりが「痴仮ン面を勘弁しない、怪傑痴カンベン」に変身したりする。シモネタヒーローの系譜はかくも奥が深い(深くない。ほとんど永井豪ばっかりだしな)。
あばしり一家 第1巻 (少年チャンピオン・コミックス)

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あばしり一家 THE MOVIE [DVD]

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「あばしり一家」はアイドリング!!!6号外岡えりか主演で映画化されています。五エ門はイジリー岡田!痴仮ン面は登場しないよ!

 さあ、これで「アイアンマン3」向けての準備は整いました!26日は後顧の憂いなく「アイアンマン3」を観たいと思います!

*1:とはいえ、僕個人的にはジャンプの黄金時代といえばその少し前の80年代半ばから後半にかけての印象

*2:漫画家の石川賢がモデル