The Spirit in the Bottle

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ユアンと! ジャックと天空の巨人

 巨人。数あるファンタジーの怪物の中でもかなり僕の好きなモンスターである。それもどちらかと言うとサイクロップスとかの一つ目巨人とか手足のたくさんあるヘカトンケイルとかより、ただ単に人間が巨大化した北欧神話タイプの方が好み。マンガ「進撃の巨人」も面白かったし単にとてつもなくでかいというだけでワクワクしてしまう。そんな僕であるからこの映画も楽しみであった。ブライアン・シンガーの新作「ジャックと天空の巨人」を鑑賞。ちなみに巨人は巨人でもプロ野球読売巨人軍は大嫌いです。元々野球自体それほど好きではないけれど巨人は特に嫌い。

物語

 フィー、ファイ、フォー、ファム。父親の聞かせてくれる伝説の巨人と魔法の豆の木の話を聞いて育った少年ジャック。現在は父親を亡くし叔父のもとで叔父に使われる身の上。叔父の命で馬を売りに城下町へ。そこでお忍びで芝居小屋に来ていたイザベル王女と出会う。一方城中では王女と結婚し国の実権を奪おうと画策していたロデリック卿が、魔法の豆を奪った修道士を追っていた。追い詰められた修道士はジャックの馬と豆を交換。
 その夜、ジャックは叔父に怒られ、1人過ごすが降りしきる雨の中城を抜け出してきたイザベラが偶然ジャックの小屋へ訪れる。互いに冒険へのあこがれを語るうちに惹かれ合う二人。その時ジャックが家の床下に落としてしまった豆が雨水を受けて急成長。ジャックは地上に落とされ、イザベルは小屋ごと遥か天空の彼方へ。
 翌日気付いたジャックは国王の軍に囲まれ事情を説明、騎士エルモント率いる護衛団と何かを企んでいるロデリック卿とともに豆の木を登ることに。そして天空遥か彼方豆の木を登り続けるとそこには中空に浮いた大地が存在していた。王女の足取りを辿ってその大地に降り立つ一行。しかしそこにはかつて地上を荒らした伝説の巨人たちが住んでいたのだ。そして巨人たちは今も地上侵攻の時を狙っていた・・・!

 映画はイギリスに伝わる「ジャックと豆の木」と「巨人殺しのジャック」という2つの童話を合成させた物語。僕は「ジャックと豆の木」しか知らないが、「ジャックと豆の木」は時代特に特定されていない物語で「巨人殺しのジャック」はアーサー王の時代とされているのでもう少し史実に近い「伝説」であるらしい。ただ、ともに農民の青年ジャックが主人公ということで合わせ技でひとつにまとめてしまったらしい。ただ、この映画直接的には「ジャックと悪魔の国」という同じく「ジャックと豆の木」と「巨人殺しのジャック」という2つを合わせた1962年の作品が存在し、そのリメイクと言う趣もあるのだとか。この辺り1981年の「タイタンの戦い」とそのリメイクである2010年の同名作品の関係と似てるかも。
 原題は「JACK THE GIANT SLAYER」で「巨人殺しのジャック」の方に寄せている。元々は「GIANT KILLER」だったのが暴力的すぎると変更になったのだとか。でもスレイヤーだって意味は相当暴力的だけどね。まあそれこそ「バフィー」の原題が「BUFFY THE VAMPIRE SLAYER」だったり*1スレイヤーという単語が主にファンタジーで使われたりしているので職業としての認識が強いのかもしれない。いずれにしろ、タイトル通り、知恵で巨人を出し抜くと言うより、結構頑張ってジャックは巨人に立ち向かう。

血塗ラレタ世界

血塗ラレタ世界

 本作は「ユージュアル・サスペクツ」「X-MEN」シリーズのブライアン・シンガー監督作品。「X-MEN FC」では製作に戻りシリーズを立て直したが、この人もデビュー作や初期作品がトリッキーな物が多いため、クリストファー・ノーランなんかと似たタイプと思われていると思う。けれども本作は特にシンガーらしさというものは感じない。それでも十分及第点といえるのは監督としての地肩が強いといえるのかもしれない。なんでも現在の童話を大作実写映画化ブームというのはティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」から始まっているようで「スノーホワイト」や先日の「オズ はじまりの戦い」なんかもこの流れなのかもしれない。だいたい、なんでシンガーが童話?とか思うかもしれないがマニアックな評価が高い監督が真に大衆的な人気を得るにはこういうファミリー向けを監督するのも大監督への第一歩なのだよ(とか言ってみるが純粋にシンガーが「ジャックと豆の木」の小さい頃からのファンなのかもしれない)。
 脚本にはこれまでシンガー作品でともに手がけてきた「アウトロー」の監督クリストファー・マッカリーほかが関わっており、オープニングのシンガー自身のプロダクション「バッド・ハット・ハリー」のロゴも通常の「ユージュアル・サスペクツ」バージョンから巨人バージョン(巨人が身長の分かる表の前に立つ)に変わっていたりする。音楽も常連のジョン・オットマン。その意味ではブライアン・シンガー組が力を入れた作品だ。

 で、この作品観るまですっかり忘れていたのだが、ユアン・マクレガーが出演しているのだな。今回は姫を護衛する騎士・エルモントの役で主役ではないが何しろ主役が何の取り柄もない(と言うと語弊があるが)貧農のジャック青年なので、要所々々で活躍する。後半の巨人との籠城戦では実質指揮を執るし、裏切り者であるロデリック卿を成敗するのも彼の役目である。意外と珍しい、彼の鎧姿なども魅力的でやはりユアンは格好いい。彼に付き従う騎士クロウにガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」シリーズでレストレイド警部を演じたエディ・マーサン。彼はなんとも渋みがかった顔つきで日本の俳優で言うと池田鉄洋に似てるかな。
 そして、人間でありながら巨人を支配下に置き王国の実権を握ろうとするロデリック卿にスタンリー・トゥッチ。今回は悪役だが「ロビン・フッド」などシリアスな作品の時の悪役はマーク・ストロング、ユーモラスな作品の悪役はスタンリー・トゥッチという感じ。彼は巨人を従わせる王冠を被り巨人を指揮下に置く。ただ、中盤でエルモントに倒されてしまうのでちょっともったいない。彼自身が実は巨人であるとかなにか理由をつけて最後まで悪役として出張って欲しかった。とはいえ、最後に実に美味しい出番があるが・・・
 主人公ジャックは「X-MEN FC」でビーストを演じたニコラス・ホルト。以前は「007スカイフォール」の新Qや「クラウド・アトラス」に出ていたベン・ウィショーとちょっと区別がつかなかったのだがここではビースト(青いけもじゃになる前)のもじゃもじゃヘアにメガネではなくスッキリとしたストレートの単髪。農民ではあるが1人だけ現代に来ても違和感のないようなファッションで爽やかだ。これまで、ブライアン・シンガーの常連といえば「X-MEN」のサイクロップスなどのジェームズ・マーズデンがお馴染みだが、確かにこうして見るとニコラス・ホルトもマーズデンと似たタイプでブライアン・シンガーの好みなのかもしれない(シンガーはゲイをカミング・アウトしている)。正直爽やか過ぎていまいち深みに欠けるのではあるが、まあ主人公はこんなもんでしょう。
 そしてイザベル王女はエレノア・トムリンソン。「アリス・イン・ワンダーランド」に出てたらしいがちょっと覚えていなくて実質これが初めての認識。眼と口が大きくてキャメロン・ディアスナタリー・ポートマンを足して割ったような美人。笑顔が魅力的。

 さて、こういう映画では人間よりも真の主人公といえるのはクリーチャーの方である。フィー、ファイ、フォー、ファムとは巨人の首領フォロン将軍に仕える四天王のような存在。ボスであるファロンは右肩の方にもう一つ小さめの顔を持つ双頭の巨人。声をもはや素顔が分からぬことでお馴染みビル・ナイが担当。途中トゥッチに膝を屈するも最終的にはラスボスの位置に。城の中をイザベル王女を狙い暴れる様は「トランスフォーマー」のメガトロンを思わせる。ラストの死に様含めて大ボスとしてふさわしいのだが、ちょっと(これは巨人全体に言えることだが)顔のデザインがもったいない。いかにもCGでござい、という風なんだよね。もうちょっとリアルに近づけるか、あるいは逆にデフォルメしたほうが良かったのではと思う。後は身なりがもうちょっと整っていれば、というか色味があればよかった。
 先ほどファロンはメガトロンを思わせる、と書いたが、部下に信用ならないのがいるのも似ていて、部下の1人ファムはファロンの地位を狙っているスタースクリームのような存在。直接ファロンに抵抗するシーンはないものの、ラストの攻防戦では実質巨人側の指揮官として活躍した。彼の存在がもっと活かせればより面白いものになったのではないかと思う。
 舞台となる王国は城と城下町以外は延々緑の草原が続く仕様で地上に降りてきた巨人たちもすぐに城に立て籠る人間たちとの籠城/攻城戦となるのだが、この辺は巨人もしたたかに頭を使い普通の中世の戦争のようだ。見どころではあるが巨人という存在をうまく使ったかというと、ちょっと違う気もする。
 全体としてとても面白かったのではあるが、物語的にはもうひとつ盛り上がりがあると良かった。また先程も言ったとおりスタンリー・トゥッチのロデリック卿が悪役としては途中退場してしまうのも残念。
 ただ、ラストは舞台が現代になり、ロンドン塔に展示された巨人を従わせる王冠(さらに改良して贅を凝らしたものになっている)を社会科見学に来た少年が見つめるシーンで終わる。この少年の名はロディといい、その姿はロデリック卿によく似ている・・・。少年は王冠を見て怪しい笑みを浮かべる、という現代で続きが展開されるのか?という含みを残して終わる。こういう展開が待っていることを考えるとやはりロデリック卿の扱いが残念だなあ。最後まで悪役として頑張る展開が欲しかった。

 さすがにラストはサービスであって続編はないと思うけれど(あっても現代編にはならない気がする)、ユアンの格好良さ、ヒロインの美しさ、巨人たちの迫力など十分面白かった。今回僕は2Dの字幕で観たけれど、これは3Dで観たほうが迫力はあるかも知れない。
 日本でも「進撃の巨人」の実写映画化が進んでいるけれど、とりあえずこの作品が試金石となり、これを超えられるかどうかが勝負の分かれ目となるだろう。

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*1:ちなみに一番最初の「バッフィ/ザ・バンパイア・キラー」は原題が「BUFFY THE VAMPIRE SLAYER」で本作とは逆のタイトル展開