The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

キャビン 「バフィー」「エンジェル」に連なるジョス・ウェドン渾身のモンスター映画!

注意!

 今回の映画「キャビン」はあまり事前に情報を得ずに観たほうがいいかもしれない作品です。僕の記事ではガッツリネタバレしてますので、もしネタバレが嫌だという方は観てからお読みください。
 
 昨年、日本で一躍ヒットメーカーとして名が知れた映画製作者に「アベンジャーズ」の監督であるジョス・ウェドンがいると思う。もちろんアメリカではTVシリーズ「バフィー 〜恋する十字架〜」「エンジェル」の製作者、コミックスのライター、映画「トイ・ストーリー」「エイリアン4」などの脚本家としてすでに売れっ子ではあったのだが日本では知る人ぞ知る、という存在だったと思う。
 映画監督としては2作目である*1アベンジャーズ」は単にヒーローを集めたというだけでなく、個性的なキャラクターが其々その個性を発揮しつつ集団としてひとつの目的に立ち向かう陽性のヒーロー映画として理想的な出来だったと思う。ただ彼の脚本デビュー作が「バッフィ/ザ・バンパイア・キラー(TVシリーズ「バフィー」の元になった映画作品)」であるように本領はヒーロー物とホラー物の融合であるとも言えるかもしれない。ジョス・ウェドンが制作し脚本も担当した「キャビン」を鑑賞。

物語

 アメフト部のカート、そのチームメイトで真面目なホールデンマリファナ好きのスラッカーマーティ、カートの恋人ジュールス、そして真面目なデイナの大学生グループは週末を利用してカートのいとこの持ち物だという山奥の別荘で過ごすことに。山荘には気味の悪い絵画が飾ってあり、それをどけるとマジックミラーになっているという悪趣味な作り。やがて彼らは山荘の地下室を発見。そこには古い人形やオルゴールなど様々なものが置いてあった。そしてデイナが手にとったものは古い日記。それを読み進め日記に書かれたラテン語を唱えると、家の外ではゾンビたちが・・・
 一方、そこから近い某場所。研究室のようなそこでは山荘やその周辺の森や湖の様子が全て監視カメラで逐一チェックされていた。彼らはカートたちを誘導して山荘に招き入れたのだ。どうやらこのイベントは世界中で行われているが日本とアメリカ以外は失敗してしまい、今や成功は彼らの手に託された。入念なシナリオの元カートたちがどの選択肢を選ぶかを賭けをしながら見守り、時に誘導する。シナリオに従ってまずはジュールスが犠牲になり、次は・・・彼らは無事計画を成し遂げ世界を守ることが出来るのか?

 監督は「クローバーフィールド/HAKAISHA」の脚本家でもあるドリュー・ゴダード。この「キャビン」はジョス・ウェドンとの共同脚本。製作時期的には「アベンジャーズ」よりも前にあたるようだ。日本では昨年したまちコメディ映画祭で上映されたが暗すぎてよくわからない、という意見を聴いた気がする。
 基本の話は「死霊のはらわた」などのホラー作品を踏襲しており、後半は組織の用意していたモンスターたちが総登場する一大イベントとなっている。ただ「死霊のはらわた」に至るまでも実は「人里離れた場所にある山小屋などで大変な目に合う」というのは映画に限らずホラーの定番であり、例えば日本の例でも小泉八雲の「怪談」の雪女の話や宮沢賢治の「注文の多い料理店」などもある種この形式に則ったホラーといえるかもしれない。まあ、とはいえ、この映画死霊のはらわた」文脈ではおそらくたくさんの人が語ることになろうと思うので、僕はあえて別の側面から書いてみたい


 主要な学生五人はまずはスラッシャー映画の定番主人公、真面目な処女デイナ役がクリステン・コノリー。初登場シーンからパンツ一丁で現れ、スタイルもいいし顔も超かわいいのだが、いまいち色気というものには欠ける人。かよポリスこと佐藤かよに似てます。普通に二十歳前後の雰囲気だったけど1982年生まれの現在30歳!5人の中では若いぐらいに思ったが、実は一番年上だった。
 そしてなんといっても雷神ソーことクリス・ヘムスワース。「マイティ・ソー」と「アベンジャーズ」の間ぐらいの撮影だと思うがこちらではいわゆるジョックス役。しかしソーの時に見られた天真爛漫さは変わらずソーがそのままドスケベになったような感じ。いわゆるいじめっこ的な描写はなくジョックスといってもそれなりに格好いいと思えるキャラクターになっている。まあアメリカ文化にすっかり耽溺して享楽的になってしまったソーという感じ。後は真面目なタイプの青年や金髪(この週末のために染めたという設定。後々わかるがおそらくこの金髪にしたというのも組織のシナリオに拠っているのかもしれない)のギャルが登場。しかしヒーローになるのはスラッカーのマーティーだろう。こいつはマリファナを吸引しながらクルマを運転するトンデモないやつだが(窓開けっ放しでクルマの鍵閉めてるが意味が無い)、そのマリファナを吸い過ぎたため難を逃れ、彼の存在が組織のシナリオを狂わせる重要キャラクター。よく見るとハンサムだ。演じたフラン・クランツの次回作はやはりウェドンの「Much Ado about Nothing」。
 ホラーを脱構築した作品といえば「スクリーム」のシリーズが有名だがここでもキャラクターの性格が定番通り、ジョックス、スラッカー、ブレイン、ギャル、そして真面目な処女、の5人が出てくる。そして彼らが順番に殺されていくが、この映画の場合それが綿密なシナリオに則っている、というのが意外なところだ。
 森の中の別荘(「The Cabin in the Woods」は原題でもある)とは全然雰囲気が違う、研究所のようなところで実は惨劇は彼らによって演出されていることが判明する。主人公たちはたまたまレッドネックな白人一家の顛末を書いた日記を先に読んでしまうので、拷問一家のゾンビが襲いかかるが地下室には球体パズルや首飾りなどいかにもなアイテムが多数揃えられており、もしもこの球体パズルが先に解かれていればおそらく魔導師が登場して彼らを「苦痛的快楽」へと導いたのだろう。もちろんこの球体パズルと魔導師は「ヘルレイザー」のルマルシャンの箱とセノバイト(ピンヘッドとかマンガ「ベルセルク」のゴッドハンドのモデルになったあれです)のパロディである。後半出てくるモンスターたちは様々なホラー/モンスター映画のオマージュ・パロディとなっている。ほかには分かりやすい所では「It」のキラークラウンとかいたね。 劇中では彼らは「古き者たち」にこのイベントを鑑賞させ、生贄を捧げることで静かに眠っていてもらうことを目的としている。この「古き者たち」は当然のように「クトゥルフ神話」がモデルだろう。アメリカの作家H.P.ラブクラフトが創造した「この世界には太古に地球を支配していた邪神たちが存在している。彼らは我々人間には想像もつかない理由によって現在は地上から姿を消しているが、今もまだ復活の時を狙っている」という大筋によって作られた「宇宙的恐怖(コズミックホラー)」の物語群はやがてラブクラフトが死んでも彼の仲間たちによって書き継がれ「クトゥルフ神話」と呼ばれるようになり、現在でも様々な作家が公に非公式に描かれ続けている。かく言う僕もクトゥルフ神話を元にした小説を書いたことがある。この中で「Great Old One」は「旧支配者」「古き者たち」などと訳される。今のところラブクラフトの物語そのものを映画化して大ヒット好評価された作品というのは殆ど無いがクトゥルフ神話をモチーフにした作品は多く、キング原作フランク・ダラボン監督の「ミスト」やジョン・カーペンター監督の「マウス・オブ・マッドネス」などはクトゥルフ神話モチーフの映画である。またマイク・ミニョーラ原作、ギレルモ・デル・トロ監督の「ヘルボーイ」に出てくる蛇神オグドル・ヤハドも映画では特に語られないが原作では明確に旧支配者の一柱であると語られる。日本の作品でも「ウルトラマンティガ」の最終回とそこに至るエピソードや「デジモンアドベンチャー2」の「ダゴモンの呼び声」というエピソードは傑作と名高い(両方共脚本は小中千昭)。
 また、ギレルモ・デル・トロラブクラフト原作の「狂気の山脈にて」を映画化しようとして、しかしリドリー・スコットの「プロメテウス」と内容がかぶったため企画が頓挫したということから分かる通り、「エイリアン」シリーズもクトゥルフ神話の強い影響下にある(ゆえにシガニー・ウィーバーが突如登場する*2)。ジョゼフ・キャンベルの「影が行く」とその映画化作品でもある「遊星からの物体X」もそうだろう。このように真正面から映画化して成功した作品こそ少ないが様々なSFホラー映画に影響を与えているのがクトゥルフ神話だといえる。「キャビン」はそれらに連なる作品なのだ。
マウス・オブ・マッドネス<dts版> [DVD]

マウス・オブ・マッドネス [DVD]

ヘルボーイ [Blu-ray]

ヘルボーイ [Blu-ray]

 「キャビン」では様々なモンスターが登場するがそれらが人間が作ったのか「古き者たち」に贈られたものなのかは不明。ただいわゆるモンスターの中には機械仕掛けのロボットのようなモンスターもいたりするんだよね。そして最後に「古き者たち」その人が登場する。クトゥルフ神話ではその名前の由来伴った邪神クトゥルフとその眷属はタコやイカのような頭足類に翼がついたようなデザインだが、ここでは巨大な手が登場して映画は幕を閉じる。
ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))


 さて、この学生たちを生贄に捧げる組織。ぱっと見るととても新鮮なものに見えるが、実はジョス・ウェドン作品を見続けてきたものにはそう珍しい要素でもない。TVシリーズ「バフィー」は時代にただ一人選ばれた少女「スレイヤー」である高校生バフィーサラ・ミシェル・ゲラー)とその仲間たちのヴァンパイアやモンスターたちとの戦いを描いた人気ドラマだが、第4シーズン(バフィーたちは大学生に)ではアメリカ政府下の秘密組織イニシアティブが登場する。この組織は優秀な工作員を多数抱え、地上のモンスター(ヴァンパイアや悪魔など)を捉えては実験をしている組織である。このイニシアティブは生物を改造して人造人間アダムを作ったりもしていた。また「キャビン」に出てきた巨大な蛇のモンスターはおそらく「バフィー」第3シーズンで昇天の儀式によって悪魔としての力を解放した市長であろう。
 あるいは「バフィー」のスピンオフ作品である「エンジェル」には悪徳弁護士事務所「ウルフラム&ハート社」が登場する。この弁護士事務所は実は悪魔の支配下にあり、あの手この手で世界を支配しようとして最終的にはLAを地獄に変えてしまう。そういった俗世の権力と結合したオカルト組織、というようなのものがジョス・ウェドンの作品には頻発するので僕はこの延長線上で見た。
 組織側の主要人物のうち紅一点リンを演じたのは「エンジェル」ではフレッド、イリリアを演じたエイミー・アッカー。最初はゲストキャラだったが人気からレギュラーとなったほど。次回作はジョス・ウェドンの新作「Much Ado about Nothing」。また、インターンを名乗っていたトム・レンクも「バフィー」「エンジェル」の両方に臆病な小悪党(悪魔を召喚したりする)アンドリュー役で出ている。極端な話、この「キャビン」という映画自体が「バフィー」や「エンジェル」と同じ世界に属する話だとしても納得してしまうほどだ。だからある意味「アベンジャーズ」より、こちらのほうがジョス・ウェドンらしいと言えばらしい。もちろん、ウェドン絡みだけでなく監督のドリュー・ゴダートで言っても「クローバーフィールド」のあの巨大怪物がこちらと何らかの関係があるのでは?と思ってしまう。僕は「ミスト」の感想でも似たようなこと言っていたな・・・(クロスオーバー大好きっ子)
 僕は「スタートレック」シリーズ、最近だと「glee」、などと並んで「バフィー」と「エンジェル」は好きなTVシリーズなのだが残念ながら今のところ作品のリリースは「バフィー」が第2シリーズまでBOXが出ているだけらしい。せっかく日本でもウェドンの名が売れてきたことだし「バフィー」も「エンジェル」も全部Blu-rayで出しましょう*3
吸血キラー 聖少女バフィー/(音符記号)ワンス・モア、ウィズ・フィーリング サウンドトラック

吸血キラー 聖少女バフィー/(音符記号)ワンス・モア、ウィズ・フィーリング サウンドトラック

ミュージカルエピソードとして全曲ジョス・ウェドンが作詞作曲した回のサントラ!

「いいか、ただのゾンビとレッドネック拷問一家のゾンビは別なんだよ!」と賭けの結果に対する文句を一蹴する演出の人。

関連記事

「仮面ライダーフォーゼ」をより楽しむためのアメリカ学園ドラマ・映画7選!
バフィー」についてちょこっと書いてます。

クローバーフィールド/HAKAISHA
旧ブログの方です。かなり初期の記事なので今と比べてあっさりしてる・・
クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

 前回、「ジャンゴ」の記事ティム・バートンクエンティン・タランティーノが人生に直接影響を与えた人と書いたが、よく考えたらTVシリーズや映画「アベンジャーズ」「キャビン」などの影響力を考えれば、もしかしたらジョス・ウェドンは3人目になるかもしれない。

*1:ただし1作目の「セレニティー」は自身が手がけたTVシリーズの映画化であるためある意味「アベンジャーズ」が本格的な監督デビュー作といえるかも

*2:しかしシガニー・ウィーバーの役は「宇宙人ポール」と似ており、彼女の登場は(彼女がこの映画では一番の有名人であり、かつゲスト出演に近いこともあって)むしろ笑ってしまうところかもしれない

*3:出来れば「吸血キラー/聖少女バフィー」タイトルではなく「バフィー〜恋する十字架〜」のタイトルで販売してほしい